第六章 春と修羅、ふたり

第20話 春と修羅、ふたり 1

 薄暗闇のなか、報告を聞いた褐色の肌の男は眉をしかめて顎を撫でた。


「へぇ、水木区の守護者が二人に、ねぇ……あのガキ、『初月』迎えやがったのか。しかも、超攻撃型の異能か。ったく厄介なおもしれえことになったなァ」


 ここは東京都水木区の中央区画にある、高級ホテルの最上階をワンフロア貸し切ったスイートルームである。


 広い室内には日が差さないよう、遮光カーテンが厳重に閉められている。万が一にも、部屋になにがどれほどいるか人間に見られないように、結界も張ってある。間接照明だけがともされた空間のなか、若者が碁盤を前にしている。


 筋骨隆々、白い髪に褐色の肌。今はジャケットではなくホテルの寝間着だ。新学期二日目に、水木駅前で鬼切ざくろと黒羽聖司に接近し、二人の異能を見抜いてみせた男である。


「『葬儀屋』とかいうイケてるバケモノが、そんな戦闘向きの異能だったたァな。小僧、あのとき殺しとくべきだったか? いやァ、報告ごくろうさん。面白くなってきやがったな。全く、全く、ああ、腹が立つなァ。最近の奴らは俺たちを敬うことも、おそれることも知らねェ。らせてやらなきゃァ、いけねえ、よなあ――」


 男の顔に焦りはない。むしろ楽しそうに、碁盤に白い石をぴしりと置く。碁盤の上には、東京都水木区の地図が置かれている。その端に、白い碁石がひとつ。今は、ふたつに増えた。


 水木区の地図の中心には、黒い碁石が所狭しと置かれている。


「さて、報告ついでだ。お前にはまだ働いてもらうぜ。次は、そうだな。こう、だなァ」


 青年は、黒い碁石を白い碁石の斜め下に置いて、目の前にいる黒いなにかに命令する。


「よし。お前。帰ってきてすぐだが、そいつらのタマァ獲ってこい。お前の精神攻撃は、かわいこちゃんにはてきめんに効くだろ。ただし、小僧が危ない。充分注意してだな……」


「ギギギギッ」


 人間大の黒いなにかが返事をしたかと思うと、すぐにふっと消えてしまう。


「……って、おいおい。返事だけはいいんだからなァ。せめて最後まで話を聴いてから行けよなァ」


 消えてしまった黒いなにかにため息をついて、髪をくしゃくしゃと撫でる。にやり、と口角を吊り上げて、青年はソファに寄りかかった。


「まあ、行動が速いのはいいことだけどなァ……東京都水木区の守護者、ふたり。お手並み拝見、といこうじゃねェか」



 くくく、と青年は顎を撫でて、楽しそうに地図と碁石の載った盤面を見渡した。

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