第23話 春と修羅、ふたり 4
異能というのは、人生そのもの。いわば、心の在り方なのだという。
俺は、鬼切ざくろという少女の在り方、異能について、リビングのソファに座って考える。
あんこさんの便利空間での
鬼切ざくろの異能。ただ斬って殺めるための日本刀、『
長所だが、それは致命的な短所でもある。
テレビから流れる猫の特集番組を夢中で観ているあんこさんに、俺はそっと話しかける。
「あんこさん、相談があるんだけど。ざくろさんの異能とか、精神状態とかについて」
「うにゃん? なんですの、聖司?」
「ざくろさん、傍目にも頑張りすぎだし、余裕ないだろ。それに、『機関』から報酬って、貰ってるのか? もちろん、生活費とかは抜きにして、だ」
「……!?」
ざくろさんがくわっとした顔をする。そんな発想はなかった、といった表情だ。
「やっぱり無償労働か。言っておくけれど、俺たちは命を張っている。ざくろさんなんて、腕がちぎれるまで戦ってたんだぜ? それで『使命だからなんの対価もなし』はないだろう」
「それは……確かに……けれど、御嬢様が対価など、受け取るでしょうか……?」
あんこさんがうろたえる。それはそうだ。
鬼切ざくろは、抜き身の日本刀。とんでもなく斬れる、『旦那様』とやらの懐刀。けれどその精神性は、あまりにも純粋すぎる。『不特定多数の誰かのために死ぬ』なんて、逃避と同じだ。彼女にはその選択肢しか与えられていない。そんなもの奴隷となにが違う。『旦那様』とやら、親代わりだろうが背負わせすぎだ。
後で一発ブチ抜く。絶対ブチ抜く。俺は決意した。
それはそれとして、対価の話だ。
「だから、こういうのはどうだろう。あんこさん、耳貸して」
俺はあんこさんに耳打ちする。あんこさんがまたくわっとした顔になる。
「聖司、あなた、ひょっとしてものすごくよく気がつくんですの……!?」
「そんなにビックリしないでくれよ……」
「褒めていましてよ。ほら、顎の下を撫でてもいいですわ。耳の裏もよろしくてよ」
「はいはい、喜んで」
俺があんこさんのリクエストに応えて色んなところを撫でていると、ざくろさんが風呂から出てきた。相変わらず俺の文字Tシャツ一枚に肩からバスタオルをかけて、髪は濡れたままである。
「なになに、楽しそう。わたしも聖司と遊びたい!」
そう言って、彼女は俺の膝に乗る。大きな野良猫に懐かれたみたいだ、と思う。強くて、綺麗で、鋭くて、純粋で、とんでもなく不器用で搦め手に弱い。
この先、搦め手を使ってくる敵が出てこなければいいが、そんな風に世の中は都合よくできていない。大丈夫、この感情はあくまでも彼女への庇護欲と親愛だ。
「まだ、割り切れる。……まだいけるぞ、俺は」
俺は必死で自分に言い聞かせる。もしもの時に、俺がざくろさんを助けなければ。助けて、繋ぎ止めておかなくては。
その『もしもの時』がすぐにやってくるなんて、思っていなかったけれど。
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