第45話 先ずはお遊び程度の返り討ち

 翌日━━


 俺は昨日の件について何事も無かったように学校へ向かい、いつも通り教室の前にたどり着く。



「昨日は結局レイと涼さんの抗争がうるさ過ぎてまともに寝れなかったな......」



俺はあくびをしながら教室に入るとゆーちんがこっちを向いてやってきた━━。



「おはようアイラ、昨日はお疲れ様。随分眠そうだけどどうした?」


「おはよう。昨日はX-○ENvs伽○子の4D・・映画を夜中ぶっ通しで見てたんだよ。今日の授業は超熟睡しようかな......」


「そんなの見てるから寝不足になるんだよ。それに今日は他クラスと合同の体力テストと身体測定が午前中あるんだから寝れないよ?」


「あ、忘れてた......。今日はサボって家でセッ○ス・アンド・ザ・シティでも観てれば良かったよ━━」


「は? 何それ? そう言えばアイラって運動神経良いの? 意外と悪かったりして......ぷぷっ」


「舐めんなよ、僕がやったらワールドレコードだらけでギネスに載るぞ。特にシャトルランなんて往復し過ぎて数を数えてるお姉さんの声が先に枯れるよ」


「何言ってんの? アレは別にライブ演奏してる訳じゃないから」


「なんだって!? どっかのシンガーソングライターみたいにアコースティックギター弾いてライブしてんのかと思ったよ。いや......あの人ライブで歌歌ってなかったわ」


「やめなさい。そんな事より昨日の夜は誰かに襲われたりしなかった?」


「うん、黒ギャルお姉さんに逆ナンされたくらいかな」


「ふーん、本当にナンパされに行ったんだ......」



 ゆーちんの目のハイライトが消えて下を向く。

 その雰囲気は誰かに取り憑いているどっかのお化けそっくりに見えた━━。

 これ以上踏み込むと死ぬな......俺......。



「嘘です見栄を張りました。そしてそのおっかない写○眼で僕を見るのは怖いのでやめて欲しいです......」


「冗談よ、シーフィールドの社長をあんなに煽ったからその後の事が心配だったの。特にアイラが学校生活でアイツの息子に何かされるんじゃないかって思っちゃって......」


「大丈夫でしょ、流石に学校生活で━━」


「おい......! 今日明星は来てるのか......?」



 俺達の教室に入ってきたのは2人で噂をしていた海原本人だった━━。



*      *      *



「明星......お前......」



 俺を観た海原の顔は少し青くなっていた。

 どうやら昨日で俺が死んだと思ってその確認に来たのだろう━━。



「おはよう海原くん。死人でも見る顔して一体どうした?」


「いや......なんでもない」


「なら何の用かな、もしかして童貞卒業の報告でもしに来たのか? でもそれにしては爪が伸びてるな......傷つけるからしっかり切らないとダメだよ?」


「うるせぇ! お前後で覚えてろよ......今日の体力テストでお前に━━!」



 ドンッ━━!


 海原は怒りながら俺の机を蹴って教室を後にした。



「あーあ怒っちゃったよ、あのリアクションじゃあまだチェリ原君だな━━」


「ふふっ......アイラだって童貞のくせに......」


「そりゃそうさ、今の時代同意書が無いと後で訴えられる可能性があるからな。リスクヘッジの為に童貞で生きる方が賢いんだよ」


「そんな屁理屈で童貞のまま居ようとする男子高校生なんて存在しないよ......」


「はい皆んな席について、HRを始めるよー」



 そしてHRを終えた俺たちは体操着に着替えて校庭へ向かった━━。



*      *      *



 集められた俺達が最初にやる事になったのは50m走だった。

 この身体になって最初の頃は力加減が分からなくて忍足で歩いたりしてたが今はもう加減が分かってきたからそつなく走れるはず......。

 とにかく変に目を付けられるワケにはいかない......冷静に事を済ませるんだ。



「よお明星......さっきは悪かったな、俺はお前が元気・・かどうか気になってたんだ。この50m走一緒に走るからよろしくなぁ」



 ニヤニヤしながら隣に来たのは朝生存確認をしてきた海原だった。



「アイラ頑張ってー!」


「ひゅー! イケメンアイラが走るぞ!」


「アイラ君頑張って!」



 俺達が走るスタートラインの両脇には先に走り終えたゆーちんや司、龍崎さんや万季が応援に来ていた。

 そしてクラスメイトがスターターの合図を開始する━━。


「位置について! よーい......ドンッ!」



 俺達は一斉に走り出す。

 そしてスタートから10mほど進んだところで隣に居るのは海原1人だった。


 このペースなら6秒後半ってとこか......とりあえず無難に済ませるんだ━━!


 俺の進む足は真央の体の時と比べると比べ物にならないくらいのレベルで羽根のように軽く、少し力を入れるだけで残りの40mなんか一歩踏み込めば飛んで行ける勢いだった。


 そして隣の海原が苦しい表情を浮かべながら俺と並び、ゴールまで残り25mを切った━━。



「明星......そのルックスに加えてこの足の速さか......余計にムカつくぜ。俺の視界から消してやる━━!」


「いや、真剣に走れよドラ息子。スキル発揮してゴールド○ップみたいに終盤で追い込む算段か? ケツに尻尾生やしてから出直すんだな━━」


「チッ......相変わらず飄々としやがって......! お前のアキレス腱を切って松葉杖生活にしてやる━━!」



 海原は少し俺の方へ走行ラインをズラして走り、俺の踵の上を思いっきり踏みつける為に海原は足を踏み込んだ━━。



「死ねっ......!」



 ヒュンッ━━!



「何っ......!?」



 俺はその気配を察知して一瞬だけ足に力を入れて宙に浮き、アキレス腱を狙った姑息な攻撃を軽く躱した。



「悪く思うなよ海原君、僕の走行ラインは空中に描くラインだ。この跳躍力だからこそ実現する正に掟破りの校庭走りだ━━!」



 ドスッドスッ━━! ズシャァァッ......!


 俺は跳躍した勢いで海原の足と腰を葡萄酒を作る時のように丁寧に踏みつけた。



「ぐあぁぁっ......! いってぇぇぇっ......!」


「策士は策に溺れんなよ。次は足をキャタピラにでも改造して出直すんだな」



 俺は事故に見せかけて海原を踏みつけた後、とぼけながら何事も無かったようにそのまま50mを走り抜けた。



「海原! 大丈夫か!」



 体育教師は俺に踏まれてぶっ倒れている海原の元へ向かい安否を確認していた。


 

「うう......くそ......痛え......!」


「大丈夫か海原......! 明星何があった!?」


「そこでネイ○ールみたいに痛がってる奴が僕の足を引っ掛けようとしたんですよ。それを避けたら誤って踏んじゃいました」



「何!? それは本当か海原!」


「違います! コイツが俺の足をワザと!」


「そうなのか明星......!?」



 海原が自己弁護をしているとゆーちんと龍崎さんが先生の方に寄ってきて海原を指差しながら異議を唱えた。



「それは違います先生。私達ちゃんと観てましたが海原君はワザと明星君の足を蹴ろうとしてたんです。それを避けた明星君がアクシデントで海原君を踏んでしまったんです」


「その通りです、多分海原君はアイラに負けそうなのを察して汚い手を使ったんでしょう。他の子も見ていたので一人一人に話を聞きましょうか?」


「そうか......海原も明星も気をつけろよ。海原立てるか?」



 立てるだろ、別に本気で踏んだワケじゃ無いんだ。

 本気で踏んでたら海原はそこでユッケになってたよ━━。



「いてててて......なんとか......」



 俺の予想通り海原は先生に寄りかかりながら立ち上がりハンドボール投げの場所近くのベンチに座る。



「先生、僕のタイムはどうでした?」


「明星━━」



 先生は少し困惑したような顔をしてタイムを記載してるバインダーを覗く。



「まさか、また僕何かやっちゃいました(^^;?」












「いや、今のタイム8.6秒だよ......」


「え......」



 それを聞いたゆーちんはゲラゲラ笑いながら俺の肩に手を乗せた。



「あはははははっ! あんな大見得切っといて8.6秒!? 明星君はアレかな? 小学校低学年しかいない世界線でワールドレコードを残そうとしたのかな?」


「うるせぇ! この走行ラインに溝でもあればそれに引っ掛けて俺はもっと速く走れたんだよ!」



 チクショウ痛いとこつきやがって! 大恥かいちまったよっ! コイツもロリにして文字通り低学年しかいない世界線にしてやろうか......いや辞めとこう、それじゃただの変態だ。俺はどちらかと言えば年上のOLでバリバリ仕事しててクールだけど家に帰ると甘々なギャップ溢れるお姉さんがタイプなんだ━━。



「そんなワケ分かんない言い訳は要らないからね? しかしウケるぅ! 次ハンドボール投げはしっかり頼むわよ? ははははっ!」



 俺はイライラしながらハンドボール投げの場所に向かった。



*      *      *



 ハンドボール投げでは先に投げた人のボールを捕まえる為、俺はラインが書かれた場所でボーっとしていたが━━。



「明星っ!」



 投げたモブクラスメイトのボールが俺の顔面に思い切り向かってきた。



 バチンッ━━!



「全く......暴投は無しだよモビー君」


「す......すげぇ......」



 俺はそのボールを片手で受け止め下に落とした。

 

 するとモブは俺にバツの悪い顔をして近づく━━。


「悪いな明星......俺実は今海原に妹の事で脅されてて......」


「そんな事だろうと思ったよ気にすんなって。それより軽くアイツに復讐したくねーか?」


「えっ!? お前何言って.....」


「だってこのままじゃ今俺をヤれなかった事を後で咎められるぞ? それよりここで俺がお前の分まで軽く復讐してヘイトを俺に向けてやるよ━━」


「あ......ありがとうな明星......。今度妹と一緒にムーンバックス奢るわ」


「オーケー交渉成立だな」


「次! 明星!」



 俺はボールを持って計測場所に着く。



「おりゃあああああっ!」



 ヒュンッ━━!



「おおー! ......んん?」



 クラスメイトの疑問の声と共にボールはあらぬ方向に飛んで落下した。



「ははははっ! 明星OBもいいとこだぞ!?」


「アイラ......もしかしてマジに運動音痴!?」


「うるせぇ! 見てろよゆーちん!」


 みんな俺の運動音痴にノッてきたな......さて始めるか。

 

 俺はさっきよりも少し強めに投げた━━。



 ヒュンッ━━!



「アイツすげぇ......! とんでもない勢いで投げやがった! ってアレ......?」



 バゴォォォンッ━━!



「うぼべっ......!」



俺の投げたボールはベンチで座っていた海原の顔面に思いっきり当たり、何本かの歯と鼻血を撒き散らしながらふっ飛んで近くに立っていた野球ネットのポールに叩きつけられた。



「あーあ抜けた歯は富田歯科医院でインプラントして貰わないと一生入れ歯生活だな。医院長と息子は死んで居ないけど......」


「海原あぁぁぁっ!」



 再び先生は海原に走って駆け寄り、気絶している海原を保健室に運んで行った。



「アイラ......あんた......」



 これこそがまた僕何かやっちゃいました状態か!? 確かにアイツの顔面は今ギャグ漫画みたいなことになってるもんな......。



「なんだゆーちん俺の強肩にビビった? それで記録は幾つだった?」


「いや.....ライン内に収まってないから0mだよ」


「えっ......」



 俺の体力テストは海原を犠牲にした結果、散々な記録となって終了を迎えた━━。



*      *      *


1:00PM、保険医不在の保健室にて━━



「み゛よ゛せ゛......! ふ゛ち゛こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛!」


「清史楼! 大丈夫か!?」


「と゛お゛さ゛ん゛!」


「何があった!?」


「明星にやられたんだ! アイツ......生きてやがったんだよ!」


「ああ知ってる! 侠道会の連中にその件で今脅しかけられてんだ!」


「なんだって!? それじゃこの後どうするんだよ!」


「大丈夫だ......! お前をこんな目に合わせたアイツを父さんは絶対許さない! アイツを誘拐して侠道会の元に連れて行き、俺達の無実を証明した後直々に始末してやる━━!」



 俺はそんな思惑を知らないまま放課後を迎えた━━。

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