第20話 レイカとクルミの別れ

20 レイカとクルミの別れ


卒業パーティまでは、残り一ヶ月と少し・・・学園も、卒業パーティまで休みになる。

授業はもう終えており、毎日レクリエーションが続く。


毎年この時期には、旅行をする者や領地に帰る者が多くいる。

レオンハルトのお茶会は、休みに入った三日目に予定していた。




レオンハルトは数日前から、レイカ嬢の指示に従ったお茶会の準備をしていた。

レイカ嬢の指示は事細かく、テーブルの角度からディスプレイに至るまで口を出してきた。

そして、その準備は本番当日にレイカ嬢の元に行うと言うのだ。


もう一つの疑問。それは何故か、庭園の温室にも注文を付けてくる。もう一大工事だ。

レイカ嬢曰く、当日は雨が降るとの事。

それならばいっその事、初めから温室ですればと言ったが

それでは、疑いを招くらしい。疑いとは・・・誰に?・・・何を?


植木や花の位置、水道の場所、テーブルのセッティング、

そしてアーネストへの言葉、シャルロットへの言葉、振る舞い、時間設定、

侍女や侍従長まで巻き込んで、まるで演劇場の舞台で演じる様に決められた。



詳しく問い詰めたいところだが・・・

それ以上の忙しさが、それを許さなかった。


何度も予行演習をしては、レイカとクルミが話し合っている。

2人が話し合う時は、アーネストと一緒にいられるので、レオンハルトはそれを邪魔しないようにした。




忙しく準備と予行演習とする日々は、瞬く間に過ぎていった。

気が付くと、お茶会は明日へと迫ってきていた。




   ***



お茶会前日の夜・・・


アーネストと過ごす時間になり、部屋を訪れた。


「お待ち為ておりました。レオンハルト様。」と言って部屋へ招かれる。

何時もより多めのお茶とお菓子の準備が成されていた。


アーネストは目を閉じて俯き加減でソファーに座っている。


こういう姿をみると、レイカ嬢なのかクルミ嬢なのか、アーネストなのか区別が付けづらい。

レオンハルトは、アーネストの隣に座り時を待った。




静寂な時間が過ぎていく・・・




意を決したかの様に顔を上げ、目を開けた。


「レオンハルト様、今まで本当にありがとう。大好きです。」と言って笑った。


おいおい、歯が見えているよ。クルミ嬢だな・・・と思った。



クルミ嬢は立ち上がり、私にも立ち上がれと両手の平を上に向けて上下する。

私が立ち上がると、子供の様に行き成り飛びついてきた。

私が慌てて抱きかかえていると、暫くして急に突き放すように離れて泣きそうな笑顔を向けてきて


「レオンハルト様、バイバイ。レイカに変わるね。」と言った。



そしてまた、静寂の時間・・・



今度はレイカ嬢の筈だが、沈黙のままだ・・・暫くたって、やっと口を開く。


「レオンハルト様。落ち着いてお話しが出来るのは、今日で最後かもしれません。明日は、お茶会の当日で色々と忙しいでしょうから・・・。クルミさんと相談して・・・別れのご挨拶に・・・」


最後は声も切れ切れに、静かに涙を流しながらレイカ嬢が言った。

別れの挨拶・・・さっきのクルミ嬢のはしゃぎ様も、それだったのだ。

無理をして笑顔を作っていたのだろう。


「ああ、明日は君達のアドバイスの通り、完璧に振る舞って見せるよ。色々と有り難うレイカ嬢。」

レオンハルトは、アーネストの姿をしているレイカ嬢の涙をハンカチでそっと拭った。



レイカ嬢は机の引き出しの中に仕舞っていた、何冊にも及ぶノートを取り出してレオンハルトに渡した。


「これは、私とクルミさんからの気持ちです。明日のお茶会以降に、アーネスト様と御覧下さい。」


「あっあっあの・・・わ、私も、お別れの抱擁をして頂いても宜しいでしょうか?ゆっ友情の証として・・・」



顔を真っ赤に染めたレイカ嬢が、らしからぬ大胆な発言をした。


あぁ本当に別れの時が来たのだと、レオンハルトは両手を広げた。


レイカ嬢が、そっと私に近づくと

「レオンハルト様・・・アーネスト様とお幸せになって下さい。」と言って身体を預けた。


レイカ嬢への抱擁は、刹那の時間だった・・・レイカ嬢の恥じらいが、そうさせたのだろう。

瞬間的にアーネストへと、スイッチしたのだった。



私の腕の中にいるアーネストは、涙を浮かべて言った。


「レオンハルト様・・・胸が痛いのです。何故だか、切なく淋しい気持ちなのです。」


レイカ嬢、クルミ嬢・・・確かに君達は此処にいたよ。私の側に・・・


レオンハルトはアーネストの髪を、そっと撫でた。




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