ふじ姉ちゃんだけズルイ!

ゴオルド

第1話 とろとろ卵とチーズのクレープ

 きょうは期末試験の最終日だったので、日の高いうちに高校から帰宅した。


 家には誰もいない。

 こんなときこそクレープだ。


 私はレシピノートの「もちもちクレープ」のページを開いた。

 きょうは、おかず系クレープにしたいので、甘さ控えめにして材料を混ぜ合わせる。フライパンに生地を広げるときは、少し厚めになるようにおたまに多めにすくった。よく熱した鉄の上に、少し高い位置から生地を落とすと、何もしなくてもきれいな円になる。それをおたまで表面をそっと撫でるように広げれば、あっという間にクレープだ。


 こうして8枚ほど焼き上がった。


 余ったクレープは、ラップに包んで冷凍しておくのだが、それはあとでやるとして、私はフライパンを再度火にかけた。

 加熱を待つ間に、クレープにスライスチーズを乗せ、スタンバイOK。

 さて、そうしたら今度は卵を割って、フライパンに落とす。黄身が固まる前にフライパンから引き上げ、チーズクレープの上に置いた。まだやわらかい白身がふるふると震えている。

 フォークを使い、黄身と白身を軽くかきまぜてから、塩を一ふりして、くるっと巻いた。


「とろとろ卵とチーズのクレープ」の完成である。



 さて、食べるぞ、というそのとき、

「ただいま~」

 決まって妹は帰ってくる。

 帰宅のタイミングを外ではかっているのかと疑うぐらい絶妙なタイミングで帰ってくるやつなのだ。そして、どういうわけか、まっさきに台所に来るやつなのだ。

 ランドセルにつけたカワウソの顔の鈴がりんりんと鳴る音が近づいてきて、妹様は台所に顔を出した。


「あっ、ふじ姉ちゃん、なんかやってる! ズルイ! みっちゃんも食べたい」

 予想どおりの展開に、私は思わず笑ってしまう。


「みっちゃんの分もつくってあげるから、とりあえず私が食べるまで待ってて……って、あ、こら!」

 みっちゃんは、完成したクレープの皿にさっと飛びつくと、そのまま持って逃げていった。


「ああ、もう。しょうがないやつだなあ」

 もう一度つくるか。

 再び冷蔵庫から卵を取り出す。フライパンを火にかけたとき、足にもふっとした感触がした。


 見下ろすと、クリーム色したフェレットが私のふくらはぎに抱きついていた。

 目が合った。

「ふじ姉ちゃんだけ何か楽しそうなことをしていると聞きました。ズルイですよね」と、言っている気がする。

 この子――カイ君はさっきまで寝ていたはずだが、騒ぎを聞きつけて起きてしまったのだろう。無視して卵を割っていると、すねにじんわりとした痛みが走った。カイ君が噛みついているのだ。カイ君は温厚なので怒って人を噛むことはないが、人間がフェレットの要望を無視するなどして態度が悪いときは、飼い主をしつけるために噛んでくるのである。怒りの感情にまかせて噛むのではなく、指導的な意味合いでやんわりと噛む冷静なフェレットなのである。

 私は一旦火を止めて、カイ君を抱き上げてやった。

「ほら、卵とチーズとクレープしかないよ、君が好きなものは何もないよ」

 調理台の上をひととおり見せてやると、カイ君は満足したようで、部屋のすみに置かれたフェレット専用クッションに戻っていった。


 

「さてと。それじゃあ、つくりますか」

 そのとき、私は新アイデアがひらめいた! これはとろけるチーズで作ったら、もっと美味しいのではないか? みっちゃんには、普通のスライスチーズを使ったけれど。


 そういうわけで、私は「とろとろ卵にとろけるチーズのクレープ」をつくることにした。


 今度はフライパンを二つ使っての二刀流調理である。

 クレープ生地をフライパンAに置いて加熱し、乗せたとろけるチーズをとろけさせたところで、フライパンBでつくっていた目玉焼きを落としてかきまぜる。熱々チーズと卵が絶妙に混ざり合い、大変美味しそうだ。


 ここで再度ひらめいた。マヨネーズをちょいとかけてみたら、なお美味しいのでは?

 そのとき、クレープを食べ終えた妹様が部屋から出てきて、調理台に置いていたスライスチーズのパッケージに書かれた文字、「とろけるチーズ」を見てしまった。

「ふじ姉ちゃんだけとろけるチーズだ! あとマヨも! ズルイ!」

 ふふ、すまんな。



「とろとろ卵にとろけるチーズとマヨクレープ」は大変美味だった。ブラック珈琲が合う!


(第1話 完)

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