第7話 真っ白のドレス!

リゼの依頼を受けてから、ルルコット城下町へ行くために俺は身辺整理をしていた。



「さて……なにから手をつければいいのやら」



おそらく一度発つと、数日、あるいは数十日はこの愛しの我が家には戻れなくなる。

着替えに、道具に、本に。いろいろと準備していかなくては。


それにしても、呪術者討伐の依頼なんて、何か月ぶりだろうか。

金貨1000枚というと、ここ1年の俺の報酬を軽く上回る金額。

今回の仕事で大金を稼いだら、このきたねぇほったて小屋の立て直し費用にでもあてようか。




「ふうむ……そう考えると悪くはないな……」




俺の住む掘っ立て小屋の造りは実に質素。

薄い壁で簡単に三つに仕切られている。

玄関から入ってすぐの客間兼居間、奥に寝室、そして今、俺がいるこの埃っぽい書庫だ。

書庫といっても、がらんとした四角い部屋に呪術関連の本が山積みになっているだけの汚い部屋だが。


俺は床にあぐらをかいて、あちこちから本を引っ張り出してかき集めていた。

俺の頭の上にちょこんと座っていたキャンディがわめく。




「あのリゼとかいう子は相当なおバカに違いない! 正真正銘のおバカちゃん! おバカには違いないんだけど!」




俺が次の句をつなぐ。




「バカには違いないけど、とんでもない大金持ちだ」

「そうよ! いいひびき! 大金持ち!! うふふふ❤」

「何がそんなにうれしいんだ、お前は」

「ねぇ、アタシ、アンタにお願いがあるの」



キャンディは嬉しそうにとびはねる。俺は聞いてみた。



「お願いってなんだよ?」

「報酬が入ったら、アタシの服をかってよ」

「ふく? お前、服なんかきてたか?」

「なによ! アタシの服には興味ないのにあのオンナの胸には興味しんしんだったわね。じろじろみちゃってさ」

「あたりめーだろ、男ならとうぜんだ!」

「きも」




にしてもコイツ、どんな服を着ていたっけな。

俺は頭の上で飛び跳ねるキャンディの耳を素早くつまんで、自分の顔の前に持ってきた。

俺の指につままれた黒い耳、顔には黒い石でできたつぶらな目玉、茶色の鼻がちょこんとのっかっている。


やめなさい、とか何とか言いながら、キャンディは手を振り回してぶらんぶらんとあばれている。


体をよく見ると所々シミのついた白いエプロンのようなものが着せられている。

なるほど、なんともみすぼらしいな。



「服ぐらい、報酬が無くても買ってやるぞ」

「ほんと!? キー!! うれしい!」

「でもぬいぐるみの服なんてどこに行けば買えるのやら」

「きっと城下町に行けば、雑貨屋さんか、裁縫さいほう屋さんがあるでしょ! ワクワク!!」




俺はぱっとキャンディの耳から指をはなす。

キャンディはふわりと床に着地し、こちらを見上げる。




「でさ、アンタさ、さっきから何を探してるのよ?」

「呪文の本だよ」

「まさか、この本全部持っていくつもり?」



キャンディは床に積まれた本を見上げる。



「全部じゃないが、ある程度はな。なにせ今回の依頼は呪いを解いて、術者の特定までしなきゃならん。まずは呪いを解くための呪文をさがすところからスタートだ」

「すぐにできるんじゃないの? そんなの」

「指輪を外すだけならあまり時間はかからんがな。しかし呪いを根底から解くとなると話は別だ」

「しっかりしなさい、ヒゲオヤジ! さ! 金貨の為よ!! いいえ! アタシの新しいお洋服の為よ!! アタシ真っ白いドレスがいいの♪」




ちょこちょとこ床の上を踊りまわるキャンディを見てふと思った。




一度こいつを魔眼のメガネで測定してみたらどうなるのだろうか。

こいつは生きているのか死んでいるのか、魂だけの存在だ。

俺はポケットから出したメガネをかけてキャンディを眺める。




「ん……?」




例のごとく古代文字と数値が浮かぶが、なんだか見た事がない異様な表示だ。






            炎 氷 大地


 風  死霊    闇   呪殺

        獣    暗黒     竜神 


  直矛 刀

 

     ……… 光◇  …▼  ……


力 1  攻撃力 2


生命力 0      魔力 7789000  


防御 2   知力 8900024


抵抗力 1  器用さ 4


素早さ 88          運 3








「は? なんだこれ?」



ありえない数値に、歪な古代文字の羅列。




「……ていうか魔力、七百、七十、八万……?」




この魔眼のメガネも随分と古いものだから、すでにこわれているのかもしれないが。

その時、数値が微妙に変化していく、そして。




  測定不能  ……… 光◇  …▼  ……


力 測定不能  攻撃力 測定不能


生命力 測定不能       魔力 測定不能  


防御 測定不能   知力 測定不能


抵抗力 測定不能      器用さ 測定不能


素早さ 測定不能

              運 測定不能





あっという間に、すべてが測定不能になってしまった。

俺は指でつまんで、眼鏡をはずす。

その時、メガネのガラスに小さなヒビが入っているのに気がついた。



「最近手に入れメガネだが、やっぱり、使い物にはならないか……」



俺は、なんだか釈然としないままに、眼鏡を胸ポケットにしまい込むと作業に戻った。

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呪術師ウル・べリントンは呪われるたびに強くなる。スキル『呪具耐性』で色んな呪いの装備を使って無双します。そこの貴族!呪いを解きましょうか?ぼったくりますけどね。 三神カミ @mikamikai

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