第52話 天罰という名の脅し

 海原親子死亡の翌日土曜日━━。


 家で深夜に起きた大乱闘を無事に切り抜け、海原の死亡報道が出る前に海原の会社へトドメを刺しに来た俺はステルススキルを使って社内に潜入していた━━。



「しかし今日は本当に誰も居ないな......土曜とはいえ海原の会社は意外にもホワイト企業なのか?」



 俺は無人の社内を歩き回ってあらゆる場所を漁り、『アイス』を使った改造人間の件や枕営業の実績帳簿、裏金の資金繰りや送金先などが無いか徹底的に調べた。

 しかし残念ながらオフィスにそういったものは無かったので最後に社長室へと向かった。



「さてと二度目の社長室か......ここに無ければおしまいか━━」



 部屋の中へ入りいろいろと物色していると本棚の中に小さな窪みを見つけた━━。



「隠し扉か......まるでスパイ映画だな。天井からワイヤー吊るしてミッションイン○ッシブルしとけば良かったよ」



 俺が窪みを手で押すと本棚の腰から下くらいが扉のように開かれ、その中に網膜認証付きの頑丈そうな金庫があった。



「なるほど......網膜スキャナーか。こりゃ海原かイー○ンにしか開けられないだろうな━━」



 俺はステルススキルを顔だけ解除して海原の顔に変身し、金庫の認証カメラの前に視線を合わせる━━。



 ガチャ......。



 扉が開くと中には厚み5cmほどの資料があった。

 その資料を見ると20年程前から民誠党議員や警察や侠道会の名前と所属タレントの名前と年齢、日付と密会場所が丁寧に記載されていた。

 そしてどんなプレイを行う予定かまで書いており、その際の金額まで記されていた。



「うひゃぁ......やっぱ上級国民ってのはロクなのが居ないな。警察と侠道会に至ってはどの立場の人間かまでしっかり分類されてある......海原は意外と丁寧だったんだな。しかし全員未成年か......なんとも世知辛い世の中だ、中世以下かよ━━」



 パラパラと資料をめくっていくとその中に月野レイの名前もバッチリ記載されていた。

 そして海原の言う通り月野レイの欄には民誠党の 《大葉光一》と 《田所真》の名前が記載されており、この時行う予定だった内容が"エイジプレイ"という事もしっかり書かれていた━━。

 

 コレは素直にお察しだな......こんなのが世間にバレたらもう大腕振って外を歩けないぞコイツら。



「コレで事務所絡みの売春行為があった証拠も揃ったな。あとは『アイス』のルートが分かれば御の字だが......」



 俺は再び資料を探すが『アイス』や『青い血液』に関わる資料は一切出てこず、そっちの件は不発に終わった。



「まあ良いか......とりあえずミッション無事完了だ。コレで海原を経由して民誠党の議員と侠道会、警察の一部は未成年のタレントとヤリまくっていたことが白日の元に晒されるな。恐らく一部は揉み消されるだろうが、国民にはこれから確実に脳裏へ焼き付けるイベントを行なって外側からヘイトを溜めてやるさ━━」



 俺は被害者タレントの名前だけ・・黒塗りにした資料を分身を作る応用でコピーしまくった後、ステルススキルでその資料を隠して転移魔法でビルの屋上に移動する。


 そして笛吹の時に変身した姿になり屋上から宙に舞うと街の人々が俺の姿に気付き、一部の人は動画を撮り始めた。



「おいっ......あれって!」


「嘘......この前起きた爆破事件の時に映ってた天使?」


「なんだあれ......なんのロケだ?」


「どうせプロジェクションマッピングじゃねぇの?」


「コスプレした人が宙に浮いてるのなぁぜなぁぜ?」



 俺は信じていない奴らに向けて帽子が飛ぶくらいの突風をお見舞いするため翼をはためかせる━━。



「なんだ今の風......! あの翼作りモノじゃねぇぞ!」


「マジ天使かよ......あの動画は本物だったんだ!」


「ああ......私のカツラが......!」


「ショートにアップするしかねぇじゃん!」


「えー只今緊急で動画を回しています!」


「あなた転売ヤーですよね!?」


「違いますよ! 離してください!」



 おっ、インチキ正義感振り翳して罪も無い人をモザイク掛けずに動画撮ってるコスプレの奴もいるな......アイツそのうち捕まるぞ?


 まあ何はともあれとれみんな注目してくれたし天使っぽく喋るか......。



「......我......天ノ者ナリ」



 俺はあの時のように顔の右半分をライオン、左半分を闘牛にデザインして背中には12枚の白い翼を生やした姿で喋り始める━━。



「アイツあの顔で日本語喋れるのかよ......」


「マジに天の使いだ......」


「いや......あれは神だろ間違いない......!」


「超ヤバいんですけど! この世の終わり!?」



 周囲がさっきとは違う内容でざわつき始め、中には誰かに電話を掛けている者もいた。



「我ハ天カラ......オマエ達人間ノ......全テヲ見テイタ......。コレヲ見ヨ......ヴァジュラ《雷電》」



 前も思ったけどこの喋り方ってマジで面倒臭いんだよね......この映像見せ終えたら普通に喋ろう━━。


 俺は雷魔法を応用して近くにあった巨大モニターをハッキングして例の湖で撮った映像を映す。

 そして映像は海原父の月野レイに対する卑猥なセリフ以外の全てが再生され始めた━━。



『こんな湖の真ん中に呼んで頂きありがとうございます! 私、海原智博は7年前月野レイさんを現在民誠党政調会長である大葉光一氏と、飛美侠道会会長である田所真氏の両名に今後もより太いパイプを持とうと月野レイさんに性行為アリの枕営業を持ちかけました!』



 突然のカミングアウト映像にみんなの視線が巨大モニターに釘付けになる。



「おい......月野レイって7年前に行方不明になったアイドルか?」


「あー知ってる! あの子超可愛かったよね! ちょこちょこバラエティとか出てたしウチらの間でも結構人気だった!」


「海原って芸能事務所の社長だろ? 枕営業ってマジやばいな......しかもよりによって民誠党の大葉やヤクザに対してかよ!」


「やっぱりヤクザとも繋がりがあるんだね芸能界って......」


 

 そして映像はいよいよ月野レイ殺害の自白を決定付ける場面へと入っていく━━。



『私は力づくで彼女が着ていたワンピースをビリビリに破き、ビンタを数発喰らわしてテーブルにあった果物ナイフで何ヶ所か軽く切って脅しを掛けてレイプしようとしました! しかし彼女に隙をつかれて逃げられ、その時に果物ナイフで滅多刺しにして殺しました! その後飛美侠道会に金を払って頼み込み、一緒にこの湖に運び死体が浮いてこないように湖底に沈めました!』



 モニターの海原を見る街の人たちはゴミを見るような目で見つめていた━━。



「気持ち悪いしヤバすぎるだろ......って事は今もその湖で月野レイは眠っているってことか......?」


「てかヤクザに頼んで沈めるとか畜生すぎる......」


「こんな奴が今の芸能事務所の社長なのかよ! マジで警察は何してんだ!?」


「結局上級国民は何しても無罪なんだな━━」


「若い子を殺してジジイ本人はのうのうと生きてんのか! やっぱり世の中不平等だな!」



 まあそう思うよな......俺はその考えを待ってたよ━━。



「ソウデアロウ......コンナ悪者ガ平然ト生キテイル事ニ我ハ憤リヲ感ジル、ダカラ我が直々にこの者に制裁を加えた。恐らく今日にはその事実がこの世界に知れ渡るだろう......そしてコレもこの国の真実だ━━」



 俺はさっき手に入れた資料をばら撒くと一斉にみんな資料を掴んで読み始める。



「なんだこりゃ......議員の名前に警察の所属、ヤクザの名前まで書いてあるぞ!」


「この黒塗りはタレントの名前かな? この人たちがここに載ってる全員に枕してたってワケ!?」


「そんな......もう何も信用できないな......しかもプレイの内容に見る限りコレ無理矢理やらされてるぞ」


「ホントだ......タレントの子が可哀想すぎる......。ていうか警察のお偉いさんはみんな未成年好きなのかよ、一体どこの秩序を守ってんだ?」


 同感だよ、確かにどこの序を守ってるって話だよな━━。


 さっきの映像の直後なのでこの資料にも説得力がついたのだろう......皆警察や芸能界、政界に対してヘイトを溜めまくっているのが一人一人の表情を見て手に取るように分かった。



「この国の上に立つ者達は腐り切ってる......そいつらから生まれた子供達もな。皆が信じてきたモノは全てまやかしであり、ブルジョワ連中に甘い汁を吸わせるためだけに生きている言わば働き蜂なのだ。なので.....我が手始めに月野レイを殺した象徴であるこの建物を今から破壊する━━」



 俺は片手から純白の刀を生成して地上に舞い降りた━━。



「おいおい......アンタ本当にそんな事出来んのかよ......」


「こんなデカいビルなんてミサイルでも撃たない限り無理だろ......!」



 人々は地上に降り立った俺に対して再び不信感をぶつける。



「見ていろ━━、皆この場から離れるんだ......」



 俺は純白の刀を構えて居合の体勢に入る━━。



「居合......《邪神ノ爪痕》......!」



 スパッ━━! ス゛コ゛コ゛コ゛コ゛ァ゛ッ━━!



 俺が刀を鞘から光の速さで抜刀して納めるとビルはその影響で支柱を全て斜めに斬られ倒壊しそうになっていた。

 

 しかし我ながらイタすぎる技名だ......後で絶対恥ずかしくなる奴だよね......。

 まあホントは呟かなくてもこんなビル大根楽勝に斬れるけど視聴者へのサービス精神だもん! と言い聞かせよう━━。



「やべぇ......アイツマジで斬りやがった......! みんな逃げろぉっ!」


「本当に天使かよ......! コレ幻じゃないよな......はははっ......」


「そんなこといいから逃げろって! オマエ死ぬぞ!」


「キャァァァァッ!」



 みんながビルが奏でる轟音に恐怖して退散する中、俺はビルが倒壊しないようにバリアを張りビルを宙に浮かせる━━。



「嘘だろ......ビルが......」


「俺......夢でも見てんのかよ......」



「夢ではない、これで倒壊に巻き込まれる事は無いから安心しろ......。皆この後何が起きるかしっかり見届けるんだ━━、《カドルユーディキウム雷神の裁き》」



 俺がかざした手の上から無数の青白い光が発生し、それらが全てバリアに包んだビルに向かって一斉に降り注がれる。



 ス゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ッ━━!



 凄まじい轟音と共にビルはバリアの中で完全に破壊されて砂になっていた。



「信じられない......あんなにでかいビルが一瞬で......!」



「皆......我を敵に回すとどうなるかしっかりと見届けたな? ではこの瓦礫は5秒後に自動的に消滅する━━」



 ト゛コ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ......!



 バリアで圧縮して爆発させた瓦礫の砂は花火のように光を放って天へと消えた━━。



「反社会組織、警察、政府の者共聞こえているか? これは警告だ、もし再び我の目に悪事が留まれば......その時は貴様らを我が直々に裁きを下す。ローストビーフになりたくなければ悪事はやめて罪を認めるんだな━━」


「彼なら本当にやりかねない......」


「ああ......まさに天罰だ......こんなの誰も逆らえないだろ......!」


 

 街の人々は全員畏れの表情で俺の姿を見ている。

 そんな表情で見られる事がこれまでの人生で無かったのでいろいろ恥ずかしくなった俺はついつい口を滑らせてしまった━━。



「えーと......あと警察はタメ口で職質とかもやっちゃダメだよ? あれホント良くないからマジで」


「んんっ!? アイツ突然何を言い出したんだ?」


「確かにタメ口だもんな......神って案外細かいところ見てるんだな」


「でもなんか口調変じゃね? 『マジで』とか神が言うか?


「だよな、それに職質とかめちゃめちゃ個人的じゃね? やっぱあんな顔してるから神も職質された事あんのかな?」


「オホンッ......! 最後の言の葉を疑問に思ったヤツは今から全員塩の柱にする━━」



 俺は再び手を掲げて脅しを掛ける━━。

 


「いやいや言論の自由なさすぎるだろ! 俺達はロトの妻かよ! 冗談だとしても怖いよ神様!」


「ごめんごめんコレ今上で流行ってる天界ジョークでエノク語だと爆笑確定なんだけどまあいいや......じゃあねバイバイ━━」



 俺は転移魔法を駆使してその場から消えた━━。



*      *      *



 この騒動の後、実際に海原親子の殺人事件が湖で起きた事が報道された事により世間は大騒ぎになった。


 俺が映った動画はiTubeでもネットニュースでも大々的に取り上げられた。

 そして例のばら撒いた資料もすぐに週刊誌が食らいついて世間は神の話と未成年と売春していた政府関係者や警察関係者の話題一色になり、記載されていた名前の連中はマスコミ同じ穴の狢のおもちゃになっていた。


 そしてたった今、1人の政治家がテレビでマスコミのインタビューに答えていた━━。


「大葉政調会長! 映像の件についてこれは本当の事なんですか!」


「私には記憶にございません、月野レイや海原智博といった人間と関わっていた事実はございません!」


「ではこの資料はなんなんですか! 如何わしいプレイの内容まで記載されてますよ! 本当の事を話してください!」


「余計に記憶にありませんよ......ではこれで━━!」


「ちょっと! 逃げるんですか!」



 その男は口に髭を生やし白髪混じりでガタイがいい人間だったが日頃の威勢の良さは身を潜め、そそくさとインタビューから退散した。



「一体なんなんだこれは! 海原の奴め......死に際にとんでもないものを残しやがって......!」


「大変でしたね......これから如何致しましょう?」



「あの方に繋げろ、今起きてる事を全て話して助けを求めるんだ。それと自称神を名乗るインチキ野郎は我々で何としても殺さねばならん! この国の上層部と裏社会を舐めるなよ━━」



*      *      *



 警視庁のとある一室にて━━。



「なんなんだこのニュースは、例の名簿の流出......アレは実験に関する裏の合言葉が入っていたんだ。それがバレれば我々の計画は全て頓挫する......まさか最近嗅ぎ回っている鷲野の仕業か? ヤツは確かに昨日湖に居たしな......やはりヤツを消すしか無いようだ━━」



 ブッブー......ブッブー......ピッ......。



「田所会長ですか、この度は海原のお陰でとんでもない目に遭いましたね。ええ......ええ......青い血液と今回の名簿の方は問題ありません、時が来たら虫一匹・・・殺して事を終わらせます。なるほど......あっちの方もしっかり罠を張るんで大丈夫ですよ━━」

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