第83話 地獄から甦った男と氷川の最期


「し......指示? 違うっ! 俺はただあの教室に行って万季にもう一度せがんだだけだ......!」


「もっとマシな嘘のつき方しろよ。目が泳ぎすぎてクロールしてるぞ?」


「嘘じゃねぇ......嘘なんかつくかよ......!」


「ふーん。そこまで言うなら何故わざわざあの教室を選択した? まさかくじ引きで決めたわけじゃないよな?」


「そんなわけねーだろ......」


「それじゃなんだよ。まさか勉強しか取り柄がなかった奴に好きな人を取られた腹いせでコソコソ隠れてる俺に向けて寝取った所を見せびらかしたかったのか?」


「......ああそうだよ! お前みたいな俺より下の人間に女掠め取られたんだ、やり返したくもなるだろう? 万季があの日......俺の首に腕を巻きつけてキスをしたあの瞬間アイツの腕は震えてたよ。俺に向かって『好き』と無理やり言いながらさ......俺はその姿を見て興奮したね、他に好きな男が居るのに俺の命令に逆らえずキスをした事をさ.......! そしてそれをずっとベランダの陰で隠れてたお前が俺に声を掛けられた時の顔も最高だった......! あの時ほどオスとしての勝ちを噛み締めた日は無かったよ」


「......なんだ? 突然感情の籠ったスピーチおっぱじめてどうしたイケメン。まさかスーパーチューズデーに備えて演説の練習でも始めたのか? 残念ながらもう開票始まってるから遅いよ。そんなくだらない事は良いからさっさと本題を話せ......股間のタマタマをスクランブルエッグにされたくなかったらな━━」


「良いよ......殺せよ......! 俺は誰にも指図なんてされてねぇ......此処で口を割るくらいなら死んだほうがマシだ......!」


「うんOK分かった殺しまーす」



 俺は即座にイグニス火魔法を発動して青白い炎を奴の顔面にかざす━━。



「お......おい待てっ! 待てよっ! お前まさか間髪入れずに俺を殺すのか......!? そんなのおかしいだろ!」


「は? 何で? 口割らないなら時間勿体無いしお前みたいな産廃はさっさと処分したほうが展開早いじゃん」


「なんだと......!?」


「お前さぁ......この物語にそんなお約束が通じると思うなよ? 前話の最後で第4話の虫食い問題が殆ど解決したんだ、その時点でお前が死ぬ事以外誰もお前になんか興味無いんだよ」


「ふ......ふざけた事を抜かすなよ......!」


「大真面目だよ。だって人から寝取ってまで手に入れた彼女には憎しみと怒りの目で蔑まれ、虐めを仕向けた男には今ゴミ以下の存在として扱われている立場だ......そんな『クソ雑魚負け犬クン』より下等なお前に存在価値があるとでも思っているのか━━?」


「お前...... そのセリフ......!」



 氷川はよっぽどプライドが傷ついたのかボロボロの身体をプルプルと震えさせながら怒りの顔で俺を睨みつける。



「おーおーそんなに怒っちゃって、レスバに負けたのがそんなに悔しいんか? しかしまさか俺が言う事になるとはな......あの時は思ってもみなかったよ」


「クソがぁぁっ......! 俺は......容姿も肉体も頭脳も完璧な人間のはずなのになんで......なんでこんなふざけた奴から悲惨な目に遭わされなきゃいけないんだ! お前さえ......お前さえ万季をたぶらかさなければこんなこ━━」



 ジュゥゥゥッ......!



「ク゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


「少し静かにしてくれないか? 一挙手一投足全てが気持ちわりーんだよお前は。そのナルシスト加減と頭ポンポンが許されるのは少女漫画の世界だけなんだぞ? お前今の顔を鏡でよく見てみろよ......焦げた砂肝が映ってるから」



 氷川の顔の皮膚は俺の火魔法によって一瞬で全て焼け爛れて焦げついた。

 そしてその火傷が青い血によって再生するかに一瞬思えたがやはり治ることは無かった。



「その様子じゃお前の再生能力ももうエンディングだな━━」


「っ......ぐ......はぁ......はぁ......ほまえ......イガれでる......!」


「お前よりまだマシだよ。そうそう......こう見えてもお前には本当に感謝してるんだぜ? もしお前が修道士・・・にでもなってたら俺が悪の立場になってた。しかしお前はクズのままでいてくれた......俺のイカれ具合もお前のクズ加減によって中和してくれたんだ、全くありがたい事だよ」


「ふざけ......やがって......!」


「威勢だけは相変わらず一丁前だな、流石この世界で一番傲慢な男だ。だが虚勢を張ってる所申し訳ないがさっきの話を聞いてお前を生かす理由が完全に消えたよ━━」


「......は? 何を言ってんだお前......!」


「おいおい容姿も頭脳も完璧なんだろ? ならお前が言ったセリフをその完璧な頭脳で全て思い返してみろよ」


「なに......!? 俺は何も......」


「何も? お前って公園でうろついてるハトよりも脳みそ小っちゃいのか? パンの耳くれてやるから頭を前後にスライドしながら考えてみろよ」


「っ......! なんだと......!」


「まあ良いさ、頭ん中ハッピーセットなお前にも分かるようお客様サポートより丁寧に説明してやるよ。まず一つ目、お前がたまたま教室に入ってきたなら何故俺がずっと・・・隠れてたのを知ってたんだ? 百歩譲ってクラスメイトの奴が知ってるなら分かるがお前は全く違うクラスだったよな?」


「っ......!」


「二つ目。俺がさっき軽く脅した時お前は『口を割るくらいなら』って言ったけどさ......教室での真相は得意げにペラペラと語ってこれ以上無いはずだがお前は一体何に対して口を割るんだ? お前の言う通りならもう何も無いはずだろ?」


「っ......それは......」


「口籠るのが何よりの答えだ。お前は俺が本題に入ろうって言った内容を誰に指示されて教室に来たのか聞き出して来ると勝手に思い込んだんだ、じゃなきゃ口を割るくらいなんてセリフ絶対に出てこない。お前はまんまと俺のアホな挑発に引っかかったんだよ━━」


「お前ぇ......! わざと挑発してたのか......!」


「そりゃそうだろ、お前の下らない惚気話は上司の昔の武勇伝より聞くに耐えねーよ。しかし自称・・頭脳明晰がこんな陳腐な罠に嵌るなんてとんだお笑い種だな。これまでの失言やそれに対するリアクション、そして今まで俺と出会した時のお前の態度・・......それらを全てまとめると自ずとお前に指示した犯人像は絞られてくるんだよ━━」


「なっ......」


「真央......一体その人は誰なの......!?」


「......この先の話は万季さんには関係無いよ。これは俺自身でケリをつけなきゃならない問題なんだ━━」



 万季がコイツに脅されていることに気がつけなかった事への贖罪はコイツを始末すればケジメを果たせる......だから万季には関係ない━━。



イグニアルタス上級炎魔法



 俺は紫色の炎を手のひらに浮かべゆっくりと氷川へ近づく━━。



「......それで俺を殺すのか......!?」


「ああ......お前は火で燃やすか再生不可能な致命傷を与えるしか殺す道が無いからな」


「待てよ......今俺を殺したら万季の両親は助けられないぞ!? それでも良いのか!?」


「それが遺言か? 悪いが彼女の両親は俺の家族構成に含まれてないからどうなろうが知ったこっちゃないね」


「お前それ本気で言ってるのか......? 好きだった女の家族だぞ......救いたいとは思わないのかよ!?」


「はっ......お前は俺が正義の味方か何かと勘違いしてるようだな。俺が彼女に約束したのは両親の事件の黒幕を探ることだけで両親を助けるなんてのは契約書に記載してないんだよ」


「お前に人の心は......無いのか.......?」


「あったらお前の周りが死体で溢れ返ってる訳ないだろ? さて最後の舞台を用意するか━━」



 俺は氷川を磔にしている磔台の柱の真ん中に氷川の身長よりも長い長穴を作る。

 そして鉄魔法で小さいノコギリを生成し翳していた火魔法でそのノコギリを炙る。



「そんなもんで......何を......するつもりだ......!」


「ああ? シンプルに行こうと思ってね。お前鋸挽のこぎりひきって知ってるか? 江戸時代に最も重い罪を犯したやつにやってた処刑方法なんだが2、3日晒した後最後は首とかをノコギリでゆっくり切るんだってさ......このやり方はあまりにも残酷だから皆んなやりたがらなかったらしいけどな。まぁお前の場合ただ首だけ切るとつまんないからノコギリを熱して股から縦に切り裂いてやるよ━━」


「おい......やめろ......やめろよ.....! お前......おかしいぞ......!」



 ジュゥゥゥッ......。



「ク゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 ヤツの股間にノコギリの刃を押し込むと、肉が焼ける匂いと同時に刃に青い血が付着しそれが熱で固まった。



「粗末なシャウ○ッセンだな。タコさんウィンナーにしてやる━━」



 ギコッ......グジュッ......ギコッ......グジュ......!



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ━━!」



 普通ノコギリは上から下に挽くものだが敢えて切りにくいやり方でヤツに痛みを感じさせ、熱したノコギリでゆっくり時間を掛けて挽いていく。


 手にはヤツの肉と骨が切断されていく感覚が伝わり刻一刻と死に近づいている事を実感する━━。



「はははっ......なんとも苦しそうな良い顔してるねぇ!」


「......お前だけは......許さ......ねぇ......キ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛━━!」


「許すも何もお前は明日から不登校・・・になるんだよ。そして俺たちはお前が居ない学校生活を今後エンジョイさせてもらう。お前は死んだお友達と地獄で歯軋りしながらその様子を見てるんだな━━」



 ギコッ......グジュッ......ギコッ......グジュ......!



「や゛め゛て゛く゛れ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ━━!」


 

 俺はヤツの叫びも無視してその後もせっせとノコギリで切断し続け、股を完全に切り裂き肋骨まで到達した時にヤツは最後の力を振り絞って言葉を発した━━。



「だのむ.....助げで......ぐれ......万季......! 黒羽を......とめでくれぇ......っ......! 俺は......」



 氷川は万季に懇願するがその様子を万季はまるで魔女のような冷たい目で見下していた━━。



「冗談でしょ? 私の人生めちゃくちゃにした人間を誰が助けると思うの? 今だってアンタとキスをしたこの唇をそのノコギリで切り刻みたいくらいよ......!」


「だとよ。彼女はお前をレスキューするより唇削ぎ落として明太子にするってさ━━」


「っ......ま......ぎ......」


「真央......私がコイツのトドメを刺していい? 私が......私自身がコイツを終わらせなきゃ......!」


「やめておけ......こんなの君の手を汚す価値もない」



 ザシュッ......!



 俺は力を振り絞りノコギリを肋骨から一気に切り上げ顎の下辺りで刃を止める━━。



「っ......が......ご......あ......」


「さてお別れの時間だ氷川勇樹......バカにしてた男にたった一晩で人生を台無しにされた屈辱を味わいながら悶え死ね━━」


「た゛す゛け☆€%#○*$€¥......!」



 グシャッ......!



「......」



 俺はヤツの眼球に手を突っ込み、そこから骨ごと脳を引きちぎって生命活動を完全に停止させた。

 そして手に持ったヤツの脳みそを見ると赤やピンクではなくやはり青い色をしていた━━。



「うん......やっぱりバカの臭いがするな」


「これで......本当に死んだの......?」



 万季は氷川の二つに裂かれた死体を見てそのグロテスク具合に息を詰まらせながら言葉を発した。

 


「うん間違いなく死んだよ。それより一つだけ聞きたいんだが、君はコイツとのキスを俺に見られた次の日に何故学校を休んだんだ......?」


「それは━━」


「やっぱり俺と会うのが気まずかったから......?」


「ううん......あの日は本当に風邪で休んだの。真央にキスを見られた後実は真央を追いかけて......何故休んだかは真央のお墓を見れば分かると思う━━」


「そっか......分かった......とりあえず君は家に帰すよ。来てくれてありがとうな」



 俺がお礼を言うと万季は今まで張り詰めた何かが切れたような顔で悔し涙ではない何か様々な感情が入り混じった涙を目に溢れさせた。



「私の方こそ......っ......お父さんとお母さんの......仇を見つけてくれて......討ってくれて......本当にありがとう......っ......。真央が居なければ......真央が生き返ってくれなければ私はまだ最悪の日々を過ごしてた......」



 万季は目に大粒の涙をながして声を詰まらせながら俺に頭を下げた━━。



「いやいや......君の親御さんはまだ死んでねぇだろ? 馬鹿だなぁ。さすが俺にテストで負けるだけあるね」


「っ.......ふふっ......どうせ......私は......馬鹿ですよぉーだ」



 俺が笑顔で言うと万季もその言葉に泣きながらも少し微笑む。

 その笑顔は俺があの日下駄箱で万季と初めて出会った時に見せた表情と同じものだった━━。



「真央......学校はあんなななっちゃったけど必ず戻って来てね。私は真央がどんな姿になろうとどんな人であろうとずっとずっと待ってる......もう逃げたりしないから......!」



 そうか......俺はこの笑顔が見たかったんだよな......。

 一度死ぬ直前に願った『出来ることならもう一度万季と笑い合いたい・・・・・・』というのを思い出したよ......。



「......またな.....万季━━」


「真央......今私の名前......!」



 俺は魔法陣を展開して万季を家に帰し生成した小屋を出る。

 そして小屋に火を着けて死体もろとも完全に焼却し、虐めた連中に対する復讐は終わりを告げた━━。



 ブッブー......ブッブー......。



「もしもし━━」



*      *      *



「こんばんは。みんな久しぶりだねレイだヨ。作者さん最近全然投稿してなかったけどワタシ達を放っておいて一体何してたノ?」


「......この間92歳の誕生日を迎えて友人やいろんな人とフィーバーキメてたら無事にぶり返しちゃちました......。すみません......」


「......お前全員に土下座しロ」


「m(_ _)m」


「それとアイラとワタシの絡みを増やセ、イチャイチャしながら甘い生活送りたいノ。でないと呪うヨ?」


「......じ......次回お楽しみに! ‬≡ \( ˙-˙ )/」


「逃げたナ......! 許さなイ......!」

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