第54話 アイラに忍び寄る不穏な影


「イケオジ達は昨日インター近くのホテルにでも駆け込んだんかな? 今度会う時があったらイジり倒してやろう......」



 昨日は学校をサボってしまったので流石に今日はしっかりと登校して教室の扉を開けるといつも通りクラスメイト達が中でワイワイしていた。


 そんな中俺に気が付いたゆーちんがこっちに向かって来る━━。



「おはようアイラ、昨日学校サボるなんて珍しいじゃん何かあったの? LIZEも既読つかなかったし......」


「おはよう雇い主、最近色々ありすぎて昨日は全てを放り出して休みたかったんだごめんね。でも結果的に全く休めなかったけど━━」


「......一体何があったの?」



 そうか......月野社長はゆーちんに誘拐されたことを言ってないのか。

 確かにあの日以降そういった連絡はゆーちんから来なかったしその方が余計な心配させないから助かるけど━━。



「昨日ムーンバックスに行ったら歳の差純愛カップルに出会すわデカい赤ちゃんとはブレイキング○ウンしそうになるわで大変だったんだよ......」


「......ごめん全く意味が分からないんだけど?」


「だよね......僕も意味わかんないもん━━」



 ゆーちんと話していると司と龍崎さんがセットでこっちにやってきた。

 そして司の方は少し苦い顔をして俺に声を掛けた━━。



「ようアイラ、お前ニュース見たか? 海原死んだんだってよ......。昨日その事でまた俺達全校集会やったんだぜ......」


「そうか......海原くん死んじゃったか。お悔やみを━━」


「なんかよ......最近人が死にすぎてるよな。海原は親父のビルまで変な奴に破壊されるし.......アイツは一体何者なんだろうな━━?」


「さあね......まぁ円谷プ○出身じゃない事は分かるけどな」



 俺と司の話を龍崎さんも聞いていたようで謎の人物についての話に入ってきた。



「その人海原君のお父さんの悪事を暴くしビルは被害者を出さずに簡単に破壊したし、そう言った意味ではある種ヒーローかもね━━」


「確かにヒーローだよな。ただ気になるのは海原の親父があんなビビり散らかすほどの表情で罪を告白するってさ、一体どんだけ痛い目に遭って死んでいったんだろうな......」



 ......まあそれは少なからず死んだ方がマシって思えるくらいの方法だな━━。



「ところで話は変わるけど、アイラ君の体力テストの結果はどうだったの?」


 

 結果か......海原のおかげで悲惨な結果だったんだよなぁ━━。

 


「見て驚かないでよ......? みんなご存知の通り一部を除きぜーんぶ平均以下さ!」



 俺は机に入れてあった用紙を開き直った態度で3人に見せた。

 するとその結果を見て3人全員ここぞとばかりにニヤニヤしていた━━。



「アイラって意外に運動神経無いんだね。逆にギャップで可愛いじゃん、後でヨシヨシしてあげる♡」


「おいおいアイラ! お前運動神経ザルすぎるだろ!? これじゃ小学生にも負けてるぞ?」


「ふふっ......アイラ君の意外な弱点発見かな?」


「はっはっはっ! みんなバカにしてるけどこの通り、長座体前屈・・・・・だけはクラス一位なんだよね!」


「それ別に威張れる種目じゃないから。しかもそこだけ・・飛び抜けてる所為でグラフが蘭○ーちゃんみたいな形になってる━━」


「ゆーちん上手い事言うね、でも僕には首に麻酔針刺さってる親父も蝶ネクタイしてる生意気なガキも居ないけどな。まあとにかく......今年起きた色んな謝罪会見を見習って日頃から頭下げる癖付けといて良かったよ、おかげで体が柔らかくなって良い記録が出た」


「アイラ君は一体何を参考にしてるの......。そもそもこの前氷川君と海原君が来た時だって2人相手に散々クソミソに煽り散らかした挙句一つも頭下げてなかったよね?」


「いやいやあの時は僕悪く無いもんね。それにそうは言うけど僕は企業が求めるような潤滑油的内容でしっかり会話のキャッチボールしてたよ」


「嘘つくんじゃないの! どう考えてもドッヂボール・・・・・・でしょ! 潤滑油どころか火に注いでたクセに何堂々と胸張ってるの!?」



 俺の言葉に龍崎さんは結構な勢いでガチギレしていた。

 たまにオカンみたいなキャラになるよねこの人━━。



「ごめんよカーチャン、でももうあんな事は二度と起こさないから安心してくれよ」


「誰が誰のカーチャンなのかな? アイラ君......?」


「オホンッ......ところで龍崎さんと司は体力テストの結果どうだったの? そのニヤケ顔を見る限り相当自信がありそうだけど......」



 2人はお互い顔を見合わせてニヤニヤしながら口を開いた━━。



「私、女子でダントツ・・・・1位だったよ」


「悪いなアイラ、俺も男子でダントツ・・・・1位だぜ?」


「嘘......だろ......? なぁゆーちんこんな事信じられるか!? 君たち2人とも教師と組んで成績の不正請求・・・・してるだろ! ビッグ○ーターと損○ジャパンに謝れ! いやそいつらは謝る側だったかチクショウ......!」


「意味不明な言葉並べて悔しがってるけどこの2人が運動神経良いのは有名だよ? まあアイラは転校したばかりで知らないのも無理ないけど━━」



 もちろん知ってはいたけど正直ここまでだとは思ってなかったよ......!



「能ある鷹は爪を隠すって奴か2人とも! なんか腹立つなぁ」


「アイラもとっくに何かを隠してる気配がビンビンなんだけどなぁ......」


「ん? ゆーちん今なんか言った? ビンビンてどの辺りの事言ってる?」


「はいはい......それよりViTuberの月村さんとのコラボだけど━━」



 ガラガラッ......ドンッ━━!



 ゆーちんが俺に仕事の話をしようとした瞬間に教室の扉は扉は乱暴に開き、見ると大柄な男の他に金髪や色んな所にピアスをしてるヤツ、制服を改造していかにも『アウトロー』を気取った生徒が何人も入ってきた。



「よう明星! 昨日は世話になったなぁ......」



 やはり大柄な男は昨日会った大葉栄一甘えん坊が俺にメンチを切って向かって来た。



「おはよう、男の子のおめかし・・・・した連中をそんなに引き連れてどうした坊ちゃん? 僕にセレモニーしに来たのか? 残念だがここはそら組でも無ければたんぽぽ組でも無い2年D組だ......分かったらさっさと自分のベビーベッドに帰りなよ」


「......なんだと!?」



 俺の発言に龍崎さんは俺に急いで耳打ちをする━━。



『ちょっとアイラ君! また次に煽るような事言ったら私本気で怒るからね?』


『分かったよ......僕が・・言わなきゃ良いだけでしょ? 大丈夫任せて!』


「お前ら何ヒソヒソ話してんだ? まさか弱虫明星君は俺が怖くて委員長様の龍崎に言いつけてんのか? 情けねぇなぁ!」


「ぷぷっ......達者なのは口だけか?」


「コイツ見るからにヒョロいし弱そうだもんなぁ?」



 いやいや、情けないのは1人相手に何人も引き連れてるアリみたいなお前らだろ。

 しかし随分下手っぴな煽り方だな、そんなんじゃ4歳児くらいしかその挑発に乗らないぞ......。


 俺は龍崎さんの言いつけを一応守るためにポッケから自分のスマホを取り出した━━。



「Hey,Ketsu。『Don't be so angry.It's not time for mommy's milk yet, baby.』を日本語にして」



 トゥトゥン━━♪



『日本語は次の通りです......『そんなに怒らないで。まだママのお乳の時間じゃないのよベイビー』です』


「テメェ......今俺に一番言っちゃいけないセリフを言いやがったな!」


「ちょっと大葉君! アイラ君も変なトンチ利かせないで!」



 怒りが頂点に達した大葉は龍崎さんの制止を振り切って瞬間的に俺の胸ぐらを掴み━━。



 ゴンッ━━!



「キャッ......!」



 周りにいた人間から悲鳴が出るくらいの音で大葉は俺のオデコに本気で頭突きをしてきた。

 その勢いで襟から大葉の手は離れ、俺はその場に倒れた━━。



「流石に今の音やべぇだろ......」


「遂にやっちまった......」


「明星くん大丈夫!?」


「明星君の綺麗な顔に傷つけるなんて最っ低......! もう先生呼んだほうがいいよね!?」


「やばいって! このままリンチされたら明星君死んじゃうよ!」



 外見や体格で大葉より弱そうな俺を皆一様に心配する声や大葉を非難する声が上がるが━━。



「くっ......痛ってぇ......! なんだコイツ......岩か......!?」


「大葉さんっ!」


「その傷やばいっすよ......!」



 実際に重傷を負ったのは俺じゃなく大葉の方だった━━。

 ヤツは取り巻きに心配されながら青く腫れた自分の額に手を当てて出血の量を確認をしていた。


 うーわ......あの程度で骨にヒビが入って出血までするとはやっぱり長年煮込んだチャーシューってのは柔らかいんだな。


 アレじゃ流石に俺も痛がるフリしないと流石に周りから変に思われるよな━━。



「いだだだだだ......! アイツの頭は発泡ウレタンか......!? 骨密度低すぎるだろ......!」


「大葉君! 暴力なんてホントいい加減にして! ここに先生呼んだからね!」



 一連の暴力行為に痺れを切らし本気で怒った龍崎さんは再び俺達の間に入り、額がめちゃめちゃ腫れ上がってきた大葉を睨みつけながら叱り散らす━━。



「クソッ! 覚えとけよ明星......お前には約束通り今日俺がたっぷり焼きを入れてやる! いってぇ......」


「焼き入れるって......僕の額にヘアアイロンでも当てるのか? 勘弁してくれ......それを告発してもここの校長じゃパワハラやイジメは無かったなんて無意味で反吐が出る会見しかしないクソオチが見えてるんだ。結局やられ損はいつも僕たち被害者さ━━」


「いつまでもふざけやがってこの野郎......お前は放課後俺達と来い! 絶対に逃げるなよ!? それと青海もだ━━!」


「え......? なんで私......?」



 突然指名された万季は戸惑っていた。

 俺と一緒に無関係な万季も呼び出されるなんて意味が分からないだろう━━。



「氷川がお前も来いって言ってたんだよ、じゃあな明星。もし来なかったらどうなるか分かってるよな? 巻き込まれるのはお前だけ・・じゃないんだ━━」



 トゥトゥン━━♪



『すみません、よく聞き取れませんでした━━』


「おいおいKetsu、いくら頭打った彼の日本語が不自由だからってそんな事言ったら流石にマズイだろ」


「アイラ君......もうダメだこりゃ━━」


「チッ......! 調子こいていられるのも今のうちだ......精々今を楽しんどけ。まだ痛えぞ畜生っ......お前ら行くぞ!」


「じゃあなコブダイ君、次会う時は水槽だな」



 腫らせた額を手で抑えながら大葉とその組員達は揃って教室から去っていった━━。



「ちょっとアイラ本当何やってんの......? それより頭突きの怪我は大丈夫?」


「あいたたた......それよりさっきデカい赤ちゃんに絡まれた話したでしょ? 実はあれアイツなんだよね━━」


「まーた変なのに巻き込まれて......。しかも今回は謎に青海さんも巻き添え喰らってるし......青海さん大丈夫?」



 ゆーちんの問いかけに不安そうな顔をしながら万季は俺達が座っている机にやってきた━━。



「多分大丈夫だと思うけど一体なんの用だろう......」


「ごめんね万季さん。なんか変な事に巻き込んじゃって......」


「大丈夫だよ、こっちこそごめんね......」


「......ところで青海さんは問題の彼氏と連絡取れてるの? 何か来てない?」


「一応毎日やりとりしてるけどそんな連絡来てないよ。そもそも今日勇樹は休みで居ないはずなんだけどなぁ.....」



 毎日やりとりとはお熱いねぇ......。

 なんか万季とやりとりしてた日々が遠い昔のように感じるな━━。



 ピンポンパンポンッ♪



『2-D組の明星亜依羅くん、至急校長室に来てください━━』


「アイラさっきから大人気だね? 今度は何したの?」


「もしかしてブレイ○ングダウンに 《白髪しらがニキ》としてオーディション出たのが遂にバレたかもな━━」


「いやいや......体力テストすらボロボロの人が出られる訳ないでしょ? 冗談は良いから早く行きなって。怒られる内容だったら後で慰めてあげる」


「ありがとう。でもそれはどっち・・・の意味でかな?」


「は? 良いから早く行け」


「へいっ......」



 ゆーちんの氷のような目から逃げるように俺は校長室へ向かった━━。



 コンコンッ......。



「失礼します━━」



 俺が部屋に入るとそこには校長ともう1人最近テレビで見た極悪そうな白髪混じりの男が座っていた。


 まさかコイツがここに来るとは......俺にはゴミクズを惹き寄せる特殊な魅了スキルでも備わってんのかよ。

 次転生する時は可愛い悪役令嬢とイケメン王子だけ・・が存在する世界が良いなぁ......いや無理だな━━。



「突然呼び出してすまないね、まあそこに座ってくれ━━」



 我に返った俺は校長に言われるがままにソファに腰を掛ける。



「やあ明星君......私とは初めましてだね?」


「初めまして白髪ニキっす。この人が僕の対戦相手っすか朝○CEO? まぁ誰でもいいっすけどワンパンで余裕っすよマジで......」


「......私の苗字は朝○でもないしCEOでもないただの校長だよ━━」


「君......なかなか笑わせるねぇ」



 そいつは俺を見るなりまるでゴミを見るような目つきでニヤリと笑った━━。

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