第2話 たこ焼き+タバスコ+ゆず胡椒
「たこ焼き買ってきたよ」
ある土曜日の昼のこと、母が大変素晴らしいことに、たこ焼きを買ってきてくれた。近所にたこ焼き屋さんが新しくオープンしたとかで、開店セールでお安かったらしい。ひとり2パックもある。
そういうわけで、きょうの昼食はたこ焼きである。
お茶を用意して、座卓を四人で囲んだ。
あつあつのたこ焼きを、はふはふいいながら食べる。ああ何という幸せ。だが、幸せは長くは続かない。だんだん冷めてきて、食感もかたくなってきた。
「あ、そうだ」
私は、冷蔵庫からタバスコを持ってきた。冷えてかたくなってきたたこ焼きには、タバスコが合うのだ。
「あら、いいわね。私も」
私と母は、タバスコをかけて、残りのたこ焼きを味変させた。
当然みっちゃんと父もマネしてタバスコをかけるが、二人は辛いものが苦手なので、辛い辛いと大騒ぎした。
「ねえねえ、ゆず胡椒もいいんじゃない?」
「いいですなあ!」
私と母は、味変を追求する同士なのである。ゆず胡椒は、タバスコとはまた違った辛味としょっぱさだった。ソースよりしょう油のほうが合うかも。
「み……みっちゃんもそれ食べる……」
「タバスコだけでそんなにへろへろなのに!? その心意気は感心するけど、やめておきなよ」
私の制止もおかまいないしに、みっちゃんはゆず胡椒つきのたこ焼きを……前歯を使ってちょびっとだけ囓った。
「思いのほかチキンだな、みっちゃんは」
「うるさ……辛い、辛いよう! うええ」
「うわあ! 辛さもあるけど、しょっぱいね。血圧が上がる。健康診断近いのに!」
父もいつのまにかゆず胡椒たこ焼きを食べて、悲鳴を上げた。
騒ぎを聞きつけて起きてきたフェレットのカイ君が、私に体当たりをしてきた。ぼよん、ぼよんとぶつかってくる。
「どうしたの、カイ君」
よくわからないが、カイ君は興奮していた。首の後ろをかいてやると、尻尾を膨らませて、また体当たりをしてきた。
「辛いって騒ぐから、うるさいって言いたいんじゃないの」と、母が言った。
「騒いでいるのは私じゃなくて、みっちゃんとお父さんなのに」
理不尽である。
カイ君と目が合った。デラウェアみたいな黒くてまん丸の目が、不満げに私を見つめている。
「皆さんだけ楽しそうにはしゃいで、ズルイじゃないですか」と、言っているのだろうか。
その夜、カイ君は食欲がないようで、ごはんを食べようとしなかった。体調は悪くなさそうだが、昼の不機嫌が関係しているのかもしれない。みっちゃんがカイ君の目の前にねこじゃらしを差し出し、ふよふよと振ると、カイ君はねこじゃらしを歯でくわえてみっちゃんの手から引っこ抜き、壁に向かって力強く投げ捨てた。なかなかの機嫌の悪さだ。
そんなカイ君のために、特製おかゆをつくってあげることにした。
といっても、かなり簡単なものだ。フェレットフードに水をかけて、レンジで加熱するだけなのだから。しかし、カイ君はこの特製おかゆが大好きなのである。フェレットだって、あたたかいごはんが食べたいのである。しかし、ふやかしたフードは虫歯になりやすいという嘘か本当かわからない話を聞いて以来、カイ君の体調が悪いときにしか出さない、スペシャルおかゆなのであった。
フードをレンジで加熱したあと、スプーンでまぜながら、ほどよい温度になるまで冷ましていたら、みっちゃんが飛んできた。
「ふじ姉ちゃんだけ、また何か食べようとしてる! ずるい!」
その声を聞きつけて、カイ君も私のところに駆け寄ってきた。
「カイ君のおかゆをつくってるだけだよ」
「えー」
みっちゃんは残念そうに、口を尖らせた。
ぬるくなってきたおかゆを、私のくるぶしにかじり付いているカイ君の前に置いくと、カイ君は飛びつくようにお皿に顔を入れて、ガツガツと食べ始めた。怒りながら食べているのかもしれない。
「カイ君、今日はなんで怒ってるの?」
聞こえているのかいないのか、一心不乱に食べている。食欲がなかったとは思えない食べっぷりだ。やっぱり体調が悪いのではなくて、機嫌が悪いだけなのだろう。
あっという間に完食すると、カイ君はお尻をぷりぷり振りながら寝床に戻っていった。
うーん、結局なんだったのかわからないままだ。
(第2話 完)
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