第75話 遺志
「まぁそうだよな......父親失格の俺は恨まれて当然だ......」
「ふん......自覚があるだけまだマシか━━」
「やはりそうだったのか......彼が今まで起きていた猟奇的連続殺人事件の犯人......M.Kファントムの正体━━」
「嘘......明星君が黒羽君だなんて......」
「......改めまして刑事さん、俺の本当の名前は黒羽真央。とある復讐を成し遂げるため地獄から蘇った冴えない高校生です━━」
* * *
「なるほどね......そりゃあんなド派手な殺人をしても尻尾すら掴めないワケだ......。なんせ相手は姿形を自由に変えられて身体能力は正しく神の領域、トドメに不可思議な魔法を駆使する正真正銘のトリックスターだもんな。勘で君が黒羽真央だと当てていた俺を褒めてもらいたいよ━━」
「確かに......ずっと怪しんでいましたもんねイケオジは」
「でもちょっと待ってください、彼は......黒羽真央君は半年前に自殺したはず......。こんな能力を最初から使えるなら━━」
「それは違うぞ東海林ちゃん。事件が起き始めたのは彼が亡くなってからだ......一度目の死によって今の力を得たんじゃないか? そうだろ?」
「その通りです、神の悪戯か分からないがこんな形で俺は復活しました。それにそもそもあれは自殺なんかじゃない......誰かに突き落とされたんだ━━」
「なんだと......! もしそうなら君のお母さんが殺された件と君の件はもしかして━━」
「繋がってる可能性が高い......。なぁさっさと話せよクソ親父、俺と母さんを捨ててまでアンタが追い続けた結果をさ......。アンタは何か掴んでるんだろ?」
「ああ......だが俺にはもう時間が無い......。だから話すより先にお前にはこれを託す━━」
そう言って俺に渡してきたのはライター型のメモリースティックだった。
「何だよこれ......」
「いいか......そいつを絶対無くすなよ。そこには俺が20年掛けて集めたアレキサンドブラッドに関するデータと奴らがやってきた事......そして晴香を殺した事件とその犯人に繋がるものが入ってる。その犯人が分かればお前を殺した
「って事はアンタはもう知ってんのか......? 母さんを殺した犯人を━━!」
「見当はついてる。だがその前に......いいか? 先ずお前らはこれから氷川を追うんだ、大葉を始末したお前なら分かると思うがこの件には
「......分かった......!」
「それと氷川にはプレゼントを用意してある......ソイツは今からキッカリ20分後に作動する仕組みだ。だから今から20分後までにアイツらが逃げる車に何としても追いつけ......! お前ならそれが出来る......なんせお前は
俺はクソ親父が放った最後の言葉に猛然と腹が立ち、今までの鬱憤をぶつけるように壁にもたれている親父の胸ぐらを掴んだ━━。
「何が俺の子だ! アンタは家族を守るために俺達と離れたんだろうがその所為で俺達は......母さんは散々苦労させられたんだぞ......! 看護師だった母さんは仕事で疲れた素振りも見せずに俺の世話をしてくれた......! なぁアンタ、母さんの手に一度でもクリーム塗ったことあるか? 仕事と家事の所為でボロボロだった手にさ......! 俺はまだ保育園に通ってるガキだったけどそれを見て少しでも母さんの負担を減らせるように家事や手伝いを頑張ったよ......いつもボロボロの手で抱きしめてくれた母さんを俺が支えなきゃいけないと思ったからだ! だから俺は母さんの為に勉強を頑張って良い会社に入って少しでも母さんに楽をさせてやりたかった.......そうやって俺達は支え合って暮らしてきたんだ! その頑張ってきた結果がコレか......? 俺達が何か悪いことしたのか? 滅多刺しにされて殺される程母さんが何か悪い事したのか? なあ教えてくれよ、
「黒羽君......」
「お前ら警察が.......母さんの夫である
「待ってくれ......君のお父さんは━━」
「いいんだよ鷲野ちゃん......。小僧の言う通りだ......俺は晴香と......まだ生まれてよちよち歩きだったお前を奴らに殺されるくらいならという言い訳で捨てたんだ......。俺は事件を追う事ばかりで父親らしい事なんて何一つしてやれなかった......結局は逃げたって事さ、そしてその結果事件を解決するどころか晴香も......お前も殺されてしまった......本当に申し訳ない......。不甲斐ない父親で本当にすまなかった━━」
「天使......」
「謝って済むなら警察は要らないんだよ......あんな奴ら相手に1人で抱え込みやがってさ......。俺はまだ生まれて間もなかったから仕方ねーけどせめて母さんには相談出来ただろ......? どうせアンタは飄々とした態度で母さんに心配かけさせないように動いたんだろうがそれが逆に母さんを傷つけていたんだぞ......!」
「そうだな......分かってる......あの世で母さんに頭擦り付けて謝ってくるよ......許してもらえないと思うけど精一杯謝り続ける......情けないが今の俺に出来るのはそれくらいだ......」
「っ......」
「......どうした......? 何か言いたそうだな......」
「......なんでだよ......言い返してこねーんだよ......さっきみたいに減らず口叩いて言い返してこいよ......! それがアンタの特技なんだろ!?」
「へっ......言えるわけないだろう......お前の言う通りどんな理由があれど家族を捨てたんだ......言い訳なんて出来ない......ゲホゲホッ......!」
「親父!」
咳き込んで口を押さえた親父の手からは指の隙間から溢れる程の血が出ていた......。
「真央......今までごめんな......お前が経験してきた辛い事全てを肩代わりしてやりたかった......お前達を守りたかったそして......お前が成長していく姿を間近で見たかった......。お前は俺みたいな父親になるなよ......いや......大丈夫かお前なら......。そんな俺から父としての最後のアドバイスだ......身近な奴程疑え......お前の敵は......ゲホゲホッ.......!」
途切れ途切れに喋る親父の息は明らかに弱くなっていく━━。
「親父っ! なぁしっかりしろ! 何勝手に死のうとしてんだ! 今すぐ回復させてやる!」
「やめろ......! そういうのは俺みたいなクズより他の人に使え......それにさっきも言ったがお前の世話になるのはごめんだ━━」
「.......こんな時まで意地張ってんじゃねぇよバカ親父......」
「子供の前くらい意地張らせろ......。しかしお前が生まれてから6月で17年か......本当にデカくなったなぁ真央......お前をチャイルドシートに乗せて母さんと3人であの車でいろんな所をドライブしてた頃が懐かしいよ......。へへっ......峠道でスピード出すとお前喜んでたよな━━」
「っ......!」
そうか......だからあのボロい白い車に懐かしさを感じたのか......!
親父は俺と母さんの思い出を忘れない為に......3人で過ごしてきた日々を忘れないようにずっとあの車に乗っていたんだ━━。
それを最後まで俺に言わないなんて......意地っ張りすぎるだろうが......!
「クソッ......愛情表現下手クソかよアンタ......!」
「何とでも言え......。その車......外に置いてあるから免許取ったら大事に乗ってくれ......あれは俺の全てだ......。それと最後に......お前はお前のやり方で母さんと自分の仇を絶対に取れ......絶対に迷うな......! そして今度こそコッチにはなるべく遅く来いよ......?」
「ああ......分かってる......分かってるよ......
父さん......!」
「やっと言ってくれた......ありがと......な......」
親父は満足したように少し微笑見ながら息を引き取った━━。
「っ......」
「天使......」
結局最後まで自分の口から家族と離れた理由を親父は言わなかった━━。
恐らくそれは俺という子供に言い訳しないための親父なりの意地と気遣いなんだろう......。
そして俺がここで悲しんでいる間に本当の敵に時間を与えないため.......俺を悲しませすぎないようにしたんだ━━!
「......最後まで見栄張りやがって......死んじまったら喧嘩する事すら出来ないじゃん......」
「黒羽君......」
「......やってやるさ......アンタの遺志は俺が継いで奴らを必ず地獄に叩き落としてやる。例えどんな人間であろうと必ず成し遂げてみせるよ......父さん━━」
* * *
東海林さんに親父の遺体の件と涼を頼んだ俺は駐車場へ向かっていた━━。
「なぁ......アンタもついてくるのかよ刑事さん」
「そりゃあそうだろ......君は警察が死ぬほどマークしていた連続殺人事件の犯人だしな。それに━━」
「それに?」
「葵が殺された復讐を俺に間近で見せつけてくれるんだろ━━?」
「ふっ......そういえばそんなこと言いましたね。見せますよもちろん」
「なら安心だ。俺はそれをガッツリ見届けてから君を逮捕するよ」
「おいおい都合良いなこのオッサン、コレだから警察は嫌いだねぇ」
「ふっ......それが仕事だからな。さて行こうか━━」
鷲野刑事は親父から受け取っていた鍵をポッケから出す。
それを見逃さなかった俺は一瞬の隙をついてその鍵を奪い取った━━。
「おい! 何すんだお前!」
「そのキーは俺が親父から貰ったんだ、アイツらへの復讐に関してだけはアンタの手を借りるつもりは無いよ」
「馬鹿野郎! お前無免許運手になるんだぞ!? そんな事が許されると思ってるのか!?」
「はははっ......散々人殺しまくってる連続殺人犯に何言っても効かないさ。それに中学一年生の時から豆腐の配達する為に無免許運転してた人間も居るしな」
「お前それ......漫画の世界だろうが......」
「いいや俺はその人が存在すると信じてる。いつかイギリスのレーシングスクールに入ってMF○ーストするんだ! それに......運転には自信がある━━」
「ふっ......一応レーサーの息子だもんな......」
俺はそう言ってドアの前に立つ━━。
「あれっ? あれれ?」
「何だ? どうした?」
「ちょっと待ってコレ━━、
どうやって鍵開けるの?」
「はぁ? お前本気で言ってるのか? コレだから最近の若いやつは......。ドアの取っ手の下にキー挿す所あるだろ? そこに挿して捻るんだよ」
「あーコレね。分かったよ」
俺は言われた通りキーを挿してドアを開ける━━。
めんどくさいなコレ、昔の車はこれだから嫌だ......せめてスマートキーくらい付いててくれよ。
ビッ○モーターに売り飛ばそうかな━━。
「さてイケメン、戯言は良いから早く助手席に乗れ」
「嫌だね......アイツらに絶対追いつかなきゃいけないんだ。さっきも言ったが俺が運転する━━」
俺はオッサンの警告を無視して車に乗り込んだ。
後ろを見ると後部座席には古びたチャイルドシートが置いてあった━━。
「なぁ......あれにお前が昔乗ってたようだな」
「うん......」
「......さっきのキーは右横にあるところに挿して捻るとエンジン掛かるからな。ていうかお前、運転に自信があるって言ってたけど何かやってたのか?」
キュインキキキキ......ゴヮァァァァンッ.....ゴアッ......ゴアッ━━!
アクセルを煽ると乾いた排気音が小気味よく聴こえるが、近所にこんな車が居たら騒音でクレームが入るだろう━━。
「あー良い音。もちろんやってたよ━━、
頭○字Dと湾岸ミッ○ナイト」
「お前それ全部ゲーセンのヤツじゃねぇか! ホンモノとゲームじゃ雲泥の差だぞ!? それにこの車にはクラッチがあるんだ、お前に運転できるわけない! やっぱり代われ!」
「まあ見ててくださいよオガタさん。僕は必ず追いついて神フィ○ティーンになります......オーバー!」
「俺は鷲野だよ馬鹿野郎......オーバー......」
ゴヮッゴヮッ......!
俺はクラッチを踏んで一速にギアを入れる。
そしてアクセルを少し煽って半クラ状態からクラッチを繋ぎつつサイドブレーキを倒すと車は走り出した━━。
「うるせぇ車だなぁ全く......前オーナーにソックリだよ......!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます