第49話 妹との別れ


「とりあえずレイの身体を探さないとな、ちょっと待ってて」



 俺は夜の湖に飛び込み湖底に手掛かりが無いか隈なく探す。

 すると湖底のヘドロに混じって錆びついた有刺鉄線とコンクリートの塊、そしてその中から肋骨と思われる骨の一部が見つかった。


 恐らく遺体がガスで浮いてこないように体を捌いた後、有刺鉄線で巻いてコンクリートで沈めたのだろう。

 しかしプロにしては少し杜撰だな......アスファルトに遺体を入れてDNAすら融解するくらいにして沈めると思ったんだが......海原父は金をケチったのか?

 

 俺は少し考えながら見つけた肋骨の一部を持ってレイの所へ戻った━━。



「どうだった?」


「多分これがレイの体の一部だと思う。骨は他に動物のモノしか見当たらなかったし━━」



 俺は綺麗に洗った肋骨をレイに渡す。



「そっか......ありがとう。人間って死ぬと最後はちっぽけなカルシウムになるんだね━━」


「まあな......そうだレイ、その骨があればDNAを基に体を修復出来るけどどうする?」



 俺の言葉にレイは少し考えたように下を向いて少し考える。

 そして何かを決意したように再び俺の方を向いた━━。



「......じゃあ身体は少しの間だけ保てれば良いからお願い出来る?」


「......そういう事ね......分かった。じゃあいくぞ......《サナーレアニマシオン》」



 俺が骨に手をかざすと緑色の光を放ちみるみる身体が形成されていき、光が収まると完全に修復された全裸のレイが宙に立った━━。



「よし......じゃあ俺の分身から離れてそっちに乗り換えてくれ。服はその後で分身のやつを着せるよ、流石に生まれたままの姿だと俺の鼻から赤い美容液が出る......」


「ふふっ......でもこの姿を見るのはこれで最後かも・・しれないのにアイラは本当に良いの?」


「ああ、見たい気持ちは山々だけど仕方ないさ......性描写アリのチェックが入ってないからな━━」


「......なんの話?」

 


 レイは俺の分身から元の身体に乗り移ると少し時間を置いて瞼が開き意識を取り戻す。

 そしてレイは手足を動かして自分の身体の感触を確かめていた━━。

 


「成功だな......7年ぶりに乗った愛車はどうだ?」


「うーん、なんか変な感じ。懐かしい感じはするけど......さっきの方がしっくり来るかな?」


「そりゃさっきまで乗ってたレンタカーは人殺すくらいハードな運転してたから嫌でもしっくりくるさ。それじゃお姉さんの所に行こうか、俺は元の姿に戻って気絶してるフリしとくからお気遣いなく━━」



 俺とレイは月野社長が眠っている車に移動してトランクを開けた━━。



*      *      *



「お姉ちゃん.....お姉ちゃん......」


「う.....ん......ここは......あれ......レイ......?」



 目を覚ました月野社長の前に7年前の姿でレイは現れた━━。

 


「久しぶり、お姉ちゃん......」


「零......? 本当に零なの.....!?」


「うん......本当の本当だよお姉ちゃん。また会えて嬉しいよ」


「......っ......零っ!」



 レイは姉の頬に手を当てる。

 その手の温もりを感じた姉は堰を切ったように大粒の涙を流し始めた━━。



「零......会いたかった......会いたかったよぉ......」


「ごめんねお姉ちゃん今まで心配かけて......ワタシもずっと会いたかったよ......」



 レイも大粒の涙を流しながら7年分の想いを込めて姉を強く抱きしめた。

 やっぱり家族って良いよな......再会できた二人が羨ましいよ━━。



「零ごめんなさい......お姉ちゃんずっと貴女の事探してたんだけど見つけられなくて......。でもどうしてここに......? まさか......」


「うん......ワタシは七年の間ずっとあの湖に居たの━━」



 悲しそうに湖へ指を差すレイに社長は何が起きたかを悟り、顔を歪めて溢れんばかりの涙を流し始めた━━。



「そんな......じゃあ零は......」


「うん......七年前.....お姉ちゃんと電話で喧嘩したあの日の夜、ワタシはあそこに沈められたんだ━━」


「そんな......っ......うぅっ......」



 レイの口から真実を聞いた社長は思わず顔を手で塞ぐ。

 

 姉としてはやりきれないだろう......生きていると信じてずっと探していた妹は既に誰かの手によって無惨にも殺されていたんだから......。

 そんな社長の気持ちを考えると俺まで胸が張り裂けそうになる━━。



「......私のせいだ......。私があの電話でもっとちゃんと貴女を引き留めてあげていられたら......っ......ごめんなさい零......本当にごめんなさい......!」



 社長はレイに縋り付くように膝から崩れ落ちながらレイに謝罪を繰り返した。



「お姉ちゃんは悪くないよ。ワタシが世間知らずだった所為でお姉ちゃんの忠告を無視してあんな仕事だとは知らずに部屋に行ってしまったのが悪いの......。本当にごめんなさい......」


「ううん......貴女は何も悪くない、『姉ちゃんが一人で働いて大変だから私が支える』っていつも言ってくれてたじゃない。私の負担を少しでも軽くするために色んな仕事を受けようとしてくれてたのも全部知ってる......そんな妹を責める権利なんて誰にも無いよ......」



 レイ達も姉妹二人だけで支え合って生きてきたんだ。

 一人で頑張る姉のために少しでも役に立とうと仕事を受けてたらクソ野郎に目をつけられて最後は殺されたワケか......。

 そしてそのクソ野郎はついさっきまでヘラヘラのうのうと生きていやがった......やっぱりこの世に神なんて大それたモノは存在しないな━━。



「ありがとう......ワタシはずっとあの時の事を謝りたくて......お姉ちゃんは何も悪く無いよってどうしても伝えたくて戻ってきたんだ━━」


「っ......私もあの時の事を貴女に謝りたくて......会いにきてくれてありがとう......。でもまさか殺されてたなんて......零を殺した奴を必ず見つけ出して私は絶対に仇を取るから......!」


「ううん、それはもう大丈夫。仇はある人が討ってくれたんだ......ほらあれを見て━━」


「えっ? あれは......!」



 レイによって湖面に光が照らされ、海原親子の残骸と呼べるモノが姉の目に入った。



「ワタシの仇......さっき地獄に行くのを見届けたよ。だからお姉ちゃんはこれから安心して自分自身の人生を生きるんだよ......」


「うん......約束する......。零も......安心して天国で見ていてね」


「うん! じゃあワタシ......そろそろ行くね。お姉ちゃんはこっちにはなるべく遅く来るんだよ? 約束だからね?」


「それも約束する......。またね零......いつか必ず会いに行くから━━!」


「うん! 楽しみに待ってる......! じゃあバイバイ......!」



 姉に最後の笑顔を見せたレイは体から光を放ちながら天へと最後昇っていった......。



「最後まで強がっちゃったよ私......っ......本当はもっと色んな事を話したかったのになぁ......。でもなんでかな......零にはまたすぐ会える気がする━━」



*      *      *



「明星君......起きて......」


「んん......あれ......月野社長......此処は一体......?」


「此処は廃病院近くの湖よ。私達海原に誘拐されて事故に遭ったみたい」


「そうですか......いててて......。体がアザになってる━━」



 俺は迫真の演技で寝たふり行った上で肌の色を所々紫に変えて痛いフリをした。



「ぶつかった衝撃で痛めたのね......。でも私が無傷なのはなんでだろう?」


「ホントだ......なんか奇跡・・でも起きたんじゃないんですかね?」


「奇跡か......確かにそうかもね━━」



 月野社長は奇跡という言葉に反応して手に握っていた何かを再びぎゅっと握りしめていた━━。



「それよりこれからどうします? ココは寒いし早く帰りたいですよね」


「そうね......とりあえずあの遺体を見たからには警察に通報しないと━━」


「えっ......? うわっ! なんだあれ! たたたたたた確かに通報した方が良さそうですね......」



 警察か......まあ仕方ない、このまま家に帰って通報しない方がバレた時に厄介だからな。


 社長が警察に電話するとその場で待機してくれと言われたので俺は自分が着ていた服を社長に羽織らせる。

 そしてそこらへんの木と葉っぱを用意して自力で火を着けました......という程を装って火魔法でそれらを燃やした。



「おぉ......明星君て見かけによらず意外にサバイバーなことも出来るんだね」


「はい、前に世界66カ国を一人旅した時に覚えましたよ」


「明星君.....いつの間にナ○トイン○ィライミみたいなことしてたの......? その話嘘でしょ?」


「......嘘です......」



 通報から数十分が経過し、ゾロゾロとパトカーが林道に集まってきた。



「ふぅ.....結構遠かったな此処は。そうだ、ライトは持ってきてるか?」


「持ってきてますよぉ、そんな事よりこの荷物少しは持ってくださいよぉ!」


「いだだだだだっ! すまん! なんか突然肩が重くなっ目四十肩になっちまった! 幽霊でも居るのかな!?」


「最っ低! くだらない嘘言ってないでさっさとコレ持ってくださいよ鷲野さん!」



 何人かの警察官に紛れて現れたのはあの鷲野獅郎イケオジ刑事東海林さん美人刑事の二人だった━━。



「おやおや? 君は超絶イケメン高校生の明星君じゃないか。こんな所で一体何してるんだ? まさかこの年上美人をナンパしてたのか?」


「はぁ......今夜は長い夜になりそうだ......」

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