第30話 罠の気配


 ピコンッ━━♪


「みんなー! アイラブゆーちんだよー! 今日も観に来てくれてありがとうね!」



 》アイラブゆーちん!


 》ゆーちんキター! 今日もてぇてぇなぁ


 》あれ? 下僕のイケメンは居ないの?


 》今日は外で配信なんだね!


 》外暗いっ!



「みんなコメントありがとう! 実は今日、下僕のアイラ君にはここでやる事を知らせずに来ています......それではアイラ君こちらにどうぞ!」



 俺は最悪のテンションでカメラの前に出た。



「どうもユーアーデッドアイランドです.......雇い主にこんな暗い場所に無理やり連れてこられて絶賛不機嫌なうです。なのでゆーちんの顔面目当てのルッキズム腐れカスナー共、僕のモチベの為に赤スパ投げて下さい!」



 》膨れっ面で開幕と同時に赤スパ要求すんなwwww


 》下僕のくせにめっちゃ不機嫌やんけコイツ


 》どさくさに紛れて"お前は死んでる"とかムッキズム腐れカスナーとかスリーアウトな事言ってて草


 》名前がゲームのタイトルみたいになってるぞ


 》普通の人間なら確実に炎上する発言だからなwwww



「アイラ君、私の挨拶を揶揄して不吉な事言うのやめて。それと"なう"なんて使ってる人間今時居ないからね?」


「そんな事はどうでも良いんだよ! ここは何処だなう!」


「よくぞ聞いてくれました! ここは.......」



 俺がゆーちんとスタッフさんに連れてこられたのは山奥に佇むコンクリートで出来たボロくて大きな建屋だった。

 中からは何やら冷たい風がこちらに吹いて嫌な気配がする━━。



「有名な心霊スポットの噂される廃病院です━━」


「......マジかよ」


「おおっと? もしかしてアイラ君はこういう場所が苦手なのかな?」



 》ゆーちんの言う通り下僕は怖い所苦手なのか?


 》だとしたら意外だよな、でも俺も苦手だから気持ちは分かる......。


 》下僕お子ちゃまでワロタwwww



「ゆーちん━━」


「なに?」













「コレちゃんと撮影許可取ってるの......?」


「は?」


「お化けよりその後の炎上拡散及び不法侵入でお巡りさんにしょっ引かれる方がよっぽどおっかないだろ......」



 》下僕意外と冷静で草


 》一番炎上しそうな事言ってた奴が炎上の心配すんなwwww


 》でも実際の所許可を得てるのかな?



「そこは大丈夫。実は今回事務所じゃなくて私個人に依頼が来た案件で、私から直接ここの土地を管理してる人に連絡して許可頂いてるから完璧! そして今日は皆さんお察しの通り......ココで心霊の調査をします!」


「ちょっと待て! 仕事の依頼を事務所通さないとかそれ宮○じゃん、金髪と一緒に謝罪会見開いて嘘泣きしろよ」


「いや闇営業じゃないから! 事務所にもちゃんと話してあるし変な事言うのやめてよ!」


「良かった......俺が金髪の二番煎じになる所だったわ。それで......心霊の調査って?」


「うん、ここは昔病院として経営してたんだけど医療ミスによる死亡事件を何件も隠蔽したり、患者の個人情報をお寺に売り渡したり悪い噂が流れて廃院になったらしいの。その後の噂では車椅子に座った女の子の幽霊やお爺さんの幽霊が出るらしい......。そして地下にある霊安室には━━」


「......には......?」



 ゆーちんの顔が稲川○二ばりのおっかない顔に変わり、手に持ったライトを顔の下から照らす。

 その顔を見て俺は初めてゆーちんに対しぶっ飛ばしたい感情が芽生えた━━。



「医療ミスによって亡くなった血まみれの女性が襲いかかってきて......その女に腕を掴まれるとあの世に連れてかれちゃうんだって......!」


「......へ......へぇ......」


「どう? アイラ怖い?」


「へ......はぁ!? べ、別にビビってねぇし!? 僕は別に暗い所平気だし肝試しなんて楽勝だしお化けなんて怖くないし逆にホーム○スとかが居る方が怖いし掴まれて死ぬならどうやってそんな噂流れたかわかんねぇしそもそも幽霊なんて信じてねーし!?」



 》突然スイッチ入ったみたいに饒舌になってて草


 》おいおい女の子の前だからってカッコつけるなよ下僕! 素直になれよ!


 》コイツ俺達や炎上に対してはつよつよの癖にお化け苦手なんかwwww


 》ゆーちんを襲った不審者の方がよっぽど怖い筈なのにお化けの方が怖いとか可愛いかよww


 》その女幽霊が面食いなら家までストーカーされて夜ベッドで襲われそうwww


 》【速報】イケメンイッチ、お化けに対してイキがる


 》イッチ君画面越しにも分かるくらい尋常じゃ無い量の汗かいてますけどwwww



「うるせぇ! あんまり調子に乗ってると次はお前らの家を心霊スポットにしてやるぞ!」



 そう......俺はお化けや幽霊の類が大の苦手だった。

 昔富士急ハイ〇ンドに行った時も1人で戦慄して1人で迷宮入りしてリタイアした過去がある━━。



「へぇ......イッチ君ってこういうの苦手なんだね意外。そのギャップかわいいじゃん......ぷっ」



 ゆーちんは明らかに馬鹿にするような顔で俺の方を見て笑っていた。



「イッチって言うな! それとその顔やめろ腹立つから! とりあえずトイレ休憩させろ! この施設にはもちろんホットスナック置いてあるよな!?」



 》コンビニじゃねぇんだからあるわけねーだろwwww


 》ドライブデート中のコンビニ立ち寄りイベントかよww



「はい、くだらない事は置いといてそれでは早速中に入って調査を開始しましょう! スタッフさん達は外で待機してるので私たち2人だけで調査だからね? アイランド君行くよ!」


「えぇ......あ、ワイこの後塾の時間だ。さて帰ろう」


「要らん嘘をつかないの! イッチは塾通ってないでしょ? ほらいいから行くよ!」


「嫌だ嫌だ! お家帰りたいよぉ......!」



 ゆーちんが俺の腕を引っ張るのを阻止するがそれも虚しく無理やり引きずられて入口の前に立たされた。



 》病院嫌がってるガキの態度で草


 》俺スーパーでこの前こんな光景見たわwwww


 》一瞬ゆーちんがお母さんに見えたwwww


 》俺もあんな風に怒られたいかも......



 俺達2人はおどろおどろしい雰囲気を放っている病院廃墟の中に足を踏み入れた━━。



*      *      *



 1F ロビーは窓ガラスが割れてガラスの破片が床に飛び散っているのと混ざって色々な書類が散乱しており、そして何故が薬品臭い匂いが辺りを漂っていた。

 

 俺達は声を殺しながらその中を恐る恐る入っていく━━。



 》まだロビーなのになかなか雰囲気あるな......


 》結構おっかねぇwwww


 》あれ? 今誰か人影通らなかった?



「え!? それ本当!? ねぇアイラ......人影みた?」


「おっかねぇ事言うな! 何も見てない! とりあえず一通り調査するんだろ? 早く終わらせて早歩きで帰ろうよ」



 だがカスナーの言う通り此処には何か感じる......まさか本当に幽霊が!?


 嫌な雰囲気のまま俺達は一階を回ったが幽霊はおろかネズミ一匹も見る事はなかった。



 》下手なホラーゲームよりスリリングだな


 》とりあえず何もなくて良かったー


 》イッチの手ブルッブルでワロタwwww


 》次はどうするの? 一通り回ったしもう終わり?



「コメントありがとう、次は手術室に入ります。その後で地下にあるあの霊安室に行って帰ろうと思います」


「マジかよ......ゆーちん呪われるぞ......?」


「大丈夫! 塩とかお札持ってきてるから。ほら見てコレ!」



 ゆーちんがドヤ顔でお札と名乗るものを出してきた━━。



「お前コレ.......ポケ○ンカードじゃねぇか! しかもトレーナーのカードかよ! なんでこんなもん持ってきてんだ!」


「いや......ゴーストタイプトレーナーのお札を幽霊のオデコに貼れば効くと思って......」


「そんなテカテカのお札が幽霊に効く訳ねーだろ! アセ○ラが効果を発揮するのはポ○カコレクターか転売ヤーに対してだけなんだよ!」



 》ゆーちん最初から最後まで訳わかんなくて草


 》アイランドイッチが初めてまともに見えたわwwww


 》アセ○ラの予感は高く売れるぞwwww



「なかなか言うねぇ、私のおかげで恐怖心は少し消えたかな?」


「ちっ......おかげで消えたよ、このロケ終わったらそのカードを報酬として貰ってメ○カリに高値で出品してやる。じゃあ行くぞ......」



 》堂々と転売の宣言してて草


 》金の話になった途端目付きが変わったな......


 》霊安室.....ゴクリ......!



 俺達2人は地下に続く真っ暗な階段を降りるが、地下は地上よりも空気が湿っており息苦しさがより一層増した。

 その息苦しさを象徴するようにゆーちんも先程の元気は無くなり緊張しているのが俺にも伝わってくる。

 そして降りた先には鉄でできた頑丈そうな扉が目の前に現れた。

 


「なんか......さっきより寒くない?」


「確かに......だがそれより━━」



 この先に何か居る━━。

 明らかに地上とは違い確実に何かがいる気配がするのだ。



「なぁ......俺へのドッキリって廃墟に行く所までだよな?」


「うん......それは間違いないよ......」



 俺はゆーちんが持ってるスマホのカメラをアウトカメラに切り替えてゆーちんの後ろに周り視聴者に聞こえないように耳元で囁く━━。


「スマホ持って逃げろ━━」


「え......?」


「いいから電波悪いとか言って配信止めて外に出ろ......!」


「でも......!」


「ゆーちんは怖がりじゃないから地上には1人で上がれるだろ? 多分この先の扉を開けたら放送禁止になるぞ......! それとまだ配信中止の件についてはスタッフに伝るだけでネットにはまだコメントするなよ? 俺が戻ってからそれはするんだ━━」


「え.....? うん分かった......」



 俺はゆーちんをスタッフが待機している地上へ避難させた。

 そして配信を中止した事の上手い言い訳をスタッフに説明するゆーちんを見届けた後再び地下へ降りた。



「コレでよし、此処からは俺の仕事になりそうだな......」



 俺は霊安室に入るため鉄製の重い扉を開けた━━。


*      *      *


作者より。

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