第3話 異世界へ
広い草原に金時と白銀は送り込まれた。
闇の神の事前情報によると、ここは勇者が召喚された国、シャイナ王国で2番目に大きな街のすぐ近くのモンスターの少ない安全な場所だ。
「うおー明らかに日本とは違う景色……ってお前誰!?」
「お前こそ誰だよ?」
二人はお互いの姿を見て笑う。勇者に日本人だとバレバレな見た目では困るということで新しく用意された肉体はこの国で一般的な人種の見た目となっており、元の姿の面影はない。
「白銀だから銀髪か安易な」
「いや、お前も金髪やし……ってか、お前パッと見女やん。ちんちんついてるか?」
「ついてるわ馬鹿……いや、待て……うん、あるな。てか女って言うな。……まあ分かりやすくていいか金角銀角コンビらしくて」
白銀はやや褐色の肌と銀髪で非常に大柄。金時は白銀に比べて小柄ではあるが、それでも成人男性の中では背が高い方。肌は白く金髪でまつ毛も長く女のような容貌となっていた。
金角銀角コンビとは二人の名前と仲の良さから周りで呼ばれていたあだ名のようなものだ。
「さて、まずはステータスの確認かユニークスキルについてはここに来てからじゃないと不明ってことだし」
「ワクワクしますな」
「多少はね」
浮かれるのが恥ずかしい金時は冷静を装いながら、白銀に片眉を上げながら笑う。
「「ステータスオープン」」
名前:アウルム(
年齢:27歳
種族:ヒューマン
レベル:1
称号:転生者
体力:30
魔力:90
攻撃力:15
防御力:25
俊敏:40
知力:100
上位互換勇者スキル
・アイテムボックス
・ステータス
・念話
・言語理解
ユニークスキル
・
・
・
名前:シルバ(
年齢:27歳
種族:ヒューマン
レベル:1
称号:転生者
体力:45
魔力:25
攻撃力:100
防御力:25
俊敏:30
知力:70
上位互換勇者スキル
・アイテムボックス
・ステータス
・念話
・言語理解
ユニークスキル
・
・
・
互いのステータスを確認した二人は思わず呟く。
「「お前のユニークスキル名ダサくね?」」
「いやいやいや、名前がマイだからって全部マイなんとかって」
「そっちこそ、カッコつけ過ぎちゃいますか?」
誰も居ない草原にゲラゲラと男の笑い声が響く。
***
「で、ユニークスキルの内容だけどまずは俺から説明な。どのみち互いの能力分かってないと困るし」
「使える能力なら良いけどアナルなんちゃらは弱いやろうな〜」
「アナライザーな、メタアナライザー……ツボ入って聞いてないな、マイペースを発動するには早いぞ」
・現実となる幻影
あらゆる目を持つ生物に有効。目を合わせた対象に使用者がイメージした通りの内容の幻術をかけることが出来る。目を合わせた時間が合計で10秒になると、幻術の内容に適した反応が実際に身体に現れる。
被使用者の肉体のポテンシャル以上の反応は現れない。
幻術であると10秒以内に気付かれた場合は対象の知力によっては無効化される。
ただし、使用者が使用者本人に幻術をかけることは出来ない。
長時間の使用は負担がかかる。普段は知力に依存する。
・虚空の城
異なる空間を作成しそこに入り込むことが出来る。魔力に比例して空間のサイズは拡張される。
作成した空間の行き来が可能。また、空間の入り口の位置を固定出来る。
・解析する者
解析した対象者の生理学的反応や発言、動作の傾向などあらゆる情報をデータ化し表示する。ステータスと併用することが出来、より詳細な鑑定が可能となる。一度認識した情報を自在に引き出すことが出来、忘れることはない。
ステータスによる鑑定では表示されない個人的な内容やメモを追加で記録、分類が出来る。
「どうよ、強いでしょ」
「うーん、『虚空の城』はわかりやすい。要するに空間魔法やろ。でも他二つがパッと聞いただけではイメージしにくいというか……」
白銀は首をかしげて、うーんと唸る。
「要するに、『現実となる幻影』は炎に包まれる幻術をかけたらヤケドする、これはプラシーボの実験で有名だろ? でも腕を三つにする幻術をかけても無から腕は生まれないから現実にはならない。腕が増える幻術が見えるだけってこと。
これは生き物なら10秒目を合わせたら確実に倒せるってことで反則級に強いスキルなんだよ、お分かり?」
金時は白銀に指を向けて自慢げに能力の説明をする。
「じゃあお前の精神状態によっては効果ないってことじゃない? 大体10秒目合わせるって結構長いし、戦ってる時にそんな集中してイメージ出来る?
不意打ち専用で、逆に不意打ちにめちゃくちゃ弱くないか?」
「そこら辺は追々対策考えよう。そもそも、正面から殴り合うつもりないし、俺は俺が一方的に勝つ型に、はめて戦うタイプな気がするし……で、続きな。
『解析する者』は戦闘には不向きかも知れないが、実生活や交渉なんかではかなり役に立つと思う。
まず、嘘を見抜けるはず。発言の内容も記録して精査出来るし、要注意人物はマークしてリマインド可能。人物関係やそいつの頭の中もある程度読めるし、体調の変化などにも気付ける。
勇者のステータスが直接見えなくとも、心理的な状態は見えるし、『現実となる幻影』とのコンボも使いやすいし、俺的には気に入ってる。かなり使いやすい。
魂の適性から能力が作られるってのには納得する」
「まあ、人の仕草の変化とか気付くの得意やし、色んな映画とか小説とか見てるお前なら想像力も豊かやろうから反映されてるか。ご丁寧に忘れっぽいお前向けのリマインド機能つきと。
『虚空の城』はインドア中のインドアってので明らかやが。
じゃあ俺のユニークスキルの説明やな」
・破れぬ誓約
口約束、書面での契約、あらゆる約束事が使用者にとって正当性のあるものと確認された際に自動的に発動する。
また使用者に対して一方的な約束を強要し、使用者が拒否し、それを無視した場合にも発動する。
その際、約束を破ると罰則があることを相手に宣言する必要がある。
約束を破るとその瞬間から行動不能となり、使用者は感知する。
その際使用者の指定した罰則を強制的に実行する。
使用者本人が約束を破った場合は1週間『破れぬ誓約』が使用出来なくなる。
・不可侵の領域
指定した範囲に結界を張り、指定したものだけ結界内に入れることが出来る。
光、音、空気、スキルの部分的な使用まであらゆる対象を指定出来る。
結界を張る場合、使用者の所有物を最低でも三方に設置する必要がある。
結界内に滞在していない場合は使用者の縄張りであるという認識度合いにより持続時間が変化する。
結界内では使用者及び使用者が仲間と判断している人間のステータスが3倍になり、敵と判断した相手は3分の1となる。
・非常識な速さ
ものに触れている間、時間の流れを自在に変化させられる。最大1万倍まで任意で操作出来る。
生物の場合は肉体の時間、精神の時間を触れている間に変化させる。ただし精神を巻き戻すことは出来ず認知する時間の速さを変えるのみ。
無生物の場合は触れた時間を基準に、時間を進めてあるべき状態へ変え、時間を戻し過去の状態を再現する。
この能力は触れている間のみ使用できる。
「とまあ、こんな感じですな」
「使いにくくね……?」
白銀の説明を聞いて金時は唖然とした。あまりにもピーキーな能力だ。
自分中心、他人からの干渉を極端に嫌がる白銀の特性を見事に反映した能力ではあるが、その分面倒くささ、融通の効かなさ、制限の多さに苦笑いをするしかない。
「筋通ってないことを絶対に許さんユニークスキルは助かる。吐いた唾を飲む、二枚舌は俺の前では通用せん。これだけでも価値あると思う。
それに俺のテリトリーとペースを乱すやつにも容赦なく反撃出来るし文句ないな」
「『破れぬ誓約』に関してはデメリットついてるし、ユニークスキルというかもはや呪いでは?」
「いや、当然やろ。俺が筋通ってないこと許せんのやから一方的に筋通せは無理があるから俺も筋通ってることを誓わんと」
「お前が納得してるならこれ以上は何も言わんが、お互い直接攻撃出来るようなスキルが何一つないから戦闘には向いてないな……レベル上げてステータス高めとかないと勇者倒すのは結構苦労するかもな」
「そうか? 俺らの能力合わせて使えば一方的に勝てると思うけど?」
「いや勇者倒すって言っても障害は絶対勇者だけじゃないし、集団戦に弱いよこれ。
さっきお前が言ったように咄嗟のハプニング的な事態に対応しにくいユニークスキルばっかりですよ? 寝てる間に闇討ちとか毒殺とかには対処出来ないからね?」
「確かにそれはそうか」
暴力的ではない二人の性格が見込まれて闇の神の刺客となったが、戦うことが重要となっているこの世界では皮肉にも戦いには向いていないユニークスキルばかりとなってしまったが、こればかりは闇の神では如何ともしがたい。
***
「さて、ステータスの確認もしたしそろそろ行きますか」
「街?」
「違う、闇の神様が近くに隠された盗賊のアジト跡があってそこに金があるから当面の資金にすると良いって言ってたの聞いてなかったか?」
「ああ、この世界のこと直接見ることは難しい的なこと言ってたのに妙に具体的なこと知ってるなと思ってたあれか」
白銀は少し考えて思い出すとポンと手を叩いた。
大昔に勇者によって壊滅した盗賊団の蓄えた財宝は、いつか送る自分の刺客の為に与える資金として闇の神が目をつけていた。
盗賊が死ぬ間際に勇者を呼んだ光の神に向かって恨み言を吐きながら、闇の神に金でもなんでもやるから助けてくれと祈ったことから、闇の神に察知され利用されることになるとは盗賊も思うまい。
別に闇の神は悪い神ではないので悪人の願いを聞き届けるような殊勝なことはしないし、悪に肩入れする存在でもない。
光の神によるプロパガンダによって、後ろ暗い事情のある者、人間──ヒューマンと呼ばれる種族以外に信仰される邪教のような扱いを受けているのだが、誤解が解けることはないだろう。
金時と白銀は情報を頼りに草原から少し歩いた先にある森の中の洞窟で財宝を漁り、アイテムボックスに仕舞い込むと街へ向かった。
気がつけば陽は傾き始め、地球とはまるで違う二つの月が浮かぶ空を見て改めて異世界に来たのだと実感させられた。
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