崩壊
朱理と別れ、家についてからから、仁はずっと記念日のことを考えていた。折角の一年記念日。どうせなら朱理をとびきり喜ばせてやりたい。
そもそも仁は本来、こんな記念日などを祝うような趣向は持ちあわせていなかった。それでも少しづつ朱理に合わせ、そうして染まっていった。彼自身、それは心地のいいものだった。仁は色んなサプライズを脳裏に浮かばせていた。
そんな思いを膨らませながら、仁はスマホを開いた。駅で別れた後から朱理から返信がこない。少しの嫌な予感が脳裏をよぎった。
ーーその時、家の電話が鳴った。今の時刻は23時を過ぎたところ。こんな時間に電話がなることなんて、普段だったらありえない。仁はすぐに受話器を手に取った。
「‥‥もしもし」
声を聞いた途端、仁はその相手が誰なのかすぐに分かった。
ーー朱理の母親だった。
「もしもし。‥‥朱理のお母さんですよね?」
「そうよ。仁君ね? ‥‥朱理ってまだ一緒にいるの?」
そういった朱理の母親の声は震えていた。仁もこの質問を聞いた途端に、受話器を持つ手が震え始めた。母親の質問の答えなどお構いなしに、仁はこちらから聞き返す。
「もしかして‥‥まだ帰ってないんですか?」
心臓が高鳴る。額がジワリと嫌な汗で滲んでいく。
「‥‥あぁ、やっぱり仁君ともいないのね」
朱理の母親はとても小さな声で言った。この時、仁の中ではあの後に朱理に何かあったと考えるしかなかった。返信がこないのもそのせいだと。
朱理の母親には駅で別れたことを説明して電話を切った。母親は警察に捜索届を出すと言っていたが、仁はいてもたってもいられなかった。
気がつくと家を飛び出し、駅まで走っていた。何かあったなら帰り道しかありえない。そう思う他なかった。
駅まではそうは時間はかからなかった。仁はそこから朱理の家の方に向かって更に走る。もう無我夢中だった。何ごともなく、目の前から朱理がひょっこり現れることを祈るしかなかった。
そんな願いも虚しく、道路の端に見覚えのあるものが落ちていたのを仁は見つけた。
ーーそれは、花の冠だった。間違いなかった。これは仁が先ほど朱理に買ってあげたものだった。仁は頭が真っ白になりそうだった。間違いなくここで何かがあった。考えたくはないが、そう考えるのが一番自然だったのだ。気がつくと仁の頬を涙が伝っていた。
自分のせいだ。自分が朱理を自宅まで送っていれば、こんなことにはならなかった。自責の念と後悔に押しつぶされそうだった。仁は見つかるはずのない朱理を探し、深夜の街を走り回った。
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