第3話 出会い


  俺は結局最期まで学校では人と話さず勉強だけに集中して家に帰りゲームする傍ら母さんを殺した奴の手掛かりを探す毎日を過ごし中学を卒業した。


 新しく通う進学校の高校は今の家から離れている事と、なにより近所の人や同級生の顔をもう見たくないという思いがこの家に居たい気持ちより大きくなり瑠奈さんに頼んで高校近くのアパートに引っ越した。



 そして4月を迎え俺は高校に入学した━━。

 


 入学説明会以来見る玄関に少し戸惑いながら俺は自分の下駄箱を探して靴を入れると後ろに小さい気配を感じた。







「すみません......そこ私の下駄箱です......」






 振り返るとそこには前髪が揃えられた黒く綺麗な髪を靡かせる目鼻立ちがとても整った女の子が立っていた。

 彼女は小さいリュックを背負い、片手には革靴を持っていて俺が退くのを待っていた━━。



「ああ......ごめんなさいすぐ取り出しますから」




 俺は急いで靴を取り出して自分の所に入れた......つもりだった━━。




「そこも間違ってると思うよ......?」




 俺が入れたのは別の女の人の名前が書かれていた場所だと分かりめちゃくちゃテンパりながら靴を取り出した。



「ああっ......また間違えたこっちだ」



 俺は今度こそ靴を自分の名前が書かれた場所に入れた。



「ふふ......天然さんかな?」



「養殖で無いことは合ってるかな......」



「何それどう言う事? 君は私と同じクラスなんだね。私の名前は青海万季おおみまき、よろしくね」



 そう言って彼女が差し出した手は透き通るように白く細い華奢な手だった━━。



「うん......俺は黒羽真央くろはまお、よろしくお願いします」



 俺はその手に握手を交わした。

 握った手は柔らかくそして何処か優しい手をしている気がした━━。



「真央って言うんだ......女の子みたいな名前だね? 顔も女の子みたいだし似合ってる」



 母さんがつけてくれた名前を褒められた気がして俺は少し嬉しくなった。

 すると予鈴のチャイムが校舎に鳴り響いた━━。



「ありがとう......じゃあ遅刻しちゃうからまた!」



「待って! 同じ教室だから私もいく!」



 これが後の学校生活を良くも悪くも大きく変える万季との出会いだった━━。



*      *      *



 万季と俺は出席番号順の並びのお陰で席が隣同士になりすぐに仲良くなった。

 そして入学してから2ヶ月が過ぎ、他のクラスメイトとも少しずつ話すようになった。

 

「真央、一緒にお弁当食べよ」


「うんいいよ」


 万季と俺はいつも通りテーブルをくっつけてお弁当を広げる。


「なんだなんだ? 俺も混ぜてくれよ真央。

学年四大美少女の1人はお前だけのものじゃ無いんだぜ?」


 そう言って横から入ってきたのは亜門司あもんつかさ。彼は飄々としているが見た目は爽やかショートヘアの高身長で体格も良く中身も男らしい友達想いの良い人だ


「そうそう! それに真央くんだって万季だけのものじゃ無いんだよ?」


「げっ......龍崎! お前は怖いからあっち行けよ」


「何その言い方! そんなんだからあんたモテないんだよ」


 司に頬を膨らませて怒っているボブカットが似合う可愛い女の子は"龍崎ゆり"。

 彼女も学年四大美少女の1人だが性格がサバサバキッチリとしておりお調子者の司にとっては天敵だった。


「そんなことねーもん。俺を好きになってくれる人は必ず現れる......真央もそう思うよな? な?」


「そらそうよ、今まで誰とも付き合えた事のない俺が保証するさ」


「いや......それ全く当てにならない保証じゃん......」



 万季が俺に鋭いツッコミを入れる。



「はははっ! 確かに! てか真央お前一度も彼女いたことないのかよ!? 仲間じゃんか!」



「いやアンタと真央くんは立ち位置が違うから。アンタと違って余裕なのよ」



「マジかよ真央......俺を裏切るのか?」



「大丈夫俺は司を裏切らない。今日の放課後開催する合コンで速攻彼女作ってくるさ」


「ふざけんな! 裏切る気満々じゃねぇか!」



「え......今日真央は合コンで彼女作るの......」



 万季は少し眉を顰めて俺をジト目で見つめる。



「冗談だよ、俺にそんな行動力無いしモテないから......グスッ......」


「真央くんて意外とノリいいんだねっ」





「ねぇねぇ楽しそうじゃん! 私たちも混ぜてよ」





 俺たちの会話が聞こえていたのかクラスの人たちが次々にテーブルをくっ付けて結局10人くらいのグループになってお昼を楽しんだ。


 皆んな俺の過去を知らない事もあって変に気を遣わず話す事が出来て昔楽しかった頃の学校生活を徐々に思い出しつつあった。


 そんな生活を過ごして少し経ったある日、俺と万季はいつものように次の期末テストに向けて2人で図書館に行き勉強をしていた......と言うより勉強を教えていた━━。



「真央って頭良いよね...中間テストが学年でもトップクラスだったしびっくりしたよ」



「ああ、一応特待生で入ったしね。中学の最後は勉強しかしてなかったからさ......」



 あの日のことを思い出して俺は少し暗くなったが、万季に悟られまいとすぐに切り替えた。



「そっか......ねえ今度の期末テストで私と勝負しない? 今回は真央に教えてもらって私自信があるんだー」


 イタズラっぽい笑顔で万季は俺に挑戦状を叩きつける。

 よっぽど今回のテストに自信があるのか? まあここで断れば男が廃るし良い受けて立つ!



「その勝負乗った! 何賭ける?」




 万季はさっきまでのニヤニヤをやめて俺を少し照れた表情で見つめる━━。







「今度の夏祭り一緒に行こう━━」







 誘われた俺の答えは決まっていた。

 こんな可愛い顔をされたら答えはこれしかない......。



「もちろん! じゃあ俺も賭けていい?」



 俺の言葉に万季は少し表情が強張った






「うん......」







「今度の夏祭り一緒に行こう━━」






「はははっ、それじゃ賭けにならないじゃん。断られなくてよかったぁ、私の浴衣姿楽しみにしててね」




 俺の答えに万季は表情を柔らかくして笑い始めた。

 万季の浴衣姿か...めちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ...俺も精一杯オシャレしないと━━。



「うん、楽しみにしてる。じゃあ勉強の続きしよっか」



 俺達は外が暗くなるまで勉強を続けた━━。



*      *      *


 

 期末テストを終えた俺達は仲の良い4人で成績の見せ合いっこをしていた。


「じゃあまず俺から! なんと今回の学年順位は200人中......107位でした!」


 司はヘラヘラしながら成績表を見せびらかした。


「107位って......何そのツッコミ辛い中途半端な順位は。じゃあ次私ね! なんと今回......33位でした!」


 龍崎さんは前回より順位が上がったのか嬉しそうな表情で公表した。


「凄いじゃんゆり! じゃあ次私ね......じゃん! 16位!」


 満面の笑みで公表した万季の仕草に俺は教えた甲斐があったと心から嬉しくなった。


「えっ!? 万季ってこの前の中間60位くらいじゃなかったっけ!? めっちゃ上がってるじゃん!」


「そうなの! 真央がいっぱい勉強教えてくれてさ......真央のおかげだよありがとう」


「いや......万季が俺が教えた後も努力した結果なんだから俺だけの力じゃないよ。次も一緒に頑張ろうね」


 俺は名前を咄嗟に言われありきたりのセリフしか言えなかった


「おおーお熱い2人ですなぁ......。確かに万季は真央くんが居ない所でも勉強頑張ってたもんね! 真央くんに教えてもらったことを無駄にしたく無いとか可愛いこと言ってさ」


「ちょっ......! やめてよゆり......///」


「お......お前ら2人付き合ってるのか!? なぁ俺を裏切ったのか真央ぉ!」


 司は冗談ぽく俺の首を絞めるけど結構ガチで力入ってて首が痛ぇ......。


「いやいや裏切ってないから! 彼女出来たら速攻で連絡する仲だろ俺達は?」


「そうだな......まあ俺もすぐ彼女作るからよ!」


「女心がわからない司ちゃんに彼女なんてできるかなぁ?」


「なんだと!? 彼女の2人や3人出来らぁ! それより真央は何位だったんだよ」




 待ってましたと言わんばかりに俺はニヤリとする━━。




「俺は......1位!」


「うっそ......」


「え!? 万季に勉強教えてそれってヤバッ......やっぱ司とは頭の出来が違うんだ」


「なんだと!? 俺だって意外と良い生まれの男なんだぞ!」



 龍崎さんは司を馬鹿にするように挑発してまたいつものように2人は争いが起こる。

 その後しばらく4人でいろんなことを話して解散した。



 こんな日常がこれからずっと続けば良いなと思いながら俺は以前より軽い足取りで家へと帰りついに夏休みを迎えた━━。













「気に入らねぇな......アイツ......」


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