第55話 敵が味方か赤ちゃんか
俺の目の前に現れた糸目の悪そうな顔をした白髪混じりの男。
そいつは最近テレビで見た男でもあるがそれ以上に俺にとってよく知る......いや、知らざるを得なかった人物だった。
「君は私を見た事があるようだね......?」
「ええ.....知ってますよ。最近貴方が『治安確保に全力を尽くす!』とか言って繁華街を肩で風切って歩いてたのをニュースで見ました」
嘘だ......そんな最近の話よりずっと前から俺は
「そうか、やはりテレビに映るのは警視監の着任会見だけで充分だな。改めて自己紹介だ......私の名前は━━」
「
「そうだ......名前まで知ってるとは全く人気者も苦労するな━━」
* * *
「それで......人々の安全を守り国民に人気者の
「ふっ......その見た目とは裏腹になかなか達者な嫌味を言うんだな君は」
「貴方だってそのおっかない糸目の割にはシフォンケーキよりも柔らかい物腰なんですね」
「ははは......ギャップがあるって事さ。さて本題に入る前に校長先生、すみませんが此処からは私の仕事になります。なので貴方はこの部屋から退出して花壇のガーデニングか校庭のトンボ掛けでもしてて下さい」
「っ......わかりました」
校長は警視監様の言い方にムッとしながら校長室を出て行った━━。
「さて邪魔者は居なくなったな......」
「この敷地で一応一番偉い人を邪魔扱いするとは......さすが警視監様は言う事が違いますな」
「なんとでも言うんだな。ただ君もあの無能な校長を嫌うオーラがビンビンだったからこれくらいのジョークは通じると思ってね━━」
チッ......。
「......それで本題とは一体何ですか?」
糸目の男はその目を更に細め、少し険しいものになる━━。
「君が海原親子殺害の現場に居たと聞いてあの時はどんな状況だったかを直接聞きたかったんだ。ここだけの話海原は以前から飛美侠道会や我々警察の
やはりコイツも何か腹に一物抱えて俺に会いに来たのか━━。
「.......それなら鷲野って刑事に全て話しましたよ。彼に話した以上の隠し事は何もありませんしましてや犯人なんて知りませんよ」
「そうか......まあ彼が君たちに事情をしっかり聞いてくれたなら間違い無いんだろうな━━」
「......随分鷲野さんに対して信頼が厚いんですね━━」
「ああ......実は彼と私は同期でね、昔はお互い警察官としての正義をよく語り合っていたよ。まあ今じゃ彼は現場で私は警視監という立場になってしまったから飲みに行ったり直接会う事はあまりしていないが━━」
「そうですか......」
やっぱりあの年代はロクな人間が居ないな━━。
「それで......実は言うと君の評判は彼から少し小耳に挟んでいてね、正直海原の事は二の次で本当は君の顔を一目見ておきたくてココに来たんだよ」
「なるほど......仕事でお忙しいはずの警視監様は随分と暇なんですね」
「言ってくれるね君......私は君に会って直接忠告しておきたくてな━━」
「忠告ですか......なんでしょう?」
天使の顔は険しい顔つきから何処か本当に心配するような顔に変化し詳しく話し始めた━━。
「君はこの事件で確実に民誠党議員や侠道会、警察の上層部から警戒されている。特に侠道会の連中はもしかすると何かしてくるかもしれない、君には必要無いかもしれないがもしピンチの時は私か鷲野に連絡してくれ。あと同じ現場に居たもう一方の被害者である月野さんの方は私の息が掛かった者に随時監視をさせているから問題無いよ」
俺が聞きたかった事を先回りして答えやがる━━。
コイツの事は信用できないがこの先読み力を見る限り月野さんの方は
「じゃあ僕も監視されてるって事ですか?」
「いや、君の場合はそういう
男はそう言うと俺に大層な名刺を渡してきた━━。
「どうもです。しかしこんな一市民に気を遣ってくれるなんてびっくりですよ......だって貴方は━━」
「忙しい警視監様の
「気にしないで下さい。早弁する時間を失ったくらいなんで全く問題ありませんよ」
「ははは、私と会話する事が早弁レベルとは......誰に似たか知らないが随分と減らない口だ。君とは仲良くなれそうな気がするよ」
「そうですか......僕と話していれば若い世代との距離感や会話の練習になりますよ。そうすれば今後家庭内でお子さんと円滑な会話が出来るようになるかもしれないですね」
「ふっ......今の私に家族は居ないよ。では━━」
そいつは糸目を更に引き攣らせて笑うとソファから立ち上がり、俺を残して部屋を後にした━━。
「家族なんて居ない......か......その言葉を改めて聞けて良かったよ━━」
* * *
天使慎一......
それを聞いた母さんは泣いていて俺は幼いながら父親というものが嫌いになった......そして警察官というガワだけの正義しか守れない偉そうな連中の事も━━。
「しかしあのイケオジと仲が良かったとは━━。さっき一部の警察上部は海原と関わっていると言っていたがまるで自分
俺はアイツが許せない......結局母さんはアイツに捨てられた後散々苦労した挙句何者かに殺されたんだ。
もしアイツも母さんの殺しに関わった復讐の対象者であるなら俺は喜んで親殺しをしてやるさ━━。
「だがその前に放課後呼び出された件をさっさと片づけないとな......」
ギュワワワワンッ━━!
俺は少し考えながら教室へと戻る途中、学校の校門から一台白い車がタイヤ音を鳴らしながら出て行くのを俺は見届けた━━。
「うるさい車だなぁ......レース用のエンジンでも乗っけてんのか━━?」
「晴香......お前と昔ドライブした峠道でも行ってくるよ━━」
* * *
放課後を迎えた俺は玄関へ向かい下駄箱の扉を開ける。
するとその中には大葉が書いたであろう集合場所の住所と万季と一緒に来ることが記載されていた。
そしてその下駄箱から靴を取り出すと同じタイミングで万季も玄関にやって来た━━。
「アイラ君......」
「お疲れ様、案の定手紙が入ってたよ。ごめんね変なことに巻き込んで......」
「大丈夫だよ......最悪の場合警察に連絡すれば良いかな?」
「いや、万季さんから警察に連絡するのはやめた方が良い。今の警察は信用出来ないし、それに対する報復があるかもしれないからね......まあ僕に任せといて」
「でも......」
「大丈夫さ、何かあれば僕から緊急通報するからバッチリ」
「分かった......。そう言えば大葉君のオデコは腫れてたけどアイラ君のオデコはなんとも無いんだね」
「ああ、毎日牛乳を欠かさず飲んでればあの程度でいちいち腫れることは無いさ。それより彼氏の方は連絡取れた?」
「ううん、まだ既読付かない......。昨日から風邪が酷いのは聞いていたから今もきっと寝てるんだと思う」
「そうか......なら万季さんと一緒に呼び出されても彼氏にばったり会って略奪だとか騒がれずに済むね」
「......そうだね」
「じゃあそろそろ行こっか」
俺と万季は2人で大葉が呼び出した場所に向かった━━。
* * *
俺たちが到着したのは学校から少し離れた廃工場だった。
「ここかな......?」
「そうみたいだね......」
中は大きな広場になっており、天井には何かを吊るすクレーンや左手には小さな事務所らしき小屋があったり端っこには鉄屑や大きな機械が埃まみれで佇んでいた。
そしてその機械の隙間から顔を出したのは━━。
「よく来たなぁ......明星ぇ」
「ああ......約束通り来たよ。じゃあもう帰って良いかな」
おでこを腫らした大男 《大葉栄一》が肩で風を切りながらこちらに向かってくる。
「ダメだ......しかし用意も無しに来るとはお前もバカな男だな明星。とりあえず万季はこっちに来い、あの事務所で氷川が呼んでる」
「んー? それ本当か? イケメン氷川君はお風邪引いて1ターンお休みって聞いたぞ?」
「そんなのズル休みに決まってんだろ? 氷川はお前がやられる姿を万季に特等席から見せたがってるんだ。そもそもこれは氷川の指示だしな.......分かったらあそこの事務所に行け。でないとお前の━━」
「......分かったから......そっち行くよ.....」
「万季さん、それ罠かもしれないよ?」
「大丈夫......もし何かあっても私は自分でなんとかするからアイラ君に迷惑掛けないよ━━」
「ふーん......じゃあご勝手に」
万季は大葉に言われるがまま渋々事務所の中へと向かっていった━━。
「さて明星......お前にはたっぷりバカにされたからな、俺達の手でお前の人生を今日終わりにしてやる」
コツッ......コツッ......。
「なるほど......このガキが海原親子殺害現場にいた明星亜依羅か━━」
革靴の音と共に機械の影からもう1人姿を現したのは━━。
「ああ......コイツが俺の頭をこんな風にした上散々俺達をバカにしたクソ野郎さ。親父━━」
「クソガキ......ここがお前の墓標になる、覚悟するんだな━━」
スーツを着た今にも俺を消したくてたまらない顔をしている人物、それは大葉栄一の父である民誠党政調会長の 《大葉光一》の姿だった━━。
* * *
「栄一......どうせこのガキは海原の件で侠道会に始末を任せてある。だからそれまでの間好きなだけ嬲ってやりなさい、ここには俺達以外
「分かってるよ親父......親父をバカにした分までコイツをボコボコにしてやるさ━━」
「ははは......まるでパパに良いところを見せたい授業参観日の子供だな大葉君。おっぱいにしゃぶりつく事しか出来ないからって遂にパパへ泣きついたのか? やめときなよ、君のパパはどっちかと言えば赤ちゃんに
「ガキが......あの報道の事を知っているのか? なら余計に死ね。私を馬鹿にする人間は
「この目って......ベビーモニターの間違いですか? そこまでプレイにこだわるとは流石ですね。寝室にもベッドメリーがぶら下がってそうな勢いだ━━」
「ふっ......そんなジョークも警察や助けが来ないココではただの虚しい強がりに聞こえるぞ?」
俺の皮肉に大葉父はニヤリと笑うだけで躱している。
恐らく俺がこの後どう転んでも死ぬと思っている余裕から来ているのだろう━━。
「
「なんとでも馬鹿にしろクソガキ......お前のその生意気な口が二度と開けなくなるようにいろんな方法で拷問してやるからよ。出てこいお前ら━━」
そう言うと機械と機械の間からは30人くらいの不良っぽい奴らがバットやら鎖やら包丁を持ってゾロゾロと登場して俺を取り囲んだ━━。
「こりゃまた随分と汁男優が増えたな......やっぱり恥辱を見られたいただのMじゃん。しかし寄ってたかって僕に何すんだ? 覚醒剤を所持するように脅して僕を警察に突き出すつもりか? それでこんなにクラファンが集まるなんてみんなガッツ溢れるねぇ。だがそれで捕まるのは君達の方だよ━━」
「ふっ、残念ながら彼らは戸籍も何もない人間達だ......。彼らが君を殺しても私の力で捕まる事は無いし、君が仮にここから生き延びて彼等に逆襲しようとしてもここから離れれば居場所すら掴めない完全純粋な私の手駒達さ━━」
自分じゃ何も出来ないから結局人を使うのか......一応目上だからと思ってたけどこんなバカに敬語なんて使うのは勿体無かったな━━。
「手駒ね......そういう言葉は将棋やチェスをやる時にだけ使うんだな。それにしてもアンタのズボン少しもっこりしてるけどオムツにクソ漏らして気持ち悪くないのか
「バカガキが......イキがって居られるのも今のうちだ。この人数相手にお前は何ができる?」
「フルーツバスケットくらい出来るさ。椅子は無いけどな━━」
「減らず口が......お前はこの先バラバラにされた後看取られず悲しまれず行方不明になって死ぬ運命なんだよ。精々頑張って血でも垂らしながら抵抗するんだな」
「こんなの散歩の内にも入らないよ。そっちこそこれから閉じる口が無くなっても涎垂らすなよ赤ちゃん? 今僕は涎掛けを所持して無いんだ━━」
「舐めやがって......みんなコイツの歯を抜くなり骨折るなり好きにしていいぞっ!」
「うらぁぁぁぁっ!」
平均IQ3の見た目をした男たちは大葉父の合図で一斉に襲いかかる。
「よくよく考えたら初めて大人数相手に一騎当千するな.......こんな事になるなら三國○双か戦国BASA○Aやってユニーク武器でも入手しとけばよかったよ━━」
* * *
作者より。
近況にも書きましたが体調不良のため今後更新が若干遅れる事をタイキックでお許しください。+゚(゚´Д`゚)゚+。
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