第10話

 女がついてきた。


 身の上話が効かなかった、というか、効きすぎたのか。これはこれで厄介だった。


 案の定。


「ちょっと。離れてください」


 秘書の襲撃に遭ったり。


「えっ。姐さん。なんでそんなやつと」


 やさぐれものの脳を破砕したり。


「思ったよりいいやつだった」


 そんな適当な答えで納得するわけなかろうが。


「面倒だろ、わたし」


「ええ、まぁ」


 くっつかれて困ることはない。どっちみち、この町にいる限りは。自分に価値などない。


「泣いてただろ。あのとき」


 どのとき?


「ついていかないといけないなと思って」


「いや、泣いてるってなにが」


 あっ。


「あれか」


「笑顔で泣いてた」


「暗い中でゲーム筐体の光を見てたから目がつかれただけですけど」


「じゃあそういうことにしといてやるよ」


「本当にそういうことなんだけどなぁ」


「おっ、と」


 身体を掴まれる。両腕で抱きつかれる形。


「赤信号だけど」


 目の前を車が通っていく。


「そうなんですか」


「いや、そうなんですかじゃねえよ」


 どうでもいいことではある。


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