第6話 わたしは婚約を維持したい
殿下の口からついに、
「婚約を破棄する」
という言葉が出た。
いざ言われてみると、これほど衝撃的な言葉はない。
「そして、ルアンチーヌ。お前に約束した通り、正式な婚約式を盛大に行うことにしよう。改めて、わたしの婚約者として、わたしを支えてほしい」
殿下がそう言うと、継母、そして異母姉は、満面の笑みを浮かべる。
「殿下、ありがとうございます。改めてこの母から御礼を申し上げます」
「殿下、わたしはうれしいです。ありがとうございます」
「二人とも、よかったな。お前たちが喜んでいると、わたしもうれしくなってくる」
三人はしばらくの間、喜びに包まれていた。
わたしはその間、呆然としていた。
心の中のどこかで、殿下のことをまだ信じているところがあった。
しかし、それは全く無駄なことだった。
わたしの心の中に、猛烈なむなしさが押し寄せる。
殿下の為に尽くしてきたこの数か月。
いったいそれはなんだったのだろうか……。
「リンデフィーヌよ。落ち込んでいるようだが、わたしの配慮を受け入れないからそういうことになるのだ。おとなしく婚約自体をなかったことにすれば、すべてうまくいくのだし、お前だって傷つかずにすんだのだ。ルアンチーヌよ、お前もそう思うだろう?」
「殿下のおっしゃる通りです。殿下のやさしさを無視しなければ、落ち込むことなどなかったのに、なんて傲慢な人なんでしょう。わが妹ながら恥ずかしいです」
二人は声を出して笑った。
わたしは、その笑い声を聞いている内に、むなしい気持ちからだんだん怒りの気持ちに変わっていった。
なぜわたしは笑われなければならないのだろう。
今まで、殿下の為を思って一生懸命努力してきたのに。
殿下の婚約者はこのわたし。異母姉は婚約者ではない。
まだ殿下の心をわたしの方に向けさせることはできるはず。
殿下にもう一度、わたしが婚約者であることを認めてもらう。
わたしはそう思い、
「殿下、どうか婚約破棄ということは、どうかおっしゃらないでください。わたしは婚約者、そしてお妃として、殿下のお役に立てると信じています」
と言った。
「まだあきらめないのか」
殿下は笑顔だったのが、表情を厳しくする。
「あきらめたくはありません」
「わたしはお前のことが嫌いになったのだ。いや、もともとお前のことが好きではなかった。もともとお前と婚約などしたくはなかったのだ。それなのに、今まで我慢してきた。このつらく苦しい気持ち、お前に理解しろと言っても無理だろう」
その言葉は、わたしにさらなる打撃を与えるものだった。
「我慢してきた……」
「お前は、ゴージャスでないのが致命的だ。好みの女性でもないのに、今までわたしは我慢してきたのだ。両親の顔を立てる為にな。でも、我慢できなくなってきていた。わたし好みの女性を待ち望んでいた。そうしたところに現れたのがルアンチーヌだった。わたしはルアンチーヌに一目惚れした。お前と違ってゴージャスな女性だ。好みだった。もうそれからはルアンチーヌのことしか想うことができなくなった。そして、絶対に婚約しようと心に決めたのだ」
「殿下、うれしいです」
殿下のそばで、異母姉が恥ずかしそうに言った。
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