第67話 不死身の達人


 \ピンポンパンポーン/



『教頭よりお知らせします、只今校舎内に爆発物が発見されました! 生徒は至急教師の指示に従って学校外・・・に避難して下さい!』



 焦り声で流れる避難の放送をきっかけに上の階からは下に響くほどの足音と悲鳴が聞こえ、みんな一斉に校内から避難しようとしていた。



「なるほどこんな手を使うとは......青い血液を知ってる僕と氷川以外の学校関係者を外に出す作戦か。余程アレが外部に漏れるのが嫌なのと氷川を全く信用していないんだね」



 ここで氷川だけを明言し、司から目を背けさせないと今俺が不自然に動けば確実に司はコイツらに狙われる━━。



「まあね......彼って少しダメな所があるでしょ? 彼のお父さんには悪いけど私達は彼ら2人のことを信用してないの、だから色んな手を考えていたんだよねぇ......。それに彼の身体が世間にバレるとマズイし、明星クンはこれだと外に助けも呼べないからこの手なら一石二鳥でしょ?」


「その見た目で人の事よく見てるんだね、ギャップに少し見直したよ。それで......その世間にバレるとマズイモノを見た僕はこの世から消されるのかな?」


「小僧......これから死ぬかも知れないのに随分余裕じゃねぇか?」


「死というのは誰にとっても平等、平等じゃないのは死に方・・・だけなんだ。でも今の僕には死に方なんてどうでも良いんだよ━━」


「ほう......だがそんな戯言も俺達本職・・の前じゃ通用しねぇぞ」



 俺の態度がやはり気に食わないのかモブおじは俺に食ってかかるが━━、



「貴方は少し黙ってて......さて話を戻しましょうか明星クン。君は何故だか知らないけど色んなところから処分の依頼が来てるの、それはどうして? ただのイケメン高校生であるはずの君が何故こんなにも狙われてるのか......君の口から教えてくれないかな?」


「ああ......それは多分僕がここらへんのポケ○ンカード買い占めてバンバン転売してた犯人だからじゃないかな? 最近じゃビック○メラの店員にすら目をつけられてるし参ったよ」


「......そんなふざけた理由は聞いてないの。あんまり調子に乗ると明星クンだけじゃなくて君が大切にしてる亜門くんや龍崎さん、多田井さんにも被害が及ぶよ......?」

 

「へぇ......やれるものならやってみなよ━━」


「っ......」



俺の弱点を分かりきったように田所は言い放ったが俺の言葉と表情に何かを察したのか少し顔をこわばらせた━━。



「どうした? 麦わら帽子を預けた赤髪の海賊みたいに"やべェ未来"でも見えたか?」


「......まぁ良いわ、それより今夜貴方に是非見てもらいたいショーがあるの。タクシー代はあげるから夏名山なつなやまの山頂にあるレイクサイドホテル跡地に来て。その時に狙われてる理由を教えてくれれば良いから」


「ショーだって? 劇団指揮ミュージカルでも見せてくれるのか?」


「ふふっ......もっと面白いショーだよ? 君もよーく知ってる人がそこに来るからね。それまでの間私と付き合うかを考える猶予をあげる━━」


「そりゃどうも。まあもう答えは決まってるけどな」


「ふーん......ならそこの人達が明星クンのその凝り固まった考えを治す事になるね、私はもう帰るから後はよろしく。そうそう......アンタ達に忠告しとくけど顔はダメだよ? 私彼の顔大好きなんだから━━」


「分かりましたお嬢......」


「じゃあまた後でね明星クン━━」



 田所は勝ち誇ったような表情でベッドから立ち上がり保健室のドアへ向かう。

 

 そしてこの話の間で先程までドタバタと聞こえていた足音や人の声は、いつの間にか全く聞こえなくなっていた。


 どうやらこの校内誰もいなくなったようだ......とりあえず外部からこの校舎を完全シャットアウトする見えないバリアでも張っておくか━━。



「さてイケメン......お前は死なない程度に痛めつけてやるよ。俺達はその境界線をよーく知ってるからな、この部屋を出る頃にはどんな言う事も聞くようになってるさ」


「へぇ......ならアンタはヤクザより女王様の方が向いてるよ。今から股間のロウソクをモロッコで外してきた方が良いんじゃない?」


「......なんだと。お前.....半殺しじゃ済まさねーぞ?」


「そんなに怒るなよ、もしかして看護師さんに見せられないほど小さくまとまってんのか? 心配すんなって、診察時は医者1人で看護師さんは別室に捌けてるから堂々と医者に見せつければ良いさ」


「お前ガキだからって俺達が本当に何もしないと思ってるのか......? その生意気な態度ごと叩きのめしてやる。やれっ! お前ら!」


「いやいや、お前がやらないんかーい!」



 モブおじの指示に従い男達はサバイバルナイフを取り出して俺に向けて構える。



「はははっ、何を出すかと思えば......そういうのはリンゴの皮を剥く時以外は仕舞っておくんだね。それにしても素手の高校生相手にナイフとは情けない......虎相手でも素手で戦う龍○如くの主人公を見習えよ本職さん」


「けっ、あんな化け物現実にはいやしねぇんだよ。その口が聞けなくなる前に何か言いたいことはあるなら聞いてやる」


「じゃあ一つだけ......もう本当にこの校舎には僕達と田所飛美以外居ないんだね?」


「なんだそんな事かよ......ボコボコにされてる姿を同級生に見られたくないのか? 安心しろ、ここにはもう俺達以外誰も居やしない。さあやれっ!」


「......なら安心だ」


「はぁぁぁっ!」



 1人の男は俺に向かって全力でナイフを振りかざす━━。



「出たよ......こういうバトルにありがちな2軍モブから仕掛けるお決まりのパターン」



 パシッ......。



「何っ......! 指で受け止め.......動かねぇ......!」


「なぁアンタ......人にナイフを渡すときは柄の方を向けるってママに教わらなかったのか? さすがは反社だ......育ちが悪いねぇ」



 俺は受け止めている人差し指と親指に力を入れる......。



 パキィンッ━━!



「なっ.....! そんなバカな......!」


「こんなところで君達モブに手間取ってる暇は無いんだ......手短に終わらせる━━」



 俺は刃をへし折った指とは反対の指をフィンガースナップする━━。


 パチンッ......♪

 


「なんだ? 指鳴らしてこれからアカペラでも演奏すぶぉびぁっ......!」



 ブシャァッ......!



「っ......!」



 ナイフを折られた1人の男はその場で木っ端微塵に破裂し、血飛沫とグシャグシャになった肉片が保健室一面に飛び散った━━。



「なんだ......何が起こった......!?」



 パチンッ......♪



「ぶぉえっ......!」



 グシャッ......!



「あと2人......」



 パチンッ......♪



「来るな.....! やめぶぉぇっ......」



 グチャッ......!



 俺が指を鳴らすタイミングに沿って男達はまるでダンプにでも轢かれたような騒音を奏でながら次々と破裂し、人の形を失っていく━━。



「あと1人......」



 部下の男達が突然粉砕破裂するという不自然な死に方を最後まで見届けていた田所の事を"お嬢"と呼ぶモブおじは、俺が近づくのを後退りしながら必死に虚勢を張っていた。



「おい......一体どうなってんだ......! どんなトリックを使った!」


「そんなにビビるなよ本職・・の方なんだろ? それなら人が死にゆく姿は幾度となく観てきたはずだ。今死んだ彼らはまだ楽な方だよ......痛みを感じる暇もなく一瞬でスパムにされたんだからね。さて最後はアンタの番だ━━」


「ふざけんなよお前ぇ......こっちはこの道で何十年も食ってきたんだ。お前みたいなぬるま湯に浸かってるガキ1人の脅しにビビるわけねーだろうが! おいお前ら! 入ってこい!」



 モブおじは保健室の外に待機させていたであろう残りの男達に対し大声で叫ぶが━━、



「......おい! 何やってんだお前ら早く入ってこい!」



 返答がない事にイラついたモブおじは、俺を正面に見て警戒しながら保健室の扉へ後退りして扉を開く。



「あー、外は見ない方が良いよおじさん」


「うるせぇ! おい! お前ら何モタモタして......うっ......!」



 モブおじは保健室の外の光景に思わず言葉を飲み込む━━。

 


「だから言ったじゃん......見ない方が良いって」



 そこには外で待機していた部下だったであろう全員の肉片が廊下に飛び散っていた。

 そしてその血まみれの廊下で震えながら佇む田所飛美の姿があった━━。



「うっ......うぅ......っ......」


「お......お嬢!」


「ひっ......わた......わた......私......」



 血まみれでブルブルと震える田所にモブおじは俺への警戒心を捨ててダッシュで駆け寄る━━。



「お嬢! 大丈夫ですか!? 怪我は!?」


「わた......人が.......オェェェェッ.......!」



 田所はショックを受けていたのか涙目になりながらその場にゲロを吐く。

 俺は保健室から廊下に出て汚い2人に近づいた━━。



「汚いなぁ......ゲロを廊下に吐くなよ。用務員さんが大変だろ?」


「おえっ.......うおぇぇぇっ......!」


「ははは......まるで新歓コンパの新入生みたいな吐き具合だな。しかしあんなにイキって僕を脅してた癖に人がネギトロになるのを見たのは初めてなのか? 笑えるなぁ」


「お前......一体コイツらに何をした!」


「何って、指でリズム取って太鼓の殺人しただけだドン」


「ふざけんな! 俺の可愛い部下とお嬢をこんな目に合わせやがって......どんな手を使ったかは知らないがお前は責任を持って俺の手で必ず殺す......!」



 男は覚悟を決めたのか先程の虚勢とは違う覇気が籠った顔をして、懐から銃を取り出し俺に構えた━━。



「良いねぇ......やっぱおじさんの覚悟を決めた顔ってのは渋いよな」


「イキってんなよクソガキ......」



 カチャッ......。



「待って! 彼はまだ殺しちゃ━━!」









 パンパンッ━━! 







 ドサッ......。



 モブおじの弾丸は俺の心臓を正確に撃ち抜き、俺はその場に力無く倒れた━━。



「約束守れずすみませんお嬢......ですがヤツは危険です。得体の知れないトリックを使う人間をこのまま生かしておくわけには......」


「......確かにそれもそうだね、とりあえずこの件はお父さんに報告する。氷川より明星亜依羅の遺体を調べないと、こんな人間が何人も居られたらたまったもんじゃない━━」



「はい......我々も意味が分からないままだいぶ精鋭を減らされた。夜のショーまでに人員をなんとかしないと」


「そうね......まぁお父さんならあの3人には抜かりないと思うけどね。とりあえずここを離れましょう━━」















「.......もう一回遊べるドン♪」

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