第66話 保健室の罠
俺と司が保健室へ向かう途中廊下から男の叫び声が聞こえ、俺と司が振り返る━━。
「ど......どうなってんだよコレ......! そんなはずは......俺の......俺の手がっ......!」
俺達の目に映ったのは右腕ごとスッパリ切り落ちておびただしい量の青い体液が漏れ出ている氷川の姿だった。
ヤツはそれを隠すためなのか急いで廊下の脇にあるトイレへと向かっていった━━。
「オイなんだあれ......それにあの血の色......氷川のやつ一体どうなってんだ......?」
「わ......わかんないよ僕に言われても.......。でもとりあえず救急車呼んだ方がいいんじゃないのか?」
「だがその前にアイツの血を止めないと最悪死んじまう......! 悪いアイラ......お前1人で保健室行けるか?」
「大丈夫、司はトイレにいるピッ○ロ大魔王の介護をしてやりなよ。どうせ困ってる奴はどんな人間でも放っておけないんだろ......?」
「すまん......ムカつく奴だが俺にもアイツを殴った責任あるし......。後でそっちいくから先に行っててくれ!」
司は氷川の所へ向かい俺は普通に歩いて保健室へと向かった。
悪いな司......氷川の手をそんな風にしたのは俺なんだ━━。
* * *
「ふぅ......予想はしてたがまさか朝一絡まれるとはな。たまには穏やかな学校生活を送りたいもんだよ......」
俺は保健室に到着して空いてるベッドにもたれかかる━━。
しかしアイツも"青い血液"になったか......。
俺はヤツの変わり具合と人とは思えない力の正体を確かめるため、身体を投げられた瞬間痛覚を感じないレベルの速さで奴の腕に金属魔法を生成し内側
そして俺に疑いが向けられないようにするため時間差で手が外れるよう外の皮一枚だけを繋いでいた━━。
さてどうする氷川......お前は俺をビビらせる目的と周りに強さを誇示するために力を使ったようだが墓穴を掘ったな。
涼にも施されていた
今のお前に出来ることはトイレに隠れ続けて外れた手の再生を待つか、お前をそんな身体にしたお仲間に電話するかのどちらかだろう......だがそうは問屋が卸さない。
「もしもし.......救急です。今学校で同級生が手から血を出して倒れているので手配お願いします。学校の名前は━━」
コレで良し......もしコレで救急車が来るなら二つの意味で大騒ぎになるし、もし何者かの妨害によって仮に救急車が来ない場合でも氷川に関わってる別の人間がこの学校に必ず来るはず━━。
「ねぇねぇ......なにを電話してたの?」
俺がベッドに座っていると隣のカーテンが開いて
「.......君は?」
「キミ......明星亜依羅クンよね? 近くで初めて見たけどマジ超イケメンじゃん......私の名前は田所飛美、よろしく━━」
どうやら俺は保健室でもおちおち寛ぐ事も出来ないようだな......さすが星座占い12位だっただけあるよ今日は━━。
* * *
コイツは俺が真央として生きていた頃告白されて断ったが、後に大葉達と一緒にいじめてきた挙句俺を痴漢男に仕立てた張本人だ━━。
コイツは見た目ギャルっぽいがルックス自体はかなり良くて化粧映えもするので男にモテる。
しかしその生い立ちと容姿における自信からかプライドが高く俺の嫌いなタイプの人間だった━━。
今思い返せば俺の女難の相はこんな奴に好かれていたあの頃から出ていたのか......?
「ああ......初めまして僕の名前は明星アイラ、チャームポイントはピンと勃った乳首。じゃあまた」
「ちょっと待って」
俺はカーテンを閉めようとするが、田所に腕を押さえられてしまい閉める事が出来なかった━━。
「何乳首って? ウケるんですけどww。明星クンて見た目はふざけた事言わなそうなクール系なのに案外言うタイプなんだね、意外だわー」
「ああ、今年ゆーちんと男女コンビでM-1目指そうと思ってるから今の内にトーク力鍛えてるんだよ。それで......突然話し掛けてきて僕に何か用でもあるの?」
「そんな冷たい言い方しなくてもいーじゃん、私はたまたまここに来た明星君と話したいだけなの。ねぇねぇ......その頭の怪我を私が看病してあげよっか? 先生もいないし良いでしょ?」
嘘つきが......そんな都合よくお前が現れる訳ねーだろ。
大方氷川と打ち合わせでもして俺を保健室送りにしたらワナを掛けろとか言われたんだろう。
そうじゃなくてもコイツは侠道会から俺の素性を調べるために頼まれているのかもしれない可能性もある。
まあどちらにせよココにこのタイミングで居るのは不自然だ━━。
「ふっ......そういうのはもっと簡単に落とせそうな男に対してだけするんだね。オタクに優しいギャルみたいな見た目してるんだからさ」
「何それ言い方キツーい、別に私オタクに優しくないし。ねぇねぇいろいろ話そうよ? 先ず明星クンてどんな人がタイプなの?」
「あっ......! 『推しが上司になりま○て』が更新されてる。ポイント使って読まねーと」
「ちょっと無視しないでくれる? 私の話より漫画を優先するなんてあり得ないんですけど?」
田所はイラついたのか髪を少しクルクルしながら俺が座ってるベッドにもたれかかり、至近距離で俺を睨みつける━━。
「そんなにイラつくなよPMSか? 婦人科行ってプロゲスチンでも処方して貰った方がいいよ」
「っ......! 女の子にそういう煽りをしちゃいけない事知らないの? あれれ? もしかしてその見た目で案外女慣れしてない? もしそうなら超ウケるんですけどwwww」
「女慣れね......自分のことを人間の女性と思ってるなら凄いや、僕には二足歩行のヤギが喋ってるのかと思ったよ」
「何.....? 私にそんな態度取って良いと思ってるの?」
やべっ......顔見てたらムカついてついつい癖が出ちゃった。
ここは落ち着いてコイツがどんな狙いで俺に接近しているのかちゃんと把握しておかないとな━━。
「ごめんごめん朝の事でイライラしてたからつい口が悪くなっちゃった。よく見ると怒った顔も可愛いね......? そのおかげで少し冷静になれたかも、ありがとう」
「......そう? さっきは私も女慣れしてないとか言って悪かったね」
「ああ良いよ別にそんな事━━」
しかし俺も最初の頃とは想像つかないくらい口から出まかせがポンポン出るようになったもんだな......。
コイツもコイツで男にこんなしょーもないセリフで機嫌直す人間で良かったよ。
『アイラ? またメス豚を口説いてるノ......?』
「っ......!」
まさか......今の話をレイに全部聞かれてたのか!?
『違う違う! 誰がこんなモテない中年が若い子に言いそうな痛いセリフで口説くかっ! コイツの機嫌とって思考を探るんだよ』
『そウ......なら良いけど怪しい事したら明日から手錠と首輪生活が待ってるからネ......』
『おいおいそんなことされたらジャンルが復讐モノじゃなくて調教モノになっちまうって。それより今次のターゲットに不自然な出会い方をしたんだ......もしかすると今後レイに頼み事をするかもしれない』
『オーケー。なんでも言っテ』
『ありがとう、さすが俺の良き相棒だ。それと涼にも準備体操をしておくように伝えて欲しい』
『わかっタ。無事に帰って来てネ』
『ああ気をつけるよ。予約したクリスマスケーキ買って帰るから楽しみに待ってて』
『どこの星の季節と間違えてるノ......今5月だヨ? 単身赴任でもするノ?』
『そういえばそうだったね。また連絡する』
まさかこんな会話すらレイに聞かれてるとは......。
今ならGPSで奥さんに監視されてる世の旦那さんの肩身の狭さが分かるよ......トホホ......。
「......明星クン、ねぇ明星クン聞いてる?」
「ああ......何? オムライスにかけるならやっぱデミグラスソースが━━」
「そんな話してないから。明星クンて今付き合ってる人居るの? って聞いたの」
「そんな事か......生憎
「ふふっ......やっぱり根に持ってるじゃん。でも彼女居ないんだね、それならさぁ......
私と付き合わない?」
「......」
「私と付き合うと良い事しかないよ? 私みたいなカースト最上位と付き合ってると色んな人が寄ってくるし、顔もイケてるから明星クンの隣で街歩いてても恥ずかしくないし。それにスタイルも良いしおっぱいもあるし......悪くないと思うんだけどなぁ」
「無理っ」
「......は? 今なんて?」
田所は驚きの表情から悪鬼のような顔に変化して断った俺に対して憎悪を向ける━━。
「いやいやこの距離で聞こえないとか耳にウンコでも詰まってんの? おじさんの銀行口座ごと頂き女子してそうな女は無理だよ。僕なんかよりおじさんの棒金でも握ってくるんだな━━」
「ふーん......言いたい事言ってくれるねぇ。でも君に"断る"選択肢なんてないんだよ? さぁみんな.....入って良いよ━━」
ガラガラッ......。
「この人がお嬢のお相手ですか? いかにも顔だけが取り柄で思ったよりヒョロそうだ......」
田所が保健室のドアに目を向けるとそこにはスーツを着た完全にカタギでは無いおじさん達がゾロゾロと入り、俺に対して今にも殺すような目で睨みつけていた。
しかしコイツらこんな大人数でどうやって校内に入ったんだ?
まあ良いや......この学校は校長を筆頭に碌な大人居ないし警備もザルなのかもな━━。
「ね? 私のお願いを断ったらどうなるか......頭の良い明星クンなら想像つくでしょ? この保健室の外にも怖〜い人達が居るからね?」
「ふっ......ヤケに
「おい小僧......お嬢に向かってなんだその口の聞き方は。家族ごとドラム缶に入れて沈めるぞ?」
俺のセリフがよっぽど頭にきたのか強面のおじさん其の一は俺に殺意を向けながら脅しのセリフを吐く━━。
「おーこわっ......モブおじの脅しで小便ちびっちゃったよ。替えのオムツ履きたいから一旦ドラッグストア行ってきて良い?」
「明星クン、ダメに決まってるでしょ? 今の君に出来る事は私と付き合うか......此処で処理されるかのどちらかなんだから」
「なるほど......こんな事ならアフ○ックにでも入っておけばよかった。しかしこんな事していいの? 学校で大々的に事件が起きれば仮に無能な警察でも一応は来ると思うけど。騒ぎになるのはそっちも不本意でしょ?」
「ふふっ......私を心配してくれるの? でも残念、警察なんて一部を除いた上層部は私達と通じてるからココで何しようが簡単に揉み消せるんだよ? それに君が呼んだ救急車もココには来ないんだぁ」
なるほど、救急車を呼ぶ想定もしていたのか......コイツは見かけによらず中々頭が回る。
さすが日本最大の影響力を誇るヤクザの娘と言ったところか━━?
「そっか......でもお友達の氷川君は変な色の血を流して悲鳴上げてたけどそんな人を救急車も呼ばずに放っておいて大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、彼はそんな事じゃ死なない身体になったから。それより自分の心配した方がいいと思うよ? 君は彼の血を見たワケだし、ココには私の息のかかった人間以外もう居なくなるから」
「ふーん、一体それはどういう━━」
田所は俺の不思議そうな顔を見てクスリと笑いながら壁のスピーカーの方へ向いた━━。
* * *
作者より。
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