第61話 碌でも無い国


「さて大葉会長、アンタには俺のイジメを揉み消した勲章モノの功績があるからな。校長と同じ雰囲気で楽しませてもらうよ━━」



 俺が大葉父の目を見るととても大の大人とは思えないほど体が震え顔は完全に怯え切っていた。



「な......なぁ......息子もあんな姿で失ってこの通り手も君にフォークで神経まで刺されてもう使い物にならない......。もう......終わりにしてくれないか......?」


「え? 何言ってんの? アンタの息子が俺に何したか詳細を知らないからそういう事が言えるんだよ。今からそのPVを見せてやる━━」



 俺はスマホを取り出して俺を虐めていた映像を大葉父に大音量で見せる。

 その映像に大葉は青ざめ目を逸らし、寝ているはずの万季はその音声にピクリと身体を反応させていた━━。



「っ......!」



 ガシッ━━!



「目を逸らすなよ、アンタが立派に育て上げた息子の貴重なドキュメント映像だぞ」



 俺は画面から目を逸らした大葉父の顔を無理やり掴んで映像に注目させる。



「こんな内容とは......。し......しかし......息子がこんな事をするなんて虐められた君に原因があるとしか思えない。そもそもこれはイジメじゃなくただの遊びの延長線じゃないのか......? そもそもさっきの話を聞く限り君はこの件で死んだワケじゃな━━」



 グサッ......! ブチィッ......!



「ク゛オ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 大葉の目にフォークを刺した俺はそのまま視神経と眼球を顔から引きちぎると悲鳴を上げながら血の涙を流す。

 ちぎった眼球を見ると日頃の不摂生なのか少し黄疸が出ていた。



「......アンタもう少し休肝日を設けた方がもう少し長生き出来たかもね。肝臓が疲れ切ってるよ━━」


「ぐぁぁ......目が......目がぁ......うっ......はぁ......はぁ......」


「しかしまぁアレが遊び・・とは......アンタが肩書きだけのアホで嬉しいよム○カ大佐。でもそう思うなら何故イジメの事実を日○アメフト部の大麻みたいに揉み消したんだ? そんなに息子の行いに自信があるならアンタらお得意の演説でこの動画と共に今言った大層なセリフを武器に世間からの賛同を得られるかちゃんと確認すれば良かったじゃないか?」


「っ......それは......」


「なぁ......言葉に詰まって賛同を得られない証拠を自ら露呈するなよ。ホントどっかの都知事みたいに実現出来ないマニフェストはあまり口にするもんじゃない......特にアンタら政治家・・・はさ」


「......っ......人殺しのお前に何が分かる......」


「俺を殺そうとして失敗したヤツにだけは人殺しなんて言われたくないね。というかそもそもアレは人間だったのか? 俺にはそこら辺のゴミに見えたよ━━」


「何だと......!」


「アンタだってテーブルの上でバクテリアが死んでいても何とも思わないだろ? 俺にとってはアンタの息子なんてそれ・・と同じさ」


「っ......!」


「あとアンタさっきあの動画を見て遊びの延長線って言ったよな? なら言わせてもらうがアンタの息子がさっき死んだのはボディ軟弱すぎて俺の遊び・・について来れなかった息子自身に原因があるよ」


「お......お前ぇ......!」


「雑魚のくせにそうイキリ立つなよ、そもそも喧嘩をふっかけてきたのはそっちだって事を忘れたのか? よくそんな鳥頭のバカで今まで政治家やって来れたよ......そりゃ公邸で悪ノリ忘年会して写真が流出するヤツも居る訳だよな。さて話を引き伸ばしたところで本題に入ろうか━━」



俺はもう片方の眼球にフォークを近づけ軽くタッチする。



「ひっ......!」


「あの資料について知ってる事を話せ。さもないとアンタの痛覚を感度3000倍にして赤ちゃんプレイなんかしなくてもその瞳に水滴が垂れただけで絶頂させるぞ━━」


「わ.......分かった......話すよ......。だがその前に海原の資料に隠されたモノがある事を君は何故分かった......?」


「それはあの資料を家のベッドで見てる時に気が付いた......資料の裏面にはとある条件でしか見えない色・・・・・の文字が記されていたんだ━━」



 大葉は俺が言いたい事を察したようで苦虫を潰したような表情をしていた━━。



「なあ政治家さん......








 『Alexandriteアレキサンドライト』ってのは一体何だ━━?」



「っ......!」



 大葉父はその言葉に激しく動揺し目を見開いていた━━。



*      *      *



「な......何故......その言葉を......?」


「たまたまさ、その文字が浮かび上がったワケは恐らくベッドライトの色温度が温白色......つまり約3500ケルビンだったからだ。これはアレキサンドライトと言う宝石と似た特性でその宝石は5000ケルビン以上だと青色もしくは緑色、5000ケルビン以下だと赤色に見える。それと似たような発色をする不可視インクを用いて会議室や普通の明かりに多く使われる昼白色では敢えて発色せず、特定の光を使用している場所に居る時だけ閲覧出来る秘密文書として保管されていたんだろう。俺が見た文字は綺麗な赤色でそう記されていたよ━━」


「っ......」


「わざわざ炙り文字みたいに手間掛けて隠されてたんだ......アンタはその合言葉の意味が一体何なのかを知ってるんじゃないのか?」



 大葉父は俺の問いかけに重たい口を開いた━━。



「少しなら知ってる......。私はソレのために最初は・・・戸籍の存在しないホームレスや違法入国した外国人達を20年以上前から秘密裏に集めていたからな━━」


「なるほど......だから表向きはデカい売春のリストとしてリストアップされた人間たちに目を背けさせ、裏面という資料の本質を隠す事が出来たワケか。それと裏面に記されていたのはそれぞれ共通点の無い名前や身体情報のプロフィール、他にも色々あったがそれを一体誰が発足したのかまでは書かれて無かった。もしかしてアンタならその人物を知ってるんじゃないのか?」


「そ......そこまでは知らん......! だがソレに関わっている人間なら田所真以外にも私は知ってる━━」


「それは誰だ?」









「それは......現警視総監である氷川盾ヒカワジュンだ━━」



 氷川......やはりアイツの親父か━━。



「そうか......少しだけ繋がってきたぞ」


「何が......繋がったんだ......?」


「色々だよ。俺が今まで見てきたものをおさらいすればその『アレキサンドライト』が何なのか......一体どういう意味でその合言葉・・・が名付けられているのかもな━━」


「っ......お前まさか......!」


「まあ良い......アンタが他に知ってることは? あるなら少しサービスしてやる」



 サービスという甘い嘘に大葉は少し期待をしているのか再び口を開く━━。



「分かった......だがいくら最凶のお前でもこれを知った所で1人じゃ何も出来はしないぞ......知ればこの国自体を敵に回すことになる......!」


「いいからさっさと言え。言わないと敵に回す前にこの国自体・・が更地になるぞ」


「き......君ならやりかねないな......ならば言おう。その方は前職は防衛大臣を務め、現在では......









 総理大臣を務める大神総司おおがみそうじさんだ━━」


「っ......!」



 クソッたれっ......! どいつもこいつも俺の邪魔をするのは常にブルジョワ連中ばっかりだ、一体どうなってんだよこの国は!

 壺や増税だけじゃ満足出来ないってのか━━?



「まさか......総理大臣とはね......。なんか眼鏡かけてそうだな」


「しかもそれだけじゃない......その上その方には協力者がいる」


「......それは誰だ?」


「名前は私にも知らされていない......。だが頭文字だけなら聞いた事がある。アルファベットは確か━━、

 





 H.Kの筈だ......」




「......」



 協力者H.K......俺の母親と同じ頭文字だがそれは偶然か━━?

 だが母さんの遺体は葬儀の日に確実・・に火葬した......だから母さんのクローンでも居ない限りこの世に居ないのは間違いないはず......。

 だとすればそのH.Kとは一体誰の事を表しているんだ━━?



 俺が考えを巡らせていると大葉父はそれを動揺してると勘違いしたのか少し嘲笑うように喋り出した━━。



「言っただろ......お前1人の力じゃ手に負えないって......いくらお前でも勝てる確率はゼロだ......!」


「そうだな、じゃあその勝率を少しでも上げる願掛けのためにお前を始末するよ。お前を生贄にすれば勝利の女神様が俺に喜んでベロチューしてくれそうだしな......《デウスピアニスト》」



 俺は金属魔法の応用で細い金属のワイヤーを空中に作り出す━━。



「な......何をする気だ......」


「さっき言ったろ? お前を紐で縛ってチャーシューにするってさ......」



 俺は大葉を縛っている有刺鉄線を解除してヤツの体を空中に浮かせ、生成したワイヤーを大葉の全身に巻き付ける。



「や......やめろぉぉっ!」


「はははっ......その縛られて歪んだ顔が笑えるな。芸人がストッキング被せられた顔みたいになってるぞ? 《ヴァジュラ雷電》」


「フ゛ロ゛ロ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 縛ったワイヤーに雷魔法で電気を通すと大葉はブルブルと体を震わせながら悲鳴を上げていた。

 俺は更に魔法を強めるとワイヤーは熱を帯び始め赤色に染まっていく━━。



「良い電気マッサージだろ? これを使えば肩こりなんておさらばだ。まあ凝る肩自体が無くなるけどな━━」


「や゛や゛や゛め゛め゛ろ゛ろ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ゛!」



 大葉の身体は熱を帯びたワイヤーのせいで皮膚が焼かれ始め、電力を上げた影響でガタガタガタガタ猛烈に振動しながら俺に助けを求めている。



「くくくっ......あんまり笑わせんなよ人間電マ会長」


「た゛た゛す゛す゛け゛け゛て゛て゛ぇ゛ぇ゛っ゛!」


「じゃあその震わせている紐を少しずつキツくしていこうか━━」



 ギチッ......ギチッ......!



「ク゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 ぷちっ......ぷちっ......ジュゥゥゥ......。



 熱されたワイヤーは徐々に締め上げられ焼かれた皮膚に少しずつ食い込んでいく。

 するとワイヤーの締め付け強度を受け止められなくなった皮膚は切断され血が流れるが、ワイヤーの熱によって血はすぐに固まった━━。



「た゛す゛け゛.......」


「助けなんて来ないよ......そもそもアンタらが俺にそう言ったろ? 自分で自分の首を絞めるとはこの事だよ。まあ実際もギチギチに締まってるけどな」



 ミシッ......ミシッ......。



「キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


「はははっ、痛いし熱いだろ? でもこれってアンタの言う遊びなんだよな? ならもっと笑えよ俺は笑ってるぞ。散々自分が都合のいいように世の中を動かしてきたアンタみたいな人間が、1番バカにしてた一般市民・・・・に虫ケラのように粗末に命を弄ばれている事を考えるとな━━」



 ワイヤーの温度は更に上がり全身から煙が出始める。

 そしてワイヤーを受け止めている肉は綺麗に切断され骨へと侵食して徐々に切断されていく━━。


 顔はある程度の形を残しているが焼き切られた肉がブラブラしており鼻は削ぎ落とされて口は裂け、歯は歯茎ごと地面に落ちて残った片目も格子状に斬られた上に焦げているためもう見えていないだろう......。


 俺の力によって無理やり生かしているためまだ死ぬ事は無いがそれももう限界を迎えていた━━。



「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛......だずげ......おねが......だの......」


「ああ、そのまま苦しんで死ね。アンタから情報を聞き出せたしここでスッキリ━━」



 ボッ......。



「ウ゛キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ......!」



 グシャッグシャッ━━。



 大葉はついに身体が発火しその熱さに悲鳴を上げて身体をめちゃめちゃに動かすがその所為で身体は余計に切断され、やがて動かなくなった。



「あぁ......っ......う......」


「あーあ、チャーシューどころか焼き豚になっちゃったよ。そろそろ回復魔法を解除して締めにサイコロステーキにでもするか」


「い゛......あ゛......ゆ゛」


「ちょっと何言ってるかわからないです」



 キンッ......キンッ......!



 ワイヤーが張り詰める音が工場内に悲鳴と共に響く......。



「○#**€%°〒〆〜ッ!!」


「地獄で無脳・・になった息子によろしくな。じゃあねバイバーイ」



 ワイヤーの締め付ける力を最大限に強くする━━。



「ン゛ア゛ァ゛ァ゛*€%°○#*......!」



 ブシャッ.......!



 大葉父は大量の肉片を一気に撒き散らして元が人間だったとは思えない程細切れになって絶命した━━。

 


「仕込みがやっと終わったか.......。今回は長く感じたな.....」


「お疲れ様アイラ━━」



 3人の肉片や血液で身体が汚れた俺にレイはタオルを持ってきてくれたのでそれでとりあえず顔を拭いた。



「ありがとう、レイって性欲以外は気が利くよね。後始末して家に帰ろっか」


「ウン! 涼ちゃんも待ってるし帰りたいけど......彼女の方は良いノ......?」


「え? あぁ......大葉父の話と今度ViTuberコラボ企画でやるモン○ンの練習しようと考えてたらすっかり忘れてたよ━━」



 万季の方を見ると彼女は俺を震えた顔で見ているが、それは俺が血塗れになっているワケについてなのか久々の再会でビビっているのか俺には分からなかった━━。



「やあ万季久しぶり。さっきまでよく寝てたようだね、元気してた?」


「真央......久しぶり......」

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