第21話 レオンハルト様のお茶会

21 レオンハルト様のお茶会



今日は早朝から、レイカ嬢がお茶会の準備を取り仕切っていた。

昨夜の別れなど、感じさせない程に・・・いつもの様に振る舞っていた。


途中、何度も休憩を挟みながら、準備が整った様だ。




1人、また1人と招待客達が、集まってくる。


「先にはじめているよ皆皆様もお席に着いて下さい。」

侍女達に案内されながら、一旦席に落ち着いた。直ぐに侍女がお茶を入れてくれる。


そうして最後の招待客達による、シャルロット達が到着した。

「本日はお招き頂、有り難うございます。」代表をしてシャルロットが挨拶をした。


これで全員のキャストが揃った。さぁ、茶会の始まりだ。



レオンハルトは、アーネストの事を気にしつつもホスト役をこなし

シャルロット嬢とその取り巻きに囲まれて、お茶を飲んでいた。



「あら?・・・雨かしら?」シャルロットが手の平を上に向けると

空は明るいのに、ポツリポツリと雨が降り出した。お天気雨の様だ。



皆がすぐ近くにあるガゼボに避難をしていると

アーネストは、貴族令息の2人に上着を掛けられ、庇われる様にガゼボに入って来た。

少しだけ濡れた前髪が気になるのか指で直す仕草をすると、その愛らしさに

令息達から溜息が漏れた。



シャルロットは横目でチラリと見て、早く計画を実行したい・・・と思いながら

「レオンハルト公爵様、あまりお気になさらずに・・・」と声を掛けると

一緒に居た令嬢達が非難するような目でアーネスト達を睨みながら


「そうですわ。」とシャルロットに同調する声を上げた。

シャルロットにも、多くの令息令嬢が取り巻いていた。



幸いな事に雨はほんの少しの通り雨だったのだが、優秀な家令を中心に侍女達がティーパーティを

庭園の温室で再開できる準備を整えていて、少しの時間の中断で場所を新たに、また楽しい時間に戻る事が出来た。



侍従長の案内で、招待客達が席に着く。

レオンハルトを真ん中において、両サイドにはアーネストとシャルロット。


それは静かな対立であった。


アーネスト側には、シャルマン・ヘンリー・エリオット・ベガティ・・・とモブ達。

シャルロット側には、レイモンド子爵令息・ミリア令嬢・オリビア令嬢・・・とモブ達


テーブルは楕円形になっており、レオンハルト達の正面が少し空いている。


視界に入る色とりどりの植木や花が、とても美しい・・・


お茶会の再開と同時に、アーネスト扮するクルミ嬢がお喋りを始めた。

シャルマン様、ヘンリー様、エリオット様、と今日も絶好調の様だ。


暫く歓談の時を楽しみ、アーネストに指でトントンと合図を送る。

レオンハルトの合図で、小さなスプリンクラーの様なものが動いた。


「あっ!」と小さな声でシャルロットが言った。


目の前には、小さな虹が見える。皆が注目をする中でシャルロットが言った。

「レオンハルト様、虹が・・・童話のワンシーンを切り取ったみたいですね。」


「・・・あのウサギの陶器の置物、虹に向かって走って行きそう。」

「少し、幼稚ですわね。」顔を赤らめてアーネストが言った。




   ***



シャルロットは心の中で、言った。『やった・・・やった。ユキナ様、やったわ。』

ユキナ様のアドバイス通りに出来た。


本当に虹が見られるとは、思っていなかった。

ユキナ様の交換日記には、虹が出なくてもハッピーエンドは迎えられる可能性はある。

だが、虹を見た時は確率がかなり上がるらしい。


ユキナ様は、卒業パーティで断罪イベントは、しない方が良いのではないか。

それと、婚約破棄宣言は相手が本当に小動物の様なアーネストで、絶対に勝つと確信がもてれば、しても良いけれど、賛成はしない・・・とアドバイスをくれていた。


昨日の夜で、交換日記は終了している。

お茶会が終われば、私の中から消えるからこれが最後のアドバイスになると。


ユキナ様、私の中で見ていますか?私達の勝利です。今まで、有り難う御座いました。

シャルロットは心の中で、そっと呟いた。



レオンハルトは内心はハラハラしていたが、アーネストの様子を伺いながら


それでも公爵として、顔には笑顔を貼り付けて貴族としての振る舞いをしながら


つつがなくティーパーティを終了する事が出来た。




「今日は楽しい一日でございました。レオンハルト様。」


招待客を代表して、シャルロットが、レオンハルトにお礼の言葉を述べた。




お茶会は、終了したのだ・・・


パーティを解散した後、レオンハルトはアーネストに

「大丈夫か?」と小声で聞いた。


「はい。」

アーネストは、微笑みながら答えた。


レオンハルトは小さな声で『レイカ嬢・・・クルミ嬢・・・。』と呼びかけてみた。

当然の事だが、返事はない。本当にもう居ないのだなと・・・複雑な思いは置いておく。



2人の事を信じて・・・卒業パーティの日を迎えるしかない。

その日の夕刻、昨日まではアーネストの時間。今日からは住み分けは必要ないのだが・・・


「アーネスト、大切な話があるのだが・・・」と、タウンハウスの応接室に招いた。




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