第9話

 こちらを見る視線で。分かってしまった。


「わたしがくるしむと思って、その話をしたのか」


「意外ですね。理解されるとは思いませんでした」


「お前にとってこの町は、さぞかし小さな箱庭だろうに」


「ええ。警邏の方法や治安維持、ぜんぶ楽勝でした」


「つらいな、お前」


「何がですか?」


「誰にも報われなかった」


 男。本気で意外そうな顔。


「何にですか?」


「後悔してるんだろ、ずっと。色々と。全てに」


「後悔」


 男。考え込むような顔。


「後悔なんてないですよ」


 そして、ちょっと笑顔。


「ないです」


 その笑顔を、涙が一滴だけ、流れていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る