第53話 サボった3人


 月曜日━━。


 俺は土曜日の捜査の件と休日出勤が連チャンで続いていた為何日か有給を取っていた━━。



「海原の会社も木っ端微塵か......そして俺の睨んだ通りやはりあの湖には月野レイの遺体が沈んでたんだ。しかし天の者とは一体何なんだ?」



 シーフード○ードルと塩むすびを食べながら俺はこれまでの事件を色々と整理していた。


 富田守殺害時にスマホに残されていた例のイジメの映像と秋山恭子以外に書かれたM.Kの文字、そして現実的には不可能な殺害方法、あとは富田母が所持していた『アイス』、そして現場に必ず存在する黒羽真央の痕跡━━。


 俺はあの映像を見た時に最初『黒羽真央』という犯人はイジメの報復として今回の被害者だけ・・に復讐していると思っていた。

 しかしそれなら何故わざわざ親まで殺す必要があるのか......?

 もし黒羽真央が母親を殺した真犯人も含めて探しているとしてそれに関わってる人物がたまたま・・・・被害者の親でそれを殺しているとすれば......まだ黒羽自身は真犯人を分かっておらず、殺し回っていく内に少しずつヒントを得て母親の方も復讐しているのかもしれない━━。



 ピッ......。



『天ノ者と名乗る人物が芸能事務所シーフィールドを破壊した事件ですが犯人の手掛かりは今のところ掴めず捜査は難航しそうです。続いてのニュースです、iTuberの監獄ケロハルこと━━』


「天の者か......コイツの真の正体が黒羽真央であの湖や宗教施設での殺人をしたとすれば一応説明がつく。俺は捜査から外されたしこの一連の犯人は表面上・・・追えないがコイツを追い続ければ20年前の真相にもしかすると......」



 黒羽真央の母親、晴香の部屋から発見された『アイス』と20年前の俺の因縁が絡んでいるとすれば俺にとっての真の敵と黒羽真央にとっての敵は一致しているのかもしれない━━。



 ピンポーン......。



「ったく誰だよせっかくの休みだってのに......」



 ガチャ......。



「受信料ならウチはテレビ無いん━━」


「おはようございます鷲野さん。突然すみません」


「東海林ちゃんか......ってその格好......? 一体オジサンの家に何の用だ?」



 家の玄関に入ってきた東海林ちゃんはいつものスーツ姿とは違い、パステルピンクの薄いニットセーターに黒いプリーツスカートを履いて長い髪の先をくるくる巻いているなんだか洒落た美人になっていた。



「捜査外されて落ち込んでるかなと思ったので私も有給取って来ちゃいました。もしお暇ならこの後何処か行きません?」


「マジかよ......こっちは今寝癖にユ○クロのスウェットだぞ? あと私服はスーツしかないけどそれで良いか?」


「良いですよ別に、私スーツ姿の男の人好きですし」


「あーそう? じゃあ着替えるからちょっと待っててくれ」



 待たせるのも悪いので俺は早めに支度をして東海林ちゃんと一緒に外へ出た━━。



*      *      *



 2人でやって来たのはムーンバックスコーヒーだった━━。



「すまんな、長い間女っ気が無いと気の利いた店を知らないんだ......」


「全然良いですよ、私コーヒー好きだし鷲野さんのいつもとは違う気の抜けた顔も見れたし」


「オジサンをあんまり茶化すなよ......」



 それよりも俺は目の前の東海林ちゃんより周りの女性の視線がめちゃめちゃ気になっていた━━。



「どうしたんですか? そんなにキョロキョロして」


「あのなぁ......スーツ着たオッサンが私服着た若い女とこんな所に来てるんだ、そりゃ怪しまれもするさ。年下の女と居るのが許されるのはめっちゃ年下の嫁貰って世間からはちょっとアレな目で見られるようになったハラ○チの○井くらいなんだぞ。そうでなきゃただのパパ活してる親父だよ、おぇぇっ......」


「どんだけ捻くれた思考ですか! しかもかなり私怨入ってるし......。ていうかそれ私がパパ活してるように見えてるって事ですか!?」


「そういう事だよ畜生め、こっちはただの上司と部下だっていうのに......こんなところもし知り合いに見られたら俺は全裸で逃げ出すわ━━」



 ウィーン......。



「ふぅ......久々に学校サボるのも悪く無い、最近家にも同居人が増えたしたまには1人も気楽で良いな━━」


「いらっしゃいませー、ご注文をお願いします」


「キャラメルフラペチーノトールにキャラメルソース増量チョコチップ追加とブレベミルクで」


「かしこまりましたー!」



 随分甘そうなメニューを頼んだそいつに対してこれまで俺をチラ見していた客は一斉にそいつへ目を向けた。



「あの子超イケメンじゃない!?」


「ほんとだ! 超カッコいい!」


「アレゆーちんの動画に出てる子だよ、今有名になってるよね」


「やば......! あのパパ活オジサンと天と地の差だよ.....」



 オジサンはただコーヒーを飲みに来てるだけなのにこんなにも肩身が狭いです.......。


 しかしこんなにチヤホヤされてるとは少しばかり腹立つな......そんなイケメンなのか? 一体誰だ━━?






「あれれぇ〜? 刑事さんこんなところで何してるんですかぁ?」



 作者ですら忘却の彼方に押しやられていた無駄にイケボ設定の声はもしや......!



「や......やあ明星クン。じゃあ東海林ちゃん......俺宣言通り全裸で逃げ出すわ━━」


「ダメです!」



 今1番出会いたくない人間・・に出会ってしまった━━。



*      *      *



「まさかこの女性相手にパパ活でもしてるんですかぁ? いけないなぁ立派な警察官なのにー!」


「おいおい人聞きの悪い事言わないでくれよ。コイツは東海林だ、この間も湖で会っただろうが。それとその喋り方やめてくれ......なんかイライラする」


「......えぇっ!? このゆるふわ美人が東海林さんなんですか! どう見てもオジサンをカモにしてる美人局ですよ!」


「鷲野さんすみません......この子逮捕して良いですか?」


「......やめとけ」



 東海林ちゃんの目は確実に犯人と対峙している時の目だった━━。

 そしてイケメンは蛇に睨まれたカエルの如く恐る恐る席に座る。



「さっきはマジすみませんした......。でもこんな若い人と一緒にいて許されるのハラ○チの○井かパパ活してる親父だけですよ」


「それさっき俺が同じ事言ったからもう鮮度低いぞ。それより学生が学校をサボってここに何の用だ?」


「色々ありましてね、たまには1人になりたい時もあるんですよ......。あっ......これLIZEのIDだ━━」


「流石はイケメン、店員に逆ナンされるなんて大したもんだな。小便すらキャラメルソースになりそうな程甘いもん頼むとそうやってモテるようになるのか?」


「ふっ......オジサンこそカスタム出来ないからって泥水みたいなシンプルコーヒー頼むとそうやって僻みっぽくなるんですか? 泥水ならその辺の花壇にでも行って蝶々と一緒に啜ってれば安上がりなのに━━」


「2人とも落ち着いて! せっかくの休みなのになんで私が父子の喧嘩を止めるお母さんみたいな立ち位置に居なきゃいけないの!」


「悪い東海林ちゃん、大事な事だから言うがチヤホヤされてるイケメン見てると卑屈なオジサン達は本能的に腹が立つもんなんだ」


「こっちだってせっかくのサボりを満喫しに来たのに僕の嫌いな職業堂々第一位のお巡りさんが股間の警棒を部下にチラつかせてるパパ活現場を目撃したら嫌でも腹が立ちますよ」


「明星くん、パパ活はしてないって何度言わせたら解るのかな? お姉さんそろそろ怒るよ?」



 シュン......。



「ほら怒られてやんの。それより学校は良いのかよ? 4月が終われば中間も近いから大切な時期だろ?」


「大丈夫ですよ、アホ面に見えるかもしれないけど頭だけは良いんで。それより刑事さんこそあんな事件が起きたのにこんなところでデート・・・なんかしてて良いんですか?」



 デートね......コイツほんといちいち突っかかってくるな━━。



「生憎だが俺はあの後事件の捜査から外されたんだ。だから休んでも問題無いってワケ━━」


「ちょっと鷲野さん、それ言って良いんですか?」


「良いんだよ別に。彼は外部にこんな事漏らさないだろうし今まで事件にそれとなく関わってる数少ない人間だ、少しくらい話したって問題無いだろう。それに俺にはもう事件なんて関係無いし━━」


「ふーん......それにしては納得してない顔してますね。誰かに圧力でもかけられたんですか?」


「痛いとこ突いてくるねぇ、君も社会に出れば分かるよ......組織というものがいかに雁字搦めでややこしくドロドロしたものか━━」


「.......まだ子供なんでわかりませんねその辺は。捜査から外されたって事はウチの学校に来ることも無くなるわけか......寂しくなりますねぇ」



 満面の笑みでコイツ喋ってやがる━━。



「寂しい顔出来てないぞ、全く......あんまりオジサンを揶揄うなよ。まあ外されたのは幸いだ、何しろ次に想定される被害者をいちいち守らなくて良いんだからな━━」


「あーこの前言ってた残り2人でしたっけ? 誰かは知りませんが......。でもオジサンはそんな圧力かけられてもどうせ捜査自体は独自にやるんでしょ?」


「さあね......どうかな? あんまり表立ってやるとそこら辺から命を狙われ兼ねないし......やらないかもな」


「そうですか.....じゃあ僕はそろそろこれで━━」


 

 イケメンが席を立とうとすると後ろからイケメンと同じ制服を着たガタイの良い男がこっちのテーブルに向かってくる━━。



「あれぇ? お前今話題のイケメン明星だよな? 転校して数ヶ月も経ってないのに早速学校サボるなんていけないなぁ!」



 とても高校生には思えない大柄な体格に鍛え抜かれた体、コイツはあの映像にも映っていた 《大葉栄一》だ━━。


 こんな大柄な格闘家みたいなやつに突然絡まれるなんてイケメンも難儀だな......。

 素直に退散するようにコイツが余計な事を言わなければ良いが━━。



「ん? 君は一体誰だい? 僕のファンであれば申し訳ないね、今この高橋○樹と娘の○麻を先に対応してるからそれまで街路樹に除草剤でも撒いて待っててくれないか?」


「いや、俺達2人はリサイクル○ングのCMに出演してないんだが......」


「あ? 俺は大葉栄一だよ、お前が転校してきてから親友達が立て続けに死んでイライラしてんだ! この疫病神がっ!」


「大葉栄一くん......ああ! あの赤ちゃんプレイで一躍人気になった政治家、大葉光一の息子さんね! わかったわかった!」



 おいおい......それ今そいつに1番触れちゃいけない部分だろ......。



「テメェ......俺の親までコケにしてんのか!? あんなのデマに決まってんだろ!」



 大葉はイケメンの胸ぐらを掴む勢いで・・・・・凄む。


 暴力に発展しそうなら俺達が止めないとな......俺は東海林ちゃんにアイコンタクトをして様子を伺った━━。


 頼むからこれ以上煽らないでくれよ明星くん......!



「そうカリカリすんなって、おしゃぶりでもして落ち着きなよ。君は西松○と勘違いしてココに来たようだが、この店にはオーツミルクはあっても粉ミルク・・・・は残念ながら置いて無いよ。もちろんトールサイズの哺乳瓶もね━━」


「ぶっ......!」


「ふふっ......」



 俺よりも先に騒動を聞いていた他の客達が一斉に笑い始める。

 その光景を目の当たりにした大葉は顔を真っ赤にして吠える━━。



「何がおかしいんだ! 散々コケにしやがって......明星テメェぶん殴ってやる! 次会う時は病院の面会時間になるぞ!」


「やってみなよ脳筋くん。ただ、後先考えず公衆の面前で暴れようとするなんて君の頭はお乳に浸されてふやけたのか? 早くママにぶら下がってるドリンクバーしゃぶって一旦冷静になってきなよ」


「絶対に殺す......!」





「おっとそこまでだ。これ以上やったら俺達が君を現行犯しなければならない」


「なんだと? ってよく見りゃお前......!」


「ああ、君にも一回話を聞いたことあるよね? この前学校でお世話になった警察だよ」


「チッ! 明星......明日学校に来たら覚えてろ!」


「僕は覚えてるけど注文した飲み物をカウンターに忘れるくらい鳥頭の君が明日まで覚えてられるかな? もし覚えてたら御褒美に糸引いたマフィンをくれてやるよ」


「くそっ!」



 大葉は強引にカウンターから飲み物をひったくると足早に店から出て行った━━。



「なぁ明星くん、君の度胸には感服するが少し煽りすぎだぞ。明日から学校は大丈夫なのか?」


「大丈夫ですって。僕には刑事さんという公式サポーター・・・・・・・が居るんですから暴力振られたら即通報しますよ」


「はっ......君ほど警察を信用していない人間がそれ言うと皮肉にしか聞こえないよ」


「......どうとでも取って下さい。それじゃ東海林さんと末長くお幸せに!」


「おいっ!」



 イケメンは席を立って俺達の元から去っていった━━。



「相変わらず顔だけ・・はイケメンでしたね、さて邪魔者も居なくなったしデートの続きしましょ?」



 東海林ちゃんは揶揄うように笑いながら次の提案を暗に俺に向けて求めてきた━━。



「分かったよ......次は車でどっか行くか」


「良いですねぇ! 海行きたいです!」



 俺達は店を出て一旦俺の家に戻りドライブへ出発した━━。



 *      *      *



「あのオッサンが捜査から外れたか......まあその方が俺は動き易くなるけどオッサンはどうせ勝手にやり出すだろうな━━」


 

 しかし優秀なあの人を外すなんて警察上層部はあのオッサンに何か掴まれちゃいけないものを掴まれたのか......?

 もしかすると『アイス』と『人造人間』の両方に関わる数少ない手掛かりの1人かもしれない。


 仮にそいつらがおっさんの命を狙ってるとしたら俺にとって少し都合が悪くなるかもしれないな......ならその時は━━。



「まあ何はともあれ狙い通りやっと上の連中が表立って動き出した━━。だがその前にあのガタイの良いデブをチャーシューにしてやらないとな......」



 俺は次の復讐に移るため作戦を練り始めた━━。



*      *      *


 作者より。

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