第29話 双子の少女
29 双子の少女
レオンハルトの卒業式を見守ったレイカとクルミは、天国へと続く道を歩いていた。
その近くには、ユキナの歩いている姿も見られた。
2人とユキナの目が合うと、ユキナは「チッ!」と舌打ちをして足早に歩いて行った。
その態度にクルミは「負け惜しみ~!」と愉快そうに笑った。
お喋りをしながら仲良く歩いて暫くすると、レイカが小さく声をあげた。
「あっクルミさん、見て。」
レイカの指を指す方向へ顔を向けると、ガリガリに痩せている双子の少女が手を繋いで
今にも飛び降りそうに立っていた。
木造のアパートメントらしい、3階の階段の踊り場に立って手を繋いで下を見下ろす。
階段の手摺りによじ登り、空中に一歩踏み出そうとした瞬間・・・
「行くわよ、クルミさん。」
レイカに手を握られて、引っ張り込まれてしまっていた。
***
気が付いたのは、湖の畔にある小さな修道院のベッドの上だった。
クルミは身体を起こそうとして、「痛っ!!」と声を上げた。肩に痛みが走る。
呆然としていた所へ、シスターが部屋に入ってきて「まだ無理をしては、ダメよ。」と言った。
肩が脱臼しているらしい。処置はしてくれていたが、一ヶ月程は動かさない方が良いと大きめの布で固定されていた。
恐る恐ると隣のベッドへ目をやると、あの時の少女が寝ていた。多分レイカだろう。
クルミは寸前で手摺りに捕まり、居合わせた住民が助け上げてくれた。
肩は脱臼したが、他に怪我はない。
レイカは、間に合わずに落ちてしまった。受け身を取ったものの、足の甲の骨折と頭を打ったのか
包帯が巻かれてあった。意識もまだ回復していない。
たまたま街に買い出しに来ていたところ、この場面に出くわしてしまったシスターが村人に事情を曖昧にして頼み修道院に運んで来て貰ったのだと説明をしてくれた。
「何か言えない事情があるのでしょ?」
シスターは何も聞かずに修道院においてくれた。
クルミは必死にレイカの無事を祈った。シスターの看病の甲斐があって、3日程高熱にうなされて生死を彷徨ったレイカが目を覚ます。
レイカの回復には、1年の月日を必要とした。貴族の寄付で成り立っている小さな修道院だ。
なるべく負担をかけたくないと、クルミは修道院の手伝いをしながらレイカを看病した。
運動神経が抜群のレイカが受け身をとってもこの怪我だ。普通ならば助からなかったであろう。小さな身体と軽すぎる体重も幸いした様だ。
怪我が回復して、半年間程・・・
2人はシスターを手伝いながらも、心の中の少女に目を覚ますように声を掛け続けた。
この優しいシスターであれば、双子の少女を見放したりはしないであろうと思ったから。
しかし、貧困に喘いでいたのか、余程の辛い出来事があったのか・・・少女達の心は戻ってこない。
完全に閉ざされた、死んでしまった心と助かってしまった身体。今となっては、名前も分らない少女達。
シスターの話によると、此処はティクティンという村でアルベルト公爵領の西の外れだという。
国境が近いため、隣国からの難民が流れて来るらしい。
多分双子の姉妹も隣国の飢えから逃れる為に流れてきたのであろうが、小さな子供が2人では何も出来ない。失望の中で死を選んでしまったのだろう。
目を覚まさない双子・・・今の状況に困った2人は、レオンハルト様に相談をしようと話し合い
レイカは意を決してシスターに話しを切り出した。
自分達は、レオンハルト様の友人であると。レオンハルト様の元へ旅立ちたいと申し出た。
やせっぽっちの少女の言う事だ、信じられるはずもない。
それでも心優しいシスターは困った顔で微笑みながら旅の準備をしてくれた。
旅立ちの日・・・
「何時でも戻ってきて、いいのよ。」と言って少しの食料とお金を持たせてくれた。
「必ず礼をしに戻って来ます。」そう言い残して、レイカとクルミは帝都へと旅だった。
レオンハルト様とアーネスト様の結婚式まで、後半年・・・
クルミは元気よく、出発の言葉を口にした。
「待っててね。レオンハルト様。」
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