第74話 親子とは、嫌なとこばかり似るものなり


「なっ.....何者だ貴様っ! それに鷲野っ......!」



 会場を見渡すと何故かブルブルと痺れたようにぶっ倒れている氷川の父と、俺とオッサンの登場に驚き叫ぶ田所父の姿が見えた━━。



「天使お前その傷......! 馬鹿野郎無茶しやがって......今すぐ止血するからな!」


「ありがとう鷲野ちゃん.......。小僧......悪かったなヘビースモーカーで......鷲野は相棒、タバコは友達なんだよ。それよりなんだか身体痛くて動けねぇぞチクショウ......」



 駆け付けたオッサンに手当てされながら血だらけの身体で壁にもたれて座り込む親父は、減らず口を叩く余裕はあれど体には全く余裕が無い状態である事は明白だった━━。



「そりゃそうだろ......年甲斐もなくへそピアス・・・・・なんて開けてんじゃないよ。今から治してやっからさっさと立て......警視監の肩書きが泣くぞ」



 俺は回復魔法を掛けようと手を伸ばすが━━、



「へっ......ふざけんなよ......これは開けたくて開けたんじゃねぇコイツらに撃たれたんだよ。それと俺はお前の手だけは絶対に借りない......ほっといてくれ━━!」



 その手はクソ親父によって思いっきり振り払われた━━。



「何くだらない意地張ってんだよ天使......! この子は東海林ちゃんの傷も簡単に治したんだ、お前の怪我だって絶対治せる筈だ! でないとお前このままじゃ......本当に死んじまうぞ!」


「良いんだよ......これで......。小僧......俺の言いたい事は分かるよな......?」


「っ......分かってるよ......」


「良い子だ......ならそれを最後まで貫き通せ......分かったな? しかし年取ると疲れるねぇ......お前の若さが羨ましいよ━━」


「天使......」


「ちっ......歳を盾にするとかダッセ......。どうせ最初はカッコつけて減らず口叩きながら登場したんだろ? なら最後まで男らしくカッコつけろよ」


「おいおい! 2人とも言い合いしてる場合じゃないだろ!?」


「手厳しいねぇ最近のガキは。こっちはさっき青切符切られて落ち込んでるって言うのに.....」


「それが一番ダセェ......さっさとその足で反則金払ってこいよ」


「払えたらとっくに払ってるさ馬鹿野郎......ったくお前の親の顔を見てみたいよ。お前に似てさぞかしムカつく顔してるんだろうなぁ......あーイライラする。鷲野ちゃんタバコ頂戴」


「お前ら人の話を聞け、タバコじゃないんだよ天使。それと反則金より敵さんを無視してるからそろそろ反応してやれよ馬鹿2人」


「鷲野さん......それにしてもこの2人さっきから言ってる事そっくりじゃありません? どっちも減らず口が過ぎますよ、顔は全然似てないのに......」


「だよなぁ......」


「しかし警視庁管内でも女性に人気でフレンドリーな天使警視監がこんなに口が悪いとは......」


「コイツが女にフレンドリーなのも口が悪いのも昔からだよ。しかし口の悪さも意地っ張り具合もまるで側から見れば似たモノ親子だな━━」









「おいっ! 何ブツブツ喋っている!」



 俺と天使のやり取りに田所父は我慢の限界を迎えたのか無視出来ない程の声で叫ぶ━━。



「私の話を聞けそこのガキ! 堂々と扉を壊しやがって......何者だ貴様っ!」


「うるさいなぁ......アンタの子供が今日起こした爆破事故に巻き込まれそうになった高校の同級生ですよ」


「まさかお前......明星亜依羅か......!」


「その通り、僕の名前は明星亜依羅。趣味は古墳巡りとメダカの餌やり、チャームポイントはうなじにある小さいホクロ。よろしく━━」


「バカな......お前は校舎の爆発に巻き込まれて死んだ筈では......!?」


「アンタ達さぁ、親子揃って同じリアクションすんなよ気持ち悪い......僕は見ての通りピンピンしてるよ。今なら体にラメ塗りたくってポールダンスも出来る」


「小僧......今のジョークIPPONならず━━」


「うるせぇよクソジジイ。そうやってお笑いの審査員ばっかしてるとホテルの室内写真と女性セレクト指示書を週刊誌にゲットされていつか記事にされるぞ」


「クソッ......! お前が生きてるという事は私達の子供は......飛美はどこにいった!」


「さぁ......爆発に巻き込まれて死んだんじゃない? それかメダカの餌になってるかもね」


「ふざけるな! 殺す......貴様ら全員この場から生きて帰さない......お前ら出てきて良いぞ!」



 ホテルの広々とした会場に続々と黒服達が入ってくる。

 その数は圧倒的で100人は優に超えていた━━。



「そんな......。鷲野さん......こんな人数私たちだけじゃ相手にできませんよ......」


「ああ......まさかまだこんな隠し球を待機させていたとはな。ていうかどんだけコイツらに繋がってる人間が居るんだよ......なぁイケメンここは一旦━━」


「おいおいこんなに沢山のムサい男達が会場に集まるなんて兎田ぺ○らでもライブしに来るのか? 僕チケット持ってないぺこ〜」


「それ以上煽るなよ、ここ一旦落ち着いて逃げ延びる方法を考えるぞ」


「鷲野君......君たち虫ケラがここから生きて逃げられると思うか? あの世行きのチケットを持ってる君達はここで死ぬんだ。コイツらはさっき外で対峙した奴らとは身体の出来が違う━━」


「なんだ? 食後にプロテインでも摂取してんのか? そりゃあ血の滲むような努力だな」


「ふん......なんとでも言えガキが。しかし天使、お前の助けも大した事なかったな......死にかけでヤキが回ったか?」


「......そいつはどうかな? コイツのヤバさを雰囲気で感じ取れないとは情けない......侠道会会長の地位が泣くぞ田所━━」













 ザシュッ......!



「ホントだよ......やっぱり僕は敵にも味方にも作者にも舐められやすいタイプのようだ━━」


「ぐっ......! おまぇ......速すぎ......る......ゔふぉ......」


「なんだと......!?」



 俺は瞬間移動し改造人間の腹に手刀を突き刺して胃を抉り出す。

 その抉った腹からはやはり青い血が流れ出ていた━━。



「お前が遅いんだよ改造人間19号。デブのお前はプロテインなんか飲むのやめて僕みたいにピル○ルを飲むべきだったな━━」



 ガシッ......!



 俺は胃を抉り出した手で改造人間の顔面を鷲掴みにする━━。



「いやだ......やめろぉ......」


「嫌よ嫌よも好きのうちでしょ? ほら遠慮せず死になよ」


「ウ゛カ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 ブシャァッ......ドサッ━━!



 俺は改造人間の悲鳴を無視して胴体から首を引きちぎりソイツを床に捨てた。


 そして次のターゲットへと向かう━━。



「バカな......こっちは改造によって皮膚も強化されてるんだぞ......! やめろ......こっちに来るなぁぁっ.......!」


「囀るな......悲鳴はホラゲー実況やってる可愛い女だけで十分なんだよ」



 ザシュッ......!



「ぐぉ......」



 グシャッ......!



「ゔきゃぁっ......!」


「くそっ......なんなんだお前ぇ......ぬゔぉぇ......!」



 ブシャァッ......!

 


 俺は無言で改造された人間を次々と素手で再生不能の状態になるまで確実に引き裂いていく━━。



「嘘......人があんなにも......鷲野さん彼は一体......?」


「悪いが説明できない......化け物じみた再生能力と身体能力を持つアイツらをたった1人の高校生が無双するなんてスケールが違いすぎる━━」



 半数以上を殺し終えた会場内は青い血の海になり、そこら中に男達の肉片が散らばっていた。

 俺は素手についた血を腕を振って払い、田所に対峙する━━。



「バカな......この数の彼らがこんな簡単に......貴様......本当に人間か......!?」


「ザッとこんなもんさ、練り消しを千切るより楽な作業だよ。しかし笑えるよなぁ......あの世へのチケットを持ってたのはコイツらモブの方だったワケだ━━」


「やるな小僧......俺の若い頃そっくりだ......まあ俺の方が凄いけどな」


「これだから嫌だねぇオッサンは......そうやって昔のことを誇張するから若い人に嫌われるんだ。どっかの刑事も前に似たようなこと言ってたよ」


「ふっ......」



 クソ親父はニヤリと笑い、田所は悔しそうに顔を歪ませていた━━。



「くっ......あの方達が20年掛けて作り上げた"アレキサンドブラッド"がこんなヤツに.......!」


「現実を受け止めないと進歩は無いですよカイチョー。コイツらは全身を焼き殺すか心臓を抉り出す......もしくは頭を身体から切り離せば死ぬんだろ? いくら再生能力が凄くても生命活動の根本的な部分を損傷されたら再生する事が出来ないんだ━━」


「お前......何故それを......!」


「知ってるかって? お前らがゴミ同然に扱っていたメスガキが昔教えてくれたよ━━」


「クソッ......残りのお前らは確実にコイツらを殺せ! これは命令だ! 私と氷川君は一旦この場を退いて上に報告する! 氷川君立てるか?」


「ええ、とりあえず震えは無くなりましたよ。全く厄介な事をしてくれたもんだ......」



 田所は氷川の肩を抱いて会場から去ろうと外へ逃げる。

 俺がチラッとそっちを見ると氷川のスーツには何かによって小さな焦げた穴が開いており、その中をよく見ると穴から赤く点滅するなにか・・・が見えた━━。


 そして逃走を図る2人を見逃さなかった鷲野刑事はヤツらを呼び止める。



「待て氷川! 田所! 追うぞ東海林ちゃん!」


「はいっ!」


「ダメだ。ここからお前ら全員生きて逃さない......」



 黒服の1人は鷲野刑事達の前に立ちはだかるが━━。



 ガンッ━━!



「ぐぁっ......!」


「なさけなぁ〜い♡ おクスリ飲んで色々強くなったのに涼に一撃でぺんぺんされるなんて、おじさん達よわよわだねぇ♡」



 立ちはだかった男は頭をメスガキにフライパンで叩きのめされてその場に倒れる。



「涼! 馬鹿野郎無茶すんなって! お前にまで死なれたら俺は━━」


「えへへ♡ 大丈夫だよ。何があってもあのおにーちゃんが絶対助けてくれるからね♡」


「このガキぃ......舐めやがってぇ......」



 黒服は先程の男達とはやはり違うのかすぐに起き上がる━━。



「クソッたれ......すぐに立ち上がりやがってこの黒執事が......!」


「お前ら全員ぶっ殺し━━」












 ザシュッ......ズバァッ━━!






「ったく危なっかしいことするなよクソガキ......」


「っ......! な......ん......」



 俺は手のひらから生成した黒い刀で黒服の首を刎ね、身体を真っ二つに斬り落とした━━。



「おにーちゃん! 最近ダサかったけどようやく少しカッコいいところ見せられてよかったね♡ 涼がナデナデしてあげよっか♡」


「うるせぇ喋るな触るなこっち見んなクソガキ! やべっ! コイツ今お父さん居るんだった......。まぁとりあえず雑魚は全員片付いたな━━」


「は......?」


「そんなワケ.......うっ......!」



 オッサンと東海林さんは周りを見渡すと黒服の改造人間達が誰1人立っておらず、ただの残骸になっている光景を目の当たりにして息を呑んでいた━━。



「嘘......ぉぇっ......」


「お前......本物の悪魔かよ......」


「いいえ主人公・・・です。それより━━」



 俺は振り返りクソ親父の方を見るともう片目が開いておらず微かに息をしている状態だった━━。



「ふっ......あの人数相手に息一つ乱さずぶち殺すとは大したもんだな明星亜依羅......いや......










 黒羽真央━━」

 

「......分かってたのか......久しぶりだなクソ親父━━」



 俺は自身を黒い靄のようなモノで覆い尽くし姿を徐々に変える。

 そしてその靄が扉からの風に流された時、本当の姿・・・・が現になった━━。



「......分かるさ。例え顔を変えたとしても、幼い頃にお前を捨てたとしても......そして一度死んだはずの息子だったとしても親ってのは子供の事が手に取るように分かるんだよ......」


「......今更父親面すんなよ。こっちはあんたのせいで今までどれだけ苦労したと思ってんだ━━」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る