第56話 血塗れの悪魔


 俺の親父の指示により手駒の男達は一斉に明星へ襲いかかる━━。



「死ねぇぇっ!」


「やめときなよ、どうせボーナス出ないんだろ? ネームドじゃない君たちは名前も知られないままユッケになるのがオチさ━━」


「このクソガキがぁっ!」



 ボコッ━━! ドガッ━━! ドスッ━━!



 場内では武器で身体を叩く音が響き、男たちの攻撃によって埃や砂煙が立ち込め視界は完全に遮られる。


 あの減らず口の明星をボコボコにしているであろう鈍い音はこの俺にヤツの敗北を確信させていた━━。



「明星もこれでおしまいか......明日からの学校も少しはスッキリす━━」



 グシャァッ......!



「なんだ......今の音は......!」



 その音はまるでひき肉を大袈裟に混ぜて叩きつけるような音だった。

 そしてそのグロテスクな音と共にめちゃめちゃ下手くそな歌が俺の耳に入る━━。

 


「ミミズだーって↓オケラだーって↑」



「ぎゃっ......!」



 ブシャッ......ザシュッ......!



「なんだ......何が起こってんだ!」


「おいお前ら! ガキ1人相手に何手こずってんだ!?」



 どういう事だ......アイツらは親父がわざわざ手配した精鋭達だろ? なら何故さっきから明星じゃない悲鳴が聞こえるんだ! 



「一体何が━━」


「アメンボだーってー↑」



 ベチャッ......グチュッ......!



「みんなみんな↑生きているんだ↓」


「がっ......!」



 グチャァッ━━!



 俺の疑問は砂煙が消えたと同時に受け入れ難い恐怖とそれに反した下手くそな歌、そしてバイオレンスな現実が現れる。



「友達なーんーだー......」



 俺の目に映ったのはかつて親父の手駒であった赤黒い残骸、そして残りの人間が全員明星に怯えてへたり込んでいる姿だった━━。



 「......なんなんだよ......これ......」



 明星の右手には身体から引き千切った血だらけの首、そして持ち上げている左手には抵抗出来ず頭を鷲掴みにされてぶら下がる青黒いアザだらけの人間が見えた━━。



「あっちはユッケでこっちは豚の顔か......。しかし君達揃いも揃って座りこんでるけどさっきまでの威勢はどうした? 僕と今からハンカチ落としでもしたいのか? 生憎手拭いは持ってきてないからそこでミンチになってるケチャップ付きのシャツでも千切ってくれ」


「あ......っ......」



 ヤツは白い髪が赤く染まるほど血を浴びその手についた血を舐め、まるで散歩でもするかのように普通の顔をしてこちらに向かってくる......。



「大葉君......君が用意してくれたファンとの楽しい握手会をさせてもらってるよ。終わり次第そっちのVIP席に行くから待っててね━━」


「アイツ......人間じゃ......ねぇ......」



 ヤツの姿は正に血に塗れた白い悪魔だった━━。



*      *      *



 俺は男達の攻撃を躱しつつ一人一人肉塊にして、襲いかかった1人を全身打撲にした後片手で頭を持ち上げ宙に浮かせる。



「は......離せぇっ......!」


「おいおい、そっちから求めてきたくせにもう離せなんて流石に推し変が早すぎるよ。僕はまだライブ配信中に同棲バレや彼氏・・バレすらしてない清廉潔白な男なんだ」



 ミシミシッ......。



「ぐあぁぁぁっ......」


 

 そいつは俺の手を振り払おうと青アザになった身体に鞭を入れて俺の腕を掴んで抵抗をするが俺の手は頭から離れる事は無かった━━。




「頼む......離してくれ! いだぃぃっ......! 死にたくないっ......」


「そんなにビクビクするなよ。どうせみんな仲良くつくね・・・になるんだ」



 俺は男の頭蓋骨が変形し骨が割れていく感触を楽しみながら頭を軽く握りしめていった━━。



 ミシミシミシミシッ......!



「ウ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」


「死ね━━」



 グシャッ......。



「ひぃっ......!」

 


 不良の頭はポップコーンのように弾け飛び手から離れた身体は力無く地面に倒れ、俺はそいつの返り血と骨のカケラをモロに浴びた━━。



「あ、奥歯が髪にこびりついた......。帰ったらシャワー浴びよ」


「......バケモンだ......人間が勝てる相手じゃねぇ......」



 その光景に男達は更に怯むが、1人の男はヤケクソになったのか大声をあげてみんなを鼓舞し始めた━━。



「クソが......みんな怖気付くな! コイツを確実に仕留めるぞ! 俺達はいくつもの修羅場を潜り抜けてきたんだ.....殺れないワケがねぇ!」


「やってやる......! コイツを殺れなきゃ俺達が始末されるんだ!」



 今度は5人ほどの不良が再び武器を持ってめげずに襲いかかる━━。



「懲りないねぇ......まるでカルト教団の勧誘だ。お前らの崇拝する大教祖様はつい最近娘と共に死んだろ? そいつが住んでる地獄に全員快速で送ってやるよ。こっちはもう冗談を言うネタが尽きた所為でクオリティが軒並み落ちてイライラしてるんだ......」


「うるせぇ! お前が地獄に落ち━━」



 ヒュッ......! ガシッ━━!



「はがぁっ......な......なにをっ......」



 俺は瞬間移動をして指示を出した不良の首根っこを掴み持ち上げる━━。



「今からアンタで焚き火してリラックスするんだよ......《イグニアルタス上級炎魔法》」



 ボッ━━。

 


「キ゛ャ゛ア゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 俺の掴んでいる手から人間が可視出来る光の波長の限界である紫色の炎が発生し、不良の体は炭どころか一瞬で跡形もなく消えた━━。



「薪にすらなれないなんて情け無いヤツだな。しかしやりすぎた」



 辺りを見渡すとその炎が小さいとはいえ周りはその影響で一瞬にして超高温になった結果全員炭化し、離れていた大葉親子も服から出ている皮膚は顔も含め火傷を負っていた。



「ふぅ、これでお前らの部下は全員焦がしチャーハンになったな━━」


「あづい......く......来るなぁっ......」


「このガキ......クソッ......何なんだよお前......こっち来るな......!」



 大葉親子は人外の力を発揮している俺に恐怖している所為か尻餅をついて火傷した身体を精一杯動かしながら後退りする━━。



「来るなって......大体この体育館裏に呼び出してきたのはそっちだろうに。こっちは園児が書いたような汚い字のラブレターまで貰ってるんだ、今更ウソ告なんてネタバラシはやめてくれよ? 僕の心は見た目通りセンシティブなんだ━━」


「ふ......ふざけんな! こんなの聞いてない......」


「人ってのは見かけによらないんだよ......普段ヘラヘラしてる人間の方がとんでもない本性を隠し持ってるもんさ。一つ勉強になったな」



 俺は後退りする2人にゆっくりと近づいていくと震えながら大葉父は口を開く━━。



「は......話が違うじゃないか栄一......! 貴様一体何者なんだ.....アイツらを素手でミンチなんて......!」


「質問はこっちがするんだ。汚職に誘拐、殺人教唆に青少年保護条例違反......アンタみたいな悪徳政治家なら知ってるはずだ、あの資料に隠された合言葉を━━」


「合言葉だと......?」


「ああ......アンタ海原智博と繋がりがあるんだろ? 海原の現場に居た僕をさっきまで始末しようとしてくらいだ......海原との間にバレちゃいけない事が赤ちゃんプレイ以外にあるってのは少し考えれば分かる事だよ。アンタの息子のマシュマロみたいな脳みそでもな━━」


「な......何のことだ......?」



 大葉父は合言葉と言うフレーズを聞いた途端顔が青くなり動揺し始める━━。



「おいおい目が泳ぎすぎてクロールしてるぞ? 僕は海原のとある資料の『原本』を持っていてね、ふとした時に気が付いたんだよあの資料に隠されたモノが......」


「いや......俺は何も......!」


「まだ惚けるのか......親子揃ってお歳暮のハムになりたいのか?」



 俺は金属魔法で磔台を生成しようとすると━━。



 ガチャッ......。



「待てっ......! コイツがどうなってもいいのかな明星くん?」


「アイラ君......本当にごめんなさい......私......」


「あーあ......だから言わんこっちゃない」



事務所の扉から出てきたのは銃を突きつけられて身体を抑え込まれ怯えた顔をしている万季、そして銃を突きつけている人物は俺も万季もよく知っている人間だった━━。



「大人しくしなよ明星君。でないとこの子がどうなるか分かってるよね?」


「言われなくてもさっきから大人しくしてますよ。しかしアンタが大葉パパの駒だったとはね━━」



 俺がソイツと会話していると万季は俺の血まみれの姿に目を見開いて驚きを隠せていなかった━━。



「アイラ君何でそんな血まみれ......一体何があったの......!?」


「えぇ!? あんなに騒いでたのに事務所に音全く入ってこなかったの!? 防音力高すぎるだろ......どっかのアフレコスタジオ並みだな。なら本当の事を言うけど、僕はこの人たちの部下にさっきまで挽肉になるかと思うほどボコられたんだよ......」


「そんな......私のせいで......ごめんなさい......!」



 万季の必死の謝罪と共に少し嘘をついた事に気がついた大葉栄一は声を荒げる━━。



「下らない嘘つくんじゃねぇ! しかし立場逆転だな明星、青海はコイツの親を含め俺達のオモチャ・・・・で俺や氷川の言いなりなんだ。校内4大美少女の1人であるクラスメイトがお前の目の前で、しかもお前のせいで死ぬのは見たくないだろ? だったら大人しく俺達に従うんだな!」


「アイラ君......! 私の事は良いから逃げて......!」



 この状況に大葉息子は勝ちを確信したようで、せせら笑いながら火傷した顔をこちらに向けていた━━。



「はははっ! 必死になるお前も可愛いなぁ! けどな、この明星が逃げる訳ねーだろ? アイツはあんな軽口を言いながらも絶対にお前を助けるタイプだ......なぁ明星!?」



 






「しらねーよ。お先に失礼しまーす」


「えっ......み、明星!?」



 俺はくるりと身体の向きを反転させて現場から逃げ出した━━。



「なっ......! おい逃げるなクソガキっ! こっちは銃を持ってんだ! 撃ち殺すぞっ!」


「待て明星っ! 本当に青海がどうなっても良いのかぁっ!?」


「興味無いね。僕は最初に行くのを止めたし、彼女は自分から僕に迷惑掛けないって言ったんだ。もう高二なんだからこの程度・・・・のリスクくらい自分でケツ拭けるでしょ━━」


「クソ野郎がぁ......! 待て明星ぇっ! 女見捨てて逃げるなんて最低だぞテメェ!」


「いやいや、その女性・・を人質に取ることしか出来ない最底辺の弱者男性共に言われたく無いよ。お前らそのうちカラオケしに行くだけで怪しいチー牛として漫画家にネタにされるぞ?」


「クソッ! 待てコラァッ!」



 大葉は火傷した身体を引きずりながら俺を追いかける。

 そんな大葉の言葉を俺は無視して廃工場の出口へと向かって走るフリをする━━。


 しかしまさかアイツが大葉父の手下だったとはな......。



「まあいい......おふざけはこれでおしまいにして作戦開始だ━━!」

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