第32話 裏の顔


 とある廃ビルにて━━。


 なんだこのいかにも怪しそうな場所は......家の近所にこんな所があったとはね。

 とりあえず依頼主の正体が分かる場所はその先の空き部屋だったな、いろいろ準備もしたし行くか......。


 俺は目的地のゴールを示す場所に足を踏み入れた━━。



「遅い! 仕事も失敗した癖に来るのも遅いなんてどうなってるの!? 私のクライアントにどんだけ迷惑かけるつもり? 下手打って殺されるのは私なのよ!?」


 「すみません━━」

















 俺の目の前でヒステリックを起こしていたのは担任の秋山恭子だった━━。



「すみませんで済んだらヤクザも警察も必要ないのよ! 頼まれた多田井由美の件は一旦白紙、明星亜依羅の方も一旦中止よ。先方には私から伝えておくから」


「すみませんでした。それで......先方って言うのは?」


「は? この前説明したじゃないもう忘れちゃったの!? この件は大手芸能事務所 《シーフィールド》から頼まれてたのよ? 多田井由美をあの弱小事務所から引っ張り出して大手に移籍という体でテレビに出演させて甘い蜜を吸わせる。そして裏ではスポンサーや局の重役や裏の方々の交渉用の枕にしてその後は......って話よ」


「ああそうでしたね。最近物忘れが激しくて......」



 コイツ公務員の癖にとんでもない闇バイトやってやがったたのか......。

 いや、バイトというよりそっちが本職か━━?



「貴方が深く話さないと仕事を受けないっていうから話したのにどう言う事!? 次下手な事すると私のバックに居る雇い主に消されるからね。それと『身元不明の男性の遺体が見つかった』ってニュース見たけどアレ私から依頼した 《闇臓器黒トマト》の件でしょ? アンタなんでちゃんと処理してないの? いい加減にしてよ!」



 あのメスガキ......どんだけ仕事失敗してんだよ! 

 俺が怒られるハメになるとは思わなかったわ、次会う事があったらぶち○してやる!



「すみません......」


「とりあえず多田井の件は一旦保留よ」


「わかりました、ではまた......」



 ピッ......。



 俺は廃ビルを後にした━━。



「とりあえずあのバカがいろいろ喋ってくれたおかげであいつも人生終了だ。後は俺が仕上げるだけだな━━」



*      *      *



 翌日学校にて━━



「アイラ君、ちょっと良い?」


「なんでしょうか秋山先生」



 秋山はいつもより険しい雰囲気で俺を呼びつける。

 昨日の失敗の八つ当たりか? それとも━━。



「昨日の動画見たよ、トラブルは大丈夫だった?」


「はい、大丈夫ですよ。撮影機材と電波のトラブルで中止になっちゃったって後の動画で表明したはずですが......」


「ごめんなさい昨日あの後寝ちゃって全く見てなかったの。それでなんだけど......あの場所でアイラ君は何か見たりした?」



 来た......。

 これは罠だ、見たと答えれば確実に深く聞き俺を証拠隠滅してくる可能性が高い。

 しかしコイツを完膚なきまでに叩き潰す為にここは乗ってやる。



「はい見ました。ゆーちんはトラブルでスタッフさんの元に戻って見てないけど僕はハッキリと顔に傷がある男を見ました。でもアレはお化けだったのかな? それよりも何故先生がそんな事を聞いてくるんですか?」



 俺の問い詰めに秋山は少し焦った顔に変わり、なんとか言い訳をしようとしているのか右上に一瞬目を逸らして答えた。



「それは......私も昔あそこに肝試しで行った事があってね。そこでその傷の男の幽霊を見た事があったのよ、それでちょっと気になってね。それよりアイラ君は今日の夜空いてる?」


「夜ですか.......空いてますよ。まさか先生とデートとかですか?」


「うん、デートと言えばそうかな? ちょっと勉強の事とか芸能活動や進路についていろいろ聞いておきたくて......。私の家でそう言った話を2人っきりでしたいんだけどダメかな?」


「良いですよ、じゃあ放課後一旦家に帰って着替えて来るので駅前のルナバで待ち合わせで良いですか?」



 秋山は獲物が罠にかかったような顔を一瞬見せて俺に微笑む。



「ありがとう、じゃあまた後でね。それまでしっかり授業を受けるのよ?」


「大丈夫ですって、僕は学年でもトップクラスの成績だって先生知ってるでしょ?」


「それは分かってるけど一応教師として伝えただけだよ。じゃあまたね」



 ピッ......。



 確かに表向きは一応教師だもんな......裏でやってる事はあのサイコよりも卑劣で残忍だが━━。



「またあのオッサン達の目を欺く為のアリバイ作りをしないといけないのかな。正直それが一番面倒くさいよ......」



 俺は授業を終えて放課後を迎えた━━。



*      *      *


 

 家で私服に着替えた俺は駅前のルナバックスコーヒーに到着しココアを注文する。


 家から意識高いパソコンを持ってカタカタしようかと思ったが、そもそもパソコン自体持っていなかったので紙コップに書かれた店員さんからのメッセージをずっとガン見しながら先生が来るのを待っていた。



『ねぇあの人超カッコ良くない!?』


『わかるー! 超イケメンだよね! 声掛けようかな?』


『待って......あの人ゆーちんの動画に出てたイケメンだ! ツーショ貰いにいこうよ!』


『良いね! でもなんか......あの人さっきからずっとコップ見てるよ......?』


『あ......確かに......プライベートはちょっとやばい人かもね......やっぱ声掛けるのやめておこう━━』



 聞こえてるぞ!? 

 恥かいたし今度ルナバ専用Mac B○ok買おうかな......。

 

 俺がガヤの声に落ち込んでいると後ろからヒールの音が聞こえてきた。



「お待たせアイラ君」


「やっと来てくれたよ......」


「ん? 何か言った?」


「いやなんでもないです。僕今結構見られて恥ずかしいんで早くここを出ましょう」


「有名人だしそのルックスなら見られるのは仕方ないのかもね。じゃあ行きましょう」



 変人扱いされないうちに俺達は店を出て家に向かった━━。



 ガチャッ......。



「さぁどうぞ入ってー」


「お邪魔します」



 秋山のマンションは俺が住んでるマンションよりも広く、とてもじゃないが若い教師が借りられる大きさのものではないと分かる程高そうな部屋だった。



「アイラ君何飲む?」


「ありがとうございます。じゃあココアで」


「またココア? すぐ入れるからそこのソファに座っててね」



 秋山がココアを持ってきて俺の隣に腰掛ける。

 そして俺は進められるがままにめちゃめちゃ怪しい雰囲気のココアを一口飲んだ━━。



「どう? 美味しい?」


「美味しいです。それで......僕とどんな事を話したいんですか? まさか本当に進路相談じゃないですよね?」



 秋山は待っていたかのようにニヤリと笑い口を開いた。



「いいえ進路相談よ? 

 アイラ君......貴方は私のモノになるの━━」



 秋山の唇が俺の顔に迫る━━。



「待って下さい、僕の口も貴女の口もココア臭いんでそれはちょっと━━」


「......キスを拒まれるなんて初めてだよ、でも貴方私の事好きなんでしょ?」



 やっぱりそう来たか......まあ普通デートなんて前振りして家にノコノコと来ればそう思っても不思議じゃ無いわな。

 それにしても勘違い具合が狙い通りすぎて逆に笑えてくる━━。



「いえ、好きは好きでも先生としてであって女性として好きでは無いです」


「ふうん......でもこの家に入った時点で貴方はもう私のペットになるしか無いのよ?」



 秋山は怪しく微笑みまるでお前はもう私のモノだと言わんばかりの態度で俺を押し倒そうと迫る。



「何を言ってるのか全くわからないんですが......」


「分からなくていいわ、でもコレを断れば君と君の大切にしている人達は酷い目に遭う。あの廃墟で例の男を見ていなければこんな事にならなかったんだけど......君は見ちゃったから仕方ないの━━」


「なるほど......あの廃墟の男と先生は何かしらで繋がってたんですね。一体あそこで何をしようとしていたんですか......?」


「その事は貴方に説明する必要はないわ。それよりも私の上の人間にはアナタを《黒トマト部品》にするか、その容姿を生かして裏の人たちの慰めモノになるかって指示されててね......それを私が反対したらじゃあお前の部屋に監禁してペットにでもして言う事聞かせろって言われちゃったんだ。まあ私個人としてはアイラ君を部品・・にしたくないし監禁した方が貴方を好きにできるから都合が良いって事で了承したの━━」



 なるほどね......ゆーちんや瑠奈さんを盾にしつつ、断れば殺す脅しも仕掛けて俺を手籠にする手筈か。

 だがそれだけじゃない、コイツはさっきのココアにご丁寧に睡眠薬までぶち込んで眠らせようとしている。


 恐らく俺の口を精神的に塞げるように何かするつもりだろう......このサイコ女め━━。



「そうですか......僕は誰も傷つけたくないから従います、でもいきなり僕が不登校になれば怪しむ人は居るんじゃないんですかね?」


「ええその通り......でもこの世界はコネと力さえあれば何とかなるの。それにそろそろ眠たくなったきたんじゃない......?」



 そんな訳あるかこの身体はあらゆる毒やそんなチンケ睡眠薬なんざ効かないんだよ━━。



「ああ......ちょっと眠いです......なんで......」


「うんうん......君はずっとここで寝てるんだよ? コレからは私が貴方の養母の代わりにお世話してあげる━━」


「そん......な......」



 俺は寝たフリをして秋山が動くのを待った━━。



「ふぅ......やっと寝たか、しかし寝顔も可愛いなぁ......。今夜から彼で楽しめるなんて最高ね、とりあえずシャワー浴びて何から始めるか考えよう......ふふふっ......」


 

 秋山はスマホを弄って誰かにメッセージを送った後、ソファを立ち上がりシャワールームへ向かう。



 ピッ......。



「油断したなサイコ女......さて仕事だ━━」



 秋山がシャワールームに入った瞬間に俺は秋山の顔に変身してスマホのロックを解除し、あらゆるデータを自分のスマホにコピーした後にクラウドデータを削除して工場出荷前の状態に初期化を完了させた。

 そしてパソコンもSSD自体を抜き取り、電話やネットのネーブルはスキルを駆使して全て壁の内側で切断して外部と一切連絡が取れないようにした。



「コレでよし......こうすれば奴もバックにいる人間と連絡が一切取れないから明日はみんな安心して過ごせるな。さて秋山が明日どんな怒り顔で学校に来るのか楽しみだ。まあ学校に来てからが......本当の地獄になるけどな━━」



 俺は転移魔法を使い秋山の部屋からそそくさと家へ帰った━━。

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