第76話 公道最速のミサイル
デブオネ峠下り道にて━━。
私と氷川はホテルから脱出して車を全速力で走らせていた。
「クソッ! 天使の奴め......まさかあんな化け物がこの世に居たとは! 明星亜依羅.....奴は一体何者なんだ!?」
「完全にイレギュラーでしたね......鷲野も結局生きていたし部下達は文字通りバラバラになってしまった......。大神さんに何て説明すれば━━」
「参ったな......。それに私の娘や君の息子もあのガキの所為で行方が分からない、一旦体勢を立て直してからガキを尋問し、居場所を聞き出さねばならないな......」
「ですね......とりあえず大神さんのところへ向かいましょう。ですが彼らが追ってくる可能性が有ります、その辺りは大丈夫ですか......?」
「我々を追うにしてもタクシーか車だろ? 私はこう見えてレースを少しやっていてな......あの天才ドライバー天使が運転すれば話は別だがヤツは恐らく死んでいるだろうしあの刑事は素人同然だ。ましてやこの車はポ○シェだからな......並大抵の車では追いつけないから安心してくれ」
「了解です。とりあえず奴らが追いつく前にこの峠を下ってインターに向かいましょう」
言われなくても分かってる......。
今もかなりのスピードで走っているし、仮に向こうが乗ってくる車があるとすれば天使が乗っていたあのボロい車だけ......だがあんなボロじゃ追いつくのは不可能だ━━!
私は迫るコーナーに対してブレーキペダルを底まで踏みつけ減速し、フロントタイヤに荷重を乗せてノーズをラインに乗せていく━━。
「ぐぉ......スピードが......!」
「悪いな氷川君......しっかりドアグリップに捕まっててくれ━━!」
パンパンッ......! ブォォォォンッ━━!
コーナーを立ち上がりアクセルペダルを底まで踏みつけるとシートに張り付くレベルのGを発生させながら加速する━━。
「凄いですね田所会長......こんなに速い車に乗るのはジェットコースター以来ですよ......」
「ふっ......あれは車じゃなくてただのアトラクションだ。これだけ飛ばせば誰も追いつく事は━━」
ギャァァァアッ━━!
「なんだっ......!」
カァァァァンッ━━!
「馬鹿な......このスピードについて来れる車がいるだと......!? そんなはずは━━!」
背後から猛然と加速してくるその車はハイビームで私の車をサーチライトのように照らしながら煽り散らかしていた━━。
「へっへっへ......みーっけ」
「お......降ろしてくれぇぇ......!」
※この作品はフィクションであり、
登場する人物・地名・団体名は
すべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、
安全運転を心がけましょう。
* * *
田所に追いつく前━━。
カァァァァンッ━━!
俺を助手席に乗せた白い車は、まるで闇夜を切り裂くように甲高い排気音を鳴らしながらフルスピードで峠道を駆け抜けていく━━。
「お前......本当にやってたのゲームだけか......!?」
「もちろん、それと最近iTubeで頭○字Dの期間限定配信見ました。それまでは車の"く"の字も知りませんし碌に関わった事なんか無いです」
そう言いながら隣で運転してる無免許の高校生は涼しい顔をしながらギアを素早くシフトアップしていく━━。
「嘘つけ! アニメ見るだけでこんな運転出来るならみんな今頃レーサーだぞ! それにこのスピード......今いくつ出てるんだ!?」
「あっ......今......160ちょいです......。ここの道路40km制限の標識見えたんで約120km......オーバー!」
「オーバー! じゃねぇよMFゴー○トみたいな言い方すんな! TikT○kerのロイよりスピード出てるじゃねぇか! 一発免停どころか逮捕だ! 鹿とか猪が出てきたらどうすんだよ!」
「違反はしてるけどそこは大丈夫です。俺さっき急ブレーキ踏んだり蛇行運転してましたよね?」
「え? ああ.....確かにさっき急ブレーキしたり蛇行運転してたな。まさかアレに意味があるのか━━?」
「いや知りません。煽り運転の動画を真似ただけです」
「知らねーのかよ! それのせいでオジサンは口からマーライオン寸前なんだ......勘弁してくれ......!」
「えぇ......汚いから外で吐いて下さいね。今ドア開けて車から降ろします」
「この速度で外に放り出されたら大根おろしになっちまうよ! それより前を向け! カーブが迫ってるぞ!」
「分かってますよ。ウンコする時より力んで下さい━━!」
グォンッ━━! クァンクァン━━!
「ぬぉ......!」
イケメンはあり得ない速度から親の仇でも討つかのような勢いでブレーキペダルを踏みつけ、クラッチを踏んでアクセルを煽り綺麗にシフトダウンしていく。
その動きはまるでダンスステップを踏んでいるかのようなペダルワークとシフト操作だった。
そしてそれを受けるGは凄まじく、俺の首が捻挫しそうなレベルで車を減速させる━━。
「お前......やっぱりさっきブレーキしてたのって.....」
「一応どれくらいの力で止まれるか確認してました。人の身体にしても車してもソイツを攻める限界点を知るのは大切な事ですから━━」
「ドS野郎め......そういう事か.....んぐぉ.....!」
ギャァァァァッ━━!
タイヤは悲鳴みたいな音を鳴らし、車はカーブの中心へと吸い寄せられるように曲がっていく。
その間4つのタイヤが軽く滑っているのにヤツは修正舵も碌に当てず平然とした顔をしながらステアリングを握っている━━。
「お......お前本当に......初心者かよっ......!」
ゴォァァァァッ━━!
車は道路端に溜まっている砂を巻き上げながらガードレールギリギリのラインでコーナーを立ち上がる。
「近っ......冗談......だろっ......!」
「なんか最初の時よりよく曲がる気がする。タイヤがいい感じに......というかタイヤの気持ちが分かってきた━━」
「なんの......話だよ......!」
「めちゃオジ......少し運転に慣れてきたから徐々にペース上げます━━」
「徐々にって......今までのはなんだっ......うぉ......!」
パァァァァァンッ━━!
ヤツは床にアクセルを叩きつける音が聞こえるくらい踏みつけてフルスピードで次のコーナーへ侵入していく━━。
「っ.......! 死にたくない......!」
コイツイカれてやがる......!
プロのドライバー達は頭のネジが飛んでるとかよく聞くけどそれは車の限界領域をよく知ってるからだ。だがコイツの場合そのネジ穴すら存在してねぇ......! 恐らく死への恐怖をどこかに捨ててきてるんだろう。
やはり一度死んでるから出来る事なのか? それともその強靭な肉体がそうさせるのか?
とにかくこのドライビングは俺の理解の範疇を大きく超えている━━!
「お前.....スピードメーター振り切ってるじゃねぇか......!」
「ホントだ......この車ボロいからこのメーター壊れてるんじゃない? 本格的に攻めていきます━━」
※何度も言いますがこの作品はフィクションであり、
登場する人物・地名・団体名は
すべて架空で作者の車に関する知識も皆無で適当です。
よい子の皆さんは車の運転は交通ルールを守り、
安全運転を心がけましょう。
「壊れてねーよ! そんな事より次のヘアピンが来......おいアレ見ろっ! 道路に砂利が━━!」
「大丈夫。少し曲がり方を変えます......」
グァンッ━━! クォンクォン━━!
再び前につんのめるくらいのブレーキングでフロントタイヤに荷重を素早く移動させると、今度はリアを軽く振り出しゼロカウンターの状態で華麗にドリフトへと持ち込んでいく━━。
ギャァァァァッ━━!
「オェェェッ......お前ラリーストかよ......!」
「ウヒョーッ! 車の運転ってこんなに楽しいんですね。それよりオッサン......一つ気になることが━━」
「......なんだ?」
「この車さっきから"ウザ娘"の曲をずっとリピートしてるんだけどこの気持ちどうすればいい......?」
『パパの財布がチャリンチャリン金を出し〜♪ ズキュンバキュン払って〜る〜よ〜♪ こんな〜お寿司〜屋〜は〜じめて〜♪』
「あ......ああ確かに流れてるな。なんというか......もし自分の父親が聞いてたら複雑な歌詞だなコレ......」
「なんなんだよあのクソ親父! ウザ娘なんか聴いてないでスーパーユーロビート流せ馬鹿野郎! まさかアイツ俺達を散々放っておいてこの歌詞みたいなパパ活してやがったのか......!?」
「いや、天使はモテたからそんなことしなくても寄ってきてた......じゃなくてアイツは君達の事を一番に━━」
「やっぱりこのボロ車売り飛ばしてやる━━!」
ピカッ......!
「おい! それより今一瞬見えたぞっ! あの特徴的なテールランプは間違いない......田所の外車だ━━!」
「オッケー......。ここから全開で走るからゲロ抑えろよオッサン!」
「全開......嫌だ......俺はまだ死にたくない......誰か助けてくれぇぇ......!」
* * *
田所猛追後━━。
「クソッ! なんなんだこの車は! 全く離れない!」
後ろの車に張りつかれてから幾多ものコーナーをクリアしたが一向に離れる様子は無く、それどころか煽られる距離が近すぎる所為でミラーが眩しくてたまらなかった━━。
「田所さんもしかするとアイツらかもしれません! もっと飛ばして下さい!」
「分かってるよっ!」
グォォォォンッ━━!
俺はレースの時よりも冷や汗をかきながら死ぬほどペースを上げたがヘッドライトはピッタリ張り付いたままだった。
「クソッ......全然離れない! こうなったらっ!」
俺はインから抜かされないようにする為、早めにコーナーの中心へ向かうラインを取ろうと減速する━━。
フシュン......。
「消えた......? さっきまでミラーを照らしていたライトが消えた......!」
「田所さん! 外です━━!」
カァァァァンッ━━!
「なんだと......!」
天使が乗っていたあのボロい白い車はコーナーへの減速の瞬間素早く外側に移動し、内側で減速を始めた俺よりもブレーキを遅らせてコーナーへ進入しようとしていた━━。
「クソッ......! 外からなんざ抜かせるかよ!」
俺は咄嗟にブロックラインをやめて車を外に向かせるが━━。
ヒュン......ギャァァァァッ━━!
「嘘だろ......!」
奴はその動きを予測していたのかまるで瞬間移動したかのようにインに車を滑り込ませ、コーナーを鮮やかにクリアして俺をブチ抜いていった━━。
「......あり得ない......コッチはポル○ェなんだ......。ポ○シェと言えば曲がる止まるに関してどんな車にも負ける事は無い......それなのに......」
カァァァァァンッ━━!
「そんなボロ車で一体どんな手を使いやがった━━!」
後ろから改めて見るその白い車はまるであの天使が操っているかのような危険すぎるオーラを醸し出していた━━。
* * *
「お前すげぇよ......アウトに振ってくる相手の動きを読み切ってインに瞬間移動し、この狭い峠道で躊躇なくぶち抜くなんて━━!」
「オッサンもゲーセン通えばすぐこうなりますよ。さてそろそろ親父が言ってた20分か......俺もとっておきの一撃を出さないとな」
「なんだよそれ......お前が言うと嫌な予感しかしないぞ、一体何を出すんだ?」
「へへへ......すぐに分かりますよ」
俺は顔を明星亜依羅に変え、ブチ抜いてすっかり遅くなった田所の横へ並ぶ為に減速してから窓を開ける━━。
「やぁお二人さん。こんな夜に峠道走ってるなんてセ○クス前のドライブデートかい? だがそんな2シーターじゃカーセッ○スはちっとキツそうだな......ラブホまで案内しようか?」
「てめぇ......このクソガキがっ!」
「はははっ、しかし初心者に呆気なくぶち抜かれるなんてその高そうな車も泣いてるよ! そうそう......アンタ娘の居場所知りたいって言ってたよね!? 今教えてやる━━」
「なにっ......!?」
俺は車の上に魔法陣を展開するとその中から血だらけの状態で手足を縛られ、まるで魚雷のような体勢になっている田所飛美と氷川優樹が現れた━━。
「うぅ......ここは......一体どうなっ......ぐああああっ!」
奴らは外の風をモロに浴び、その姿はまるでスカイダイビングをしているかのような髪の乱れとストッキングで引っ張られたようにブサイクな顔をしていた━━。
「飛美! 貴様ぁ......私の娘によくもこんなことを! 娘達に何をするつもりだ!」
「ふっ......最近巷で流行ってるミサイルをコレで再現するんですよ━━」
「それはどういう意味だ......!」
俺は前方を向いてモロに風を受けている田所飛美と氷川勇樹を90度回転させ、外車の方に顔を向けさせる━━。
「やめろ......まさか......やめてくれぇぇっ!」
「助けて......お父さん......!」
「親父......助けて......」
「うんうん、感動の再会で柴○理恵並みに涙が溢れてくるねぇ......。それならもっと近くで話が出来るようにしてやるよ」
「何をする気......やだ......やめて......!」
「なぁ頼む.......やめてくれ!」
「なに? ごめん風が強くて聞こえないや」
「お願いだ! こんな事やめてくれ!」
「ああ、早くやってほしいって? オッケーバイバーイ」
「嫌だ......やめて......イ゛ヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」
バリィィィィンッ━━! ズザザァァァッ━━!
俺が放った
「ぐっ......ぐああああああっ!」
キィィィィッ━━! グシャッ━━!
車は2人が叩きつけられた衝撃で体勢を崩し、タイヤは悲鳴を上げてスピンしながらガードレールに激突して止まった━━。
プスッ......プスッ......。
「ぅっ......」
俺は車を停車させて煙を上げる外車に近寄り、ひしゃげた車のドアを無理やり取っ払った。
「やぁ。みんな元気そうだね」
「何を......飛美......大丈夫か......」
「お......とう......さ.......助け......」
「うんうん、言葉に詰まるくらい嬉しいんだね。しかしミサイルの威力って凄いな......そりゃ北の偉い人もポンポン打ち上げるワケだ」
「お前ぇっ......よくも......」
「音速で娘を投げつけられなかっただけありがたいと思えよカイチョーさん。まだ身体の原形を留めてるだけマシじゃん」
「頼む......殺さないで......くれ━━」
「まだ殺さないさ、お前ら親子には相応しい死に方があるんだ......。だがその前に少しだけ痛い目に遭ってもらう」
俺は田所親子に回復魔法を少し掛ける━━。
「何をした......身体が......!」
「ウチの親父が用意したとっておきのプレゼントを4人には体感してほしくてね......。そこで今ノビてる氷川の親父につけられた赤いランプが点滅してるだろ? あと5......4......」
「おいまさか.......やめろ......助けてくれぇぇぇ......!」
「3......2......」
「いやああああっ! ヤ゛メ゛テ゛ェ゛ェ゛ッ━━!」
「今朝リア充でも無いのに爆破されたお返しだ、その
ドゴォォォォンッ━━!
氷川父の身体から放たれた爆弾は車を巻き込んで大爆発を起こすと車の破片が宙に舞った━━。
「やっぱ山には焚き火が欠かせないよな。ねぇオジサン━━」
「いやいや焚き火どころか山火事になるぞコレ」
「さぁて......中の焼き芋達はどうなってるかな?」
焦げた車の中を覗くと全員人間かどうか一瞬分からない状態の身体になっていたが、氷川親子はあの血のお陰で生存しており、田所達も俺の回復魔法で辛うじて息をしていた。
「しかし天使が言ってたのはこれだったとは......お前ら親子揃ってやる事がえげつないな.....」
「まだまだここからが料理の本番さ......満天青空レスト○ンを始めるよ━━」
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