第33話 化けの皮


 帰宅後━━。


 家に帰ってきた俺はいつも通り家事をこなして風呂に入る。

 


「シャンプーっと......ん?」



 今一瞬何かに触れた様な気が━━。

 俺は少し怖くなりシャワーのお湯が目に入って痛い思いをしながらも無理やり目を開けたが、そこにはボトルがあっただけで何もなかった。


 おっかしいな、マジで今指か何かに触ったような気がしたが......。


 とりあえずその後は何もなかったので急いでシャンプーとトリートメントをして湯船に浸かったがその後も異変起こった━━。



 シャカシャカ......。



 洗面台で歯を磨いている時も鏡の向こうから何やら視線を感じる......。

 明らかにこの間までこんな事を感じなかった、思い当たるとすれば確実にあの廃墟に行った後からだ━━。



「クソ......ゆーちんめ明日会ったら覚えてろ......。おいお化け! 俺はお前なんて怖く無いもんねバーカ!」



 俺は強がりながらベッドに入って布団にくるまる。

 明日は秋山より早く学校に行かないといけないので早めのアラームを掛けて眠りについた。

 












「カわイい......オやスみナさイ......フふ......」



 その日何故か俺は夜中に金縛りにあって結局碌に眠れなかった━━。



*      *      *



「明星亜依羅め......クソッ!」



 明星亜依羅は私が昨日シャワーを浴びている間に部屋から逃げ出した。

 しかもそれだけじゃなくどうやってパスを潜り抜けたか分からないがスマホは初期化され、パソコンもデータが無くなりネットや電話も一切接続出来ず組織にアイラの件を報告すら出来なかった。

 あの短時間でどうやってやったか分からないが間違いなくアイツの仕業だろう......。



「あのクソガキ......もし今日学校に来てたら放課後誘拐して組織に頼んで始末してやる......!」


 

 私は仕事の失敗とクソガキの件でイライラを爆発させながら早歩きで学校に向かった━━。



「先生おはようございまーす」


「.......おはよう」



 校舎に入っていく生徒に面倒だが挨拶をしながら職員用の玄関に入る。

 角を曲がるとそこには《明星亜依羅クソガキ》が校長室の扉の前でニヤニヤしながら立っていた。



「明星! アンタいい加減にしなさいよ! よくノコノコ学校に来れたわね!? この後どうなっても知らないから! そんな所に居ないでさっさと教室に行きなさい!」



 私は怒りに任せクソガキを罵倒するが向こうはニヤニヤしながら馬鹿にする顔でこっちを見ながら口を開いた。



「まずは"おはようございます"でしょ先生、僕は教室じゃなくてこの部屋に用があるんです。それと......この後どうなっても知らないのは僕のセリフですよ━━」


「は!? どう言う事!?」


「バカだなぁセンセーは......とりあえず校長先生が貴女を呼んでますのでさっさと入ってくださいよ」


「まさかアンタ......!」



 私は複雑な気持ちで校長室の扉を開けた━━。



「おはようございます秋山先生。貴女にお伺いしたい事がありましてね......とりあえずそこに座ってください」



 私が腰を掛けると校長とクソガキが対面に座り早速話が始まった。



「では秋山先生、単刀直入に伺いますがここに居る明星君を昨日家に連れ込み睡眠薬を飲ませて襲い掛かったというのは事実ですか?」



 コイツやっぱり昨日の事を校長にチクリやがった!

 だがあの短期間で証拠なんてあるはずがない。

 ましてやLIZEも敢えてしていないからメッセージも残っていない......ここは一旦事実と嘘を混ぜて惚けよう。



「昨日確かに明星君を連れて家に入ったのは事実ですが私は襲おうとなんてしてません。そもそも彼から誘ってきましたし逆に私が襲われそうになりましたけど......」



 ここは女性の特権を振りかざす。

 未成年の男子高校生とはいえ、か弱い女性に襲いかかる男は幾らでも居る。例え私が教師、彼が生徒で立場的に私に分が悪いとしても女の私が襲われたとなれば話は別のはずだ━━。



「それは本当に間違いありませんね? 今ここで嘘をつくことは許されませんよ?」


「はい間違いありません、私は彼に襲われた件で弁護士の手配をしている所なので。それより明星君こそ正直に話して下さいよ」


「そうですか......これを聞いてもそれが言えますか?」



 校長の顔は更に険しくなる。

 不意にクソガキの方を見ると罠にかかった獲物を見る目で私を見つめ悪魔のように微笑んだ━━。



 まさかっ......!

 


 ピッ......。



『それよりアイラ君は今日の夜空いてる?』


『夜ですか.......空いてますよ。まさか先生とデートとかですか?』


『うん、デートと言えばそうかな? ちょっと勉強の事とか芸能活動や進路についていろいろ聞いておきたくて......。私の家でそう言った話を2人っきりでしたいんだけどダメかな?』



 ピッ......。



「この会話を聞く限り貴女から誘ってるように聞こえますが先ほどの発言は嘘という事ですか?」



 このクソガキ......あんな所から録音してたのか!



「先生嘘つかないで下さいよ......僕......信じてたのに......ううっ......!」



 コイツ! 明らかに嘘泣きしてやがる......!

 


「明星君辛かったね。さて秋山先生、先程の件は嘘という事になりますがどう説明しますか?」


「すみません、私は昨日彼に襲われたので気が動転してて記憶が......」


「では......襲われた事が事実であれば今の発言も嘘ではなく、気が動転していただけで間違いないんですね?」


「はい......」


「そうですか......これを聞いて下さい━━」



 まさか......やめろ......! やめろやめろやめろもうその再生ボタンを押すな!



 ピッ.....。



『いいえ進路相談よ? 

 アイラ君......貴方は私のモノになるの━━』


『待って下さい、僕の口も貴女の口もココア臭いんでそれはちょっと━━』


『......キスを拒まれるなんて初めてだよ、でも貴方私の事好きなんでしょ?』


『いえ、好きは好きでも先生としてであって女性として好きでは無いです』


『ふうん......でもこの家に入った時点で貴方はもう私のペットになるしか無いのよ?』



 ピッ......。


 まさかあの部屋での会話も全て録音されてたって訳!?


 私が動揺していると校長からとても冷たい視線を感じ、私は思わず目を逸らした━━。



「さて秋山先生、これはどう説明してくれますか?」


「それは.....その......」


「貴女は生徒に襲われたと言っていたが実際は明星君をペットにしようとしていた。他の録音データもありますが睡眠薬や監禁するとも発言していましたね? 残念ながら証拠は全て揃っているんですよ━━」


「そんな......!」


「貴女は本当に彼を襲ったんですか......? 自分の口から答えなさい!」





「......事実です━━」


「僕は先生のこと信頼してたのに.......こんな先生だと思わなかったです。まさか......先生が担任していた黒羽って生徒も先生のせいで自殺したんじゃないんですか......?」


「そんなことある訳無いでしょ!? 彼は痴漢をして勝手に無駄死にしただけ! あんなクズ生徒の事なんて私には関係ない!」


「秋山先生!」


「そうですか......。校長先生、僕さっき先生と約束しましたよね? 先生の方が嘘をついてたんだからあの件は果たしますよ」


「あ、ああ......」


 

 あの件......一体何の事なの━━。



*      *      *



 俺は秋山が学校に来る前に既に校長と話を済ませていた。


 俺は校長に秋山が俺を襲ったことを録音データを聞かせずに話した。

 しかし案の定校長は俺の狂言なんじゃないかと俺を責め立て疑ってきた。


 なのでこれが嘘であれば俺は退学し秋山が事実と吐けばマスコミやネットにこの事を拡散すると言い、それを校長が了承した直後に秋山の音声データを流し校長に対する脅しは完了した。


 そして時は戻りたった今秋山が事実だと吐いた事により校長自身の立場も危うくなったという訳だ━━。



「いやー校長センセーのセンセー達への信頼は絶対でしたね! まあ脆く崩れ去りましたけど。因みに彼女の悪事はこれだけじゃありません、とある生徒を副業・・の一端で襲う予定もあったみたいです。まあそれは一旦置いといて、約束通りこれをマスコミとネットにチャチャっと流しちゃいますね━━」



 俺は暴露系iTuberに偽アカウントで事前にアポを取っていたので早速メッセージでデータとモザイクを緩くかけた学校の写真と先生の顔写真を送信し、その人の経由で知り合ったマスコミにも同じ情報を送信した。



「......まさかこんな事になるとは......」


「ホントですよね......嘘さえつかなければこんな事には。ね? 秋山センセ?」


「アイラぁぁ......!」



 秋山が俺に私怨が詰まった表情を向けると校長は静かな怒りを込めながら秋山に対して口を開いた。



「秋山先生黙って下さい......彼はこれから被害届を出すそうです。なので貴女がこれから行く場所は教室じゃなくて警察ですよ━━」


「っ......!」


「それじゃ校長先生僕はもう行きますね。それと......秋山先生━━」


「何よ......」


「性欲の塊でマジで気持ち悪かったです、おかげで目にゲロかけられているような気分になって視力が落ちましたよ。それでは短い教師生活お疲れ様でした、さよーならー」



 俺は秋山に捨て台詞を吐いて校長室を後にした。

 恐らくあの女は書類送検される前に絶対俺に何かしてくるはずだ、俺はそれを待ち構えるためにわざと俺を襲った件だけ・・で校長に問い詰めさせ、隙を作るように仕向けていたのだから━━。



「明星......亜依羅......!」



*      *      *



 担任の秋山が来ない教室は大騒ぎになっていた。

 暴露系iTuberが俺の事は伏せた状態で例の動画を早速拡散してくれたおかげだ。

 そして大騒ぎの教室に入った俺に気がついた司が走ってきた。



「おはようアイラ! なぁこの動画見たか? コレ完全にうちの高校だし女教師Aって名前は伏せられてるけどこの声完全に秋山だよな? あいつここの男子生徒襲ったんだとよ......おっかねぇなぁ......」


「マジか......やっぱり人って何考えてるか分からないな。僕たちも気をつけようぜ」


「だな......そういえば由美がお前の机で待ってるぞ」



 司が指を差すといつも通り俺の席にゆーちんが座っていた。



「おはようアイラ。アイラの担任ってとんでもない事してたんだね」



 ゆーちんも陰で襲われかけてたくらいアイツはとんでもない事してたよ━━。



「そうみたいだな。そんな事より......ゆーちんのせいで昨夜金縛りにあったぞ!」


「え!? も......もしかしてそれって......」


「ああ! あの廃墟に行ってからだよチクショウ! 一体コレどうしてくれる!?」


「なっ......今度神社行きましょう......」


「そりゃそうだよ! もちろんゆーちんの金でな!」


「おいおいその話マジかよアイラ! お前幽霊にもモテんのか......スゲーな!」


「なぁ司、お化けが苦手な僕をおちょくってるのかい? お前に俊○と伽○子取り憑かせて呪い殺させるぞ......!」


「それならバケモンにはバケモンをぶつけるしかねぇな......」



 司がそう言うと教室は窓を閉めているはずなのに少しだけ冷たい風が窓の方から吹いた━━。



「タンマ......その話やめようよなんか怖い。そんなことよりアイラに大事な事を伝えに来たの、明日の夜ウチの社長と会う件でもう一人合わせたい人が増えたからよろしくね!」


「了解、でもなんか嫌な予感するな......」


「アイラ的にはその予感当たるかもね━━」


「やめろよその意味深な言い方......!」


「ふふっ......じゃあまたね!」



 ゆーちんは自分の教室へ戻り、俺達は担任が来ない中授業を受けた。



「アイラ君てお化け苦手なんだ......真央もお化け苦手だったしやっぱり真央とアイラ君は何かが似てる気がする━━」

 


*      *      *



 放課後を迎えた俺はいつもは絶対に通らない人通りの全くない路地裏を歩いて家に帰っていた━━。



 ザクッ......!



「さようなら明星亜依羅......私を罠に嵌めた罰よ。死体の処理は彼らに任せるから今夜中にアナタは魚の餌ね━━」










「待ってましたよ......秋山センセー」



 俺はナイフで刺された状態のまま笑顔で振り返る。



「なっ......! どうして......平気なの......!」


「はははっそれは毎朝ヤク○ト飲んでるからですよ......その驚いた顔も反吐が出るなぁ。しかし人通りの無いこの場所を選んだのは正解だ、まんまとサイコバカが引っかかった」


「何ですって.....!?」


「アンタは監視カメラが無いこの場所に入った瞬間を狙ったようだがそれは僕も同じなんですよ。ではセンセーにこの世からの離任式を始めますね━━」



 バコッ━━! バキッ━━!



「うおぇっ......! なん......っ......」


「やれやれもう気絶か根性ないなぁ......ちゃんと毎朝ヤ○ルト飲まないからだよ。それじゃ先生の部屋に行きますか━━」



 俺は秋山にステルススキルを掛けて不可視状態にし、鉄魔法で作った箱に詰め込み転移魔法で秋山の部屋に送った。


「まるでカルロス○ーンだ。あとは俺のアリバイ作りだな......」


 俺の分身を作り自宅に帰らせ、俺自身は秋山恭子に変身して秋山の自宅へと向かった━━。

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