第22話 ミリア嬢、オリビア嬢 Side

22 ミリア嬢、オリビア嬢 Side



ミリアとオリビアは、親友だ。2人とも互いの事を心からの友達だと思っている。

2人は男爵令嬢だ。所詮は成り上がりで商売で爵位を買ったと言っても過言ではなかった。


しかし、2人はその立場を良くわきまえていた。

爵位が上である、令息令嬢とは争わず事を構えない。

それが、家を守る事になる。


そんな2人に目を付けたのが、シャルロットだった。


ミリアもオリビアも、シャルロットの事を好きではなかったが仕方のない事だった。

そう振る舞わなければ、学園での立場が危ぶまれたからだ。


そしてシャルロットは狡猾だった。


「学園の近くのカフェで、ケーキの美味しい所を見つけたの。御一緒にどうかしら?」

シャルロットが笑顔で問いかけてくる。


「ええ、是非御一緒させて下さい。」

「私も、御一緒致します。楽しみですわ。」

2人は、躊躇いなく返事を返す。上位貴族のお誘いに、『NO』の返事は許されない。


学園内では、貴族の上下関係は無く平等に扱う。とした規則はあるのだが・・・

ヒエラルキーは暗黙の元に存在する。



「あぁ、そうだわ。アーネスト様もお誘い致しましょうか?どう思われます?」

シャルロットは普通に問いかけているだけだ。


しかし2人にとって、これは絶対的な命令だ。必ずアーネストを連れて来いと・・・


そして強引なお誘いが始る。


「アーネスト様、今日は学園の帰りに皆でカフェに行きますの。御一緒しませんこと?」


「えっ?ミリア様。でも、レオンハルト様と約束が・・・」


「まぁ、アーネスト様。令嬢同士の付き合いも大切でしてよ?」


「はい。オリビア様。御一緒させて頂きます。」


アーネスト様の事は嫌いでは無い。・・・と言うか、接点がない。

アーネスト様を気の毒に思い、巻き込んでしまって申し訳ないと思いながらも・・・


それでも自分達の身が可愛い。そして自分に言い聞かせる。これは貴族社会において、仕方のない事だと。私達には選択の余地が無いのだと。


そう思うことで自分を正当化する事が出来た。

だが事件が起きてしまった・・・アーネスト様が何者かに襲われそうになったのだ。


この日から2人はシャルロットの目を避けて、深夜に度々寮内の自室で話し合うようになった。


話はミリアの方から切り出した。

「今日、アーネスト様が襲われそうになった事とシャルロット様が急にお誘いした事は、本当に偶然だったのかしら?・・・」


オリビアは口に人差し指を当てて、もっと小さな声で話す様に促した。

自室には2人しかいない。でも念には念を入れて。


「そうね。・・・でも、偶然じゃないとしたら?」


2人は黙り込む。


「私達は、利用され犯罪の片棒を担がされたのでは・・・。」と恐る恐るミリアが言った。


「私も・・・それは嫌です。人の行いに反します。」とオリビアも返事をした。


シャルロットの事は好きではない。でも、そこまでの事をするだろうか?

証拠も確信もない。これは自分達の想像でしかない。真実は何なのか?これは妄想でしかないのか?


だが1度芽生えた疑問は、もう消すことは出来ない。

そして私達はアーネスト様の事を、何も知らないのだ。


結局、今後の様子を見るという事で、その日は解散となった。


翌日・・・


今までの大人しいイメージとは、アーネストの印象が変わって見えた。

どう見ても、尊敬に値する令嬢の振る舞いには見えなかったのだ。


婚約者のある身でありながら、他の殿方と親しげに話をしたり

ダンスパーティで、積極的にダンスを踊ったり


シャルロットはアーネストが入学をして来た当初から、嫌っていた様に思うが・・・

アーネストの本性を見抜いていたのか。でも、それならば嫌っていた事にも納得がいく。


ミリアもオリビアも、最近のアーネストの行動を見る限りでは、好意を寄せられない。

段々とアーネストを見る目が、シャルロットの視線と重なるようになっていった。


アーネストを見る目が自然と厳しくなる。

天真爛漫な行動を繰り返すアーネスト様、それをフォローして回るレオンハルト様。

レオンハルト様が、気の毒に思えてならなかった。

決してお似合いの2人であるとは、とても思えなかった。


シャルロットの振る舞いは、表向きは完璧だ。

どこか冷たい感じがしたり、都合の良い使われ方をするのも・・・

そう言うものだと割り切りさえすれば、我慢も出来る。

卒業までは後少しだ。それまで我慢すればシャルロットとの付き合いも無くなるだろう。



・・・そう、あの日の事さえなければ

アーネスト様が襲われたあの日・・・それだけが、2人の心に引っ掛かっていた。


アーネスト様の振る舞いについては、好意を寄せられない。だが、あの日の事は・・・


今まで歩いて来た道は、引き返せない。だが2人は基本は善人であった。


2人は相談して、レオンハルト様にメッセージを送ることにした。


自分達が話した事は内密にして欲しいと記して・・・


私達はシャルロット様の友人であり、アーネスト様とは交流がありません。と前置きをした上で


カフェに誘ったのは自分達である事。シャルロットに言われて、そうした事。

事故が起こったのは、偶然ではないかもしれないと思った事。

アーネスト様を、不幸にする事は本意では無い。そして、良心の呵責に苛まれている事を。


君達からのメッセージを見た。

勇気と正義感のある告白だったと思う。

そして、話をしてくれてありがとう。とレオンハルトは返信を返した。






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