第51話 新たな能力


 アイラの帰宅から3時間後、湖にて━━。



「あー......こりゃ酷い。あの2人が帰った後で遺体を水揚げしといて正解だったな━━」


「鷲野さん、漁業の収穫みたいに言わないでください。一応故人に失礼ですよ」


「すまんな長年1人で生きてると口が悪くなっちまうんだ。だが東海林ちゃんも一応とか言っちゃってるぞ?」


「......それについてはノーコメントで」



 俺と東海林ちゃんはイケメン高校生達が現場を離れた後、遺体をボートで引き上げて岸に敷いたブルーシートの上に寝かせる。


 改めて間近で見た遺体は悲惨の一言では収まらない状態だった━━。



「相変わらず酷いですね.......両方とも首から上は完全に無し、身体に至ってはまるで解剖させられたかのような状態になってます。しかも腸まで抉り出されてる......それとこっちの首から出ている金ピカの刃物はなんでしょうか?」


「ああ......これは『レイピア』っていう武器でな、16-17世紀辺りのヨーロッパで流行った護身用の武器だ。しかし湖に金の武器とはまるで童話の金の斧だな......まあ湖から出てきたのは処女・・の女神じゃなくて死神だったようだが━━」


「ええ、正にとんでもない死神・・ですね。それにしても金の斧か......鷲野さんはこの事件で童話・・以外に何か連想するものとかはありますか?」


「女神の方は分からんが処女と金が好きな奴と言えば......犯人は音楽プロデューサー・・・・・・・・・か?」


「どんな偏見!? たった今全国のプロデューサーを敵に回しましたよ! まあでも童話以外連想するものなんてありませんよね......それよりまたコレです━━」



 俺は東海林が指差したもう1人の胸部に書かれた火傷の跡に注目した。



「M.Kか......現実的に不可能な殺害方法といい今回も富田、笛吹親子殺害と同一犯で間違い無いな━━」


「ですね.....しかし毎回思いますが犯人は一体どんなトリックが使っているのでしょうか?」


「さあな......俺達が追ってるのは確実に人智を超えた存在だ、高校すらロクなところを出ていないオジサンには全く説明がつかないよ。2人を磔にしていた湖の底奥深くまでブッ刺さっているあの木然り、頭をポップコーンさせた方法然り俺よりも遥かに高学歴の連中がうようよしてる科捜研ですら頭を抱えてるしな。それに━━」


「それに......?」


「あの二人を湖の上で磔にした状態であんな風に殺せた時点でそもそも異常だ。ここの湖にはボートが無い......仮にカヌーのようなものがあれば可能かもしれないが、そんなものを運んでいる車はNシステムを調べてもらった限り一台も無かったそうだ。そして極め付けはあのエセ一方○行と美人社長以外の足跡は一切無い......あの被害者二人が車から出た足跡すら・・無かったんだぞ━━」


「ゾッとしますね......。ただ普通その状況ならあの二人が怪しい気がしますが......でも━━」



 確かに普通に考えれば足跡が2人分しか無いのならあの2人が共犯で行った可能性が高いが事はそう簡単じゃない━━。



「東海林ちゃんも俺と同じ事を思ってるな......。あの2人には解体爆散したはずの彼らの体液や皮膚が一切ついていなかった、普通これぐらい解体・・されていれば必ず髪の毛とか身体に何かしら付くはずだよな? そして仮に着替えを用意してあったとしても着替えた痕跡はここに一切無い。紐パンやバニーガールの衣装すらな......」


「いやいや紐パンて......私があの2人に変わってセクハラで訴えますよ?」


「ほらね、オジサンのちょっとした冗談にもすーぐ法廷をチラつかせる。最近の子は怖いねぇ......裁判所に行くのは離婚調停の時だけで充分だよ」


「まるで過去にバツイチだったみたいな言い方ですね、とりあえず私達が確認出来るのは今の段階ではこれくらいでしょうか?」



 東海林ちゃんの言う通り今日の段階ではここまでが限界だ。

 被害者の殺害方法やトリック、巻き込まれた2人のアリバイがハッキリしてからじゃないとただの憶測だけになってしまう━━。

 


「そうだな......まだ引っ掛かるところは山程あるがとりあえず後で整理しよう。それと鑑識には湖の底を調査するように言ってくれ」


「え? それは何故?」


「こんな湖のど真ん中でわざわざ・・・・殺人事件が起きたんだ。この場所自体・・に何かヒントが眠ってるかもしれないだろ━━」


「分かりました、伝えておきます。ところで明星くんの事情聴取はどうでした?」


「ああ......被害者に襲われたにも関わらず不気味なくらい飄々としてたよ。普通事件に巻き込まれてあんな遺体を遠くからでも見ていればどんなヤツでも動揺の一つや二つ見せるもんだが......まぁアイツの場合毎度の事だけどな━━」


「確かに......彼、あの見た目とは裏腹にこんな時でもさっき私を揶揄ってきたしホント掴みどころが無いですよね」


「全くだ、ああいう何考えてるか分からないトリックスターが俺達にとって一番厄介なんだよな。だけど......今回は珍しく一回だけ彼の表情がほんの一瞬変わった時があったんだ━━」


「え!? そんな場面があったんですか!? あの飄々とした彼が珍しいですね......どんな内容の時でした?」



 俺の言葉に東海林ちゃんは目を見開かせて興味津々の顔で俺を見つめる。

 よっぽど明星君の態度が気になったのだろう━━。



「例の動画あるだろ? あの話をしてまだ生き残ってる残りの奴らがクソ野郎でも俺達は"一応"守らないといけないと言った瞬間にアイツの顔が少し変わったんだ。普通の人間なら絶対分からないと思うが俺にはハッキリ分かる━━」


「なるほど......どんな風に変わったんですか?」


「なんて言うのかな......少しガッカリしたような顔をしていたよ、権力に逆らえない大人を哀れんでいるような悲しい目だった」


「彼がそんな顔を.....私は彼に鷲野さんの本当の姿を見せたいですよ。打ち切りになった黒羽真央の母親である晴香さんの殺人事件を本部に極秘で洗ってる事を━━!」


「シッ! 今ココでそれを言うな......! この件が上にバレたら俺は何されるか分からないんだぞ!?」


「すみません! つい熱くなっちゃって......」


「まあいいよ。しかしなんでお前俺が捜査してるのを知ってるんだ......?」


「鷲野さんの事は毎日見てますからすぐ分かりますよ。前から思ってましたけど例の『アイス』の話になると鷲野さんは目の色が変わりますよね? 今回の事件と例の動画そして黒羽晴香の事件、この3つから黒羽真央以外の共通点を見出そうとしている事も━━」


「さすが東海林ちゃん、人のことをよく見てるね。あの動画と事件の被害者、そして『アイス』の件を調べて行けばその裏にある黒羽真央以外の何かが浮かび上がってくる筈だ......」


「それは一体どんな━━?」



 俺が東海林ちゃんにこっそり話そうとすると後ろから威圧感がある俺の大嫌いなヤツの気配を感じた━━。



「鷲野君、可愛い可愛い部下と一体なんの話をしているのかな━━?」



 聞き覚えのあるその不快な声に振り返ると俺の予想通りやはりアイツだった......。



「おやおや......お偉いさんの貴方が何故ここに━━」


「そこに転がってる首無し被害者は私の古くからの友人でね、こんな殺し方をした犯人を一友人としては許せないのだよ。そんな訳でこの捜査は私の部下達にさせるから君達はとっとと家に帰ってお茶でも飲んでてくれ」


「ほぉ......またそうやって内々に収めるんですか、どうやら海原は貴方達に対して重大な秘密を握ってたみたいですね。まさか......アプリで知り合った女性に性的暴行を加えた上、その子を『俺は警察官だ!』って脅して始末書でも書かせたのがバレたんですか?」


「ふん......一体なんの話だ?」



 そいつは俺の嫌味にも臆せず鼻で笑ってやり過ごし、不気味な顔で口を開く━━。 



「しかし相変わらず君の減らず口には感服するよ。まぁ良いさ......今の安定した生活が惜しければこの件はあまり詮索するな。それと君が過去の事件を無駄に嗅ぎ回っている事はこちらも把握しているんだ、本部に逆らってそんな事をしていればいつか可愛い部下諸共とんでもない目に遭うぞ? 精々事故・・には気をつけるんだな━━」


「はいはい気をつけますよ、ではお言葉に甘えて俺達はこれで......」



 事故ね......いよいよ脅しをかけてきやがったか......。

 上のコイツが出張って来たって事はこの山は確実に警察上層部に揉み消したい人間がいるって訳だ......なら余計に捜査はやめられないな。


 とりあえずこの場はヤツの言葉に従い俺と東海林ちゃんは現場を後にした━━。



「まさかあの人が現場に来るなんて......鷲野さんこれはどういう事でしょうか?」


「ああ、この事件には確実にヤバいナニカが眠ってる事が証明されたって事さ━━」



 俺はぼーっとしながらあの時一瞬見たイケメン高校生の顔を思い浮かべていた。

 アイツを見ていると動画で見た黒羽真央の顔を何故か思い出す━━。



「なぁ......あの動画で見た黒羽真央とイケメン君はなんとなく雰囲気が似ていると思わなかったか?」


「え? そうですか? 黒羽君は可愛い系で明星くんは正統派なクールイケメン系で正反対な気がしますけど......」


「いやそうじゃなくてさ、なんて言うのかな......ごめん言ってる俺も分からなくなってきた」


「ふふっ......変な人」



 しかし......あの動画を見てから感じるこの違和感はなんだ?

 馬鹿げた話だがもし仮に黒羽真央が人智を超越する力を持っているとすれば、ヤツはなんらかの方法で明星亜依羅にシェイプシフターしてるかもしれない......。


 それよりもアイツが一瞬見せた悲しい顔は俺にとって1番ショックだったな......。

 権力に逆らえない哀れな大人か......確かに俺は情けない男だ、あの日から結局今現在まで俺は何も出来ずに居るんだからな━━。









「ふん......窓際刑事の分際で相変わらず正義感だけは一丁前だったな。上に従わずに大人しくしてないから昔━━がああなったのがアイツは今でも分かってないのか......? やはり消すしか無いな━━」




*      *      *



 11:00PM、アイラの自宅にて━━。



「zzz......zzz......おにーちゃん......♡」


「コイツ......人のベッド奪っておきながら満足そうな顔で寝やがって......!」



 涼さんは体を大の字にして俺のベッドを占領し、口を半開きにしながら寝ていた━━。



「涼ちゃんやっと寝た、本当にこの人19歳とは思えないくらい奔放具合でびっくりだよネ。私より年上とは思えなイ......」


「ああ......ん? あれ? レイって今何歳?」


「17歳だけド......」


「それは7年前での年齢だろ? て事は今24歳じゃん、夏○純よりサバ読んでるぞ」


「ふーん......アイラはそういう事言うんダ━━」



 レイの目が怖くなると氷魔法を使ってないにも関わらず寒気がするくらい室温が下がり始める━━。

 そして俺の身体は金縛り状態でベッドに拘束された。



「zzz......ざごおにーちゃん......寒い......早く温めろぉ♡......zzz」



 涼さんが寒さを察知したのか寝ながら動けない俺の腕に抱きついてくる。

 その光景を見たレイは更に部屋の温度を下げていった━━。



「おおお落ち着け美人コンカフェ嬢! これ以上室温下げたら部屋が北極になっちまう!」


「大丈夫だよアイラ、これからワタシと2人で温まるんだから心配しないデ」


「変な意味に聞こえる事を言うんじゃありません! それと金縛り解いてくれ! ていうかお前......金縛りだけは反則だぞ!」


「大丈夫、終わったらすぐに解いてあげるかラ......♡」


 

 レイの顔はどんどんと俺の顔に近づき、俺の吐息がレイに掛かるくらいの距離までになった━━。



 ダメだ終わった......すみません次回からはpi○ivに投稿する事になるかもしれません━━。









 チュッ......。








「え......?」


「今日のお礼......♡」



 レイは俺の頬にキスをして少し顔を離した━━。



「あ......ありがとう。これはちょっと予想外だったよ━━」


「ふふっ......ワタシはアイラに何もしてあげてなかったからそのお礼をしたくテ......」



 レイはいつものヤンデレな態度は違い頬を染めて少し照れていた━━。


 そのギャップのある表情に邪な気持ちで襲って来たと思い込んでいた俺は逆に恥ずかしくなった......。



「そっか......でもレイはそんなに気を遣わなくてもいいんだよ? レイのお陰で今回の復讐は余計に火がついたから礼には及ばないさ。それにレイは俺の正体を知ってる数少ない1人だし孤独に戦うよりレイみたいな理解者が居てくれるだけで俺としてはありがたいんだ」


「そっか......嬉しイ。そうそう、今のキスで例の力がアイラも使えるようになったから今度使ってみてネ」


「えっ......! まさか自分からは触れるけど向こうからは任意でしか触らせない力の事!? これからたくさんの敵が出てきた時に役立ちそうだし凄い助かるよ━━!」


「うん、あとついでにワタシとテレパシー出来るようになったからそっちも使ってみテ......♡」



 テレパシーか......コレも使いこなせれば確実に便利だな、よし━━。



『Hey Rei。この辺りにおすすめのキャバクラはある?』


『すみません、よくわかりません。代わりに処刑場が2件見つかりました━━』


『めちゃめちゃ物騒! なんだ処刑場って逆にスゲーよ! あとその声やめて? 音声じゃなくて声になってるから』



 レイの声はいつもの可愛い声と違い、元万引き犯の男のような加工された低い声で俺の脳内に語り掛けてきていた。



『すみません、よく聞き取れませんでした━━』


『都合良い耳してんなぁ! もういいお前はここに居ろ、俺はリビングでエッチなDVD見てくる! お前らが住みついたお陰でこちとら最近ナニも出来てないんだ!』


『なら殺す......』


『そんなおっかない音声アシスタント居るか!? とりあえず使い方のコツは掴んだしそろそろ寝るわ━━』


『わかりました、ではよく寝れるように稲川○二の怪談ナイトを再生します。『ええっとですねぇ......これは━━』』


『止めろ止めろ止めろ! そんなもん余計寝れるワケねーだろ! ていうかなに幽霊が幽霊の話流そうとしてんだよそれなら稲川を経由せずに直接お前から話聞くわ!』



 レイの怪談話の所為で俺はめちゃめちゃ怖い話を思い出し、寝れない夜はまだまだ続いた━━。



『すみません、よく搾り取れませんでした......♡』

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