第85話 WirePuller


 ソイツは右手にハンドガンをもって黒いレインコートを羽織り、深く被ったフードから唯一見える口元は不敵な笑いを浮かべていた━━。



「ふっ......なんの話かな? こっちはたまたまこの近くに迷い込んでこの家を訪ねただけでこんなヤツと血なんか繋がってないよ。それよりそっちこそなんで此処にいるんだ? 物音一つ立てずに近寄るなんてさ......まるでハイブリッドカーだ」


「ハイブリッドカーか......お前それさっき俺が言った皮肉の二番煎じだぞ? にしてもこの状況でまだ誤魔化すとは流石だな......。だがこの写真を見ても果たして同じことが言えるのか?」



 俺はさっき瑠奈さんから受け取った昔の写真をソイツに見せる━━。



「......」


「この写真に写ってる子供、これどう見ても昔のお前だよなぁ......?











 亜門司あもんつかさ━━!」



 有刺鉄線に縛られた総理の横で堂々と立つ黒い・・レインコートを着た奴は深く被ったフードを剥いでその顔を現す━━。



「ははっ......バレちゃしょうがねぇなぁ。もっと驚いてくれるかと思ったよ......。なぁアイラ━━」



ソイツは高校に入学してずっとそばに居た俺の親友だった━━。



*      *      *



 俺たちのやりとりを間近で聞いていた総理は俺に殴られた衝撃から辛うじて意識を取り戻しら痙攣しながら司に助けを求める━━。



「つか......さ......コイツはバケモンだ.......父親である私をコイツから助け━━」



 パンパンッ━━!



「は......ん......っ......」


「うるせーよ性欲の権化......バケモンはテメーだろ。この名ばかりのドクズが━━!」



 司が撃った弾丸は総理の脳天を打ち抜き、総理は目を開けたまま即死した。



「......ずいぶん物騒な親子喧嘩だったな。短絡的に殺す前にネットの発言小町の住人にでも相談すべきだったんじゃないのか息子さんよ?」


「息子ね......俺に親父は居ないよアイラ、コイツはただ母さんに俺を産ませただけの男だ......。それよりお前はなんで此処にいるんだ? コイツに何か用でもあったのか? 悪いことは言わないから家に帰れ......お前は此処に居るべき人間じゃない。氷川に始末されかけたのを助けてくれた事に免じて今回は見なかった事にしてやるからさ━━」


「......残念ながら用があったのはお前の方だよ司。それと始末されかけただって? 随分と嘘をつくのが下手くそだな」


「......なんの話だ?」


「惚けるなよ。あの時お前に付けられた爆弾が爆発する前にお前を殴って気絶させた後爆弾を外して投げ飛ばし、偽の首を転がして奴らの目を誤魔化した後お前を校舎の外に寝かせた━━」


「ああ......アレは痛かったなぁ......」


「だがよく考えればそもそも首に付ける爆弾を氷川は一つだけ用意していてそれを部外者のお前に付けるなんておかしな話だ。百歩譲って標的である僕に付けるなら分かる......だが何故あのタイミングでお前にわざわざ付ける必要があったんだ? それに━━」


「......それになんだ?」


「あの爆弾事件の前に氷川が青い体液を流して廊下で悲鳴を上げていた時、お前は咄嗟に『あの血の色』って言ったよな? 普通あんな色の物が身体から溢れたら血だとは認識するのに一瞬戸惑う筈......僕ですら氷川以外のプレ○ターと初めて対峙した時流れた血の色を思わず凝視した程だからな。なのに何故お前はアレが血の色だとすぐに分かったのか考えられる答えは一つだ......! お前は氷川やその関係者と何らかの繋がりがあって既にあの血の事を把握してたって事なんだよ━━!」


「......」


「おいおいさっきまでの口の滑らかさはどうしたんだ? まぁ良い......冨岡○勇並に寡黙になっちまったお前にトドメを刺してやるよ。お前が氷川を教室でぶん殴った件......アレもおかしいぞ?」


「......はぁ? どこがおかしいんだ? アレはお前がやられてついカッとなっただけで......別におかしくもなんともないだろ?」


「ふっ......確かにそれ自体はおかしくないがお前にぶん殴られた氷川の表情には全く余裕が無く、寧ろ狼狽えてたんだ。仮にもアイツは改造人間だ......普通の体じゃあり得ない力を持っているにも関わらずお前のボディブローは確実に氷川にダメージを与えていた......殴った人間がメ○ウェザーでもない限り普通の人間にはあんな事出来る筈ないんだよ」


「はははっ......冗談はやめてくれよアイラ。俺の血の色はお前も見た通り赤色だぞ? アイツらと違って青くないしな」


「その言い訳も無駄だ。氷川たちが実験していた『アレキサンドブラッド』は本来の赤色の血から青色に変わるだけのものだと思っていた......しかしとある水木涼女の子が口にした『二年前に遂に完成したものは血の色が普通』と発言した事を踏まえると、お前がその完成した希少なアレキサンドブラッドの持ち主であればあのパワーを発揮してもおかしくない」


「......」


「その証拠にあの爆破事件で氷川にやられた怪我はどこいった......? アレが本物なら全治1ヶ月はかかる筈だ。僕にバレたくなけりゃ再生能力くらい制御すべきだったな━━!」






「なるほどね......」



 司はさっきまでヘラヘラしていた表情を潜めて真顔で黙る━━。



「正解だよ明星アイラ......。お前の親友"亜門司"は実は総理の実の息子且つ改造人間だったのさ━━」



 その顔は今まで友人として見た事が無い......まるで"能面"の様に感情を全く秘めていないものに変わっていた━━。



*      *      *



「なぁアイラ一つ聞いて良いか? お前はどこから怪しいと思っていたんだ......?」


「......体力テストかな」


「体力テスト?」


「お前ってさ、運動部でもないのに一位の結果を自慢してきたろ? しかもよく見るとこれまで記録を大幅に塗り替える記録だった......。運動部に入っていないお前が全ての競技において運動部の奴らを出し抜いてダントツでトップなんて流石に怪しいだろ?」


「ふっ......アレは俺なりに手を抜いたつもりだったんだがな......。流石は一応設定で頭がキレるとされているアイラだ━━」


「そりゃどうも、お前に言われるまで作者も僕もスッカリ忘れてたよ。それじゃ僕からも質問良いか?」


「ああ良いぜ? 親友のよしみだ━━」


「話が早くて助かるよ。じゃあ聞くがお前が氷川に例の亡くなった少年黒羽真央へのイジメを指示した目的はなんだ? コレに関して惚けるのは無しだ......氷川からもう裏はとれてるからさっさと理由を話せ━━!」


「ああ......アレね......」



 亜門司は俺から黒羽真央という名前を聞くと先程の能面の様な顔から少し苦い表情に一瞬変わってまた直ぐに元に戻った。



「アレは.......唯の遊びさ。母親を失った黒羽真央が青海万季という心の支えを失った挙句アイツらに虐められ、生きる希望すら失ってボロ雑巾になるサマを友人というセーフティゾーンから見届けたかっただけ......」



 俺はその言葉を聞いて拳に力が入る━━。



「そうか......お前はそんな風に思いながら黒羽真央を弄んでいた訳だな━━!」


「なにっ......!」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



 司は俺の拳にぶっ飛ばされて家の壁を突き破り外の庭へと放り出される。

 殴り飛ばしたその顔面は激しく歪み、口からは赤色の血を流していた━━。



「い......いってぇなぁ......。お前......体力テストは平均以下じゃなかったのか......?」


「お前と一緒で手を抜いたに決まってるだろ? 僕が本気で体力テストをやったらハンドボール投げで街がクレーターになっちまうからな」


「流石......あの爆破から余裕で生還できる訳だな......。しかし随分と怒ってるなアイラ......転校生のお前が何故そんなに死んだ奴に対して激情するんだ......? お前には関係無い話だろ......」


「......そうか......そうだったな......俺はまだアイツ以外に本当の正体をバラしてなかったな......。何故キレてるか教えてやるよ━━」



 俺は明星亜依羅という仮面を脱ぎ捨て本来の姿に戻っていく━━。



「......お前......っ......!」


「ああ......久しぶりだな司」


「そうか......やっぱりお前真央だったか......へへっ......」


「ああそうだ、お前が散々嘲笑っていた男はこうして蘇ったよ」


「ふっ......だごあの世から戻ってきて一体何の用だ? イジメを仕向けた俺を殺しにでも来たのか? それとも母親を剣で滅多刺しにされた恨みを晴らしに来たのか? 亡霊は大人しくあの世に帰れよ......!」


「いつかは帰るさ......但しお前が死んだ後でな━━!」


「っ......!」


 俺はなんとか立ちあがろうとする司に一瞬で近づき、今度は身体を貫通する勢いでヤツの腹目掛けて思い切り殴り掛かる━━。



 ブシャァッ......!



「う゛く゛ぉ゛ぉ゛っ......!」



 司は殴った衝撃でゲロを吐きながら宙に舞い上がり、周りの木々よりも高い位置まで飛んでいく。

 俺はそれを追いかけて空を飛びヤツの頭を目掛けて思いっきり拳を振り下ろす━━。



「よぉ司、ビッグ○ンダーマウンテンの気分を味わわせてやるよ━━!」



 ト゛ス゛ッ━━!



「ふ゛へ゛ぇ゛っ.......!」

 


 ス゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ━━!



 拳によって突き落とされた司は庭にクレーターの様な穴を開けて身体が地面に突き刺さる。

 ヤツは全身の骨が粉々になりピクピクとしながらも辛うじて口を開けた━━。



「......バケモンは......お前の方......じゃねぇか......」


「ロボット掃除機も蓋を開ければこんなもんか......少しワット数が足りてないんじゃないか? 俺の準備運動にすら追いつかないなんて赤い血も大した事ないな」


「ふっ......二件の成功例しかない俺の......この身体を.....最も簡単に......破壊する方がおかしいんだよ......! それも拳だけで息一つ切らさずにさ......俺が追いつけないのはコレで......」



 ヤツがボロ雑巾のようになった姿を見ると更に怒りが込み上げてくる━━。



「そんなことはどうでも良い、お前さっき口を滑らせた内容を話せ......! お前は何故俺の母さんが滅多刺しにされたことを知っているんだ━━?」


「......」


「しかも凶器はあの部屋から見つからなかったにも関わらずお前はたった今『剣で』と言った━━」


「っ......」


「そしてあの日......母さんは帰ってきた俺に消え入りそうな声を振り絞って『黒い......男』と言っていた。アレは今お前が今着ている黒いレインコート・・・・・・・・そのものじゃないのか......?」


「......」


「答えろよ司......

 違うなら違うってはっきり答えてみろっ!」



 俺はいつまでも口を開かない司に腹が立ち、ヤツの胸ぐらを思いっきり掴む━━。



「お前が母さんを犯して殺したのか......!? なぁ......黙ってないで少しは喋ってみろよ司っ!」







「......そうだよ......俺だ.....俺が殺した......」







「......っ......ふざけんなよ......ふざけんなよお前......。なんで殺した......俺とお前が出会う前に母さんはお前に恨まれるような事でもしたのか......? 人の母親を殺した挙句その息子にお前は高校で何食わぬ顔で友達面してたってのか!?」



 司の肯定にこれまで我慢していた涙が溢れる━━。

 いくら強がっていてもやっぱり事実を受け止めきれない......唯一の親友がまさか犯人だなんて......そんなの簡単に信じられるか.......!



「さぁ教えろ.......! 二年前あのアパートで......黒羽晴香の服をビリビリに引き裂いてめちゃくちゃに犯した挙句滅多刺しにした犯人は誰なんだ......! なぁっ!?」


「......だから......俺だって......言ってるじゃねぇか......」






「っ......なんでだよ......なんで司なんだよ......! なんで......友達が友達の母さんを殺さなくちゃいけないんだよ......!」



 司もさっきまでの能面みたいな表情とは打って変わりその目から涙を溢していた━━。



「......ごめんな......真央......本当にごめん......っ......」


「ふざけんなよ......復讐を誓って追い求めた結果がコレかよ......! 俺はあの日から母親と親友両方を失ってたって事じゃねぇか......!」


「......っ......」


「クソッ......! なんであの日お前は......避妊具もつけずに人の母親を犯してブチ殺す事が出来たんだよ......! 何箇所も何箇所も刺してまでさ......。母さんはあの日俺のために.....誕生日の俺のために家に早く......家に帰ってきただけなのにさぁ......!」



「っ......そりゃ支配欲のためだよ......。お前の母さんを綺麗だったからなぁ......中に出させてもらったあの瞬間は楽しかったよ......。分かったら早く俺を......殺せ......」



 司は目を瞑り両手を少し広げて無防備の状態を見せながら俺に身体を差し出す━━。










「......そうか......そうかよ......! お前はここに来てまだ嘘をつくのか━━!」



*       *      *



 作者より。

 予告ですが次回はリクエストにお応えし、増えすぎた各キャラの紹介をして一度整理したいと思っておりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る