第7話 最後のチャンス
「お前がなんと言おうと、もう決めたことだ。わたしはルアンチーヌと婚約する。お前がこのままそのことを受け入れなくても、変更はない」
殿下の厳しい言葉と表情からすると、決心は固いように思える。
もう無理だろうか……。
だんだん弱気になってくる。
しかし、わたしはあきらめきれなかった。
婚約をした以上、わたしの結婚する相手は殿下しかいないと思っている。
殿下以外の人と結婚することなど、想像することはできなかった。
殿下と婚約したということは、前世で結婚することを約束していたのだと思っていた。
残念ながら、殿下の方はそうは思っていないようだ。
わたしの方も約束自体を思い出せているわけではない。
しかし、殿下と仲良くなっていけば、二人ともに約束したことを思い出せるだろうと思っていた。
思っていたのだけど……。
思い出す、思い出さないどころの話ではなかった。
殿下は、結局、わたしに好意を持つことはなかった。
それどころか、今は敵意を持って、わたしとの婚約を破棄しようとしている。
さすがにここまでくると、わたしも殿下が約束した人ではないと思わざるをえなかった。
今までの努力を思うと、くやしい気持ちになる。
約束した人ではない人に、尽くしてきたことになるのだ。
それが無駄だったとは思いたくない。
それにまだ殿下が、約束した人である可能性はゼロになったわけではない。
もう一度だけ、殿下に婚約継続の話をしよう。
婚約を継続すれば、いつの日か、殿下もわたしも約束したことを思い出すかもしれない。
わたしは気を取り直して、
「わたしは殿下との婚約を続けたいと思い続けています、一度は婚約をした殿下とわたしです。偶然に婚約をした仲だとは思えません。殿下とわたしは縁があると信じています。今はまだ仲が進んでいきません。それどころか、殿下に婚約を破棄されようとしています。しかし、婚約を続けていけば、きっとお互いに理解が進み、仲良くなっていけると信じています。どうか、婚約を続けていただくようお願いします」
と言った。
これが最後のチャンスだと思っていた。
この想いが殿下に届いてほしいと思っていた。
しかし……。
「なんという女だ。婚約破棄はもう決まったことだと言っているのに、それを受け入れようとしない。わたしはますますお前が嫌いになった」
殿下は吐き捨てるように言う。
「そして、ルアンチーヌのことがますます好きになった。お前が婚約を継続したいと言えば言うほど、わたしはお前が嫌いになり、ルアンチーヌが好きになる。もうこれくらいにしておけ。でないと、いくらやさしいわたしでもお前に対して怒ることになる」
やさしい?
殿下は気に入った人に対してはやさしいのかもしれないが、多くの人に対してはそうではなかった。
やさしさはなく、冷たい態度をとっていた。
わたしに対しても、婚約者であるにもかかわらず、冷たい態度をとることは多かった。
殿下は、わたしに好意を持ってはいなかったので、やさしく接しようという気はなかったように思う。
それでもわたしは、殿下に尽くそうと一生懸命だったのだけど……。
「怒られてもいいです。わたしは殿下のおそばにいたいんです。婚約者として殿下に尽くしたいんです」
わたしはそう言った。
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