第35話 棚からぼたもち


 警察署内1Fにて━━



「臓器が無くなる事件か......宗教施設爆発が起きたばかりだろ? 全くおっかない事件が続くよなぁ」


「確かにここ最近変な事件が色々起きてて俺たちも忙しいよな、犯人が自首でもしてくれればこっちは捜査の手間が省けて助かるんだが......。それよりそのドーナツ俺にもくれよ!」


「馬鹿野郎、このポン・デ・○ングは俺のもんだ。お前はオールド○ッションでも食って口の中をパサつかせとけ」


「おいおいオール○ファッションをバカにするなよ? あのしつこさとカロリー重めな感じが愛情の重いメンヘラ女みたいで堪らないんだ」


「お前変態かよ......さてそろそろ巡回に出るぞ」


「えー......俺今から月村きんせいの配信見たいんだけど」


「は? 誰だそれ!? お前はラ○チューンでも見てろ!」



 ウィーン......。



「すみません......」


「どうされました? 免許の再発行でしたら受付は明日になりますよ」


「違います。私はとある殺人事件の犯人として出頭しにきました━━」


「え......はい? アナタお名前は......?」




「私は......秋山恭子と言います」


「秋山さんですか......担当の者に代わりますので私と一緒にコチラに来てください」



 俺は秋山恭子の姿で取り調室に入り取り調べの担当を待った。



「貴女が秋山さんですね、私は五味と申します━━」


「っ......!」













 俺の目の前に現れたのは俺の母親が死んだ時に俺を取り調べたあの時の警官だった━━。



「よろしくお願いします......」



 取り調べ室に案内された俺は五味という男と書記を務める男の合計三人が部屋に入る。

 するとタイミングを測ったように五味という男は書記の警察官に声をかけた。


「......そうだ俺の上司がさっき別の補助者に変えるって言ってたから君は一旦戻ってくれないか?」


「え? でもその間貴方は一人で━━」


「大丈夫、普通に考えて自首してきた人間が俺に何かするわけないだろ? 代わりが来る少しの間だけだし俺に任せろ」


「はぁ......分かりました」



 補助の男は五味に促され取り調べ室を出る。

 その瞬間に俺はバリアを部屋に張り全てが漏れないように細工すると、男を見送った五味はこっちに振り返り怒りの形相で俺を問い詰めた。



「おいお前どういうつもりだ!? こっちは上からのお達しでお前が組織の指示でやってきた事を揉み消してたんだぞ? そんなお前が何勝手に自首してんだ! 消されたいのか!?」



 どういう事だ......警察の上の連中と秋山のバックにいる飛美侠道会はやはり繋がっているのか?


 ここは深く掘り下げてみよう━━。



「ごめんなさい......でもそれ以上危険なモノに私は命を狙われたの。あんな悪魔に殺されるより貴方たちの手で殺された方がまだマシよ━━」


「悪魔だって? どういう事だ......狙ってるのは海外マフィアか? それとも過激派組織か?」


「違うわよ、この件を話すには人に知られるわけにはいかない。ここって録画とか録音はされてる?」


「大丈夫だ、この取調室だけ・・はそんな物ないよ。防音効果もバッチリだ」


「なら話す......貴方は黒羽真央っていう男を知ってる?」


「知ってるも何もあの件のガキだろ? 俺に詳しい情報が降りてこなかったからあの件の詳細はよく知らんが間違いなく俺が昔事情聴取したガキの名前だよ」


「......その黒羽真央の名を騙った1人の人間によって今次々と警察も手を焼く事件が起きてるの。例えば富田医院長の不可解な事件や笛吹教祖が立ち上げた宗教施設爆発の件も━━」


「どういう事だ? 今上の連中が表とは別にそれらを捜査しているが表で捜査している厄介者刑事が入手した情報よりも詳しいモノは出てきてないぞ。まさかお前......警察でも知られていないその実行犯とされるヤツに脅されているのか?」


「ええ......彼は母親を殺した者とその事件を揉み消した警察の人間、そしてそれ以外に彼が恨む連中を片っ端から殺すと言っていた......」



 その言葉に五味は嘲笑するような笑みを浮かべる。



「いやいやそんなの無理に決まってる。あの事件を掘り返すって事は警察上層部を完全に敵に回すってとこだぞ? 全国30万人の警察組織を相手にたった1人の人間が出来ることなんて無いだろ。それにお前がいる組織だって2万人の構成員が居るしその牙城が崩れるわけがない」



 五味は笑いながら俺の話をあしらう。

 やはり組織という人間の群れにたった1人の人間が勝てるなんて思っていないようだ。



「じゃああの宗教施設爆発はどう説明するのよ? あの動画見たけどフェイク動画や合成では説明できないものよ。まさに神の仕業だわ......」


「その件についてはさっきも言ったが上がキチンと調べてる。人類科学の力があんなインチキ野郎に負けるわけないさ」



 笑えるな......警察がどんなもんかと思ったら想像以上に能天気で馬鹿な連中で助かったよ。

 もしかして唯一厄介なのはあのオッサン刑事とその部下だけか......?



「それもそうね......話は変わるけど貴方は黒羽真央を取り調べた時どんな気持ちだったの? 彼の名を語る人間が今犯行を行なっているという事は......よっぽど慕われてる人物だと思うし気になるわ」


「俺は別に何も......ただ仕事をこなしただけさ。強いて言えばあのガキが母親の事を甲斐甲斐しく庇っていたのがイラついてたくらいかな? 犯人が別にいる事を知ってる俺達には余計馬鹿に見えたよ」


「貴方やっぱり意地悪な性格してるのね━━」


「そりゃお互い様だろ? 組織の使いっ走りとして生きてるんだ......多少の憂さは晴らさないとな」


「確かに......それで貴方はその真犯人を知ってるの?」


「いやさっきも言ったろ? 詳しい情報は降りてきて無いから分からないよ。ただあんな事件を揉み消すくらいだ、警察の上層部に関係者が居るのは間違いないだろ」



 警察上層部か......このいかにも噛ませ犬な男から聞ける情報はもう無さそうだな。


 それにしてもあの取り調べが遊び半分だったとはね......今回コイツが秋山の関連する人物で運が良かったよ復讐の手間が省ける、まさに棚からぼたもちだ━━。

 


「そう......それ以外に何か知ってることは本当に無い?」


「さっきからなんでそんな事ばかり聞くんだ? 俺が知ってるのはそこまでだよ」


「ありがとう......

 じゃあもうアンタに用はない━━」


「は? お前一体何を━━」



 グシャッ━━!



「っ......はがっ......!」



 俺は奴が喋れなくなるように口の中に無理やり指を突っ込んで声帯を切って喉仏を引きちぎり、回復魔法で出血を防いだ。



「色々お口をドリフトさせてくれてありがとうクソ警察官。アンタが秋名......じゃなくて秋山と繋がっていて助かったよ」



「か......お......」


「んん? お前誰だって? 俺です俺......殺された母親のバカ息子、黒羽真央ですよ━━」



 俺は顔だけ秋山の姿から俺の姿に変身して五味を睨みつける。



「......!」


「びっくりしました? さっき言った通り貴方の上にいるあの事件に関わった連中は必ずこの手で始末します。そして貴方にはこれから警察組織と極道組織の不和に繋がるスターターを務めてもらいます━━」


「ど......」


「んん? どういう意味だって? 読者のために貴方の言葉を通訳して翻訳戸田奈○子するのも大変だなぁ......。まあこれから起きる事をその目にしっかり焼き付けて地獄に行って下さいよ」



 パチンッ━━!



 俺が指鳴らすと同じ服を着た本物の秋山恭子が姿を表した。



「っ......!」



 そして俺はもう一度指を鳴らし、とある液体が入った容器を臓器が減った秋山の体内に埋め込んだ。



「んぐ......ぐがが.....あば......」


「たった今訳わかんない言葉喋ってる本物の彼女には、顕微鏡で見ても分からないくらいの爆弾が心臓や肺に何箇所も施されていています。今からだと.......5秒後に爆死だ。この不可解な事件を警察がどう捜査するか楽しみですね━━」


「んあ.....はべ......」


「5......4......3......2......1......」


「がっ......ひ#$☆○*☆→=°#€¥〆〒〆ーッ!」





「零━━」



 グシャァッ━━!



 秋山の身体は爆発音と言うよりも肉が潰れたような音と共に木っ端微塵になった。

 その体液を間近に浴びた五味は唖然とし、真っ赤に染まった身体でリアクションもせずにただ突っ立っていた。


「か......は.......お.......」


「びっくりしすぎて喋れなくなっちゃいました? あ、すみません喉を殺したからそもそも喋れませんでしたね。さて、俺の母親の事件を口封じして被害者の声を聞かなかった貴方にはこれから苦しい死に方が待っています」


「っ......! あ......う......」


「うんうん、どんな死に方ですって? 実は今貴方が被った体液には俺が生成した高濃度の 《フッ化水素酸》が含まれているんですよ━━」


「っ......! あ......!」


「ふっ......そのリアクションだとその酸がもたらす効能を知ってるみたいですね。彼女からひっこ抜いた臓器の代わりにそいつを入れたんです。さて......そろそろ液体が皮膚の奥に浸透して疼痛とうつうが襲ってきますよ?」



「#$☆○*☆→=°#€¥〆〒〆ーッ!」



 体液を浴びてから少し時間が経過して五味はもがき苦しみ始める。

 フッ化水素酸が徐々に皮膚をすり抜けてカルシウムと化学反応を起こし始め、皮膚も壊死を起こしているのか少し紫色になっていた。

 

「科学の力って凄いですねぇ、確かにこれなら俺の力じゃ勝てないや。さて......馬鹿だと思ってたガキに何の抵抗もできず無様に殺される気分はどうですか? さぞ良い気持ちでしょ?」


「#€¥〆〒〆#$☆○*☆→=°!」



 奴は体を跳ね上げる勢いでビクンビクンと痙攣させて

全身の痛みを受け止めていた。



「まるで水揚げされたカツオみたいだな。今夜は鰹のタタキを買って帰ろう━━」



 その後も薬品は五味の全身を犯し続け、変な臭いと白煙を発生させる。

 奴は声にならない声を上げて暴れるが、そのうちそれを動かす筋肉も壊死し始めたのか徐々に動きが鈍くなり動かなくなった。



「コイツもただの腐った魚になったか、アニサキスもこれじゃあ寄生できないな。しかし臭い......ある意味これが今までで一番キツイ死に方かも━━」



 俺は床に倒れて死んだ五味をそのままにし、転移魔法を使って一旦秋山の家に戻った。



「この臓器を箱に詰めて送り主を五味・・にして飛美侠道会たかみきょうどうかいに送りつければ......署内で秋山が死んだ件と重なってヤクザ共は警察からの宣戦布告だと思うかもな━━」



 俺は木箱を生成し氷魔法で臓器を凍らせて箱に詰め、先ほど殺した五味の姿で取り調べ室に戻った。

 そしてそのまま部屋を出て署内の連中にわざと見つかるように歩くと同僚と思われる男の1人が話しかけてきた。



「あれ? 五味さん取り調べ終わりました?」


「いやまだ終わらないから少しの間別の人に交代してもらったよ。ちょっと休憩してくるわ」


「そう言うことね。いってらっしゃい」


 

 この警察署ほんと緩いな、こんなんだから犯罪を防ぐ事が出来ないんじゃねーのか?


 呆れながらも俺は署を出て制服のまま近くの集荷センターに足を運び、クール便でヤクザの事務所宛に臓器を送る手配を完了させた後再び署内に戻った。



「おや? もう休憩が終わりかい?」


「ああ、彼女の自供内容をしっかり聞いておきたいからね。それじゃまた」



 俺は取り調べ室に戻りバリアを解除した。



「これで良しと......後は制服着て気取ったアホが異臭に気が付いて押し寄せてくるな。今回はスピンオフという事で敢えてM.Kは残さない......まあこれをキッカケにこれから起きる事をじっくり見届けよう━━」

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