第63話 主人公に休息なんて存在しない


 万季を送った俺は死体が散らばっている薄暗い工場でレイと2人で証拠を隠滅していた━━。



「墓ね......墓かぁ......」


「どうしたのアイラ」


「墓はその......また今度行こうかなぁぁぁっ......」


「ン? なんデ?」


「今行くと日が悪いからさ、ほら仏滅とかあるじゃん」


「アイラ......墓参りに仏滅とか関係ないよ。もしかして......

 






 お墓が怖いノ━━?」




 

「え!? は!? ま......まさかそんな訳......あるじゃん......」


「......フフフッ......可愛イ♡」


「ウルセェ! あぁ怖いよ怖いに決まってんだろ! レイだって塩だらけの部屋を想像してみ!? それかタイの塩釜が目の前にあったらどうする!? 確実に成仏するだろ!?」


「それは......美味しそうじゃなイ? ワタシ好きだけド?」


「はぁ!? お前塩苦手なくせになんで塩釜は食えるんだよ! そこは弱点持ちであれよそれ無くしたらお前......ただの作中最強じゃねーか! 俺の立場どうすんだよ!」


「フフッ......ワタシは最強〜♪ だからあの今日会った小娘だってワタシのアイラに向けた愛を少しでも邪魔するなら力を惜しみなく使って顔面をザクロにするからネ......」


「......ホントにやりそうで怖いよレイ━━」



 まぁ何はともあれ墓参りは今度明るい時にちゃんと行こう......。

 行ってレイがさっき言ってくれた事をこの目で確かめるんだ。


 そして万季の痕跡を消した俺達は転移魔法で自宅に帰った━━。


 ていうかみんなだって夜の墓地は怖いよね!? 蝋燭をおでこにつけたオッサンとか、頭陀袋被ったチェーンソーをブン回してるオッサンとか居そうだもんね!? ねぇ!?



*      *      *



 家に帰ると血まみれで現れた俺を涼が無駄に笑顔で出迎えてくれた━━。



「おかえり〜♡ おねーちゃんとおにーちゃんデートしてたの? でもどーせおにーちゃんクソザコだから手もつないでないんでしょ? ださぁ〜い♡」


「黙れ小僧! お前俺の格好が見えてないんか!? こんな血まみれでデートなんかするかボケ! ハロウィンじゃねぇんだよ! お前もこの血の一部にしてやろうか!?」


「はいはい2人とも喧嘩しないノ、ご飯抜きにするヨ?」


「チッ......オカンみたいな言い方しやがって......。ヤンデレのオカンなんて1番最悪の組み合わせだからな」


「でもアイラ、ワタシの事好きじゃン」


「......。さぁーてご飯食べて皿洗いしたらモンハンヨンブレイクでもやるかなぁ〜」



 ゆーちんに頼まれてたコラボ企画の練習をしないとヤバいな。

 実際にコラボした時に下手くそだったら視聴者にどんな罵詈雑言浴びせられるか堪ったもんじゃない......。


 俺がその事を少し考えていると背後から視線を感じた━━。



「ねぇアイラ......なんで今ワタシのセリフを無視したのかナ......?」


「ひっ......!」


「最近あの小娘がしゃしゃり出て来たからかナ......? 我慢してたけどやっぱりその綺麗な身体に言い聞かせないと駄目カ......ねぇ......? アイラ......?」



 そこには夕飯を作っているはずのレイ死神が白目と黒目が逆になり俺を睨みつけながら包丁斬○刀を握りしめていた━━。



「お......前その目......BLE○CHに出てくる白主人公かよ......。こ......ここのサイトは小説家にほろうじゃねぇぞ! 死神代行は空座町に帰ってくれ!」


「フフッ......。アイラには......一回ワタシの 《ケツが天昇》を喰らった方が良いかもネ━━」


「ちょっと何言ってるか分からないで━━」



 グサッ......。



「キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━! HELP! メスガキHELP! お前がいつも肩に乗ってるザラキ先輩呼んでコイツ止めてくれぇぇっ!」



 俺はマンションの下の階の事なんか忘れてドタバタと全力でリビングを逃げる。


 チクショウなんなんだよコレ! 1番の狂犬は俺じゃなくてアイツじゃねぇかっ!



「あははっ♡ 2人とも仲良しだねぇ〜♡」


「テメェ! ニタニタ笑ってんじゃねぇクソガキ! 俺を助け━━」



 ガシッ━━!



「捕まえタ......」


「やめ......お......落ち着こう......? な......?」


「今日は......ダメ......♡」


「ク゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


 

 この後俺が人生で1番ダメージを受ける攻撃を喰らったのは言うまでもない......。







「俺の身体......邪神で良かった......うぅっ......」



*      *      *



 レイの攻撃からなんとか逃げ切った俺は風呂に入って身体の汚れを落とし湯船に浸かっていた━━。



「はぁぁ......この場所だけが唯一寛げるよ......」



 リビングにいればレイに追いかけられて常に体を密着された状態で匂いを嗅いでくるし、涼も涼で俺を揶揄っては正気に戻って謝ってくる繰り返しで会話に落ち着きが無い。

 ベッドに入れば俺にレイが欲情してくるし、涼の寝相の悪さで顔面に青アザが作られ、ベッドでの居場所も無い俺にとっては風呂場が一番ゆったり出来る場所だった━━。



「さて......今日はなんの動画でも見るかな」


 俺はジッ○ロックに入れたスマホでiTubeを起動して適当にスクロールしていた━━。



「おっ......中華料理屋の定点カメラ料理映像が更新されてる、ありがてぇ......。あっ......またホストがやらかして代表と喧嘩してるよウケる」


 

 俺はさらに画面をスクロールしていく━━。



「また政治家の裏金か......頭悪いのは4000万貰って収支報告に未記載の疑惑持たれてるお前だよ爺さん。国民にインボイスで正しい納税額求めてるくせにお前らはちゃんと報告しないんかい」



 全く世も末だな......総理大臣の大神総司は俺の復讐対象者じゃなかったとしてもいつか国民に頭ブチ抜かれそうだよ━━。

 

 俺はスクロールを終えると更新バッジがついたチャンネルを閲覧する。

 その中には以前登録したゆーちんのチャンネルの動画が更新されていた━━。



「毎日更新とかほんと偉いよなゆーちんは。よくそんなにネタが思いつくよ」



 彼女のチャンネルに入ると登録者数は200万を優に超えて300万人にあと少しで届きそうになっており、人気の動画見ると俺も出演していた最初のライブ配信動画がとんでもない再生回数でトップになっていた。



「俺との動画が一番見られてるのか......あんま気にした事なかったけど俺の顔めっちゃコレで知られてるじゃん! やべぇ......遂に俺にもモテ期来るか!? セ○レ127人作れるのか!?」



 そんな下らない事を考えながらゆーちんのチャンネルアイコンを見ると、たった今赤く囲われて『ライブ』の文字が映し出された。



「今日はこれから1人でライブ配信してるのか......。ちょっと見てみるか」



『はーいみんなー! あいらぶゆーちんだよー! 今日はなんとコラボドッキリです! それではスタジオに居る 《月村きんせい》さん聞こえますか!?』


『はーい聞こえるよー! 相変わらず声デカいねぇwwww。そしてみんなこんばんは! Vドル惑星の箱入り娘、月村きんせいだよ〜。それでゆーちんは今どこにいるのー?』



 スマホの画面に映し出されたのは馬鹿みたいにデカいマイクを持って緑のジャケットを着ているゆーちんと、右下のワイプには3Dアニメのキャラが何やらベチャベチャ喋っていてる映像だった。

 まぁそこまではよくあるコラボなんかなと思っていたが、背景が何処からどう見ても俺に見覚えのある光景で思わず固まった━━。



「おい......嘘だろ......?」


『それではきんせいちゃん.......私今からドッキリ仕掛けます!』


『いけいけぇ〜!』



 \\ピンポーン//



 スマホのスピーカーから聞こえたインターホンの音と風呂場の外から聞こえたインターホンの音はまるでコブ○ロのハモリのように豊かな音色を奏でていた━━。



「待ってくれよ......これ俺史上最大のピンチじゃねぇか......!」

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