第65話 異変


「アイラの言う通り分かってくれるといいんだけど......」


「まあなんて切り出すかに掛かってるね。動画にもバッチリ映っちゃったから早めに言わないとまずいし━━」



 ブッブー......ブッブー......。



 俺がスマホの通知を見るとそれは社長からだった━━。



『お疲れ様、由美が突然押しかけたみたいでホントごめんね......今度お詫びするから事務所に来て欲しいな。それと動画に映ってたメイドさんの事についても話を聞きたくて......アイラ君週末空いてるかな?』



 やっぱり見てたか......。

 妹そっくりの人間が俺の隣で映ってたんだ、そりゃ気になるよな。



『お疲れ様です。僕もその事でお話がありますので週末に事務所へ伺います』



 俺はそう返信してスマホの画面を閉じた。



「週末、お姉さんのところに行って身体を元に戻そう━━」



*      *      *



 翌日━━。



「今日も双子座は12位か......」



 昨日3人殺した件はまだ遺体が発見されていないのか分からないが特にニュースになっておらず、俺は占いの結果に少し憂鬱になりながら学校へ向かった━━。


 いよいよ残るイジメの主犯格も氷川を抜かせばあと1人......。

 田所飛美たどころあすみの背後にいる飛美侠道会たかみきょうどうかいは俺を怪しんでいるのはまず間違いない。

 俺を処理しろって頼んだ連中が悉く行方不明か死んでるかの2択だからな━━。


 そろそろあすみでも使って美人局してきそうな予感がする......。



「おはよう」



 教室へ入ると先に来ていた司と龍崎さんはこっちを見て笑顔で俺の方に向かってきた。



「あ! おはよう! アイラくん!」


「ようアイラ! 相変わらず憎いほどイケメンだなお前は!」


「そりゃ毎朝顔面にボトックスブチ込む努力を惜しまないからね。おがけで今は引き攣った笑い方しか出来ないよヒヒヒッ」


「なんか分からないけどその笑い方を動画にしたら多分怒られるぞ......」


「ならゆーちんのチャンネルでライブ配信した時にこれ披露して炎上させてやろうかなぁ......」


「お前......昨日の配信相当恨んでるな」


「そりゃそうさ、この恨みはどこかのタイミングで必ず晴らしてやる。ワイプにいた2次元女も含めてな━━」


「昨日のアレはちょっと衝撃的だったもんね......。アイラくんの綺麗な裸がSNSで話題になってたし」


「マジか! まさかあの姿で公園の中を前転しながら『シ○ゴ〜!』って名前を叫んだのも見られてたか!?」


「懐かしいネタ出すなよ......そのアイドルグループ少し前に空中分解しただろ。もうみんな忘れてるよ」


「そうなの? それは知らなかった」


「2人とも話逸れてるから! ほらコレ見てアイラくん! 本当にネットニュースになってるよ!」



 龍崎さんが見せてきたスマホに映っていたのは、昨日の動画のサムネイルと俺がボコボコにされた後の顔がわざとらしく切り抜かれて記事になっていた。



「なになに......『人気iTuberのライブ配信ドッキリでまさかのイケメン裸体披露! 数々の暴言を吐くイケメンの裏で黙って耳を傾ける美人メイドは果たして本当にただのメイドなのか......? イケメンの私生活が話題に!』だと!? 勝手なこと書きやがってヤ○ーニュースめ! しかも画像に悪意ありすぎるだろ! コメントもめっちゃ荒れてるし!」



 そのニュースのコメント欄では俺のファンと月村きんせいファンが熱いバトルを繰り広げていた。



 》豚がブヒブヒ突っかかってきて草。Viの顔面が痙攣してるのは事実やん。

 

 》コイツの発言で自分が偉くなったようになるヤツは滑稽だな。コイツがお前ら気持ちを代弁してると思うなよ? お前らをただの養分としてしか見てないからな。


 》そりゃお前んとこの1次元低い女もそうだろ。圧倒的に1番言うセリフは『スパチャありがとう』やんけwwww


 》この男好きなヤツたぬ○なも好きそうwwww


 》Viが好きなヤツってマッチングアプリでサクラにもスパチャしてそうwwww


 》この男スカした顔してるしぶち殺したいんだが━━。


 》効いてて草、死ぬのはお前だよ弱○男性。


 》人間って痛いところ突かれると怒る傾向あるよな。



「......お前ViTuberファンを完全に敵に回したな」


「僕被害者側なのに......。まぁでも一つ言えるのは僕のファンだろうがそうじゃなかろうが、コメント荒らすヤツなんて大概は実際に会うと情けない人間ばかりで逆に驚くからな。そんなヤツらが吐いてる言葉ゲロなんて恐るるに足らないよ」


「お前実際に会った事あるのか? まあ仮にそうだとしても最近じゃ家まで突き止めて襲う事件もあるからなぁ......」


「その時は玄関で"パーティ券"でも配って丁寧にお出迎えしてやるよ」



 もしそいつら全員が本当に俺の家を突き止めて嫌がらせするようなら、この国の人口が少し減る事になるさ━━。



「ポジティブなヤツだなぁ、しかしアイラの家にあんな美人メイドさんがいるなんてめちゃくちゃ羨ましいぜ!」




「......司はあのメイドの本当の恐ろしさを知らないからそういうセリフが言えるんだ━━」




「え......? そんなに怖いのか......?」



 俺の俯いたリアクションに司は察したのかそれ以上口に出さず、龍崎さんも複雑な顔をしていた。



「氷川君や海原君に対してあんなに余裕で煽ってたアイラ君でも怖いものがあるのね......。でも━━」


「......どうしたの龍崎さん?」



 もしかしてアイツの正体が幽霊だと勘付かれたか......!?



「いや、その動画に映ってたメイドさん......アイラ君の事を言葉だけじゃなくて本当に好きに見えたんだよねぇ。本当にアイラ君の彼女じゃないの?」


「違うけど......なんで好きってわかるの?」


「それは......目を見ればスグわかるよ。あの人は完全にアイラ君に惚れてる、むしろ深すぎるくらい君を好きなんだと思う━━」



 すげぇ......。

 あんな一瞬の映像でそこまでわかるものなのか......?

 前から思ってたけど龍崎さんは同い年とは思えない達観した何かを感じる━━。



「それはどうかな? 向こうはそもそも仕事でウチに来てるしさ......」


「ふふっ......それって本当なの? 私の目は誤魔化せないよ。まぁなにはともあれアイラ君もその想いに応えてあげないとそのうち彼女に刺されるよ?」


「えっ......!」



 おいおい! そこまで人を見る目に自信があるなら1番身近にいる司の想いに気付いてやれよ!

 いや待て......そういえばこの人ガチレズさんだったんだっけ......。


 色々察した俺は司の肩をポンッと叩く━━。



「司......なんかどんまいっ」


「え!? 今の俺の何処にやらかした要素あったんだよアイラ!?」


「いや......僕は司に幸せになってほしいだけだよ」


「は!? 意味わかんねーよお前! それよりその目やめろ! 憂いの目で俺を見るな!」



 ガラガラッ━━。



「おはよぉ〜」



 俺達が喋っていると昨日家に不法侵入してきたゆーちん雇い主が眠そうな顔してやってきやがった。



「おはよう。随分と社長出勤だな雇い主さんよ」


「あ......おはようアイラ。昨日はごめん......あの後社長にめちゃめちゃ怒られたよ......」


「そりゃそうだわな! 大体ドッキリって言うのは大概が事前に打ち合わせしてあるんだぞ! お前ドッキ○グランプリ見てみろ! アレなんて不自然すぎるだろ!? でもそれが普通なんだよエンターテイメントってのは!」


「うぅっ......ガチでやるのが嘘じゃなくていいと思ったんだけどなぁ......。反省してます......」


「猛省しろ馬鹿野郎! そして着服でも裏金でも脱税でもして早く俺に金寄越せ! ギャラ寄越せぇっ!」



 俺の捲し立てにスイッチが入ったのかゆーちんの顔色が変わる━━。



「け......結局アイラは金ばっかりじゃん! ドッキリ仕掛けたのは悪かったけど、あの可愛いメイドさんが出てきた時の私の気持ちも少しは考えて欲しいよ! 私に内緒で本当はあの人と付き合ってるんでしょ!? 私だって━━」


「話をすり替えて逆ギレするんじゃねぇ! あのメイドとは付き合ってないしそもそもアイツはお前が━━!」


「......私が何よ?」



 危ねぇ......危うくあの時の廃墟ロケから拾ってきたお化けだって言うところだった━━。



「いや......なんでもない......。まあこれに懲りたらこんなドッキリ僕以外にするなよ、最悪殺されるぞ」


「分かってるわよ......ごめんなさい。次はうまくやるから」


「おっかない予告すんなよ! まあいいや......結果的に再生数エグかったし僕はあの動画で言いたいこと言えたし」


「......そう言えばその件できんせいちゃんが会いたいって言ってたよ」


「......え?」



 それってワイプに映ってたViTuberあいつか━━。



「あの動画の件で会いたいみたい。だから何処かで予定空けといて欲しいって」


「ねぇ......それ大丈夫? あんな暴言吐いた後に会いたいとか僕殺されたりしない?」


「殺すわけないでしょ? 色々誤解があるみたいだから会って話がしたいって言ってたよ」


「ちぇっ......分かったよ、但し実際3次元で対面した時に僕が複雑な顔をしても文句言うなって言っといてね。ドッキリをめちゃめちゃ楽しんでた勢なんだからそれくらい許せってさ」


「分かってるよ......ちなみにきんせいちゃんの実物は超可愛いから見たらびっくりするよ?」


「女が言う可愛いは全く信用出来ないことが分かってるから話半分で聞いとくわ。そもそも顔面なんて鼻が逆さに付いてるとか口がオデコにあるとかじゃなければどうでも良いし......」


「そんな福笑いみたいな顔面あるか! ていうかアイラって顔にこだわらないの? 普通男ならあるじゃん」


「無いね......笑顔で居てくれればそれで良いよ。どうせジジババになれば誰でも顔なんて崩れていくんだ、そんな変動するモノに拘るより大切なのはその人との相性や心だろう!?」


「ふーん......









 じゃあ今此処に今○美桜が居たらどうする?」


「告白する」


「......は?」


「結婚する」


「ふざけんな! なんでそんな即答なのよ! しかも交際すっ飛ばして結婚とかあり得ないから! ちゃんと理由を言いなさい!」


「そりゃお前......死ぬほど顔が可愛いからに決まってんだろ!」


「はぁぁぁっ!? アンタ最っ低! 何が大事なのは心よ! ルッキズムの権化じゃん!」


「うるせぇ! 性格ってのはなぁ、顔に出るんだよ! ゆーちんも綺麗事言ってないで世間をよく見てから物事を判断するんだなバーカ!」


「アンタは自分の発言に矛盾が無いかちゃんと判断してから喋りなさいよ! さっきと言ってること真逆よ!?」


「なんだと!? ゆーちんお前だって━━」



 ガラガラッ━━。



「よぉイケメン君、また女子をはべらかして教室でお喋りか? 相変わらず人気者だな君は。反吐が出るよ━━」



 教室に入ってきたのは"風邪"から回復し、以前と少し雰囲気が変わった氷川と俺を一瞬見て気まずそうに目を逸らした万季だった━━。



「氷川君がウチのクラスに来たっ!」


「この前煽られてたとはいえやっぱりイケメンだよねぇ」


「でも......なんか雰囲気変わってない?」


「まぁどうでも良いじゃん顔がいい事に変わりはないし。もちろんアイラ君の方が圧倒的だけどねぇ」



 教室に氷川が入ってきたことによりクラスの女子達は嬉しそうな顔をし、ヤツが前回俺に煽られて帰ったことを気にしていないようだった━━。


 本当のルッキズムってコイツらのことじゃね......?



「俺にもその話混ぜてくれよイケメン君」


「悪いゆーちんさっきの言葉訂正する。顔が良くても性格ゴミなヤツ居たわココに━━」


「......んだと? 君は前から思ってたけど態度が生意気なんだよな。少し本当の俺の力を分からせてやるよ━━」



 グイッ......!



 氷川は俺の胸ぐらを掴んで体を楽々と持ち上げる━━。



「え? アイラ君をそんな簡単に......」


「氷川くん凄い力.......」



 その光景を見てみんな氷川に対して驚いていた......ただ1人を除いて━━。




「勇樹やめて......! そんな事したら━━」


『やめろ━━』


「え......?」



 俺はレイに教えてもらったテレパシーを使って万季の口から漏れそうになったセリフを止めた。



『今ココが血の海になるって言いかけたろ? 初日から口滑らせるなよ。君は今からどんな事が起きてもそこで黙って見てろ......』



 万季は俺を見てコクコクと頷く。

 こんなにみんなが見てる所でコイツに対してやる事は一つだ━━。



「病み上がりでずいぶんパワーアップしたようだな、病院長の注射器をケツにぶちこまれて元気になったか? それとも咳止め薬でも過剰摂取してオーバードーズしてんのか?」


「ふん......その舐めた口聞けるのも今のウチだぞ? 俺はもう以前の・・・俺じゃないんだ」


「そうか......もしかしてペディキュアでも塗ったか? 確かにオシャレは足元からって言うけどその臭い靴下を履いてちゃ誰も気が付かないよ。悪いな」



 氷川は俺の言葉に反応して自分の腕に思いっきり力を入れる━━。



「ふざけやがって......その生意気な態度を教育してやる」



 ヒュンッ......!



「アイラ君!」



 ドスッ━━!



「き......キャァァッ!」



 俺は氷川に放り投げられた結果壁に叩きつけられその場に倒れると、俺の頭から出た血に教室内にクラスメイトの悲鳴が響き渡った━━。



「アイラっ! どうしよう頭から血が......ちょっとアンタ何やってんのよ!」



 ゆーちんは俺から流れる血を見て氷川を怒鳴りつける。

 しかしその血は壁に打ち付けられた瞬間に自分の爪でわざと頭を切り、いかにも壁に頭をぶつけて血が流れたように見せかけていた━━。



「アイラ大丈夫!?」


「......ぴえん」


「アイラっ! テメェ氷川ぁぁっ! 俺の親友に何しやがるっ!」



 バゴォッ━━!



「ぐっ......!」



 司は今まで見た事ない怒りの表情で氷川の腹にボディブローを放つと、その威力の強さに氷川は一瞬狼狽えた。



「つ......司ぁっ! お前やりやがったな......!」


「先に突っかかって手を出したお前が何を言うんだ! これだけで済んでありがたいと思えよ馬鹿野郎! 次アイラに手を出したら━━」


「司やめて」



 司を止めに入った龍崎さんも今まで見た事無いくらい恐ろしい顔をしていた。



「ねぇ氷川君、彼女の前でイキがるのは良いから自分の教室に帰ってくれない? 私貴方の顔を見てるだけで腹が立って仕方ないの......分かる?」


「ふっ......じゃあな明星アイラ、俺の恐ろしさを思い知ったか? 次はこんな軽いもんじゃ済まないからな━━」



 氷川は不気味な笑みを浮かべながら教室から出ていくとそれを見届けていた司達は一斉に俺の方へ向かってきた━━。



「大丈夫かアイラ! お前なんで受け身をとらなかったんだよ!?」


「ふっ......体力テストの結果見たろ......? 僕はこう見えて運動音痴なんだ......」



 それは真っ赤な嘘だ。

 身体にダメージは無いし氷川の一撃なんてマシュマロより軽かったが、今ココ・・でアイツにやられる俺を印象付ける事が後々重要な意味を持ってくる━━。



「何言ってんだよお前! すぐ保健室に連れてくからな!」


「ありがとう......まさかアイツに衝突試験・・・・されるとはな。にしてもあの力は明らかに不正だろ......どっかの自動車メーカーみたいに記者会見開いて説明してもらいたいよ」


「冗談は良いから無理するなって......アイラ立てるか?」


「ああ......悪いな。もういっそのこと保健室じゃなくてカーディーラーで治してもらおうかな━━」



 司は俺の肩を抱くと保健室へと向かうため教室のドアを開けた。




 さて......そろそろ始まるか━━。







「なんだ......これ......はぁ......はぁ......ク゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


*      *      *


 作者より。

 更新が遅れてすみません。

 そして作品をお読み頂きありがとうございます。

 応援♡の数が一万を超え、コメント数が400を突破致しました!

 ここに感謝と御礼を申し上げますm(_ _)m!!

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