第2話 冷たい笑い

 わたしは殿下の部屋に入った。


 しかし…。


「こんにちは。リンデフィーヌ。今日は何の用できたのかしら?」


 殿下のそばで、冷たい笑いを浮かべる女性。


 そして、もう一人、敵意のある表情をする女性がいる。


 ここにいるはずのない二人。


 わたしの継母イゾルレーヌさんと異母姉ルアンチーヌさんだ。


 継母はお父様の三人目の夫人。異母姉はお父様の一人目の夫人の子供。


 わたしはお父様の二人目の夫人の子供だ。


「お母様、お姉様、なぜここに?」


 わたしがそう言うと、


「お前こそなぜこんなところにいるのですか?」


 と聞いてくる。


「わたしは殿下の婚約者です。お母様も充分すぎるほどご存じだと思いますけど。今日も殿下に呼んでいただきましたので、ここに参りました。お母様こそなぜここにいるのでしょうか? 舞踏会に参加されるとしても明日だと思いますけど」


 わたしがそう言うと、


「あなたが婚約者? 笑わせることを言ってくれますね」


 と言って、継母は笑い出した。


 そして、


「あなたよりふさわしい子がここにいるというのに」


 と異母姉の方を見ながら言う。


 すると、異母姉は、


「あなたが婚約者だなんて、わたしは認めたことはありません。お母様の言う通り、わたしこそ、殿下の婚約者にふさわしいのに」


 と厳しい表情で言う。


 わたしはだんだん腹が立ってきた。


「二人とも何を言っているんでしょうか? わたしは殿下の婚約者なんです。お母様にもお姉さまにも言われる筋合いはありません」


「よくそういう大きな口がきけるものよね」


 継母がそう言うと、異母姉も、


「魅力なんかわたしよりない癖に、言うことだけは大きいのだから」


 と言う。


「大きいだろうと小さいだろうと、わたしは殿下の婚約者なんです」


「いや、あなたは婚約者にはふさわしくありません。ここにいるあなたの姉の方がよっぽどふさわしいです」


「お母様の言う通りです。殿下の婚約者は、わたしがなるべきなんです」


 この人たちは何を言っているのだろう。


 わたしの婚約が決まった時から反対し続けている二人だけど、王宮の、しかも殿下の部屋にまで来て言うことなのだろうか?


「これはもう既に決まっていることです。なぜ殿下のいるこの場で言う必要があるのでしょうか? 言ったところで婚約者がお姉様になるわけではないのに」


 わたしがそう言うと、それまで黙っていた殿下は、


「言う必要があるから言っているのだ。必要もないのに、わざわざここまで来ていただくことはないということくらい、お前にもわかるだろう」


 と冷たく微笑みながら言った。


 いつもの殿下は、わたしにあまり好意を持ってはいないし、冷たい態度をとることが多い。しかし、わたしに対して冷たく微笑むということは、今までなかったことだ。


 今日の殿下は、いつもと違う。


「それってどういう意味なんでしょうか?」


「まだわからないのかな?」


 殿下は冷たく微笑んだまま。


「わかりません」


「では教えてやろう」


 殿下は厳しい表情に変わる。


「お前は、ゴージャスでなく、魅力がない。したがって、わたしの婚約者としてふさわしくない。わたしの言いたいことを二人は言ってくれたのだ」


「婚約者としてふさわしくない……」


 殿下までそう言うことをいうのか……。


 わたしはめまいがしてきた。

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