ダンジョン探索は危険につき
中崎実
第一話
「おやっさん、まぁたバカが出ました」
「報告は正確にしろや」
バカだと言いたいのは判るが、どんな種類の馬鹿かをまず言葉にするのが報告というものである。
尖った耳を不機嫌にぴくぴくさせて、ボナム主任が指摘した。
「へーい。アンガラン・ダンジョンに潜り込んで、
カルミノ監視官は相変わらず軽い。おやっさんことボナム主任が不機嫌に見えるのなんていつものことだから、気にする必要も無いのである。
「よりによってあそこか」
ダンジョンと呼ばれる謎めいた場所は、昔から良く知られた存在だ。
中には一風変わった生き物が住んでいたり、他じゃ見かけない『お宝』が取れたりすることもあるので、昔は探索者や冒険者を名乗る者がたびたび潜り、なにがしかの財を得た事もあったと聞く。
とはいえそれも今は昔。71年前にダンジョンの実態が明らかになったあと、57年前、ダンジョンの危険性を理由に内部に進入することは禁止された。
「あそこ、今はたしか生殖期だよな」
カルミノ監視官の向かいのデスクにいたジード監視官が鼻をならし、
「
そう指摘したのは、カルミノの隣の席にいるクリュース補佐官。
ダンジョンの本体は、土や岩に空洞を作るキノコ魔物だ。
小さいうちは知性もなくただ増殖し広がるだけだが、馬車四台分ほどの広さになるとネズミ程度の智慧が生まれ、広がれば広がるほどその知性が高まっていく。
そしてやがて空洞を作り、上下に『階層』を広げ、胞子の運び手や餌になる動物をおびき寄せるようになる。
空洞の中で見つかったという「お宝」も、キノコが作り出したり掘りだしたりした代物だ。宝石の原石が見つかりやすかったのも、土中にあったものだからと推定されている。
「お宝」があれば中に入って来る間抜けがいる、と学習したダンジョンは、そういったものを備えるようになるのだ。
そしてダンジョンが魔物だと言ってもキノコだから当然、連中には菌糸を広げていくだけの栄養生長期と、
「よりによってアウフェレか、そりゃバカだな」
ジード監視官の補佐官、ピュティオも容赦なかった。
「アウフェレの生殖期なら、立ち入り禁止の広報は出てましたよねえ?」
古い言葉で『奪う』という意味の語からついたと言われる名を持つキノコ、昔から恐れられている寄生キノコがアウフェレだ。
ダンジョンとの関連が判明したのは割と最近だが、十分な知識があれば、アウフェレなんぞに近寄ろうとは思わない。
今どきは政府だって、「アウフェレが生えてます、ちかよらないで」という広報を出す。
「出てるけど、闇配信なんてカッコつけてる奴が気にするわけないだろ」
むしろ立ち入り禁止だから入り込むのが『闇配信』の配信主である。
「そりゃそうか、闇の右手が
ライブ配信自体は合法な行為だし、配信プラットフォームも合法な企業がやっている。わざわざ『闇』なんて名付けて勿体ぶるようなのは、思春期の子供がやらかす黒歴史量産のための行為だ。
「入り込んだ奴、消毒と隔離だな」
「防疫部隊に一報入れます」
「頼んだ。で、アンガランのどの辺にいそうだ?」
「三階層の、これ第4空隙ですわ」
「あちゃあ」
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