パラドックス・エンドロール
宵空希
第1話 1
全ては望もうが望まないが同じ事。現実はどういう形にしろ、否応なしに突き付けられるものであり、環境や境遇など選べる筈もないのだから。俺、夜咲真尋(よるさきまひろ)はくだらない茶番を終わらせる為に、高1の冬。自宅マンションの最上階から飛び降りた。
最後に目に映ったのは皮肉にも、街の明かりが点々と色づいた。そんな人々の暮らしが連想されるような、人工的な夜景だった——。
「何だ、ここは……」
朦朧とした意識の中で何とか上体を起こした俺は、辺りを見渡して驚く。そこは白と黒の濃淡だけで構成された、色の抜け落ちた世界であった。下は一面が砂地で一瞬砂漠かとも思ったが、暑さや寒さは何も感じない。
ここは死後の世界なのか、試しに思いっきり腕をつねってみた。普通に痛かった。余計にここが何なのか分からなくなり、一先ず誰かいないか探してみる事にする。死後なら死後でアナウンスが欲しいところだ。
地平線の向こうまでもが砂漠で広がっており、加えて色がないせいで遠近感がイマイチ掴めない。が、それなりの長旅になりそうな予感がしてくる。
そう思う俺は何にしてもさっさと終わらせたい、それだけであった。
どれくらいの距離を歩いたか。腹は減る事もなく眠くもならないが、いい加減飽きてくるくらいには歩いた。
頭上には月らしきものが存在しており、けれど全く傾きを見せていない。
でもそんな事はどうでもよかった。あんな現世で生きるより、ここで彷徨っていられる方がずっとマシだ。他人との関りが苦痛で仕方ない、クソ世界に比べれば。
だがその考えも改めなければならないかもしれない。前方にポツリと人影が見えてきたからだ。誰かこの場所について教えてくれる人を探していた訳だが、いざ他人とまた関わるのかと思うと億劫にもなるというもの。
だが意を決してその人影へと歩み寄った。
「……あの、すみません。聞きたい事が——」
「——真尋君、ですね?」
「え……?」
色がないせいでハッキリとは分からないが、濃さからして黒髪だろうか。長いロングが清純さをイメージさせる少女は、俺を名前で呼んだ。
この世界の案内人だろうか。だが少女はそんな推測をバッサリと切って来る。
「私は朝川陽菜(あさかわひな)。あなたと同じ、向こうで死んじゃった人間です」
「あれ?案内人じゃないの?」
「案内人?はて、何の事でしょう?」
質問は通らなかった、つまりこの少女も俺と同じ境遇だ。ならば何故こちらの名前を知る事が出来たのか。
「何で、俺の名前を?」
「さあ、何ででしょう?自然と口に出していました」
理由が当人にも分からないとは流石に想定外だった。さて、どうしたものか。知らないなら「はい、さよなら」では罪悪感が残るような気がする。これが良心の呵責という奴か。なのでやむを得ず少女に提案する。
「あーえっと、ここが何なのかもまだよく分かってないんだ。良ければ一緒に行動しないか?」
捲し立てて言った俺の案に、少女は快諾の意を示す。
「はい、是非とも。宜しくお願いしますね、真尋君」
この陽菜と言う少女はわざと言っているのか。こっちはまだ自己紹介もしていないというのに既に確信を持っているような言い方であった。
こうして灰色の世界での二人旅が始まる——。
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