第73話 我儘な説得
オッサンが涼に声を掛けると涼より先に東海林さんが真っ先に反応した━━。
「えっ......鷲野さんてまさかのロリコンですか? キモいんですけど......」
「いや違うから、俺のタイプはもっと歳いった女に決まってんだろ。それより君......名前は━━?」
「涼......水木涼」
「涼......!? 君のお母さんの名前は━━?」
「葵......」
オッサンはその場にしゃがみ込み目を片手で覆う。
その姿は少し泣いているように見えた━━。
「そうかっ......そうかぁ......っ......!」
「オッサン......まさか......」
「間違いない......この子は......俺と葵の娘だ━━」
「......おとーさん......?」
「マジか......」
「ああ......その健康的な肌に凛とした顔と雰囲気が幼い頃の葵に瓜二つなんだ。幼い頃から隣でずっと葵の顔を見てきた俺がそれを見間違えるはずがない......それに涼って名前で確信したんだ......!」
涼はオッサンの震わせた声の中から滲み出る力強い言葉に反応し、顔を近づける━━。
「おとーさん.......本当におとーさんなの......?」
「ああ......今まで散々辛い思いしてきたよな......何も出来ず申し訳ない......!」
「ううん......! 涼とおかあさんのことずっと探してくれてたんでしょ......?」
「探してたよ......20年ずっとな......。でも俺の力不足で......本当にすまない......!」
「謝らないで......こうして会えたんだもん......おかあさんもきっと喜んでる━━」
俺は薄々勘付いていたので2人の再会にはあまり驚かなかったが、オッサンの隣にいた美人は目ん玉が飛び出しそうなくらい目を見開いて固まっていた━━。
「え......あ......む......娘さん......!?」
「ああ......でもまさかこうして
「そそそうなんですね......」
「それで涼......葵は......お母さんはもしかして......」
「......コイツらに......殺されちゃった......」
涼の口からそれを聞いた鷲野の目はみるみる悪鬼のようになり、まだ灰になってない倒れた男達を睨みつけて立ち上がる━━。
「覚悟はしてたが自分の子供に改めて聞かされると堪えるものがあるな......涼もコイツらに酷いことされたのか......?」
「......うん」
「そうか━━」
鷲野は倒れている1人の男に近寄り、そいつの銃を奪って頭に突きつける━━。
「涼と葵の仇はこの俺が取ってやる......死ね━━」
カチャッ......。
「鷲野さん待って下さい!」
パァンッ━━!
「まぁ落ち着いて下さいよ刑事さん......自分の子供にちゃちな殺しを見せるんですか?」
「......イケメン......何しやがるっ......」
俺はオッサンの銃を弾いて弾道を逸らし、弾丸は空へと放たれた━━。
「そこを退け......コイツらは俺の愛する女を攫って殺したゴミクズ野郎だ」
「分かってますよ......でも貴方には僕と違ってこの事件全てが終わったら涼とそこの美人と送る生活が待ってる。今愛する人達を抱きしめるための手を......警察官としての誇りをまだ持っているその綺麗な手をこんな所で穢すのは勿体無い━━」
「分かっちゃいるさ......だがな......!」
「らしくないですって刑事さん。そもそも貴方の本当の敵はこんな三下じゃなくてホテルの中にいる本物の悪の筈だ......もし本当に仇を討つなら先ずそいつらの頭を吹っ飛ばすべきです。でも......良いんですか? 人を殺した業を背負う辛さはさっき僕の殺しを必死に止めようとした貴方が一番知っている筈だ━━」
「ふっ......ははっ......」
俺が薄っぺらいセリフを吐くとオッサンは俺に対する何かを悟ったのか少し笑った━━。
「わかったぞ......。涼や東海林ちゃんをチラつかせて俺が手を汚す事を阻止して美談っぽくまとめようとしているが━━、
お前の本心は唯々自分の邪魔をしないで欲しいだけなんだろ......?」
「......バレちゃいました? 流石それでこそ勘の鋭いいつもの鷲野刑事だ」
「ったく我儘な理由で説得してきやがって......お前と居るとペースが乱されて調子が狂うよ」
「ははっ......まあでも安心してください、普通の人間じゃ到底不可能なやり方で1人残らず地獄へ叩き落として嘘松の登場人物より拍手喝采させますから。手を汚すのは僕1人で十分だ━━」
「確かにお前の力は人智を超えて凄まじいよ......。だがそんな事......」
「さっき言ったでしょ? お二人は僕と出会ってから散々壮絶な殺害現場を
「やっぱりお前.......」
「とりあえずホテルへ行く前に三下のコイツらは僕が全員草木灰にしときます。コイツらに費やす文字数が勿体無いからすぐ終わらせますね......《
ボワッ......!
「キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ━━!」
気絶してる男達は一人残らず紫色の炎が全身を包み、この世の者の声とは思えないくらい苦しい悲鳴を上げながら灰と化した━━。
「うん、いい肥料になりそうだ。人が死んだ土で木が育つとデカくなるって昔から言いますもんね」
「お前......人殺した後にそれ言うのマジでイカれてるぞ......」
「この世の中にイカれてない人間なんて居ませんよ。男も女も隠してるだけで皆それぞれ特殊な性癖持ってるもんです」
「鷲野さん......私にはやっぱりまだ理解が追いつきません......」
「大丈夫だ俺もだよ、なんだ特殊な性癖って......」
「そっちじゃなくて......いやそっちもだけどやっぱり色々おかしいです」
「何がだ......?」
「なら伺いますけど......鷲野さんっていつ結婚されたんですか?」
「そうか......東海林ちゃんには言ってなかったな。俺の結婚相手だった水木葵は20年前、俺と籍を入れる
「そうでしたか......でもおかしいですよね? もし入籍する前日に誘拐されたとしたら何故この子が自分の子供だって分かったんですか......?」
「それは......お恥ずかしい話葵と入籍する前に妊娠が分かったんだよ......」
オッサンの発言に東海林さんの顔がめちゃめちゃ強張る━━。
「なっ.......ななななるほど......でも名前も知ってたように感じましたけどそれは?」
東海林さんは顔を更に引き攣らせながら鷲野獅郎という名刑事に質問攻めをしていく。
その状況は側から見ると上司と部下の立場が逆転しているように見えた━━。
「それもなんだが......妊娠が分かる前にもし子供ができたらどんな名前にしようって2人で話しててさ、その中でも最有力だったのが女の子でも男の子でも不自然じゃない"涼"って名前だったんだ。クールで冷静、そして凛とした子に育って欲しいという意味も込めててな」
「......いやいやコイツ全然冷静じゃねーじゃん圧倒的名前負けしてるじゃん」
「おいイケメン......今お前俺の娘に文句言ったか?」
「いえっ、何も......東海林さん続けて下さい」
「確かに良い名前ですね私も鷲野さんの子供欲しいです。でもやっぱりおかしい.......20年前に妊娠が発覚したならこの小ささっておかしくないですか━━?」
やべぇっ......。
何気にこの美人も訳分かんない欲望丸出しのセリフ1つサンドしてたがそれよりもやべぇぞこの状況......!
ロリ化した娘の事をなんて説明する!? どう転んでも俺の性癖が疑われる未来しか見えねぇ......。
「確かにおかしい......。20年前に妊娠が発覚してその後産まれたなら今は19歳くらいだ......これは一体どういう事なんだ?」
「さぁ〜て、さっさとホテルに向かわないとなぁ〜」
俺はその場から早歩きでホテルへと向かおうとする━━。
「おいイケメン......お前何か知ってるだろ?」
「え、いや......その......まあその話は後でしますから急ぎましょう!」
「ああ。後で
「僕......おウチ帰ろうかなぁ......」
「それより東海林ちゃん、もう傷は大丈夫なのか?」
「鷲野さん......私ずーっと我慢してましたけど、さっき私に叫んだ呼び方じゃないと今後返事しませんからね?」
「えっ? なんで!? 俺さっきどんな呼び方した?」
「ふんっ......」
オッサンの態度に東海林さんは頬を膨らませてプイッとそっぽを向いた。
「うーわもう痴話喧嘩してるよ......。これだから大人は嫌だねぇ、場所も選ばず直ぐ盛っちゃって」
「馬鹿野郎......誰が子供の前でイチャつくかよ。それにおじさんになると性欲ってのは嫌でも落ちてくもんなんだ、まぁたまに『俺の子供産めや』とかすげー事言う親父もいるけどな」
「なるほど......人それぞれってわけですか。その人タクシー代3000円しか渡さなさそう」
「ていうかそんな事言ってるけどおにーちゃんだって色々凄いじゃん♡ 涼知ってるんだからね? 毎晩レイおねーちゃんに色んなことされそうになるのを耐え抜いてティッ━━」
「口を慎めクソガキ。耳に銃弾詰めるぞ」
「ああすまんっ! つい口が滑って!」
「お前もうワザと人格入れ替わってるだろ......!」
「おいイケメン......毎晩ってそりゃどう言う意味だ?」
「あーもう! お前のせいで話がややこしくなっちまったよ! もうホテルに向かいますからね!」
俺はふと振り返りさっきの駐車場に停めてあった白色の古い車を見る。
その白い車はボンネットが黒くなっていて、形もセダンとはまた違った形のスポーツカーだった。
フロントをよく見るとライトはパカパカするヤツになっている━━。
この年季入った車前に学校で見たうるさい車だな......いやそれよりも遥か昔、俺はこの車を見ているかもしれない......。
どこかその車に懐かしさを感じながら俺はホテルへと急いで向かった━━。
* * *
「まだ生きてるのか......しぶとい男だ天使君━━」
「へへっ......わざと急所を外して俺を痛めつけてるつもりだろうが無駄だよ......俺はSMクラブの利用日数で皆勤賞貰ってたんだ、打たれ強さに関して舐めてもらっちゃ困る」
「減らず口が......だがそんなに撃たれた身体じゃ出血多量でどの道死ぬ、なら今その頭を撃ち抜いて楽にしてやる」
「ああ撃てよ......どうせ俺は撃たれなくても老い先短い命なんだ。だが━━」
ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ......!
「なんだっ!?」
「先に死ぬのは......お前らだ━━」
「すいません、ノックの仕方分からなくて扉壊れちゃいました。あれれ? 警視監
「へっ......生意気な......小僧が......遅刻だぞ......」
「ゴルフカートで来たから遅くなったんだよ。でも来ないよりはマシでしょ? 老い先短い人生が少しだけ長くなって良かったなヘビースモーカーさん、最後の一服するにはまだ早いよ━━」
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