第90話 真の黒幕=


「ずいぶん早く着いちゃったね、アイラはまだ来てないかぁ」



 人気インフルエンサー且つ明星亜依羅の雇い主と主張するキャラ、ゆーちんこと多田井由美はとある人物と共に一足先に黒羽真央が眠る霊園へ訪れていた━━。



「黒羽くん......」



 多田井由美は感慨深そうな顔で太陽に照らされた黒羽真央の墓を見つめている。

 その姿を見た隣の人物は邪悪な笑みを浮かべながら話しかける━━。



「アナタは真央くんと同じクラスじゃなかったけど何か接点があったの?」



 その人物がそう言うと多田井由美は少し目を瞑って悲しそうな顔で頷いた。



「うん......彼は覚えていないだろうけど彼は私にとって"初恋の人"だったの」


「そうなんだ......その話深く聞いてもいい?」


「うん.......彼とは幼稚園が一緒でね、しかも同じクラスでよく一緒に遊んでたんだ。私は昔引っ込み思案で中々友達が出来なくて一人ぼっちな事が多かったんだけど黒羽くんだけは私に笑顔で話しかけてくれたんだ。彼はその当時から優しくて私のお人形遊びとかおままごととかを嫌な顔一つせず付き合ってくれてさ......本当は男友達とボール遊びとかしたかったと思うんだけどボッチの私にいつも付き合ってくれたんだよね━━」


「へぇ......彼はそんな小さい頃から優しかったんだね」


「うん......まぁ彼にとってはただの遊び相手の一人だったのかもしれないけど、私は彼と一緒に居ると楽しくて胸がドキドキして目が離せなくなった。でもそんな彼と仲良く遊んでた時に私は他の女子にいじめられ始めたの━━」


「......」


「黒羽くんは他の子からも人気だったからボッチの私と遊んでるのが気に入らなかったんでしょうね、園児って見た目は子供だけど子供だからこそ残酷で容赦ない......それこそ私は色んな事をされたの。持ってきたクレヨンをボロボロにされたり一生懸命作った折り紙をグシャグシャにされたり、お母さんから買ってもらったキーホルダーを取られて外に放り投げられたり、私はその時ただ泣くことしか出来なかったんだけど先生が注意する前に黒羽くんはいつも私を守ってくれたの。喧嘩なんて強くないのに私の前に立ってくれてさ......あの背中は一生忘れられないよ」


「そうなんだ━━」


「でも結局彼はその後幼稚園を転園して次に再開するのは高校生の時......。彼に気がついた時には既に彼女がいて私は彼への想いを忘れるためになるべく見ないようにしてたんだけど......でもそのせいで彼がイジメられている事に気がつけなかった......!」



 多田井由美は悔しそうに......自分の情けなさを後悔するように黒羽真央が眠る墓の前で膝から崩れ落ちた━━。



「私が......私が気がついていれば彼を護れたかもしれない......! 幼稚園の時に黒羽くんが私を護ってくれたように今度は私が彼を護る番だったのに......! もっと早く気がついていれば......私が彼から目を逸らして逃げていなければ黒羽くんは死なずに済んだかもしれない......! 私が自分で自分が許せない......っ......。ごめんね......本当にごめんなさい黒羽くん......!」



 自分は泣き崩れる彼女を見つめる。

 これだからこの世界のニンゲンは面白い......この女にこれから話す真実を知ったらどんな顔をするのだろう? 楽しみだなぁ......。



「そっか......アナタも色々抱えていたんだね、話してくれてありがとう。ならコッチも腹を割って話さないといけないね?」


「っ......うん......? 一体何を話してくれるの......?」


「あのね......黒羽真央くんのイジメをモブ男女に指示して酷い目に遭わせたのはこの私なの━━」







「......は?」






 多田井由美の顔はさっきの泣き顔から拍子抜けした顔に変わり、その後少し話を理解したのか怒りの顔へと変わっていく。

 そうそう......この顔を見たかったんだ......♡ でもまだ足りないなぁ......愛するものを奪った奴を憎むもっと醜い顔になって欲しいよぉ。



「聞こえなかった? あの可愛い顔した彼をグシャグシャにしてあげたのはこの私......♡ もっというと彼のお母さんに迫って殺したのも私♡」


「ちょっと待って......アンタ何言ってんの......!?」



 彼女の声は怒りと動揺で震えている━━。


 嗚呼可愛い......黒羽くんはこんなに可愛く醜い顔をする女の子にも愛されていたんだね......♡ アナタのお母さんがそうであったように......。



「ふふふ......ビックリした? でも本当のコトなんだよね......もっと言うと彼を最後駅のホームに突き落として殺してあげたのも私━━」



 ガシッ.......!



「ねぇ......アンタ何考えてんの......!? 彼が眠るお墓の前で何ふざけた事言ってんの!? アンタが本当に殺したの......? そんなヘラヘラした顔で彼を酷い目に遭わせたの!?」


「いい顔......アナタもめちゃくちゃにした後殺したくなっちゃう......《セイクリドクリアプリズム》」


「きゃぁっ......! なに......これ......!」


「ふふふ......せいぜいその中で喚き散らしてなさい.......後でめちゃくちゃに犯してあげる♡。さて......後は私の人形を殺した明星亜依羅邪魔者を待つだけね━━」



*      *      *



 街外れの霊園にて━━。



「まさかまたここへ来る事になるとはな━━」


「そうネ.......それより早く向かわないト。何かを感じるんでショ?」


「ああ、その前に悪いんだがレイは一旦俺から離れて隠れていてくれるか?」


「良いけど何デ......?」


「最後の敵は正直どんな奴か想像がつかない。今分かっている情報は俺たちより圧倒的年上の人間で俺並みの腕力を持ってるような事を司が仄めかしてた。もしそんなあぶねー奴がレイを可視したら一目散に狙われるかもしれないだろ? だから念の為隠れていて欲しいんだ━━」


「フフフ......優しいのねアイラ......全てが終わったらまたおウチで楽しみまショ......?」


「マジ勘弁して下さい......。それより先を急ごう、奴は待ち合わせより早く着いているのかもしれない......!」



 レイと離れた俺は共に母さんが眠る墓へと向かう......。


 一歩一歩自分の墓へと近づいていくが不気味なほど何も気配を感じない、もしかして早く着きすぎたか.....? でも何かが変だ......此処には鳥の鳴き声も虫の気配すら感じない......まるで俺以外の生き物が居ないように......。


 そんな静寂の中突如として背後から強烈な殺気が俺を襲った━━。



 ドスッ━━! 



 俺の背後からものすごい勢いで投げられ石畳の地面に突き刺さるモノは、この世のものとは思えないほど純白に光り輝く両刃の剣・・・・だった。

 そして姿は見えないが、変声器のように加工された声で高笑いするノイズが俺の耳に入る━━。



「ふふふ......。ステルスで死角を突いたつもりだったんだがまさか避けられちゃうとは......やっぱり君はタダモノじゃないね明星亜依羅くん」


「へっ......そっちだってタダモノじゃねぇだろ。自分の姿を消して俺にこんなサイリウム・・・・・を突き刺そうとしたんだ、アイドルオタクにしてはやる事が少し大胆すぎる」


「アイドルねぇ......確かに可愛い子は好きだよぉ......? アナタのお友達のこの子みたいな......誰かに想いを寄せる女の子は特にね━━!」



 パチンッ━━!



「アイラ助けて! ここから出して......!」


「ゆーちんっ!」



 そいつが指を鳴らすと現れたのは透明な丸いバリアのようなものの中で膝立ちの状態で閉じ込められて宙に浮かぶゆーちんだった。



「このっこのぉっ! ダメだぁ......なんでこんなのも割れないのよ......!」


「そんな事しても無駄だよ多田井由美ちゃん......大人しくそこに閉じ込められてなさい......」



 ゆーちんは悔しい顔を浮かべてその球体を内側からバンバンと叩くが球体は叩いた形に少し膜を歪め、その後ゴムの様に元に戻るだけで全く効果が無いようだった━━。



「やってくれたな......誰だか知らないがゆーちんをこんなガシャポンのカプセルに閉じ込めやがって......!」


「アイラお願いここから出してっ! この風船みたいなのどんなに突いても叩いても割れないの! 一体どうなってるのよ!?」


「ちっ......聞いてるか変態! コイツを囮にしているイキったようだが残念だったな! 僕に昔突撃ドッキリ仕掛けたコイツにはガシャポン1回分の価値すら無いんだ! それとこの格好じゃ下からきったねーパンツがさっきからチラチラ見えてんだぞ! ったく見せハラさせられてるこっちの気持ちも考えろクソフェミ野郎!」


「......はぁ!? さっきから大人しく聞いてればアンタこんな時に何処見て何言ってんのアイラ! そんなの見る方が悪いんじゃん! それこそ見るハラだよ!?」



 ゆーちんは顔を真っ赤にして履いていたミニスカートを咄嗟に手で押さえ、俺に鬼のような目で睨みつける。



「けっ! そんなに見られたくなきゃ一年中安っすいスウェット着るか部屋に引き篭っとけやインフルエンサー! お前イケメンがパンイチで外をウロチョロしてたら絶対見るだろ!? それと同じことしてんだよお前らは! 気持ちわりぃな!」


「そんな極論と一緒にしないでよ! アイラぁ......後で覚えてなさいよ!」


「ヒヒヒ......痴話喧嘩なんて随分と余裕じゃないかアイラくん。そんな減らず口叩けるニンゲンを人質に取られて身動き出来ない気分はどう......? 男として自分を情けないと思わないのかなアイラくんは?」


「ハッピーハッピーハッピー! ハピハピハピハピハピー!」


「何がハッピー......? 君は私を馬鹿にしているの?」


「ハァ? ......ハァ?」


「ふふふ......そう......私の前でそんなふざけた態度とったニンゲンは初めてだよ......」


「Hey Hey You You I don't like your girlfriend〜!」


「おい、そろそろ猫ミームやめろアイラ!」


「チピチピチャパチャパ♪ドゥビドゥビダバダ♪バマジコミドゥビドゥビブーンブーンブーン♪」


「......いい加減にしなさいよアイラ......! 私の命がどうなっても良いの......!?」


「......みゃぁごめん......んみゃぁなさい.......」



 ゆーちん怖いお......。

 そう言えば怒りを感じると自律神経が乱れて心拍数や血圧が上昇して血流の悪化を招き、その結果細胞は栄養不足になって老廃物や疲労物質が排出されにくくなってお肌にも悪いからみんなも気を付けてくれよなっ!



「ふふふ.....随分と余裕がお有りの様だね。まるで私の正体を知っているかの様だ━━」


「ハァ? 余裕なんか無いよ。僕はただ本当に始末したかった奴がこの場にいる事に興奮して武者バイブが止まらないだけさ。そんな事は良いからさっさと姿を現したらどうだ? 猫ミームにハマってるただの高校生相手に人質までとるなんてまさかビビってんじゃないだろうな.......?










 "龍崎ゆり"━━!」



 






「ふぅ......フヒヒヒヒ......そっかぁ......私だって事知ってんだぁ......。ならもう隠す必要無いっか......♡」


「っ......!」



 突然辺りに眩いばかりの光が立ち込めてその光は徐々に人型の姿を成していく。

 そして光の中から現れた姿は純白を基調に縁は金色で構成されたまるでゲームやアニメで出てくるような女騎士がつけていそうな鎧を身に纏う、俺が黒羽真央の時代から友達でいつも司の側に居た龍崎ゆりだった━━。



「アヘヘへへ......♡ なぁんで分かったのかなぁ......上手く隠してたつもりだったんだけど......♡」



 ニヘラニヘラと笑いながら尋ねるそいつに怒りと同時に得体の知れない不気味さが俺の背筋に走る━━。



「簡単だよ、まずお前の二つ名である虎谷柊......この名前と司が死ぬ前に言っていた『全てをひっくり返してみろ』という言葉をヒントに俺は考えたんだ。先ず虎と対をなすものは龍、そして谷の反対は一説では山の突き出た部分を指す崎、そして柊が咲く冬の季節の逆に位置するものは夏に咲く百合ゆりなんだとな。だがそれだけじゃない......」


「それだけじゃない?」


「ああ......お前は僕と初めて話した時黒羽真央の墓に司と通っていたと言っていた、しかしその墓に刺してある卒塔婆の名前に司の名前はあっても龍崎ゆりという名前は一切なかったんだ」


「そとば......?」


「ほらな......お前は卒塔婆そとばすら理解していない。普通それを知っていれば事前に用意するか、もし知らなければ一緒に参った友達に聞いて次回は用意するモノなんだぜ? だがお前は今の今まで知らなかった。この事実と実際お前の名前が書かれた卒塔婆が無かった事から推測されるのはただ一つ、お前は墓参りをしていたと僕にわざわざ嘘をついていた事になる」


「......」


「それにお前は氷川と僕が初めて言い争った時、とてつもないオーラで氷川を黙らせた。あんなに横柄な男がただのクラスの女子に少し言われただけでピタリと黙るものなのか? とな。それにあの時アイツの怯えようは普通じゃなかったんだ......アイツは誤魔化してたが僕の目は誤魔化せない。トドメはそこで眠ってる黒羽真央の母親の検死結果だ。彼女の体内からは何故か精液が一滴も検出されなかったそうだ、普通レイプされた被害者からはかなりの確率で相手の精液が検出されるのにコレはおかしい。となると犯人は男以外の誰かになる。そうなると黒羽真央の近辺で予想される黒幕は百合だと明かしたお前に自ずと搾られてくるんだよ━━!」



 俺のセリフに諦めがついたのか龍崎ゆりは再びヘラヘラし始める━━。



「アへへへ......そっかぁ......だいせいかーい♡ さすがアイラくんだねっ! 私に身内なんて居ないし墓参りとか経験無いから知らなかったよぉ......君より昔からこの世界に居るんだけどなぁ......♡」


「ふぅん、なら随分若作りしてたんだなお前......聞いた話によるとお前は1983年7月20日の時点で既に警察庁長官らしいな。それなのにそんな若い見た目とは湘○美容外科にでも通ってどっかのAV女優みたいに整形を繰り返してるのか? それになんだその衣装は......まさかコスイベにでも参加すんのか?」


「ふふふ......コスイベ? 何それ? それにしてもこの姿になるのは何年振りかなぁ......あの日そこで眠ってる真央くんのママをたっぷり犯して痛めつけてあげたあの日以来かも.......♡ ヒヒヒヒヒッ......アヘヘへへへ......♡」



 ニタァ......っとしながらアヘアヘ笑うソイツはかつて学校内で美少女と位置付けられて司や俺に鋭いツッコミを入れるお母さん的キャラであった龍崎ゆりとは想像がつかない程醜く、そして何故か妖艶で不気味な笑みを浮かべていた。



「ああそうかよイカれ百合ババア......テメェがその腐ったアワビで物事を考えたせいでこっちは散々迷惑被ってんだ。その酸っぱい匂いをこれ以上撒き散らすな......目に染みてヒリヒリしてんだよ」


「アヘヘ......女の子に対してその言い方酷くないかなぁ......♡ この子達がどうなっても良いの......?」



 龍崎はふわっと宙に舞い上がり、ゆーちんを閉じ込めている球体の上へと座る。



「実はねアイラくん......もう2人ほど人質が居るんだぁ......♡」



 パチンッ━━!



「アイラ......君......」


「アイラ......」



 再びヤツが指を鳴らすと現れたのはゆーちんと同じように閉じ込められた青海万季と俺の分身を見に纏ったレイの姿だった。



「ごめんアイラ捕まっちゃっタ......。何故か分からないけど分身からもこの変な泡みたいなものからも出られないノ......」


「あへへぇ......♡ この子達も君にとって大切な人なんでしょう? みーんな可愛いなぁ......♡ もし私に手を出したら......この可愛い子達が悲惨な目に遭うかもねぇ......♡ このまま球を縮めて圧死してもらおっか? それとも私がこの中に入って逃げられない状態で3人を犯した後滅多刺しにして殺そっか? それともこのまま餓死してもらおっか? どっちにせよ私の意識以外ではこの膜を絶対に破ることは出来ない......♡ さぁどうする? このまま大人しく私に殺されるか私が無理やりアナタの性別を変えて犯した後に殺されるか......どっちかを選べばこの子達は解放してあげる......♡」


「けっ......気持ち悪いなお前.....まぁどっちにせよ僕が死ぬのは変わり無いようだな。しかも死んだ後に解放とか......僕自身がそれを見届けられない時点でなんの信用も出来ないよ」


「フヒヒヒ......♡ 立場が分かってないんだねぇ君は......♡」



 奴はそう言うとゆーちんの上から一瞬で姿を消たその刹那━━。
















 ト゛ス ッ━━!







「ぐぉっ......」



「そんな......アイラっ!」


「アイラくんっ!」


「アイラ......!」



 俺の腹から流れる夥しいほどの血......そうさせていたのはさっき石畳に突き刺さっていたあの純白の白い剣だった━━。



「アイラくん......ばいばーい......♡ 司をやっと殺せた程度の君が私に勝てるわけないのよ......なんでかわかる━━?」


「ふっ......僕が死ぬ前に......是非聞かせてくれよ......」


「アヘヘへ......死にかけの可愛い声だぁ......♡ 初めて男の子に欲情したかも......。勿体ないから生き返らせて私無しじゃ生きられない奴隷にしようかなぁ......なーんてね♡。じゃあ教えてあげる......私はね......いや私こそ・・がこの世界の......














P l a y e r主 人 公だからだよ......?」



 ス゛ザ゛ァ゛ァ゛ッ━━!


 

 俺の身体は真っ二つに裂けて宙に舞った━━。



「アヘヘヘヘ......♡ 可愛い子3人だけが残っちゃったねぇ......♡ 3人とも私の奴隷おもちゃにしてあげる......♡ まずはアナタから━━」




「いや......いやあああああぁっ!」


*      *      *


作者より。

いつも暖かい感想や応援本当にありがとうございます(*´꒳`*)

此処にお礼を申し上げます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る