第46話 真の変態


 俺は放課後ゆーちんとムーンバックスコーヒーに寄り、

他愛もない会話をしていると辺りはすっかり暗くなっていた━━。



「じゃあまたねアイラ、今度ViTuberの月村きんせいさんとコラボすることになったからその時も出演よろしくね」


「ViTuber? 男の僕とコラボしたらその人大炎上しない? もうガソリン役はうんざりだよ」


「大丈夫。アイラは確かにイケメンだけどイロモノキャラで男女共に人気あるから簡単には叩かれないよ。それにそもそもアイラ自身がViTuberに興味無いでしょ?」


「無いね。それ見るくらいならア○ギフ配ってる脱毛エステの広告見るもん」


「そういう食わず嫌いだからアイラはダメなの、今やViTuberって言うのは一大人気コンテンツなのよ? それにコラボは上手くいけばお互いのファンがお互いのチャンネルを注目してくれてファン獲得に繋がるかもしれないから大事なことなの。だからしっかりとよろしくね」


「はいはいわかったよ。ていうかそういう場合撮影はどうやんの?」


「Vituberの人はスタジオでモーションキャプチャー用の服を着て私たちがそこに生身でお邪魔する感じかな?」


「へぇー、それでカメラには2次元と僕達3次元両方が映るのかすげぇな......」


「凄いでしょ? じゃあまたよろしくね。日程が近くなったら改めてその連絡はするから」


「了解、じゃあまたな」



 俺はゆーちんと別れた後いつものように帰る。

 そして近道のため人通りの少ない路地を抜けようとするとそこには━━。



「待ってたよクソガキ......よくも俺の息子を痛めつけてくれたな」



 高級そうなデカいSUVから降りて話しかけて来たのはハゲの海原社長と体を引きずりながら歩く息子だった━━。



「痛めつける? 息子さんが僕の投げたボールに勝手にぶつかって来たんですよ、それに子供同士の事に親が首突っ込むのは野暮ってもんでしょ。そんなに過保護だからあんな投球で低い鼻と歯が折れるカルシウム不足な体になったんじゃないんですか?」


「明星テメェ......! 舐めてんのか!」


「まあ落ち着け清史楼。コイツはこの後トランクに居る女と共に死ぬんだから好きに言わせておけば良い━━」



 海原がトランクを開けて俺に見せて来たのは手足を縛られて気絶している月野社長だった。


 そして海原はスーツの内側から先端に消音器がついた小さな拳銃を取り出して月野社長に構える。



「お前が下手に動いた瞬間この女を殺す。大人しく頭に手を乗せるんだ」


「おいおいそんなちっちゃな銃でダブルオーセ○ンは一体何しようってんだ? 彼女はミス・マ○ーペニーじゃないよ」


「黙れ! その減らず口で次喋ったら女を殺すぞ......お前の大事な社長なんだろ? 大人しく従うんだ━━」


「はいはいわかったよ......」



 俺は言われるがまま頭を手に乗せた瞬間━━。



 バスッバスッ━━!



 俺は腕と足を銃で撃たれその場で倒れた。



「バカガキが......これは息子を傷つけた分だ!」


「ざまあみろ明星。俺に逆らうからこうなるんだ、父さん早くコイツを仕舞おうぜ!」


 

 倒れた俺を2人は抱えて月野社長と同じトランクに詰め込み、俺の手足を縛ってトランクを閉めた。



「さて清史楼を家に送り届けたら2人を侠道会に運ぶか......」



 車は俺達を乗せて狭い路地から幹線道路へと抜けていった━━。



*      *      *



 車内のトランクにて━━。



「......僕の演技はアカデミー賞モノだな━━」



 あんなハンドガンおもちゃの銃で俺が気絶したと勘違いするなんてバカにも程がある。

 しかし月野社長が誘拐されていたとは......俺にとっちゃわざわざ呼び出さなくて良かったからラッキーだったけど相変わらず汚い手を使いやがる。



「とりあえずスペシャルゲストを呼びに行くか」



 俺はすぐに手足の縄を風魔法で切断して転移魔法を使い一旦家に帰った━━。



「あらおかえりなさイ」


「おかえりおにーちゃん♡」


「ただいま、早速だがレイは僕と来てくれ。いよいよヤツを始末する時が来た━━」


「......わかっタ! 一緒にイク!」


「え!? おにーちゃん涼もいきたい♡」


「ごめん今回は2人で行かなきゃいけないんだ、だからロリコラボは次回に持ち越しでよろしく。涼さんには組織壊滅の時に活躍してもらいたいからね」


「わかったよぉ......でも大丈夫? おにーちゃんはベッドの上だとよわよわなへんたいぢゃん♡。 あっすまない! また言葉が勝手に......!」


「おい、誤解招くようなこと言うな。そっちが勝手にソファから移動して僕のベッドを植民地にしてきただけじゃねーか! それとその二重人格にももう慣れたよ......じゃあ行ってくる」


「じゃあね涼ちゃン。ご飯は冷蔵庫にあるから食べてネ」


「はぁーい♡」

 


 俺とレイは転移魔法で再びあの車のトランクに乗り車が人気のない山道に入るのを待ち、対向車が消えた瞬間━━。



「《転移魔法メタスターシス》」


「なっ! 何だこれは!!」



 車の前方には俺がわざとらしく生成した巨大な魔法陣と真っ黒な空間が展開され、車は為す術も無くそこへ突っ込んで行く。



「クソッ! 足が勝手にアクセルを! うわああああああっ!」



 シュワン......。



 海原の体を操りアクセルをフルスロットルさせた俺は魔法陣に入った後、月野社長の身体にダメージが入らないように球体状のバリアで彼女を包み込む。

 中でぷかぷかと浮いて寝ている月野社長はまだレイの存在に気が付かないままだった━━。



「お姉ちゃン......」


「レイのお姉ちゃんは必ず守る。見てろよレイ......まず始めに今バカ面してワイ○ドスピードしてるハゲにはこの後不運な交通事故に遭ってもらう━━」



 俺は転移魔法を解除すると車は真っ暗な空間から切り抜けた。



「一体何だったんだ今のは......うわああああっ!」



 驚く海原の目の前に現れた道路は砂利道の林道で、前方には大木が聳え立っており車はそこに向かって更に加速していく━━。



「クソォ! 何で足がペダルから離れないんだ! 止まれ......止まれぇぇぇっ!」


「父さん......? 父さぁぁぁぁんっ!」



 ガシャァァァンッ━━!



 海原の懸命なロック寸前のシビアなハードブレーキングも虚しく車は全速力でその大木に突っ込み、フロントが完全に大破した状態で停止した。



「ふぅ......まるでド○ンパみたいな衝撃だったなレイ。僕の首の骨折れてない? 営業停止とかにならない?」


「大丈夫ピンピンしてル。それよりお姉ちゃんは大丈夫?」


「大丈夫、バリアでガッツリ守ったから今もぐっすり寝てるでしょ?」


「ホントだ、いつもみたいに口が半開きになって寝てル。久々に見たなぁお姉ちゃんの寝顔......」


「そっか......」



 俺はトランクから脱出して運転席へと向かうとそこには時速60kmで大木へ突っ込み、エアバッグに守られた海原親子が顔から血を流し意識を失っていた━━。



「ありゃりゃ......こりゃ板金7万円コースか? さっさと免許返納しないからブレーキ踏み間違えてコンビニ・・・・に突っ込むんだよおじーちゃん。さて始めるか━━」



 俺は奴らに復讐を開始するため、いつも通り準備を始めた━━。



*      *      *



「んん......ここは」


「......おはようございまーす海原社長━━」


「貴様......! 銃で撃たれたのに何故そんなピンピンしてやがる......! それにここは.......イ゛ッ゛テ゛ェ゛ェ゛ッ゛!」



 海原親子はそれぞれ木で作られた十字架に磔にされていて手足には太い釘が刺さり、その上有刺鉄線で頑丈に縛られて手足は鬱血していた。


 そしてその木からは血が滴り、湖に一滴一滴垂れては滲んでを繰り返している━━。



「僕はプレイでも私生活・・・でも縛られるのが嫌いでね、僕を縛ったアンタにも同じ目に合わせたくなったんだよ」


「くそぉ......それにここは......一体どういう事だ!?」


「おや? ココに見覚えないですか? さすがボケ老人は記憶容量も少ないときた。ここは有名な心霊スポット廃病院近くの湖ですよ、アンタが7年前月野レイ・・・・を殺害した後に彼女を沈めた場所だ━━」


「何......!?」



 そう、俺が今立っている場所は月野レイの体が今も沈んでいる小さな湖のド真ん中だった。

 俺はそんな場所に木魔法で精製した木を湖底までブッ刺して固定し、2人を縛り付けていたのだ━━。



「そんな......俺は何もしていない! 何かの勘違いだ! そもそもお前にその話は関係ないだろ!? それよりお前......こんな湖の上なのに一体どうやって直立してるんだ......正体は化け物か......!?」


「ああコレね、米の代わりにオートミール食ってるからそのダイエット効果が現れたのさ。さて、あなたがこの泉に落としたのは金野きんのレイですか銀野ぎんのレイですか? それとも過去にアンタの事務所にアイドルとして所属し、最終的にヤクザや裏風俗へ別の意味で沈めようとした月野レイですか?」


「なっ......!」



 パチンッ━━!



 俺が指を鳴らして湖から浮かび上がらせたのは金と銀の細剣レイピアとバリアに守られた月野レイだった。


 レイには細工を施していてレイそっくりの分身を俺が作り、そこに憑依して貰い肉体を操っていた。



「お前......何故ここに......あの時死んだはずでは......!」


「アンタを殺すために蘇ったんダ......絶対に許さなイ......」


「.......んん......父さん......ここは一体.......ウ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」


「海原jr君おはよう、いい発声だ。地獄で神木○之介手と組んでヘビメタのボーカルでも目指しなよ」


「清史楼っ!」


「父さんっ! 明星お前ぇっ......!」


「おーおー随分活きがいいねこの魚は。まあ君はこれからシャケ役として熊役の僕に食われるから心配すんな」


「何だと......それよりお前水の上なのにどうやって......人間じゃないのか......!?」


「その話はさっき君のソウルメイトに話したばかりだから上スクロールして読み直してくれ。まあスクロールする手が動けばの話だけどな」


「クソォァッ! 父さん! いつもみたいに何とかしてくれよ!」


「ほら、何とかしてやれよソウルメイ父さん。ついでにお前が過去に犯した罪を息子の前で告白しろ、しなければ喋る口が2度と肺呼吸出来なくなるぞ━━」



 俺は海原父に脅しをかけるため、鉄魔法で手にいっぱい生成したカミソリの刃を口に入れようとする━━。



「わかったよ! 話す......話すからそんなモノ入れないでくれ......!」


「よしじゃあカメラ回すからそこに向かって話せ......もちろん事細かくだよ? もし事実と違うことを言ったら━━」


「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ━━!」



 俺は縛っているオデコの上辺りをピーラーのようにカミソリで削いでいく━━。



「レイとタッグを組んでお前の神々しく光った頭頂部から桂剥きにしてやる。さあ話せ━━」



 海原父は観念したようにポツポツと口を開く。



「ぉれは......」


「レイ、その手に持ってるレイピア貸してくれ......」


「うン......」



 グサッ......!



「ク゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!」


「声が小さいよ、こっちは音声さんがよく持ってる物干し竿みたいなマイクを持ってないんだ。次は歌のお○さんみたいに大きな声でハキハキ話してくれよ? ちゃんとその時の感情も込めてな━━」


「うぅ......くっ......!」



 海原父は大きな口を開けて話し始めた━━。



「私、海原智博ともひろは! 7年前月野レイさんを現在民誠党政調会長である大葉光一おおばこういち氏と飛美侠道会本部長━━キ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」


「このハゲぇぇぇっ!! ちーがーうだーろーっ! 違うだろーォッ!! 違うだろぉぉっ!!! オホンッ......冗談はさておき嘘はダメだよチミ、毛根と共に記憶力も抜け落ちたのか? 本部長じゃないでしょ? お友達は飛美侠道会会長の田所真たどころまことちゃんでしょ?」


「な......何故それを......!」


「それくらいタウンページを開けば誰でも分かるるさ。飛美侠道会の飛美たかみは本来は『たかみ』と読むのではなく会長の娘と名前と同じ『飛美あすみ』って呼ぶのが正しいこともな━━」


「そんな......」


「さあ早く言え、アンタに真実の真ちゃんを言う以外の選択肢は無いんだよ。TAKE3だなんて......どっかの一発で歌歌う動画の歌手を見習ってくれよ。喋る前に深呼吸して『こんな湖の真ん中に呼んで頂きありがとうございます。やっぱり緊張しますね......』的なコメントも残してさ」



 海原は完全に観念したのかガックリと首を下げた後、再びカメラ目線になる━━。



「レイは耳を塞いでくれ。こんなクソみたいな思い出をわざわざ思い返すことはないんだ━━」


「嫌......! 私は本人の口から聞いてこの後の復讐の糧にすル......」


「そうか......わかった。でも辛くなったら言ってくれ」


「うん......わかっタ」


「さあ言え、悪魔の顔も3度までだ━━」



 俺の言葉を聞いた後、海原は大きく口を開けて大きな声で話し始めた━━。



「こんな湖の真ん中に呼んで頂きありがとうございます! 私、海原智博ともひろは7年前月野レイさんを現在民誠党政調会長である大葉光一氏と、飛美侠道会会長である田所真氏の両名に今後もより太いパイプを持とうと月野レイさんに性行為アリの枕営業を持ちかけました!」


 

 冷や汗をダラダラを流しながら海原父は一呼吸置き、再び話を始める━━。



「そして私は! その営業前に当時17歳だった月野レイの味見をしたくて横浜の高級ホテルに呼び出し彼女の豊満なおっぱいと白い肌、涎をかけたくなるほど綺麗な黒髪を堪能しようとしました! しかしそうなる直前、部屋で彼女に拒否をされてしまい私は力づくで彼女が着ていたワンピースをビリビリに破き、ビンタを数発喰らわしてテーブルにあった果物ナイフで何ヶ所か軽く切って脅しを掛けてレイプしようとしました! その時の彼女の悲しそうな絶望に満ちた美しい顔に今までの人生で一番興奮していたのですが彼女に隙をつかれて逃げられそうになり、果物ナイフで滅多刺しにして殺しました! 死ぬ寸前の顔が妙にエロくて今でも夢に出てきます! その後飛美侠道会に金を払って頼み込み、一緒にこの湖に運び死体が浮いてこないように湖底に沈めました!」



 ピッ......。



「よし、言質は取れたな。しかしアンタこんな場面でも胸の事をおっぱいっていうタイプか......それに死にそうな人を助けないで興奮して殺すとか最高に気持ち悪いよ......」


「こんなクズに私は殺されたって改めて思えたヨ。喜んでこれからコイツを嬲り殺せル......」



 レイは海原の首元にレイピアを構えて脅しを掛ける。

 その顔は俺と同じ悪魔のような顔をしていた━━。



「父さん......」


「ほら見てみろ、愛しの息子もアンタの性癖にドン引きだよ。親父が隠し持ってたエッチなDVDを押し入れから発見した時よりドン引いてるぞ」


「クソッ......! さあ本当のことは言った.....! 俺を解放しろ!」


「おいおい何寝ぼけてんだ? アンタのFI○ST TAKEはこれからが本番だよ。一発撮りだからヤラセは一切無し、セーフモードオンじゃ視聴出来ない方法で殺してやるさ━━」

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