第31話 悪魔の手先


 ガチャ━━。



 扉を開けると後ろの部屋の隅から気配を感じると同時にソイツは俺の背後に素早く移動してきた。



「おいおい......お化けだけは勘弁してくれよな......」









「ふっ......残念ながら俺はお化けじゃない。しかし依頼されていた件とは少し違うな......俺は女だと聞いていたが誰だお前は━━」



 俺が振り返るとそこには中肉中背の1人の男が居た。

 顔をよく見ると肌は青白く、口元には縦に切り傷があり頬にもザックリ切られたような跡があった。

 だがなによりその男の目付きは明らかに一般人とは違う冷酷な目をしていた。



「そっちこそ誰です? まさか大の大人が1人で肝試しに来た訳じゃないですよね? あ.....もしかして廃墟探索系iTuberの方ですか!?」


「そんな訳ねーだろ小僧。お前が来るとは想定外だがまあ良い......お前今ライブ配信してるか?」


「してませんよ、手にリングライトもカメラすら持ってないでしょ? それより......アナタはここになんの用ですか?」


「俺は仕事を依頼されて来ただけだ。ある女の配信を中止させて神隠しと称して誘拐し、とある人達にその女を売り渡すためにな━━」



 売り渡す? まさかコイツ......!



「ゆーちんが受けたこの案件......もしかしてモノホンの闇営業じゃねぇのか? マジでトラブルメーカーすぎるだろ━━」


「何1人でボソボソ言ってんだ小僧......」


「怖さ紛らわすためにAR○SHIのトラブ○メーカー歌ってたんですよ。あとその女の人は居ません、事務所に帰ってコンサートの中止を伝えて下さい」


「そうだな......だがお前に顔を見られたからには死んで貰うしかない。コレも依頼者や社会の為だ━━」


「反社の方が何言ってんすか......社会の為ならまず税金と年金をキチンと納めてからにして下さいよ」


「言うねぇクソガキ......なぜ俺が普通の納税者・・・じゃないと分かった?」


「そのおっかない顔です......とてもじゃないが家でクッキー焼いてそうなアットホーム顔はしてませんよ」



 俺の言葉に男はニヤリと笑う━━。



「そりゃお互い様だろ、お前だってなんだその悪魔みたいなツラは。下手すりゃ俺より簡単に人を殺してるだろ?」


「いやいや僕はここに幽霊が出るって聞いてビビってるだけですよ。オシッコちびりそうなんでお先に失礼します」


「さっきも言ったろ小便漏らそうが帰せない......お前はここで都市伝説になるんだ。そしてその後の処理は専門家に任せる」



 男は消音器付きの拳銃を取り出して俺に銃口を向ける━━。



 ブッブー......ブッブー......



「なんだよ良い時に......。もしもし.....はい? 今居る男は消すな? そういうのはもっと早く言って下さいよ......それじゃ」


「その電話......もしかして依頼者から?」


「ああ......依頼者はお前がお気に入りらしい、殺さずに気絶させてお前を連れて来いだとよ。『さっきから何度も電話したのに出ないとは何事だ!』 って怒られたわ」


「そりゃあ随分とヒステリックな依頼者ですね、ある意味幽霊よりおっかない━━」


「......でもとりあえず仕事はこなさないとな。お前には悪いが眠ってもらう」



 男はそう言うと銃を仕舞い、人間にしてはかなり速い動きで俺の顎目掛けストレートを放つ動作に入っていた。



「こんなおっかないところで寝たら悪夢にうなされるから嫌です━━」



 パシッ━━!



「なっ......! クソッ......離せ!」


「出会って直ぐにエンカウントバトルなんてマジでポ○モンかよ......幽霊より人間の方がおっかないかも━━」



 俺はパンチを手のひらで受け止め、ネットで見た逮捕術を見様見真似で使い男を取り押さえて頭を鷲掴みにした。



「いってぇな......お前何のつもりだ!」


「ここは怖いから場所を移動する。《転移魔法メタスターシス》」



 俺は奴を掴んだままとある場所に転移した━━。



「何だここは......一体どうなってやがる......!」


「ここは上空3000mですよ、良い眺めですけど流石に寒いですね。僕が貴方の頭を掴んでいるこのおててを離すと貴方は地面に......まあ幽霊だったら助かるかもしれません」


「バカな......お前バケモンか......?」



 男は先程の威勢の良さが完全に消え、寒さか恐怖か分からないが体をガクガク震わせながら俺の腕を両手で掴み落とされないようにしていた。



「そんなポ○モンみたいな言い方やめてくださいよ一応人間なんで」


「冗談だろ......分かった今回の依頼は白紙にする。だから俺を元の場所に戻してくれ!」


「いやそこは覚悟を決めて下さいよ......プロとして━━」


「悪いが現実的じゃない死に方はごめんだ......」


「なら質問に答えて下さい偽ファ○ルさん。誰の依頼で配信者を誘拐しにきたんですか? もし嘘ついたら6秒以内に殺す━━」



 俺は少しだけ頭を掴んでいる手の力をを緩め、いつでも地上に落とせるという脅しを仕掛ける。



「分かった! 依頼者の名前は分からないが他は話す! この依頼は数日前に来てたんだが正式な場所が分かったのは今日の夕方だった。今夜この場所に配信者が来るからそいつを誘拐しろってな......もしスタッフもその場にいたらそいつは証拠隠滅のために始末しろと!」


「なるほど......それで俺をスタッフだと思ったがさっきの電話で俺が別人だとわかり殺すのをやめたと━━」


「そうだ......恐らく依頼主はお前の事を知ってる人間だ。お前アイラって言うんだろ? 電話でそう言ってたよ━━」


「そうですか......今ので依頼主の正体が大体分かりました。どういったコネを使ってアナタに依頼出来たのかはわかりませんが、そいつを最後始末すれば終わる話ですね。それでは━━」


「待て! 頼む殺さないでくれ!」


「冗談ですよ、そんなチワワみたいな目で見つめないで下さい。でも僕の友達を陥れようとした事は許さない......三流殺し屋のアナタにこれから起きる事はある意味死より残酷かもしれません。《転移魔法メタスターシス》」



 俺は再び元の霊安室へ戻るが男はまだ怯え震えていた。



「......俺に何をする気だ......?」


「アナタをこれからネバーランドします━━」


「は? それはどういう......」


「《レインカルナティオ》」


「うわああああああっ!」



 俺は男の額に指を当てると男の身体は光に満ち溢れ、服ごとその身体は徐々に小さくなっていく━━。


 光が収まると先程まで居た強面の男の代わりに髪の長い小学校低学年くらいの小さな少女が眠っていた。



「んん......あれ......おにーちゃんだれ.....? ここはどこ? わたしは......だれ━━?」



 少女は眠りから覚め、大きな目を可愛くキョトンとさせて俺の方を見つめる。



「おはよう転生主人公ちゃん。君は異世界から突然やって来てここで眠てたみたいだ......とりあえず此処は暗いから外に出ようか」


「うん......ありがとうおにーちゃん!」



 俺はその少女をおんぶして地上に続く階段を駆け上がる。

 男は俺の力によって記憶を失った上に身体が少女になり、外見も強面だった頃の面影も完全に消え別人になっていた。



「このオッサンマジでな○うの転生者みたいになったな......。ただ向こうと違うのは魔物やチート能力もステータスオープンすら存在しない世界という事と悲しい事に前世の記憶は2度と戻らない事かな━━」



 少女を背負いながら廃墟の入り口を出るとゆーちんが俺の方に全力で走って来た。



「アイラぁぁっ! 無事でよかったよぉぉ......!」



 ゆーちんはよほど心配してたのか俺に泣きながら抱きついてきた。



「ああ無事だったよ。それよりこの子━━」


「え!? 何で女の子おんぶしてるの......まさか幽━━」


「おっかない事言うな! あの霊安室で見つけたんだよ! お母さんも居ないみたいだし自分の名前も分からないってさ。あの時直前で気配を感じて流石に映すのはまずいと思ってゆーちんには外に出てもらったんだ」


「そうだったんだ......ありがとう」


「あっ! おねーちゃんこんばんはっ!」


「こんばんは! しかし可愛いねこの子......ちょっとアイラに似てる気がする? とりあえず迷子なら警察に保護してもらわないとね」


「ああ、じゃあスタッフさん警察署までこの子を届けてもらっても良いですか?」



 俺は車で待機しているスタッフさんに女の子を見せて送り届けて貰うようお願いをした。



「OKすぐに出発しよう。しかしあんな場所に女の子が居たなんてびっくりだ......それよりその子もアイラ君も無事でよかったよ」


「はい.....にしても幽霊やお化けなんてあそこに居なかった。やっぱお化けなんて非科学的な迷信ですね━━」



 俺は車に用意されていた暖かいココアを震えながら飲んだ━━。



「あれれ? そう言う割にアイラ顔色悪いけどどうした? 今夜1人でおトイレ行ける? 由美お姉さんがアイラのお家に泊まってあげようか??」


「いいいい行けるに決まってんだろふざけんな! あまり僕をバカにするんじゃないよ!? それよりも報酬のポ○モンカード寄越せ!」


「強がっちゃって......そのおねだりしてる手がマナーモードみたいに震えちゃってるもん。てぇてぇなぁアイラは」


「コイツ......!」


「えーっ! おにーちゃんおばけこわいんですかぁ〜? ぷぷっ! おにーちゃんてわたしよりもお子ちゃまなんだねっ! ざぁ〜こ♡ 」


「ぶち○すぞクソガキ」


「アイラなんて事言うの! この子に謝りなさい!」


「チッ......ごめんなさい」


「ぷぷっ......おこられてやんの〜! おにーちゃんはよわよわなんだ〜♡ なさけな〜い♡」


「うるせぇ黙れクソガキ! なに突然饒舌にしゃべってんだ! 語尾にハートが許されるのはハ○ターハンターのヒ○カだけなんだよ! 今から戻って廃墟に捨ててくぞ!?」


「コラ! アイラッ!」


「わたしのせいでおこられてるのくやしいー? ねー、くやしいー?」


「コイツの息の根止めていーい!? 喋り方の所為で蕁麻疹出てきそうだからぶっ○していーい!?」


「おねーちゃん! おにーちゃんがこわいよぉ〜♡」


「よしよーし、お姉ちゃん居るから怖くないよー? 全くアイラは子供の扱いが分かってないんだから......」



 コイツ元オジサンのくせに女を味方につけるクソ生意気なガキになりやがって! 情けをかけて生かしたのは失敗だった......!



「今日は散々な目に遭ったぜ畜生っ......! これだから僕は幽霊も子供も嫌いなんだ......!」



 俺達はロケ地の廃病院を後にして警察署へ向かった━━。








「......カッコイイ男の子が遊ビニ来テクレタ......フフッ......家ニツイテ行ッチャオウ」


「ワシモ......ワシモ!!」


「オジイサンハダメッ! カレハ私ノモノ!」



*      *      *



 元オジサンのクソガキを警察に無事送り届けた後、俺達は途中で配信が終わった件を視聴者に謝罪しその日は解散した。

 その中で一部の視聴者は本当の心霊現象だと思ったらしく、俺達がSNSを見ない間に情報は瞬く間に広まり助けに来ようとしている人達も居たそうだ。

 またこの件でゆーちんは再びバズり、俺も有名になってしまった......そして━━。



『もしもし? アンタあの女全然誘拐出来てないじゃない! めちゃめちゃピンピンしてるし一体何やってんの!? アナタに払った報酬は返してもらうから位置情報送った場所に来なさい!」


「すみません.....では今から伺います━━」



 俺はあのオジサンの姿に変身し、送られて来た情報の場所に向かった━━。

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