第5話 異世界攻略法
「高過ぎる、相場は銀貨1枚くらいだろ。それ以上なら他を当たる」
「チッ、分かったよ……持っていきな」
朝早く起きたアウルムとシルバは市場と商店の集まるエリアで買い出しをしていた。
「全く、どいつもこいつも、ぼったくろうとして、値切り交渉の繰り返し。面倒くさ過ぎる」
「そういうもんと思って適応するしかないな、海外旅行に来たと思うしかない。お前ならぼったくってるか分かるねんからまだマシじゃないか?」
「俺もこれが旅行なら仕方なしと受け入れるが、今後はこれが日常なんだぞ、そう思うとうんざりするだろ……さて、後何か買ってないものはあったか……」
アイテムボックスの偽装用にいくつか袋、鞄を購入。ごくわずかではあるが、マジックアイテムの中には空間が拡張されているものもあるらしいが不要。
屋台でいくつか食事を買いアイテムボックスにいれておけば、時間経過がしないのでいつでも食事が出来る。
それに合わせて調理器具、食器類や水筒をいくつか購入した。
ステータスを利用して質のいいポーションを厳選し、念の為調合道具や入門者用の教本も購入。
後は衣類。召喚された時点でこの世界に馴染んだ服を用意されていたが、着替えは必要。下着は生地の肌触りが良いものを購入しないとちょっとしたストレスが蓄積する。安物はチクチクするのだ。
「残りは武器と防具か」
「いよっ! 待ってました!」
シルバは手を叩きながら喜びの声を上げる。
よっぽど武器を選ぶのが楽しみだったようだ。
「好きだねえ、刃物」
シルバこと、白銀舞は刃物が大好きだった。包丁、ナイフ、刀剣、あらゆる刃物に目がなく、街で見かけると足を止めて眺め出す。
切るのが好きなわけではなく、単に刃物そのものが好きという妙な趣味も持っており、アウルムは苦笑いをして、武器屋に向かった。
***
「これ、いいな。持ちやすい」
武器屋に入り一通り眺めた後、シルバは一本のナイフを手に取った。
メインの武器にはならないが、何かと必要になるだろう。互いに一本ずつ購入する。
そしてメインとなる武器、アウルムは素人でも扱いやすいものをと思い、槍にする。
リーチの長さ、手入れのしやすさを重視した。
後々に魔法メインの戦いをしようと思っているので、そこまで武器にこだわりはない。
だがシルバのこだわりは凄かった。
一つ一つ手に取り、吟味しロングソードを購入。
慣れてないから刃こぼれしたり、歪んだら勿体無いというアウルムの忠告を無視してロングソードの主張を曲げなかった。
中古の武器ではあるが、金属であり武器なのでそれなりに高い。
皮の防具や弓と矢もいくつか購入しているうちに1日で金貨5枚、50万ルミネ、大体50万円ほどを消費した。
残りの手持ちは金貨30枚ほど。まだ余裕はあるが、収入の目処は立っていないので、これからは節約した生活を心がけなくてはと、アウルムは財布の紐を固く縛る。
買い物が終わった頃にはすっかり昼過ぎになり屋台で昼食をとって情報を集める為に動き出す。
「じゃあ俺は冒険者ギルドに行くからお前は街中で聞き込み調査してくれ。ほら、接待費だ無駄遣いすんなよ」
「単独行動かよ、大丈夫か?」
「二人で同じ情報を集めるのは効率が悪いからな。スリ……はアイテムボックスがあるから大丈夫だがトラブルを起こさないように注意してくれ」
「はいよ、じゃそっちも気をつけて」
「ああ。夕の鐘が鳴ったら宿屋で合流ってことで」
広場で二手に分かれて情報収集を始める。
***
「あ〜しんど」
シルバが肩を回しながら宿に戻ってきた。
「お疲れ、遅かったな」
「ガキに勇者の話聞いてたらメシくれってたかられて大変やった……まあこの世界の子供なんて飢えてて当然よな」
なんだかんだと面倒見の良いシルバは腹を空かせた子供たちの要望に答えたようだ。
「それで収穫は?」
「もちろんたっぷり」
食事を奢り情報を引き出す。それは有効な手段なのでその出費であれば多少は承知しているのでアウルムは怒らない。これで収穫が無ければ嫌な顔をするだろうが、シルバは自信ありげに笑った。
「じゃあ聞こうか」
「おっけ」
シルバの子供から得た情報は実際大したものだった。子供というのは英雄が活躍する話が大好きで娯楽の少ないこの世界では飛び切りの娯楽らしい。
まず、魔王を倒したのは2年前。勇者10人組が討伐に成功したらしい。
勇者たちは大体4〜10人程度で一つのパーティを結成し、それぞれ独立して動いていた。
リスクの分散。そして、パーティとしてまとまるのがこの人数だという。
魔王討伐勇者のリーダーはカイト・ナオイ。漢字がないのでどういった字なのかは分からないがそいつリーダーとなった『ナオイソード』というパーティが主体となって討伐した。
剣術に特化したユニークスキルの持ち主で、勇者とくれば最初に名前が上がるらしい。
ナオイは通称『ソードマスター』。ブラックリストと照合したが、その名前は描いていなかった。平民相手でも気さくに接してくれる人望に長けた人物で現在は爵位をもらい王城で貴族として生活しているようだ。
「そいつは取り敢えずマークしなくて良さそうだな」
「ああ。話を聞いた限りでは善人の勇者と思う……知らんけど」
逆に悪名高い勇者もそれなりにいることが分かった。強い力を利用して好き放題しているやつも有名だそうで、勇者と言ってもピンキリ。というのがこの世界の住人の認識らしい。
数人がブラックリストの条件に適合しているので、そいつらに関しては要調査だ。
「ま、こんなもんですな。今回は勇者の情報メインで集めてみたけど」
シルバは両手を広げて見せ、これ以上はありませんとポーズを取る。
「俺としては本当に警戒すべき相手は存在すら知られず悪事を働く知恵のあるやつだと思っているから、名前が轟いてるやつは強いかもしれんが厄介ではないかもな」
「それは思った。いくら強くても目立ち過ぎやし、他のまともな勇者のメンツ汚されるから、敵対するリスク考えると、考えなしな感じはする」
勇者に対抗出来るのは勇者。となれば、悪い方の勇者が好き勝手するのは良い方の勇者からしても都合が悪いし、なんとかしてくれと声が上がるのも当然だろう。
この世界の住人からすれば勇者同士は身内という判定がされるはずだ。
「勇者の魔王討伐後の動きは何か情報はないか?」
「ああ、確か勇者は大体は死亡、貴族、市民、旅人、国外へ移住、行方不明、指名手配のパターンに分かれるみたいやで」
「ふうん、となると国外へ出向く必要も出てくるわけか」
世界地図も購入しておくべきだったかと、アウルムは呟く。
「まともそうな勇者と仲良くなって悪さしてるのに心当たりある奴教えてもらうのはどう?」
「論外だな。基本ルールその1として俺たちは絶対に勇者たちに転生した日本人とバレる訳にはいかない。勇者を通じて光の神に察知されるのはリスクが大きい。もちろん現地の人間にも知られてはいけない」
「そらそうか。で、基本ルールなんか聞いてなかったがその2以降はあるんか?」
「ああ、この際決めておこう」
基本ルール
・勇者及び光の神の創造物である人間、ヒューマン種の誰にも正体を知られてはいけない。
・勇者を殺す場合確実に仕留める。逃してはいけない。
・殺す必要があると判断出来る材料が集まるまでは殺さない。
・勝てないと判断した勇者とは勝てるようになるまでは戦わない
「こんなもんだろう」
「俺らはあくまで狩る側。狩られる側に回るようなリスクは徹底的に排除ってことやな……じゃあそっちの収穫について聞こうか」
「俺が集めたのは国の情勢、この世界の人間なら誰でも知ってる常識、この街の要注意人物、金の稼ぎ方だな」
「半日でよく調べられたな」
「まあ、そういうのが得意なスキルもあるしな」
国の情勢
・魔王が討伐されたことで近年の中でもっとも平和な時代が訪れている。しかし戦争で荒れた空白の領土をめぐり人間同士の小競り合いが勃発している。副次的な産物で、それによって商業は発展し続けている。
・シャイナ国王がそろそろ代替わりするらしい。宮廷では後継者問題で若干緊張が走っている。
・勇者を各国に配置しパワーバランスを取ろうという動きがある。
常識
・勇者より容量の大きなアイテムボックスのスキルは殆ど存在しない。1万人に1人程度の割合でアイテムボックスを所持している人間はいるが、大抵は宮廷勤めか、商人になっているか、雇われている。
・昔から伝えられる建国神話やおとぎ話。魔法が存在するので、嘘っぽくても史実が元になっている可能性は元の世界より高い。
勇者以前の英雄や龍の話が人気。
・魔法は子供でも初級から使えるものが多いがある程度使えるのは大抵が貴族か金持ちで教育を受ける機会があるもの。
冒険者で魔法が使える者は実家が金持ち率が高い。
要注意人物
・領主トーマス・キラド。言わずもがなこの街の最高権力者であり、怒らせてはいけない
・ギルドマスター及びA〜Sランクの冒険者。普通に強いので恐れられている。逆らえる者はほぼ居ない。
・ボルガ団。ボルガを首領としたゴロツキの集団。暴力的であらゆる犯罪手を染める地下組織。アジトの場所は不明で団員が花街やスラムにいる。目をつけられると憲兵でも対処出来ない。
金の稼ぎ方
・ランクに応じて難易度は上がるが討伐はハイリスクハイリターン。競争率は高い。
・リスクは低いがランクを上げることを優先するのであれば採集依頼が手っ取り早い。商業が活性化し供給が間に合っておらず、手間がそれなりにかかるので競争率は低い。
・荷運び及びその護衛。アイテムボックスがあるので大量に物資を輸送可能。上記の経済状況により相場は上昇傾向。モンスターや盗賊の襲撃のリスクがあるので戦闘力か経済力がものを言う。
「これらの情報を統合して考えるに、まずは採集でランクを上げる。ランクを上げたら難度が高めの討伐依頼で実力をつける。ランクが上がれば手に入る情報も金も増えるので商人も並行して目指し、街を移動しながら勇者を探す」
「えー、俺らは最終的に商人になる?」
「ああ、腕の立つ冒険者になれば勇者の耳にも入るだろうし、依頼をこなしてばかりだと時間が食われる。
最終的にはどこかに店を構えて経営を任せられる人間を雇い、俺たちの労働時間を極力減らし安定した収入と情報を入手するネットワークを築きたい。
空いた時間でレベルアップや戦闘能力の向上に時間を当てたい」
「でもレベルアップとなると、結局モンスターを倒しまくることになるし、そうなると目立たんか?」
アウルムのビジョンにシルバは疑問を抱く。
「だから、ある程度実力がついてからは迷宮都市に向かう」
「迷宮都市……ダンジョンか?」
「そうダンジョン。ダンジョンは街の冒険者ギルドによる依頼の報酬による収入ではなく、ダンジョンに潜り討伐したモンスターの素材を探索者ギルドや国に卸すという別の収入の仕組みになっている。
素材を卸し、ギルドや国から表彰されることで名誉や褒賞がもらえるわけだが、俺たちの目的はレベルアップ。となると、階層突破報告や収穫した素材を提出しなければ別に目立つことはない」
「うーん、でも他の探索者? に目撃されるのでは? それこそ強いモンスターのいる階層に進んでモンスター倒してたら他の実力のあるパーティなんかには顔を覚えられるよな?」
「まず、迷宮には探索者が何万人といるらしい。その中で顔を覚えられる可能性は低いし、各階層を守護しているフロアボスは1パーティしか入れない上に広大で初級フロアならともかく、上の階層で顔を合わせることは殆どないと聞いた。というか、手の内を知られたくないので接触は避けるようにしているんだと。
それに、転移結晶とかいう便利なマジックアイテムで入り口に戻れるから何階層に潜ってるかはバレない。
まあ、勇者と意図せず遭遇するリスクが最も高いのは王都か迷宮都市だろうな。それに関しては気にするだけ無駄だが」
「なるほどねえ、最悪仮面でも被ってたら顔バレは防げるか」
「その辺りは行ってから対策を考えよう。先の話過ぎるし今考えても仕方ない」
「ですね……んじゃま、飯食って寝ますか」
「明日から採集の依頼をこなしまくる生活が待ってるからな」
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