第4話


 巨大な体躯が、少女に向かって襲いかかる。


 少女は刀の柄を握りしめたまま動かない。


 微動だにしていなかった。


 2人の背後に点滅する信号機が、コンマ1の刹那に、立ち止まっているようにさえ見えて。



 ザッ



 地面と靴が擦れる音がする。


 その摩擦力は、空気を動かす程度には“強く”なかった。


 ただ、地面に写る影を動かす程度には、確かな輪郭を切り抜いていた。


 耳の皮膜に残る質感と、——弾力。


 その重心の深く、——ずっと“近い”ところに地面が疾る。


 土埃の舞う痕跡が、瞬く間に視界を横切り。




 ドッ





 スニーカー。


 少女の履いていた靴だった。


 緑色の紐が、刹那の中心に揺れ動いていた。


 「音」は、後から聞こえてきた。


 赤い鮮血が空中に舞う。


 重力に乗っかっていない丸い粒状の「赤」。


 それが、まるでシャボン玉のようにふわりと宙に止まり。

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