幸せな日々
仁と朱理は近所のに出来たばかりのテーマパークに来ていた。ここは最寄りの駅から無料の送迎バスが出ている。前日の大雨とは打って変わって、この日はとても良い天気だった。
「仁! 次はあれに乗らない?」
「わかったから、はしゃぎすぎると転ぶぞ」
朱理は仁といる時はよく笑っていた。付き合いたての頃はお互いぎこちなく、ワガママを言うことも少なかった。
それでも付き合ってから三ヶ月を過ぎたあたりからは、お互いに気を遣うことも少なくなり、周りからも公認のような関係になっていた。
正直、朱理と付き合う前の仁の高校生活は退屈そのものだった。高校一年の頃を思い出しても、別に大した思い出は無い。かといって当然友達もいたし、遊んでいたりもしていた。
しかし、それでも何かつまらなかった。それも高校二年の春に朱理と付き合い始めてからは、全てが変わった。仁のそれまで灰色だった高校生活は色をつけ、楽しみで溢れた。
それは依存とまではいかないが、朱理がいないことなんて仁には考えることができないほどだった。
休日にバイトや部活がない時はほとんど一緒にいたし、学校の行事だって一緒に楽しんだ。それくらい、二人はずっと一緒にいた。
テーマパーク自体、仁はそんなに好きではないが、朱理が楽しそうにしているだけで満足だった。彼女の笑顔が何より嬉しかったから。
「見て見て、この花のかんむり。可愛くない?」
朱理は無邪気に笑いながら、お土産屋のグッズを眺めている。このテーマパークは出来た当時、テレビで大きく取り上げられるほど人気で、たくさんのファンで押し寄せていた。
今となってはその波は少し落ち着いてきたが、それでも休日はだいぶ混み合っていた。
この日は学校終わりに寄ったので、人の波は比較的落ち着いていた。今いるのは地元の人間や、コアなファン。それに写真を撮りに来ている人たちなどだった。
「朱理にすげぇ似合ってるから、プレゼントしてやるよ。バイト代出たばっかだし」
「いい、いい! 流石に悪いよ!」
「いいから。その代わり、また今度お弁当作ってきてくれればいいからさ」
朱理はたまに仁の分のお弁当を作ってきてくれていた。これがとても美味しく、仁の胃袋は簡単に掴まれていた。
「そんなことなら合点だよっ! やった! これ付けちゃおうっと!」
朱理は嬉しそうに花の冠を頭に乗せている。その姿は高校生というより、小学生に見えてくる。こんな幼い姿も普段の朱理からは想像はできない。仁の前でだけ見せてくれる特別な朱理だ。
ひとしきり周り終わり、空はすっかり真っ暗になっていた。明日も学校がある。この時間は名残惜しいが、また明日会える。そう言い聞かせて二人は帰路についていた。
この町はテーマパークこそできたが、それでもまだまだ田舎。夜になると真っ暗になるし、駅前以外は街灯の明かりが照らしているだけ。人の気配も消え、町は閑散とする。治安が悪いとは思わないが、夜は暗い為いつも仁は朱理のことを家まで送っていた。
「今日はここまででいいよ?」
「いや、危ないから家まで送るって。この道暗いし」
朱理の家は駅前を過ぎて、暗い路地を進んだ先にある。仁の自宅は朱理の自宅の方とは駅の出口が反対側にあり、いつも朱理の事を送ってからまたこの駅に戻ってくる。
しかし、仁はこの時間を手間に感じた事はないし、むしろ朱理と少しでも長く居られるならと思っていた。
「大丈夫だよ! 仁は過保護すぎるんだよ! 私だってもう立派な大人なんだよっ?」
朱理は得意げに胸を張った。それは朱理の大きめのバストを強調していた。
「いや、でも‥‥」
「すぐだから大丈夫だよ。心配してくれてありがと。そんな仁の事も大好きだよ」
そう言って、朱理はキスの催促をしてくる。別れ際はいつも絶対に二人はキスをしている。いつからこれが始まったのか覚えていないが、いつの間にか恒例になっていた。
「‥‥わかったよ。気をつけろよ?」
二人は唇を合わせる。少し人目が気になるが、そんなのはいつもの事だ。
「えへへ。また明日ね仁」
「おう。また明日な」
朱理は大きく手を振りながら、何度もこちらを振り返りながら遠ざかっていった。仁はその姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。
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