第2話 2

少女と行動を共にしてどれくらいが経ったか、長い沈黙が続いているような気がする。コミュ力に自信はない。でも何か話題はないかと頭を悩ませていると、少女の方から沈黙を破ってくる。


「真尋君は、どうして死んじゃったんですか?」


「……いきなり直だな」


よくもまあそんなナイーブな話題を真顔で聞けたもんだなと、逆に感心さえしてしまう。さてどう説明するべきか考える。自殺した事を話すなら理由まで言わなければならないだろうし。だがそう素直に説明しようとしていた自分に驚き、一周回っておかしくなってくる。思わず笑みを溢した俺に、少女は首を傾げた。


「私、そんな愉快な質問しましたっけ?」


「いや、ゴメン。まあ、いわゆる飛び降り自殺」


「飛び降り自殺の話をするのに、どうして急に笑い出すんですか?おかしな人ですね」


変人扱いされてしまったが何だろう、嫌な感じがしない。これまでの経緯からであれば不快な発言には過敏に反応していたというのに、不思議な事だ。こんな子と出会えていたのであれば少しは見方も変わっていたかもしれない。両親を含めてそういった人に出会えなかったから、こういった選択に迫られたのだ。なのでこちらからも自然と質問をした。


「君は何で死んじゃったの?てか、いくつ?」


「女性に年齢を聞くとは失礼ですね。まあ15歳ですけど」


「あ、文句言うのそっちなんだ」


死んだ原因を聞かれる方が嫌じゃね?とも思うのだが、そこは人によるのかもしれないな。


「私はですね、あ、陽菜でいいですよ。私が死んじゃったのは、あれ、真尋君は何歳なんですか?」


「……16歳。なんかゴメン、続けていいよ」


「はい。えっと私はですね、交通事故に遭って死にました。トラックに轢かれて挽き肉に成り下がりましたね、多分ですが」


「いや言い方ね。もっとオブラートに包むどころかグルグル巻きにした方がいいよ今後は」


「はあ。でも今後なんてあるのでしょうか?」


確かに。ここがどういった場所なのか分からないが、少なくとも二人とも現世では死んでいるのだ。もうその必要もないのかと思うとどことなく感慨深いような感情が浮かんでくる。どうせこの出会いが最後だ、そう思い質問を重ねた。


「陽菜、は通学途中だったの?着てるのも中学の制服だよね?」


「そうですけど、事故に遭った日は母が病死したという知らせを受けたので、病院に向かう途中でした」


あ、やべ。まさか間接的な理由の方がナイーブだったとは。けれど陽菜は気にした様子もなく、淡々とした素振りで続ける。


「母は元々持病持ちで、でも父が借金を残して夜逃げしたので代わりに返済してました。その結果、病気を拗らせてしまったようです」


随分と重い話を放り込んで来たな。けれど両親が死んだところで俺の場合は何も感じない事だろう。まあそれは俺の場合の話だ、ここではその感想は捨て去る事にする。


「……そっか、酷いお父さんだったんだね。陽菜が憎んでいるんだとしても、仕方ない事だと思うよ」


「どうしてですか?私は誰も憎んでなんていませんよ?」


何を言っているのか理解できない。自分たちを不幸に追い込んだ奴を憎んでいない、そう言ったのか?聞き間違えかとも思ったが陽菜は続ける。


「お父さんはきっと怖かっただけ。お母さんは人より頑張っただけ。結局みんな不幸だっただけじゃないですか?」


これが陽菜という少女の本心であるならば、かなり偏屈な考え方の持ち主だ。世の中には善人と悪人がいて、被害者と加害者がいる。秩序を守る為に法は存在し、罰せられる者が出るのは当然の成り行き。けれど陽菜は悪事ですら不幸の一言で済ますのか。到底受け入れがたい思想であった。


「私、間違ってますかね?真尋君とは気が合いそうな気がしてたんですけど」


何と返せばいいのか分からない。違うとも言い切れないのは、この少女の境遇を鑑みての事だが。暫く悩んでいると、今度は陽菜から質問をしてくる。


「真尋君は、どうして飛び降り自殺なんてしたんですか?」


「……言いたくない」


「そうですか、残念です」


きっと俺の動機を聞いたら、陽菜は全く違う見解を示すのだろう。だから言えなかった。

けれど気まずくなったこのタイミングで別の人影が目に入り、俺は逃げるようにしてそちらへと向かうのであった——。

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