第3話 マイセディナン殿下と異母姉

 殿下の言葉は続く。


「今日ここに二人を呼んだ意味がお前にはわかるかな?」


「わかりません」


 いや、想像できなくはなかった。


 殿下がわたしに好意を持っていないことを、この二人を使って伝えようとしているのではないか、ということを思わないわけではなかった。


 とはいうものの、腹が立ってきていたので、そうわたしは言った。


「意外とお前はものわかりというものがよくない人間だな」


「それとこれとは話が違うと思います」


「いつものお前とは違い、随分興奮しているな。いつもは穏やかなのに。幻滅したな」


 そう殿下に言われたが、こういう状況で冷静になれる人がどれだけいるのだろうか。

 殿下とダンスの練習をすることを夢見てきたというのに、そこには仲の良くない継母と異母姉がいた。


 しかも、わたしに対して、


「婚約者としてふさわしくない」


 と言うし、殿下もそれを肯定するように言うのだ。


 この状況で腹を立てない人がもしいるのであれば、教えてほしいくらいだ。


「どうだ? お前だったらすぐわかってくれるものと思ったのだが」


「わからないものはわかりません」


「わからないのか……」


 殿下はあざけるように笑った後、


「それでは教えてやろう。お前にとってもいい話だと思う」


 と言った。


 いい話? どういうこと?


 こう言うということは、わたしにとってはつらい話ではないかと思う。


 仲の良くない二人をわざわざ呼んでいるのだ。


 いい話をするということは、想像もできない。


 ではどういう話をしようとするのだろう?


 まさか、わたしとの婚約を破棄し、異母姉を婚約者にしようというのだろうか?


 いや、それはありえないことだ。


 いくらわたしに好意を持てないからと言って、そんなことをしたら、殿下自体の名誉が傷ついてしまうと思う。


 わたしに対して今まで殿下は冷たい態度をとることが多かった。


 しかし、さすがにそれ以上の酷いことはしてこないと信じたい。


 わたしは、殿下の好みの女性になろうと努力をしてきた。


 王太子妃として、ふさわしい女性になるように努力してきた。


 そういう努力を全くの無駄にするような方だとは思いたくない。


 しかし……。


「お前もわたしの婚約者であることに疲れてきただろう」


 急にやさしい声になる殿下。


「そんなことはありません」


「いや、わたしにはそう思える。婚約者であるのが嫌になっているように思う」


 何を言おうとしているのだろう?


 わたしに対するいたわりの言葉なのだろうか?


「そんなことはありません。わたしは殿下の婚約者であることを誇りには思いますが、嫌だと思ったことはありません」


「強がらなくてもいいのに。心にも体にも負担になっていて苦しいだろう」


「強がってはいません。心にも体にも負担にもなっていません」


「まあよい。そこで、そんなお前の負担をなくしたいとわたしは思ったのだ。このままだとかわいそうだからな。病気になってしまうかもしれないし」


「お気づかいはありがたいと思いますが、負担には思っていません」


「そこでわたしはこの二人を今日呼んだのだ。お前の負担をなくせると思ってね。ここまで言えば、わたしが何を言いたいかわかるだろう」


 殿下はそう言うと、笑った。

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